第66話 暗殺拳の残虐な技
俺の拳はタクマの心臓の位置……
胸の中央を捉え、食い込んでいた。
「カ……ハ……」
全身の力が乗った俺の右拳。
それを喰らったタクマは真っ青な顔色で。
数瞬後、膝から崩れ落ちた。
崩れ落ちたタクマは、脱力し。
海月のようにへたり込んでいた。
その眼にはもう、狂った情熱の炎は無く……
……こいつはもう、戦えない。
いや、戦わないんだ。
もう、何にもときめくことができないから。
なのでもう、俺と戦って阿比須龍拳に勝つことに情熱を燃やすという行為が出来ない。
阿比須龍拳究極奥義・心臓爆裂。
その効果は、命に別状のない形で標的の心臓を爆裂させること。
命に別状がない形だから、肉体的に死ぬことは無いんだが……
心臓が無くなるから、その人間からときめく感覚が一切合切消えるんだ。
情熱が、恋が、喜びが消えるんだ。
だから……喰らえば生ける屍と化す。
俺は崩れ落ちて動かなくなったタクマを見下ろしながら
「……自首しろ。自首したら減刑が考慮されるから、銀河指名手配犯でも処刑されなくても済むかもしれん」
そう言い残し、離れる。
そこに茉莉が駆け寄って来た。
「リューイチ……勝ったの?」
「ああ」
短く答える。
誇る気にはならなかった。
この究極奥義は、暗殺拳である阿比須龍拳としてとても皮肉が効いた、究極奥義に相応しい残虐な技だ。
命は奪わない。
代わりに、人間としての喜びを根こそぎ奪う。
そんな状態で生きてる意味あるか?
人を殺さずに実質的に殺す。
そういう技なんだよ。
……仕合で使えるわけがない。
ある意味、首を刎ねる方がまだマシなくらい、残虐な技なんだ。
俺の心はグチャグチャだった。
実質的に人間を殺したような気持ちになっていて。
そんな俺の様子を見た彼女は
何かを察したのか
「そう……良く分からないけど……」
辛かったね。
そう、一言言ってくれたんだ。
彼女は、茉莉は
俺は……
「気を遣ってくれてありがとう」
礼を言った。
はじめて、この残虐な奥義を人間に使用した俺の心に、彼女のその言葉は深く染み渡った。
そっと視線を向けると……
彼女は潤んだ瞳で俺を見つめて来ていて。
そのとき俺は
……彼女の好意のようなものを感じた。
その好意の意味をそのまま考える。
いや、考え始めたそのとき
「……オヤ。すでに勝負がついていたでございますね」
……聞き覚えのある声がした。
弾かれたようにして、視線を向ける。
そこには……
逞しいボディを持った金髪碧眼の精悍な顔立ちの男。
全身をピッチリした白い宇宙服に身を包んだ金髪の武芸者……
阿比須真拳の使い手・リチャード・エンマがいたのだ。
少し、驚いた顔をして。




