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第90話 直前の訪問者

 御前試合当日の日がやってきた。


 ……いよいよか。


 俺は控室でひとり、ウォーミングアップをしていた。

 関節の可動範囲を広げるための動的ストレッチと

 心臓を起こすための自重筋トレ。


 関節をグルグル回し、スクワットや腕立てで身体を温める。


 衣装は予選のときと同じ黒いスポーツウェア。

 色々考えたけどさ。

 こういうときは動きやすさが最重要だからな。


 見栄で選ぶのは違う。

 俺は勝ちに来たのであって、遊びに来たわけじゃ無いんだ。


 控室は艶のあるフローリングで。

 清潔感、清涼感がある部屋だった。


 そこにベンチ1つ。

 小さなテーブルが1つ。


 ロッカーは無い。


 しょうがないのでテーブルに荷物を俺は置いていた。


 壁には壁掛け時計。


 御前試合本番は、13時から。


 ……今は12時。

 あと1時間か……


 メシ、どうすっかな。

 腹に何も入っていないのは良くない。


 外に何か食べに行くか。

 そう思ったときだった。


 ノック音がした。


 ……誰だ?


 茉莉か?


 ……彼女は控室に入らせてもらえなかったんだよな。

 御前試合の試合会場には、席を確保してもらえたみたいなんだけど。


 ちょっと誰か分からなかったが、俺は


「どうぞ」


 そう答えて、一瞬後「しまった!」と思った。


 ……ここは公用語が英語なんだから、英語で言わないと駄目だろ。

 日本語で返事はあり得ない。


 しかし、英語で「どうぞ」ってどう言うんだ?

 困ったぞ……ワカンネ……


 翻訳するには携帯端末……


 俺はテーブルの上に放置していた携帯端末を手に取ろうとした。

 だがその前に


「失礼致しますぞ」


 ……変な日本語を話す金髪白人男性。

 リチャードがドアを開けて入って来たんだ。




 彼は風呂敷包みを持っていた。

 服装は前に会ったときと同様、普段着だ。


「……何の用なんだ?」


 この訪問の意味が理解できず、俺はそう問うた。

 すると……


「差し入れを持って来たぞ」


 差し入れ……?


 言われたことが飲み込めず、困惑する俺の目の前で


 リチャードが風呂敷包みを広げた。

 中に入っていたのは……


 タッパー。

 コーラのペットボトル。

 そしてバナナ。


 バナナは少し黒く変色していた。


「どうぞ」


 ……まあ、俺はリチャードは悪い奴だとは思っていないし。

 信用も出来る男だと思っている。


 なので


「ああ、じゃあちょっといただくよ」


 タッパーを開けた。

 ……中は具が卵のおじやだった。


 スプーンもセットであったので、俺は食べ始めた。

 美味い。


 そんな食事をしている俺に


「……今日の仕合、絶対に勝てよな」


 そんなことを。

 まぁ、言われるまでも無いので、食べながら頷く。


 そんな俺の様子を見ながら、彼は続けた。


「君は妹のために御前試合やるそうですが、私には家族の感覚が正直分からんですわ」


 そりゃそうだろうな。

 聞いた話だけども、彼らはバラバラの個人として施設で育つのが基本なのだし。


 俺はおじやが美味いなと思いつつ、彼の話を聞く。


「だが……決して愚かでは無い君がそこまで戦うのだから、やっぱり価値のあるものなんですかな」


 ……そりゃどうも。

 1回手合わせをして、俺は彼とは妙な縁、絆、親近感のようなものを感じていたから、正直嬉しかった。


 実際、そういう言葉を発した彼はなんだか優しく。

 さらに、こう続ける


「知ってるでしょうが、家族を作るのは宇宙真理国ではA級国民の特権なのだ。一般で言う恋愛というやつはここにもあるが、永続を誓うことするものではないです」


 結婚と妊娠出産。

 人として当たり前の権利。


 それがここでは、それはエリートの特権。


 ……当たり前の権利が、無いのが基本。

 それって、どういう感覚なんだろうな……


 俺はそれが正直良く分からない。


 そしてリチャードは少し遠い目になった。

 こんなことを口にしながら。


「切れない人間関係というものは……一体どういうものなんだろうな」


 俺は良いものだとは思っているけど、それが第三者から見て、必ずしも良いものであるとは言い切れない。

 ……俺の場合は、どうなるんだろうな……?

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