第78話 4つ目の阿比須
これまでは白い宇宙服姿しか見てなかったけど。
今日のリチャードは半袖の白シャツと紺色の長パンツ。
そんな普段着姿に俺は驚く。
そんな俺に、にこやかに彼は
「今日が御前試合のエントリー日でございますから、来るかなと思ったぜ」
予想通りで嬉しい。
そんな内心が顔に出ている。
……応援の意志も感じるな。
まぁ、多分彼はやっぱり悪い奴では無いんだよな。
この件を教えてくれたこともだけど、こうして偶然出会った俺にエールを贈りに接触してくれるあたり。
……エールを贈りに来たんだよな?
そんな小さな疑念が出たのは
ここまではにこやかだったんだけど
スッと表情が引き締まり
彼は
「頑張れ。決して油断してはいけませんよ」
そう言ってきたから。
マジだった。
「それはまあ、言われるまでもないさ」
そう返すと
「今回の出場者に、Abyss Zokumetsu Styleの使い手が居るようです。なんという星のめぐり合わせか……」
聞き慣れない言葉を言われたんだ。
……アビスゾクメツスタイル……?
俺の顔を見て、俺が困惑していることに気づいたのか
「……ひょっとして知らないでございますか?」
「ああ、実は知らない」
……ちょっと恥ずかしいけどな。
俺は阿比須龍拳の歴史は阿比須真拳を源流とするということしか知らない。
初代様……俺のご先祖・国生春香とかいう女傑が、親友の阿比須真拳の使い手から学んだ阿比須真拳を改良したって。
知ってるのはそれだけだ。
平和だったと学んだ令和時代に、何で暗殺拳を編み出してるんだ。どんだけ闇が深いんだご先祖は。
ずっとそう思っていたけど。
そこから先を興味持って調べてみようと思ったことは無いんだよな。
こういうところが、俺の武芸者として未熟な部分かもしれない。
そんな俺の様子に、伝達欲が刺激されたのか。
リチャードは教えてくれた。
アビスゾクメツスタイルって何なのか。
そもそも、阿比須真拳は阿比須族滅流という、鎌倉時代末期に起きた最終武術が源流で。
江戸時代にそこから分派した。
阿比須族滅流が全ての起源の武術。
……うん、そこまではこの前知った。
阿比須夕子前とかいう女武芸者が鎌倉幕府の命で5年で編み出したんだっけ?
そこまでは自分で調べた。
「この阿比須族滅流は、色々ややこしくてな。室町時代から安土桃山時代の間のどこかで、継承者がテンノーへの反逆の意志を持ちまして」
……ああ、そうなんだ。
で、継承者が族滅されたの?
そう思ったんだけど
ああ、それじゃ絶えてるな。阿比須族滅流。
じゃあ違ったのか。今もあるわけだし。
そう思い直す。
すると
「……門下生の阿修羅王之介と言う武人が、継承者を倒して新しい継承者の家になりました」
なるほど。
やっぱりな、と思いつつ聞く。
さらにリチャードは続けた。
「そしてその元々の継承者の家系である阿比須家は、テンノーに逆らった逆賊の家として社会の底辺に堕ちたとのことですわ」
ふーん。
俺は聞き入っていた。
俺に関わる話でもあるしな。
そして
ここでリチャードの言葉に力が籠る。
「で、問題のAbyss Zokumetsu Styleですが……」
俺も気が入った。
大事なことだからな。
「明治時代に、アメリカに逃げた阿比須家の血筋の者の一派が、現地の武人一族であるニクダルマ一族に取り込まれて生まれた4つ目の流派でございますね」
……えー。
なんでも。
そのニクダルマ一族が居たせいで、第二次世界大戦で日本が負けることになったらしい。
軍部の作戦がクソ過ぎたせいだって歴史の授業で習ったんだが、どうもそれだけじゃないようで。
当時のアメリカ最強の格闘士の名前がビスケット・ニクダルマ。
女性だったらしい。
日本の格闘士は、彼女に勝算を持つことができないので、軒並み参戦を拒否したそうだ。
なので格闘士の大量投入による巻き返しと言う、軍部の作戦は実現しなかった。
……そんな歴史もあったのか。
俺はリチャードのそんな話を衝撃を受けながら聞いた。
そして
「そのAbyss Zokumetsu Styleの継承者が参戦しておるんですわ」
リチャードはそう話を締め括った。
……なるほど。
本物の阿比須の使い手が参戦となると、予選から確かに油断はできないな。
「どんな奴か分かる?」
俺の質問にリチャードは
「女性ですね。画像データは無いでございますが」
うん。それはしょうがない。
でも、そうか……
女、なんだな。
何気なく、訊く
「……名前は?」
「リンフィルト・ニクダルマ」
……リンフィルト。
どんな奴なんだろうか?




