第104話 告白
無言で、相棒が。
茉莉が歩み寄って来る。
自分の携帯端末を、ツナギの太腿のポケットにねじ込んで。
何にも言わない。
俺も
何と言おうか迷いがあった。
これ、ストーカーってやつじゃないのか?
俺に色よい返事を貰えなかったからと妹に手を出して来るとは。
……なまじ外見が良いと、チヤホヤされる関係で違法行為に対する感覚が……順法意識が甘くなるのかね?
良く言うよな……
イケメンの付き纏いは一途で。
ブサメンの付き纏いは凶悪犯罪って。
だとしたら、一回ハッキリ言った方が良いのかなぁ?
良く知らないし、日本語での意思疎通に不安があるから。
キミと結婚前提で交際する気は無いって。
あとまぁ、日本人女性を悪く言うのも、後々のトラブルになりそうだから地雷案件だ。
なので悪いけど、無いんだよな。
だから俺は
「なぁ」
俺の傍に丸椅子を持ってきて。
俺と並んで腰を下ろした茉莉に
ハッキリ言った方が良いと思うか?
そう訊こうとした
だけどその前に
「リューイチ、あのさ」
茉莉が口を開いたんだ。
そしてこう言ってきた。
「私、あなたが望むならあなたと結婚したいと思ってる」
……黙らされたよ。
ちょっと待ってくれ。
「いきなり過ぎるのは分かってるけど、先に意志をハッキリさせないと、後で後悔すると今思った」
そう口にする彼女。
その手はちょっと震えていた。
……決断の要る発言ってことなのか。
これを疑うのは失礼な気がする。
だからこれは彼女の本心か。
分かった……
少し息を吸い込み。
吐いて。
「俺はさ」
だから俺は
「ずっとウチの拳法を継承するための稽古を続けてて、積極的に彼女を作ろうとしたことが無くてさ」
過去語り。
彼女の視線を感じる。
緊張のせいか、俺の右手が煙草を探していた。
気が付いたので、ゆっくりと下ろしたけど。
「まあ、平たく言うと、彼女が居たことが無い」
高校のときは別にモテてなかったし。
卒業後は就職し、金を稼ぐことしかしてなかったしな。
「だからまあ、うん」
……これ、言っていいのかな?
成人した男が言うのは情けないんだが……
「俺さ、男女の好きが分からないんだわ」
別に俺は普通にストレートだけど。
同性愛の性嗜好は無い。そこは間違いない。
セックスの相手で求めるのは女だ。
だけど……
それと男女の「好き」って違うだろ?
そうじゃないのか?
呆れられるかな?
幻滅されるかな?
その不安を抱えながら、俺は言葉にした。
今の心境を。
……茉莉は
俺の話を聞いて、真剣な顔になる。
そして思案して……
「……私の対抗馬は、きっとそれでも自分を選んでくれと言い続けるのが目に見えてるのよね」
ポツリ、とそう溢す。
「私の至りたい結果は、あなたと結婚を前提に交際、なのね」
椅子に座ったまま背中に身体を逸らす。
言ってる内容を淀みなくさせるためなんかね。
「もう、その段階からして無理?」
俺に視線を向けながらそう一言。
……交際。
それは……
「うん……それは無理じゃないだろ……」
その段階からして無理なら、俺はそもそも結婚できない話になるし。
正直……
「キミは美人だし、俺は嫌いではないからな」
あ。
思ったことが声に出ていた。
しまった、と思った。
茉莉に目を向けると。
彼女は俺を凝視していた。
少し顔を赤らめながら。
時間が止まったような気がした。
世界からここだけ、切り取られたみたいな。
彼女との……茉莉とのこれまでの思い出が頭の中を流れていく。
俺の世界が変わるかもしれない、重要な決断。
そのための記憶の再検索……?
軽い気持ちで答えを出すな。
俺の本能がそう言ってるのか……?
……だけどそんな時間は
『警告! 警告です!』
サイレン音と。
突然の、アマノ33号の人工音声で遮られた。




