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アリスプロジェクト2225:ブルースカイ  作者: 黒衣エネ
第一章:空中都市計画
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サイボーグ

私達は既に自らがヒトではない事を知っている。自らヒトとの線を引いた。



「これで終わりですね。」


「だね、予定よりは早く終わったかな?」


白くのっぺりとしたアンドロイド兵の首を斬り落とした太刀を鞘に納刀しながら、月光は自分の傍らに着地したフレスヴェルクに話しかける。その二人の周囲にはライフルを装備したアンドロイド兵の残骸が十数機程度転がっている。


「『カウンターズ』のお二人様、暴走アンドロイドの鎮圧、ありがとうございました。」


「いえいえ!それ私達の仕事ですので!」


例を言う警察官に月光は事も無げに答える。後の処理は集まって来た警官隊が行うだろう。


「最近妙に多いね、アンドロイド兵の暴走事故が。」


「ですね。しかし調査ではアンドロイドの品質そのものには問題無かったと結果が出ていますね。問題の本質は、後で何者かにシステムが改竄されていることですか。」



ここ3ヶ月程、世間を騒がせているのが『アンドロイド暴走事件』だった。


突然人を襲うアンドロイド兵、急にふらふらと家を出て行ったまま行方不明になるメイド型アンドロイド、壁に妙な模様の落書きをしたり、廃材や時に建造物を壊して奇妙な形状のオブジェを造る作業用アンドロイド等症状は様々だ。


先日二人が解決した闇賭博も技術流出の件から、これらの事件との関連が疑われている。



「しかしメーカーさんの違法プログラム対策を突破してですか?我々サイボーグのハッキングプログラムを悪用しても、セキュリティ突破は基本的に無理ですよ。しかも侵入痕跡を残さずになんて。」


「月光の言う通りだね、例えIT分野のプロである『センパイ』レベルのハッキング技術でも痕跡を残さないのは無理だ。」


基地へ戻る為に歩きながら、二人はこの事件について少しだけ考えていた。


ちなみに、フレスヴェルクも月光もその気になれば飛んだり走ったりすればさっさと帰れるのだが、急いでないのと帰りに寄り道がしたかったと言う理由でワザワザ歩いて帰っている。この辺りが二人共ただ真面目なだけでもない年齢相応の部分だったりもする。



義母かあさんが言っていた『形の無い何者か』が犯人なんですかね。」


数日前に基地で団長が部隊員達を集めて話した事を反芻しながら、月光が呟く。単純に言えばこれらの事件は同一犯によるものではないかと言うネット上の噂話だ。



「それが比喩なのか本当に実体が無いのかは分からないけどね。ただ、これだけ連続してたら関係が無いとは思えない。」


入ったドーナツ屋で注文した商品を受け取りながら、フレスヴェルクは月光の疑問にそう答える。所詮はネットの噂だが、火のない所に煙は立たないとも言える。どちらにしろ、調査による裏取り待ちと言った所だ。


「さて、おみやげも買ったし帰ろうか。」




***************



「ただいま戻りました。」


「お帰りぃ二人共ぉ、今回はどぉだったぁ?」


基地へと帰って来た二人を迎えたのは、事務机の上で資料を片手にパソコンとにらめっこをしていたセンパイだった。センパイと同じく、オペレーター兼情報部要員であるテンパランスとアクティブの姿は無く、休憩中か既に仕事を終えて帰宅したかのどちらかだろう。


「例によってまたシステム改竄をされたアンドロイド兵『US-166:C型』の暴走でした。数は全部で12機、所属もバラバラですね。軽くスキャンしましたけど、相変わらず犯人へ繋がる痕跡は無しですね。」


「センパイ、こっちは差し入れです。確かドーナツ好きだったよね?」


少し暑かったのか、バトルスーツの胸元を少し開けてパタパタと手で扇ぎながら月光が結果を報告し、フレスヴェルクが小皿に買ってきたドーナツを2個乗せてセンパイに渡す。


「ありがとぉ、頭脳労働には甘いモノに限るからねぇ。今日はちょっち集中してたからさぁ、もう5時間はぶっ続けでパソコンとにらめっこしてたワケさぁ。」


貰ったドーナツにパクつきながら、少し疲れた様子でセンパイは言う。いくらサイボーグでも精神的な疲労とは無縁ではないのだ。



「テンパランスとアクティブは?」


「今日は早上がりしたよぉ。あの双子ちゃんだけじゃなくて、他のサイボーグちゃんも何人かねぇ。ま、サイボーグも最近休日や労働時間がどうのこうのって煩いからねぇ。今更何をってカンジだけどぉ。」


肩を竦めながら、双子以外にも今日は早上がりで帰宅したサイボーグが何人も居る事をセンパイが伝える。最近は件のアンドロイド暴走事件の影響で全体的に部隊全員が休みを削っていた為、その帳尻合わせを比較的暇な今日で行ったと言う所だろう。


「はー、人間さんのルールはややこしいですね。私達サイボーグは人間さんとは感覚とか疲労のしやすさとか違うんで、そのまま当てはめられても、って思うんですけど。」


「月光、キミも僕も元々は人間だよ。一応法の上では僕らも人間なんだから、そう言うルールを守る事は重要さ。」


首を傾げる月光に、やや呆れたようにフレスヴェルクが言う。


「フィーと違って、私はもう物心ついた時にはサイボーグでしたので、あんまり人間らしさって実感が湧かないんですよね。歳に合わせて義体交換も何度もしましたし。」


「まぁ、それでもだよぉ月光。私らみたいな存在こそ『常人』の感覚ってのは忘れない方が良いねぇ。」


再び肩を竦め、溜息を吐きながらセンパイが言う。それはどこか、自分にも言い聞かせてるようだった。



「そんなものですか。ところでナナは居ますか?ナナも甘いものは好きでしょうし、ドーナツを買って来たのですが。」


「うん、いつも通りだよぉ。休憩室の畳の間でぇ丸くなってると思う。」


キョロキョロと周囲を見回し誰かを探しながら言う月光に、センパイが休憩室の扉を指しながら言う。探し人はそこに要るようだ。


「相変わらず任務が無い時は眠りこけてますか、ナナはちょっと義体ボディに精神が引っ張られ過ぎているような気がしますが、まあいいでしょう!ナナ、そこに居ますか?起きてください、ドーナツを買って来ましたよ!」


やや大きな声で休憩室のドアを開いて中に入る月光。休憩室は照明が点いておらず、カーテンも半分くらい閉まっていたので、やや薄暗い。その中は椅子とソファーとテーブルが置いてる場所と、その奥の方に段差で区切られた畳が敷いてある居間がある。




「月光 うるさい ナナは耳が良い だから 耳に響く」


そう言いながら畳の上で寝ころんでいた人影が、手の甲で目元を擦りながら起き上がる。薄暗い中でも、金色に輝く眼がはっきりと見える。


その高めな声色に見合った、小柄かつしなやかな体躯をレオタードのような形の暗紫色のボディスーツに身を包み、脚は膝上から黒色のラバーソックスを、腕も肘上から同様のグローブを身に着けている。


そして、その四肢の先は装甲に覆われ鋭い金属の爪が生えていた。



「ナナ、今日は非番だったのかい?」


「ん 休みだ だからねてた」


寝起きだからか気怠そうに答える『ナナ』。寝ていたからか少し癖のあるセミロングの銀髪は所々ハネており、その頭に付いている『猫の耳のような形のパーツ』が不機嫌そうにピョコピョコ動いている。その容姿から、サイボーグであることは明白だ。


その容姿から一見少女にしか見えないが、胸や腰の形、そして股の小さな膨らみから『彼』が一応『少年』である事が伺える。



「フレス、月光 ナナに何用 だ?」


「お土産だよ、甘い物好きでしょ?」


「ナナに みやげ?」


『土産』と聞いて、明らかに興味を引いたようだ。小首を傾げながら一言ずつ千切るように話す。愛想の無い仏頂面は変わらないが、尻から生えている骨格のような機械仕掛けの尻尾がピンと立っている辺り、嬉しそうではある。


「ドーナツですよ、最近オープンしたお店らしくて、気になってたので任務帰りに寄って来たんです。」


取り出したドーナツを小皿に乗せて渡しながら月光が言う。これが彼女らがワザワザ歩いて帰って来た(寄り道した)理由だ。


「うん ありがと 月光」


喋るのが得意でないらしく、たどたどしいながらも礼を言い、ナナは小皿を受け取ると手の爪3本で器用にドーナツを掴むと一口齧る。



「爪、装甲ごと外せば食べやすいんじゃない?」


「不要 ツメはナナの一部」


素っ気なく言うとナナはあっという間に、意外に大きくてずっしりしたドーナツ2個を平らげてしまった。


「小柄なのにナナはよく食べますねぇ。」


「ナナはオスだから その平均相応に 食べるだけ」


壁に背を預け、自分のドーナツを齧りながら見かけによらないナナの健啖ぶりに感心しながら言う月光に、ナナは事も無げにそう返す。





「所で実は今日もアンドロイド暴走事件を処理して来たんだけどさ…」


ナナがドーナツを食べ終わったのを見計らってフレスヴェルクが話を切り出す。そう、ただナナに差し入れを持って来た訳ではない。話の本題はここからだ。


「知ってる 同じ匂いがする」


「え…」


しかしそれに先んじて、ナナは短くそう答えた。



「ナナは鼻が利く フレスがそういう事件に行った後 その中に 毎回同じ匂いがある」


「もうデータとか現場の痕跡じゃ手詰まりみたいだったから、キミの五感の鋭さをアテにして来たんだけど…」


件の事件の共通点探しに、サイボーグの中でも特に五感に優れるナナに協力を依頼するつもりだったフレスヴェルクたが、既にナナは答えを持っていたようだ。


「匂いですか。それならその匂いを目印に犯人とまでは行かなくても関係がありそうな人に辿り着けそうですね。」


匂いを追えるなら、その持ち主も探す事は可能だろう。しかしナナは首を横に振った。


「事件現場とか そこに行ったフレスとか以外で その匂いはしない ナナはあまり外に出ない それでも 知らない匂い」


ナナが言うには、その感じる匂いは事件現場やそこへ行ってきたフレスヴェルク達からしか感じないと言う。街中では感じたことの無い未知の匂いであり、探しようが無いと言うのだ。



「あるいは、その匂いそのものが『犯人』が残したサインみたいなものなのかもね。自分のやったことだっていうのを示す、署名がわりのさ。」


「回りくどいですね、そうだとしたら一体何が目的なのでしょう?」


これが何らかのテロ活動だったり、人々を害するのが目的ならあまりにも回りくどく無駄が多い。そもそも迷惑行為にはなっても人々を直接害しているアンドロイドの方が少ないのだ。


だからこそ、フレスヴェルクも月光もこれが単純な破壊活動目的ではないと踏んでいる。かと言って他に何の意図があるかは見当付かずだが。



「さてね。でも取り敢えず調査は一歩進んだって言っていい。ナナ、これからは調査に協力をお願いするかもしれないから、スー姐さんにも話を通してて。」


「ん わかった。」


アンドロイドやAIのトラブルは、それらを多用する空中都市計画『バードピア』の開発運営にも影響が出るし、既に一般公開延期も検討されている程だ。その都市の開通を心待ちにしているフレスヴェルクとしては、個人的にもそれは避けたい。


なら、解決するか問題無いと判断出来るよう証明するしかない。




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