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第三話 粛清-0円の男

溶ける!

30度超えてきましたね。

まだ6月ですよ。

8月には日本が無くなっちゃうんじゃないですかね(

「お父様ですが・・・既に亡くなられております」



 オリビアは固まった。イマイチ理解が出来ていないようだ。

 依頼対象が既に死んでいる?何故?喜ぶ?喜べばいいのか?

 頭の中で色々な思考が交錯する。


「・・・?」


「あなたが依頼した父上の殺害、これは遂行不可能になります」


「・・・じ、じゃあ!お母さんを・・・!」


「まず、真相からお話しましょう」


「・・・え?」


「お父様はなぜ、亡くなられたと思いますか?」


「・・・さ、さぁ・・・」


「殺人です。お父様は殺されました。あなたが連れ去られた直後に」


「・・・どういうことですか?」


「ボズールが仕掛けた盗賊です。あなた達は買われたのではなく、誘拐されたのです」



 オリビアはまだ全然理解が追いついていなかった。というよりも、本能的に理解したくなかったのかもしれない。


「実は、皆様から頂いている依頼は、依頼が届いた段階からすぐに調査に移ります。そして、確固たる証拠を集め、粛清(しゅくせい)の準備が整い次第依頼を遂行するという流れになります」


「・・・」


「本来ならばもっと早く、この依頼を遂行したかった。言い訳になりますが、人材不足故(じんざいぶそくゆえ)、この依頼の受諾報告をするのが遅れてしまいました。大変申し訳ございません」


「・・・」


「まず、今回の件、お二方はボズールに見初められ、恐らく雇われたであろう盗賊に強引に連れ去られました。その後、復讐警戒か証拠隠滅かわかりませんが、その盗賊に両親が襲われました」


「・・・」



 わからない感情。怒り?悲しみ?とにかくわからない。オリビアは今自分が、どんな心でどんな表情をしているのかわからなかった。


「お父様は抵抗の末、殺害されてしまいました。しかし必死の抵抗が実り、すんでのところで誰かが通報して駆けつけたサンバロン騎士団に、お母様は救出されました。その時、盗賊は全てその場で処刑、もしくは逃がしてしまい、何も証拠がつかめなかったようです。ちなみにお母様は今、サンバロン王国騎士団で従者をしておりますよ」


「・・・」


「・・・残酷な事実を突きつけるようで心苦しいですが、オリビア様が殺したいと憎んだお父様は、あなた達を誘拐され悲しく、苦しい中、必死に奥様を守った勇者です。そして、この件の真の悪は、ボズール・・・ただ一人です」


「・・・」



 理解が・・・追いついていないわけではなかった。父も母も・・・被害者。平穏な家庭を引き裂いたのはボズール。

 必死に母を守ってくれた父を恨んでしまったこと、そんな幸せな家庭を引き裂いた男の元で5年ものうのうと過ごしてきたこと。

 後悔・屈辱。否、こんな言葉では表しきれない。オリビアの心には、とんでもない怒りが湧いていた。


「ボ、ボズールは・・・」


「・・・」


「ボズールはどこに!!!」


「奥の部屋にいますよ」



 聞くや否や、即座に飛び出したオリビア。一直線にレインの後ろに走り出した。

 レインの後ろのドアを開ける。何部屋かの入口がある廊下の真ん中、床が開いて階段が見える。すぐ横には若い男が立っていた。


「お、話は終わった? お目当ての男はこの下・・・」



 若い男が言い終わる前に、オリビアは既に階段を降り始めていた。鬼の形相である。


「ヒュウ」



 階段を降りると、また扉があった。躊躇なく扉を開けるオリビア。


 そこには、無惨にも拷問を受けたあとのボズールの姿があった。


「・・・!!」



 オリビアが驚いた表情でボズールを見つめていると、階段の上からコツコツと足音が聞こえる。


「驚きましたか?」


「・・・」


「この男、実は余罪がありまして」


「・・・よざい?」


「要するに、貴方がただけではないのです」


「そ、それって・・・」


「兼ねてからの姉妹コレクター・・・美しい姉妹を自分の妻にすることを目的とし、非人道な行為を繰り返していた・・・」



 オリビアがレインの顔を見る。とんでもない怒りの表情だ。


「第一級の犯罪者です」



 レインが手に持っていた松明(たいまつ)の火を壁に当てた。すると、壁に薄いロウが張っていたようで、一瞬で部屋の壁を一周し、キレイに部屋の中を照らした。

 すると、見るも無惨なボズールが、今度ははっきりと見える。

 血だらけ・・・。とりあえずその言葉が最初に出る。各部を見ようにも、うなだれているためわかりにくい。

 両手は縛られ、片方ずつ反対側に引っ張られている。正座するような形で、前のめりだ。


「サイ」


「うい」



 先ほどの若い男が名前を呼ばれると、木の棍棒を持ってボズールに近づく。

 すると、思いっきり背中を叩いた。


「ああああああああああああああああああ!」



 生きていた。てっきり死んでるものだと思った。よく見たら耳栓がしてある。だからここまで人が近づいてもわからなかったんだろうか。


「あああ・・・」



 先ほどよりもさらにうなだれる。背中にも無数に傷があった。


「この男は、過去にも何人もの姉妹を誘拐し、その家族を殺してきました。そして言う事を聞かない姉妹も・・・殺害しています」


「・・・わ、私達は・・・」


「5年間、ギリギリのラインでボズールの逆鱗に触れていなかったのでしょう。実に運が良いと言えます」


「・・・」



 するとボズールが急に騒ぎ出した。


「・・・! オリビアか!? オリビアがそこにいるのか!?」


「!」



 オリビアはビクついた。


「た、助けてくれ! お前だけは・・・お前だけは大事に育てたつもりだった! 今までのやつらと比べて・・・美しいからだ! 圧倒的に! ビオラもだ! 我慢したんだ!」



 ボズールは続ける。


「俺の妻になれば好きに暮らせるぞ! 何が不満なのだ!? 今までのやつらも、何が不満なのだ! 何不自由無い生活! そうそう手に入るものではないぞ!」



 聞くに耐えない。サイはそんな表情だ。


「俺の子供を産めばいいのだ! それだけで楽な生活が手に入る!! そうだろうオリビア! さぁこいつらから私を助け出してくれ!!」



 オリビアの目は冷めていた。見事に。オリビアの目には何の色も無かった。漆黒。この男に対する感情が何も無かった。


「・・・レインさん」


「はい?」


「私の依頼金・・・人殺しの依頼だと少ないですか?」


「そうですねぇ。その人の価値によります」



 ボズールはまだ何やら(わめ)いている。


「・・・この男は?」


「1円にもなりませんな」


「・・・お願いします」


「承知いたしました。サイ」


「あいよ」



 そう言うと、喚き続けるボズールの顎に、サイはとんでもないキックを食らわせた。一瞬でボズールの意識は星の彼方へ飛び、がっくりとうなだれた。サイは大きな布袋を用意すると、手錠を外したボズールをそれで包み、この部屋のさらに奥にある扉に運んでいった。


「・・・さて、戻りましょうか」


「・・・」








 店の中へ戻ると、ビオラが一人でお菓子を食べていた。


「お姉ちゃん!このお菓子美味しいよ!」


「・・・そう」



 ビオラの年齢は10歳そこらと言ったところか。今回の話もあまり理解出来ていなかったかもしれない。


「オリビア様、今回の件、お代はいりません」


「え・・・」


「お二方のこれからの資金に充ててください」


「でも、これからと言っても・・・」


「先ほどお話ししておりますよ。もしかしたら気が動転して覚えていないかもしれませんが・・・」


「・・・?」


「あなたのお母様は生きております。私の弟子、サンバロン騎士団第3柱・シャーリィのところで働いておりますよ」


「・・・!!」



 オリビアの顔に生気が戻っていく。そうだ。私達には帰る場所がある。怒りで忘れていたが、心はずっと願っていたのかもしれない。あの日常に戻ることに。そして、待たせていたのかもしれない。愛する母を。

 今、色々な気持ちに整理がついた。父がいなくなった悲しみ、また母に会える喜び。

 オリビアは涙が溢れた。

 長い、長い5年間だった。もう二度と、昔に戻れないとも思った。


「ありがとう・・・ございます・・・!」


「いえいえ」


 お菓子を食べているビオラと目が合う。ビオラが二マッと笑う。無邪気な妹の姿を見て、オリビアも安堵の表情がこぼれる。


「・・・帰ろっか」


「? うん!」


「隣国とはいえ、サンバロンまでは距離があります。エレナという者を護衛に付けますので、ご安心してご帰国なさってください」


「すみません・・・」


「本日はお疲れでしょうから、どうぞお泊りください。心身共に休めて、出発しましょう」



 そう言うと、後ろからエレナが現れる。着替えを持っているようだ。


「先ほどのお話でも出てきましたが、サンバロンには私の弟子でシャーリィという者がいます。既に手紙は送っていますので、彼女を頼ってください」


「はい」


「お母様も待っておられますよ」


「・・・はい」



 オリビアは穏やかな表情になる。

 その後は姉妹二人ともエレナに連れられ、お風呂に入り、すぐに床に着いた。









 数日後ー



 コトッ


 平日の昼間、買い出しに出たエレナが残したリストを眺めていると、お店入口のポストに手紙が投函された音がした。

 レインはゆっくりと立ち上がり、外へ向かう。ポストを覗き込むと、手紙らしきものと小包が入っていた。レインはポストを開け、それを手に取る。


「・・・」



 レインの口に笑みがこぼれる。

 オリビア一家からだ。



『ーレインさんへ


この前のこと、ありがとうございました。あれから私達は、シャーリィさんに出会い、お母さんに再会しました。あの時より痩せてましたが、シャーリィさんのおかげで、なんとか元気にやっていたそうです。

今私達は、3人で騎士団の近くの家に住んでいます。母が騎士団に努めているというのもありますが・・・実は私達も今、騎士団で働いています。まだまだ見習いですが、いつかはシャーリィさんのような素敵な女性になりたいです。

一緒に送った小包には、お母さんが作ったネックレスが入ってます。なんでも、昔から魔除けの効果が期待されてる形だそうですよ。

この度は本当にありがとうございました。・・・本当はお父さんにも会いたいですが、なんでだろう、何故かいつも近くにいるような気がして、あまり寂しくないんですよね。

またレインさんのところにも遊びに行きます。今度はちゃんとした、お昼のお客さんで行きますね。


ーオリビア』



 レインの心が晴れやかになる。

 小包を開けてみる。見事なネックレスだ。目立った装飾は無いが、中心部分の形がなんとも言えないオシャレさを感じる。最近では見たことのない形だ。これを人間の手で作るというのだから、感服する。


 「・・・仕事柄、常に身につけるのは難しいですな」



 レインは、このネックレスを飾るケースを購入する決意をした。

これにて、第1章終了となります。

今後もこのような3話完結の章を続けていきますので、暇つぶしに御覧ください。

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