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第63話 立ち合い

「あなたおかしいわよ!」


 俺の後ろで茉莉がそう糾弾の声をあげた。

 タクマはそんな彼女の声を綺麗に無視する。


 聞こえていないように。

 俺はそんな彼女に


「……茉莉。ありがとう……でも、無意味だ」


 暴力の世界では彼女は無力だ。

 話し合いなんて何の役にも立たない世界。


 ……いや、人間には知恵がある。

 

 無力は言い過ぎか


 でも……


「頼むから、知恵を絞ってアイツを撃退する方策を考え出すのはやめてくれ……それでアイツの攻撃対象がキミに向いたら守り切れない」


 これは事実だ。


 アイツは楽に勝てる相手じゃない。


 その言葉がタクマは嬉しかったようだ。


「高く評価していただいたようで嬉しいね」


 そんなことを言う。


 俺は全く嬉しくねえよ。


 俺は構えを崩せなかった。

 いつもは何をされてもダメージを負わないこと前提の構えをとっていたが。


 ……相手が阿比須なら、対阿比須のやり方をするしかない。


 つまり……普通の果し合いの対応だ。


「行くぞっ!!」


 タクマが踏み込んできた。

 素早い!


 縮地という言葉が頭を過った。


 構えは八相。

 頭の横で刀を立てて構える有名な構え。

 そして……実戦での使い勝手が最高の構え。


 疲れにくいので長期戦に向き、上段斬りを繰り出すことに都合がいい。

 ならば、来るのは上段斬りか?


 タクマの流派について俺は知らない。

 だが真剣を持つより、模造刀を持った方が都合がいい。

 そう、こいつは言った。


 この事実から、タクマの流派は所謂居合を使用しない流派なのだろうと結論づける。

 抜いた状態で刀を使う流派……


 俺は阿比須龍拳の伝承者ではあるけれど、本職の武芸者じゃない。

 だから、他流との立ち合いで勝つための研究はしてないんだ。


 修行を積んでいるときに親父に言われて、ネットで古流武術の動画を少し見たことあるけど、それだけだ。


 本格的には何も勉強していない。


 チェイヤー!!


 タクマの奇声。

 連想で「示現じげん流」という言葉が浮かんでくる。

 有名な、一撃必殺を旨とする古流剣術の流派だ。


 代表的なのは「チェスト」だけど。

 それがチェイヤーになったら問題なわけは無いしな。


 八相の構えと相性がいい流派だよな。

 そのイメージともこれは一致する。


 俺は決断する。


 俺も踏み込んだのだ。


 阿比須龍拳奥義・蜚蠊ごきぶり疾走だっしゅ


 相手が縮地で超速で踏み込んでくるところに、蜚蠊ごきぶり疾走だっしゅによる最初からトップスピードで踏み込み返す。


 次の瞬間、俺はタクマの間合いに飛び込んでいて。


 そのまま俺は手刀でタクマの腕を……いや、指を狙った。

 阿比須龍拳奥義・達磨転倒だるまさんがころんだで。


 必殺の斬撃が来る前に勝負を決める!


 手を破壊すれば、剣術家のタクマは勝負ありだ。

 拷問系奥義の達磨転倒だるまさんがころんだは非殺傷技。


 死なせないから、こいつの無力化にはうってつけだ。


 全集中……!


 だが


 俺の手刀は、タクマの指を切り裂かず。

 ただの打撃になっていて。


 俺は驚愕した。


 この男の鉄身五身は、俺の達磨転倒だるまさんがころんだを弾くレベルなのか!?


 そんな俺にタクマの上段斬りが来る。

 俺は身を捻った。


 折り畳み式の模造刀の切っ先が俺の身体に食い込みそうになり、俺は飛び退いて、くるくる身体をバク転気味に回転させ間合いを離す。


 ……危なかった。


 着地し、俺は上がった息を整える意味合いで大きく呼吸をした。


 そんな俺の視線を感じ。

 この男は


「……修行した長さがそのまま鉄身五身の強さでは無いんだよ」


 そんなことを言ったのだ。

 とてもにこやかな表情で。

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