第10話 修羅場ごっこ
今更というか当たり前すぎる話なんだけど、スマホにもメールって機能があるんだよな。今の時代全く使わんから、忘れてたよ。
え? なんで急に存在を思い出したかって? そりゃお前……。
『ホウカゴ HOKUYU 3F XYZマーケット シンジツアリ』
怪文書が届いたからだよ……。何これ? 知らないアドレスだし、何故かカタカナとアルファベットだけだし、カタコトだし、怖いんだが?
えっと、駅前にあるショッピングモールの北友の三階にある靴屋さんに何かがあるから、それを確認しろって意味だよな? マジで何これ? 犯罪の片棒を担がされかけてる? 怪しい取引現場を目撃して、背後から殴られるとかない?
うん、恐らく犯人は隣の席におわすアホだと思うんだけど。
「慎一、ゴメンだけど先に帰るね! まっすぐ帰るから! 私はまっすぐお家に帰るから! 寄り道とかせずまっすぐ帰るから、慎一もまっすぐ帰るんだよ! 悪い子になっちゃダメだからね!」
うわぁ、絶対北友に先回りするじゃん。面倒事はゴメンだから素直にまっすぐ帰りたいけど、それをするとさらに面倒なことになりそうで怖いんだよなぁ。
……断腸の思いだけど、行ってやるかぁ。
大方の予想通り、靴屋には心がいた。俺が到着したことに気づいたらしく、後ろをチラチラと見ている。さて、今回はどういう作戦でくるのだろうか。隣にいる男子は今回の作戦に関係しているのだろうか?
「これ可愛くなーい? 可愛いよねー?」
「そーだね」
「私に似合うよねー?」
「そーだね」
なんか三文芝居が始まったんだが? 二人とも棒読みだし、心に至っては隠すつもりが感じられない頻度でチラチラ見てくるし。
……ええっと? なんだ? これを見せつけたかったのか? なんで?
「私がこれを履いたら可愛いよねー?」
「そーだね」
俺? 俺に聞いてるの? めっちゃこっち見るじゃん。結構な距離あるのに、一言一句漏れなく届く声量だし。
っていうか男の方ももう少ししっかりと演技しろよ。
「……このあとカフェ行かない?」
「そーだね」
……俺もついていかなきゃいけないのかな? 靴屋に行けっていうミッションは達成したし、帰っていいよな?
「二人でお茶しよっかー」
「そーだね」
もうチラ見とかそんなレベルじゃなくて、はっきりとガン見してきてるんだけど、帰ってもいいんだよな?
「さてと、帰ろっかな」
俺もわざとらしく、大きめの独り言を呟いてみた。
さあどう出る、心……うわっ、めっちゃこっち見てる。お目々パッチリだよ、目玉こぼれ落ちるんじゃないかってぐらいひん剥いてるよ。隣の男の子、怖がってんじゃねえか。女の子がしていい顔じゃないっていうか、人間がしていい顔じゃねえよ。
「今日のことは内緒だよー? 私と二人っきりで会ったことは、内緒だからねー?」
「そ、そーだね……」
この期に及んでまだ茶番続けるの? 相変わらずの棒読みだけど、よくない感情が乗っかってる気がする。男の子完全に怖がってんじゃん。
どうしよ、帰りたいけど帰ったら後で面倒な……ん? またメール……。
『カフェ』
すげぇ、たった三文字なのに全てを悟っちまったよ、これ何がなんでも帰っちゃダメなヤツだ。
俺が諦めたことを察知したのか、心が急に上機嫌になった。
「行こっか」
「うん……」
可愛い笑顔だけどギャップが凄すぎて、男の子完全に萎縮しちゃってるじゃん。そりゃ怖いよ、奇行に慣れてる俺だって怖いもん。
とりあえず後を追うか。こんな公衆の面前で、幼馴染の顔面を何度も崩壊させるわけにはいかないし。
おかしいな。俺はお一人様なのに、ボックス席に案内されたぞ。しかも心達と隣の席だよ、絶対に仕組まれてるよ。会話を盗み聞きするっていう、よくあるシチュエーションじゃん。
つまりあれだな? 盗み聞きをさせたいんだな? だから事前に店員さんを買収したんだろ? 一体何がしたいんだ……。
「んー、美味しー」
何を食べてるか知らんけど、いくらなんでも棒読みすぎるだろ。
「キミも食べる? 一口あげよっか?」
「えー、そんなー、いいよー」
「まあまあ、〝あーん〟してあげるから」
「いいってー」
……なんかバカップルのロールプレイが始まったんだが、本当になんなんだ? まさかとは思うが、こんなので俺が嫉妬するとでも思ってるのか?
「早く早くー、こんなところ誰かに見られたらまずいからさー」
背中越しだから見えないけど、多分俺のほうをチラチラ見てるんだろうな。言っておくが止めないからな?
「ほらほらー、早く食べなよー」
「……いいって」
「えー? 遠慮しなくていいのにー」
声の聞こえ方的に、明らかに俺の方を見ながら喋ってるよな? 俺はどうすればいいの? ここで立ち上がって『おい! その男は誰だよ!』って修羅場にするのが正解なのか? 普通に嫌だよ? 心が誰と何をしてようと知ったこっちゃないし。
「あ、あれー? 慎一じゃーん!」
うげっ、しびれを切らしやがった!
「お、おう、心……」
「ぐ、ぐーぜんだねー? あは、あははは」
白々しく焦った様子を見せているけど、マジで何がしたいの? おままごと? リアルおままごとがしたいの?
「あっ、この人は違うの! たまたま同じ学校の人と会ったから、ちょっとカフェに来ただけで、慎一が思ってるような仲じゃなくて!」
両手をバタバタさせ、弁明を図る。なんという茶番。
頭が痛くなってきたよ、俺はどう返せばいいんだ? 正解がわからないんだけど。
「……そっか」
「は? それだけ?」
えー!? なんか地雷踏んだんだけど! 大人の対応したつもりだったんだけど、何がダメだったのかわからねぇ!
「幼馴染が同学年の男の子とカフェにいたんだよ? 心配じゃないの? ヤキモチ妬かないの?」
いや、だって完全に茶番だもん。まあ仮に偶然見かけたとしても、一切気にしないけど。むしろスケープゴートが生まれて嬉しいし。
「独占欲とかないの? 私が取られるかもしれないんだよ?」
めっ、めっ、めんどくせぇ!
「……どうせ俺から離れる気無いだろ? お前は」
「……! そ、それは……世界中を敵に回そうと、私を離さないってこと?」
……? お前が離れないのと、俺が離さないってのは別じゃない? 俺は可能であればすぐにでも手放すつもりだよ?
「と、とにかく! 今日のこれは誤解だから! 仕返しに他の女の子と遊ぶとか、そういうのは許さないからね!」
なんか知らんけど、暴走するだけして帰っていったよ。協力者の男の子、完全にポカーンとしてるよ。どういう契約を結んでたか知らんけど、お疲れ様です。
翌日、一度も喋ったことない女子が放課後デートに誘ってきた。『サソイ コトワルナ タダシ ケッシテ テヲダスナ ゼッタイニ』という謎の怪文書が届いたことから、この子も協力者で間違いないだろう。くそっ、ついに春が来たと思って、一瞬だけ舞い上がっちまったよ。
ああ、言うまでもなく茶番が発生したよ。浮気だのなんだの、店の中でまくし立てるだけまくし立てて、そのまま走り去っていくっていうね。で、仕掛け人の女子から『早く追いかけてあげて!』と背中を押され、心を追いかけるっていうイベントが発生したよ。店側もいい迷惑だよな、どうせ仕掛け人側だろうけど。
「やっと……追いついた……いや……止まってくれたと言ったほうが……」
あのな? 走り去るにしても加減しろよ? 電柱やら塀をよじ登って逃げるのは、もはやパルクールなんだよ。カップルのイチャイチャじゃなくて、逃走犯の追跡なんだよ。ああ、明日は筋肉痛確定だな。ついでにいうとSNSのトレンドも確定だわ。
「そんなに必死になって……私のことがそんなに大事なんだね?」
「……うん」
違うよ、大事というか大事なんだよ。お前が『受川慎一が浮気した! 月川町三丁目在住、私立アイビー学園所属の受川慎一が幼馴染をゴミのように捨てて、飢えたズベ公に盛ろうとした!』とか、聞き捨てならない妄言を垂れ流しながら全力疾走したから、俺も必死になったんだよ。なんであれだけ大声でわめきながら全力疾走できるんだよ。
「……全力で失踪することになりそうだよ」
「えっ……? 私と駆け落ち……? あわわ……なんて情熱的なの……」
……もうツッコむ気力も出ません。




