第1話 待ちに待ったログイン
目の前に広がる満天の星。
「綺麗」
ぼそっとつぶやくと、眩い星が1つ消えた。そして、また1つ。1つ。次々と消えていく。あんなに明るかった辺りが真っ暗になった。
「…!」
ガバっと布団から起き上がると、夢であったことに気づく。朝日が昇りカーテンのすき間から光が漏れる。ただの夢のはずなのに妙に胸がざわついた―――
春。
今日から新学期。千陽の足取りは軽い。大学3年生になりようやく許された一人暮らし。
「自由バンザイ!」
「何をやってるの?」
後ろから彩音が不思議そうな顔してやってきた。
「結花がもう教室にいるからって連絡来てるよ。早く行こ」
「あ、うん…」
思わず浮かれたところを見られた気恥ずかしさから、ぎこちない返事をしてしまった。
「おっはよー!!」
「結花、おはよー」
「千陽、彩音、おはよう。千陽は今日も元気だね」
「いやー。これから何しようってわくわくしちゃって!」
「さっき門のところで『自由バンザイ!』って言ったもんね〜」
「あー、もー、言わないで〜」
「待ちに待った一人暮らしだもんね。よかったね」
「うん!」
――ピコンッ
彩音のポケットに入ったスマホから通知音が鳴る。
「あ、まずい。マナーモードにしてなかった。危なく講義中に鳴るとこだった」
ピコンッピコンッ
「めっちゃ鳴るね。何々どうした?」
「イベントに関する情報を共有してくれたみたい。すんごいコメント流れてくる」
「イベントって、《Mei》の?!」
千陽が目を輝かせ尋ねる。
「そうだよ。千陽、ようやく《Mei》始めるんでしょ?講義終わった後、暇なら待ち合わせする?」
「するする!一緒にやりたい!!いろいろ教えてほしいんだよ!」
「それじゃ、街で待ってるよ。イベントいろいろ進めたいからさ。あ、で、ユーザーID教えておくね。ログインしたらメッセージ送って」
「うん、ありがとう。まずは街まで頑張ってたどり着くよ」
「あはは。大丈夫だよ。案内所から街までは一本道だから」
「でも、初めてだからドキドキして―――
キーンコーンカーンコーン。会話を遮るようにチャイムが鳴る。「また、あとでね。」と小さく手を振り、前の方に集中する。
ガチャ…バタン…タタタタタ…ドサッ…
バサッ…スッ…サッ…ボフッ…
「よしっ!」
千陽は帰宅すると早々に部屋着に着替え、布団へと倒れ込む。枕元に置かれたヘッドギアを手に取る。
「……いよいよ、か」
深呼吸して、目を閉じる。
――ログインしますか?
まぶた越しに明るさを感じた。
目を開ければいいのかな?
初めての感覚に戸惑いながらもそっと目を開けた。目の前にはドンと大きな扉。横には看板があり『案内所』と書かれている。いざと意気込みドアノブを力いっぱい引き、中をのぞき込む。中にいた人たちがキョトンとした表情でこちらを見てくる。
新規プレイヤーは珍しいのか?
そんな人たちの中、カウンター越しにニコニコとこちらに手を振ってくれる人を見つけた。案内人と思われるその人に声をかけてみることにした。
「あ、あの…」
「どうぞ。こちらへお掛けください」
千陽が座り落ち着くのを見てから、案内人は話し始めた。
「仮想空間《Mei》へようこそ。私はMeiの案内人『ニケ』でございます。本日はMeiにアクセスしていただき誠にありがとうございます。」
ニケと名乗ったその人は挨拶を終えると小首を傾げる。
「キュウブはお持ちですか?」
「キュウブ?いえ、持ってないです」
「では、こちらをお受け取りください」
千陽は片手に乗る程度の大きさの黒い箱状の物体を受け取った。そして、その物体は千陽の周りをふわふわと浮遊し始めた。
「Meiのプレイヤーのみなさんにお渡ししております『キュウブ』です。自動翻訳、通話、メッセージ、図鑑、地図など様々な機能を有しております。最大の特徴はバディステラクシーの登録です。キュウブでスキャンすることができたステラクシーをバディステラクシーとして登録できます。まずはプレイヤー情報を登録しましょう。『キュウブオープン』と言ってみてください」
「キュウブオープン!」
千陽がそう言うとキュウブは4つに分かれ広がり空間に画面が表示される。
プレイヤー名…。どうしようかな。
少し考えたあとパッと思いついた名前を入力し、他の項目も埋めていく。
よし、登録っと。
「ご登録いただきありがとうございます。ステラクシーについての説明をお聞きになりますか?」
「はい」
「ステラクシーとは仮想空間Meiに住むデジタルデータの妖精たちのことです。太陽の翼を持つソルクシーと月の翼を持つルナクシーの2つの種族が存在します。また、様々な属性が存在します。それに加えて、第一形態、第二形態、第三形態と進化形態もあります。個性豊かなたくさんのステラクシーたちの中から素敵なバディステラクシーを見つけてくださいね。他にご質問などはございませんか?」
「特に無いです」
「またわからないことがあれば、キュウブのヘルプでご確認いただくか、こちらの案内所にお越しくださいね。では、この世界を存分にお楽しみください」
千陽は椅子から立ち上がり、入り口とは反対の出口へ向かい扉のドアノブに手をかけた。ふと手元に目線を落とすと先程の大きな扉のことを思い出し、ニケに向かって聞いてみた。
「あの、ここには巨人がいるんですか?」
「いえ、大柄な方はいらっしゃいますが巨人はいませんよ」
ニケはニッコリ笑顔で答えた。千陽は変な質問をしてしまったと思い恥ずかしくなり、急いで外へと出た。
案内所の外は草原で街に続く一本道だけがあった。どこか懐かしさを感じる風景にまるで夢の続きのように胸の奥がざわついた。
とりあえず、まっすぐだね。
何もない道を進んでいく。千陽の後ろを小さな影がついて行くのを知らずに―――
次回2026年1月2日(金)投稿予定




