第二羽 真の悪
あぢぃ~!
暑くなってきましたね~(6月初旬)
もう常に半袖です。
こりゃ8月までに溶けてなくなりそうですね。
ね?
「お父さんを・・・殺してくれませんか」
唐突な言葉にも、レインは眉一つ動かさずにミルクティーを口に運んだ。
「・・・っ」
オリビアは焦っていた。それもそのはず、親殺しの依頼である。口から発した時点で悠長にミルクティーなど飲めるような問題じゃないはずだ。
しかしレインはあくまでも落ち着き払い、一緒に用意されたお菓子にさえ手を伸ばそうとしている。シビレを切らしたオリビアが声を荒げようとした。
「あの・・・!」
「まぁ落ち着いてください」
制するようにレインが声を挟む。お菓子、クッキーだろうか。一つ手に取りひとかじり。味を楽しんだ後にミルクティーを一口。幸せそうな顔だ。
「・・・」
「おいしいですよ。そのミルクティーには心を落ち着かせる作用もあります。睡眠前に飲むと、非常によく眠れますよ」
「・・・」
諦めたのか、腰が浮きかけていたオリビアはしっかりと座り直し、ミルクティーを飲んでみた。
甘い。美味しい。既に砂糖が入っている。
「美味しいでしょう」
「・・・」
「パームというお店はご存知で?」
「・・・? あの有名なお菓子屋さんですか?」
「はい。そこで仕入れたお菓子です。私が我儘を言って特注の品を作ってもらってます。実に美味しいですよ」
促されるがままにお菓子を手に取る。確かにそのお店では見たこと無いような気もする。一口かじってみる。薄味だが、どこか優しい味。このミルクティーによく合う気がする。
「・・・さて、本題ですが」
「・・・!」
「辛いかもしれませんが、もし宜しければ経緯をお聞きしても?」
「・・・」
オリビアが静かに口を開く。
この少女オリビアは、レインが住んでいるエレノア王国の隣国であるサンバロン王国の出身で、田舎町で家族4人、貧しいながらも平穏に暮らしていたそうだ。だが5年前のある日、妹のビオラと共に貴族に急に買い取られることとなり、両親に別れの挨拶をすることもなく離れ離れになってしまったようだ。それからというものの、抵抗しながら辛い奴隷生活を必死に堪えていく内に、自分達を売り払った両親に怒りが湧き始めたという。本来ならば両親共に殺したいと願っているが、奴隷生活で貯めたお金も大した量ではなく、とにかく父だけでも、という想いで来たようだ。
「・・・なるほど」
「お願いします。私達をこんな目に合わせたこと・・・恨んでも恨みきれません」
「妹様は?」
「今は・・・ボズール家で休んでると思います」
ボズールとは、例の貴族である。レインはこの貴族を知っていた。エレノアの古株・・・あまり良い噂は聞かない。
「・・・事情はわかりました」
「・・・! じゃあ・・・」
「もう少々お時間頂けますか? 少し準備がありますので」
「あ・・・は、はい・・・」
「本日はもうお引取頂いて結構ですよ。明日の夜・・・同じく22時に、妹様と一緒にまた来れますか?」
「・・・え? ビオラも?」
「はい。もう二度と、戻ることはありませんから」
「おい! オリビアはどこだ!」
「それが、屋敷中を探し回っても見つからず・・・」
「絶対に朝までに探し出せ! わかったか!」
「は、ハッ!」
二人の警備兵らしき男は走り去っていく。二人に指示をした小太りの男は、自分の部屋に戻るや否や苛立ちを開放した。
「オ、オリビアが・・・! クソッ!」
男は部屋の中をぐるぐると回っている。
「アレは俺の妻にならなきゃいけない・・・! 妹もだ・・・! 妹と一緒に俺の妻に・・・!」
「・・・」
どうやら、天井裏に誰かいるようだ。
「もう何回目だ・・・! 今回こそ・・・今回こそ二人とも俺の妻に・・・!」
「・・・」
「今回のは時間をかけた・・・丁寧に育て上げたはず・・・!」
「・・・」
「逃げたのか・・・!? そうなったら妹を殺して、オリビアも見つけ次第・・・! でないと・・・」
「・・・」
きっしょいおっさんだな。
屋根裏の者はそう思った。
何分経っただろうか。貴族が一人でぶつぶつ呟きながら部屋の中をウロウロしていると、部屋をノックする音が聞こえた。
「なんだ! 見つかったか!?」
「はい、商店街の路地裏で座り込んでいました」
「で、でかした! 早く入ってこい!」
そう言いながら貴族は、ドアへドスドス近づき、勢いよく開けた。
しかし、そこに立っていたのは若い男ただ一人だった。風貌からしても、警備兵では無い。
「!! だ、誰・・・」
するとその男は、後ろに隠していた一枚のそこそこ大きめの布を貴族に投げつけた。
「ぶわっ」
貴族は焦りながらその布を払い落とす。視界が開けると、目の前に男の姿は無かった。
「な、なんだっ・・・」
次の瞬間、口と鼻にハンカチを押し付けられた。
「!!?」
即座に抵抗するも、抜けていく力、遠のく意識。気付けば男は眠りについていた。
「・・・これ運ぶのめんどくせぇな。ぶくぶくと太りやがって」
そう言いながらも男は、よっこいしょと言いながら簡単に、自分の倍の面積はあるであろう貴族を担ぐと、窓を開けて庭に飛び降りた。2階から大の大人を一人抱えて飛び降りたにも関わらず、非常に軽やかで、なんの苦も無さそうだ。
「ちょっと仕事がちょろすぎるぜレインさん」
ーーーギィ
不意に喫茶店のドアが開く。時刻は午後21:58。現れたのは昨日の依頼人オリビアと・・・恐らく妹のビオラだろう。二人並んで入ってきた。
「どうでしたか?」
「どうでしたかって・・・大騒ぎでしたよ」
オリビアは苦い顔をする。レインは少し笑っている。
「まさか・・・攫ったんですか?」
「攫う・・・というよりもその先、粛清です」
「・・・粛清?」
今日の昼ー
「ボズール様はどこにいらっしゃるのだ! 朝から姿が見えないぞ!」
「それが、総員で探しているのですが見つからず・・・」
「も、もしやオリビアを探して出ていかれたのでは・・・」
「ば、ばかな! オリビアは昨日の晩に帰ってきているぞ! それに・・・一人で出かけられるような方ではない・・・!」
「・・・まさか」
一人の警備兵が呟く。
「? まさか、なんだ?」
「し、死神が動いたのでは・・・!?」
「な・・・ば、ばかなことを言うな! あんな迷信じみたもの・・・!」
(迷信・・・?)
実は先のやりとりを、最初からオリビアは部屋の中から聞いていた。
「確かに褒められた人間ではないが・・・仮にも地方を代表するような方だ。その迷信が本当だとして、簡単に狙うか?それに・・・あの方がいなくなったら俺達はどうなる。こんなに金払いの良い奴はいないぞ」
「た、確かに・・・」
(・・・)
「意地でも見つけ出せ!」
「はっ!」
数人の人間が散り散りになる音が聞こえる。
領主が消える。大変な事件だ。だが嫌いなだけに、そのまま死んでほしいとまで思っていたオリビア。ふと頭の中で昨日の言葉が蘇る。
『もう二度と、戻ることはありませんから』
「まさか・・・」
「彼は罪を犯しました。いや、犯し続けているという言葉の方が正しいでしょうか」
「罪・・・?」
「今回の依頼、両親への復讐と捉えていますが、間違いありませんか?」
「・・・はい」
「わかりました。それならば、色々と御覚悟の上でしょう」
そう言うとレインはミルクティーで一息置き、話し始めた。
「真実をお話します。まず、お父様のことですが・・・」
「・・・」
「既に亡くなられております」
日本語って難しいですね。
上手く表現出来たと思っても、読み直してみると「何語やねんこれ」ってなります。
勉強ですねぇ。
でもこの歳になって勉強が楽しいんですよ。
頭には入りませんが。