第87話 伝説の女の伝説
「まったく何で何百年も前の伝説を持ち出されて馬鹿にされなきゃならんの。言いがかりじゃんかよ」
そう茉莉が吐き捨てるように言い、テーブルで自分で運んできた料理と、俺に確保させていたスパークリングワインで1杯やりはじめた。
俺は自分もその隣で料理と酒に手をつけながら
「伝説って何?」
気になったのでちょっと訊いた。
知らなかったから。
すると
「伝説の92という伝説の日本人バカ女の話があるのよね。公式の記録が無くて、文字通り話で語られるだけの伝説なんだけど」
曰く、結婚したら夫の許可も取らず仕事を辞め。
無職になって夫の稼いだ金を使い込みまくり借金を作り。
加えて専業主婦のはずなのに子供を産もうとせず。
挙句浮気して、にも拘らず「女なら離婚時に必ず慰謝料が貰え、養育費まで貰える」と思い込んでたバカの話。
ひょっとしたら盛られてるかもしれないけどさ。
あまりにもバカ過ぎるから。
そう、彼女は顔は笑っているけど、目が笑ってない感じで。
教えてくれたよ。
その伝説の悪女の話を。
知らん話だった。
そんな女が昔居たのか。
まぁ、興味が無いと知れない話ってそれなりにあるもんな。
宇宙伝説みたいな感じでさ。
俺は話を聞いていて
「ええと、何故勝手に仕事を辞めた時点で離婚しなかったの?」
裏切り行為だろ?
そういうの立派な離婚の理由になるって聞いたけど?
俺はそう素朴な疑問点を彼女に訊く。
すると
「当時は多分イケたのよ。悪行に対して裁判を起こすってのは今よりハードル高かったみたいだから」
グチグチ、グチグチ。
チヂミをつまみにスパークリングワイン。
……そうなのか。
ちょっと信じられなかった。
今は高校で皆習うもんな。
法治主義の授業で。
そこで不法行為だと感じたら即座に法律家に相談しろと指導される。
不法行為を放置することは悪をのさばらせる社会悪であると教育される。
だから今だとあり得ない。
昔は大変だったんだな。
そう思いつつ聞いていると
彼女も色々溜まってるもんがあるみたいで
ベラベラ語ってくれる。
「まあ、あまりにもバカ過ぎるので話題になり、伝説化し、今でも日本人女性を馬鹿にするネタに使われているのよね」
私だって昔文字チャットで言われたもん。
お前、どうせ自立できない寄生虫だろ、って。
外人に。
悪口で。
……へええ。
大変だな。
妹も将来、外人に関わったら言われるのかな。
どこまで本当の話か知らないけど、その伝説の発端になった女、罪深いわ。
そう思ったから
「大変だな」
思わずそう返すと
「ええ。とっても大変」
と彼女。
……そんな彼女の言葉は、本気成分がかなり高く感じられた。
女は大変だなぁ。




