第73話 木賃宿と男女関係
その日の宿舎は、ホテルだった。
エメスホテルというビジネスホテル。
……観光に来たわけじゃ無いからな。
この辺のお金は節約するさ。
宿泊費は1泊5ゴルド。
1ゴルドが今1000円だったから。
1泊5000円?
……すっげえ安いのな。
まあその代わり。
風呂トイレは共同で。
部屋が普通の民家風の部屋に鍵をつけただけ。
……みすぼらしい。
なんだけどさ
それよりも
「I have a reservation under Tobashi」
『Welcome to the Emeth Hotel』
飾り気の無い無人のフロントで
AI相手にチェックイン手続きをしている茉莉。
その背中に
「あのさ」
「何?」
振り返ってくる。
俺は訊く。
いや、確認した。
「……本当に同じ部屋?」
「ツインの方が安いのよ。1人当たりの費用はね。1人部屋だと3ゴルド。つまり3000円」
……これなのよ。
茉莉と同部屋。
これ、マズイとは思うんだけど。
「……あと犯罪発生率は低いんだけど、カードキー1枚のロックで、風呂トイレ共同ってなると、1人部屋だと不安なのね」
顎に指先を当てて、理由を説明してくる。
「木賃宿って楽しいんだけど、不安はどうにかしたいのよ」
……この辺は男なら気にしないところだよな。
多少危険でも最悪侵入者と戦えば良いや的な。
そういうところが男にはある。
なので
「……分かった」
俺がしぶしぶ了承すると
茉莉はこんなことを言ってきた。
呆れた感じで。
「どーせ仕事で同じ宇宙船で寝起きしてるじゃん。何を今更」
アマノ33号には個室があるよね。
同室じゃないよね?
部屋に向かう。
ボーイなんかはいない。
木賃宿だし。
2人それぞれ手荷物を持って廊下を歩いて、エレベーターに乗り、辿り着いた。
ドアノブのスロットにカードキーをスラッシュすると、ロックが外れたので、入室。
そこには……
8畳くらいの部屋でベッド2つ。
小さい冷蔵庫。
ガラスグラス2つ。
テレビが1台。
そんな客室があった。
……典型的木賃宿スタイル。
まあ、綺麗は綺麗なんだけどさ……
ドアのチャチさ。
……木賃宿度高いね。
その気になればぶっ壊せそうなところが実に不安。
俺一人なら、確かに覚悟を決めて寝るって選択肢は無くはないけど。
女性なら、なんとかして欲しいところだわな。できることなら。
「へー。綺麗ね」
ベッドのシーツを撫でながら茉莉。
その後、冷蔵庫を開けて中の空を確認し、テレビのスイッチを入れてみて、見れるかどうか確認していた。
ザーッと水音。
俺の背後のシャワールームで。
茉莉がシャワーを浴びている。
鍵は掛かるんだけどさ。
例によってチャッちいから。
できればついて来て欲しいと言われたので、その通りにしたんだ。
……宇宙真理国は治安悪く無いみたいだけど、犯罪皆無ってわけじゃないだろうし。
木賃宿だと何か気になるよな。
……やることねーなー
そんなことを思ったので、シャワールームドアの傍に立ちながら携帯端末を弄る。
画面を眺めていたら、妹からメールが来ていた。
……何だ?
メールを開くと
『お兄ちゃん。明後日が合同他流仕合の開催日なんでしょ? 頑張ってね』
……お?
御前試合の話は妹にはしていないのだけど
何故知ってる?
俺は
『何で知ってんの?』
そうメールを打ったら
返信が
『茉莉さんにその時間帯祈ってくれって言われた』
……相棒の仕業か。
まあ、開催国が宇宙真理国だってことは伏せていたようだけど。
俺が優勝賞品目当てに格闘大会に出ることは伝わってて。
俺は
『まあ、危なげなく勝つから心配はいらん』
そうメールを返しておいた。
すると、水音が止まって。
……茉莉が出てくる気配がする。
「お待たせ」
……だいぶ時間経ってから。
シャワールームから茉莉が出て来た。
赤いジャージ姿だった。
芋っぽいヤツ。
……まあ、こんなところで着飾ってもなぁ。
「部屋で財布預かってるから、安心して入ってきなよ」
茉莉の提案。
うん。
正直それはありがたい。
空き巣に入られるのは怖いしな。
俺でもさ。




