ムーンライトブレード:Ⅲ
私は相棒を信じる
斉射されるビーム砲を崩れかけたアリーナの観客席の残った部分に次々に飛び乗りながら回避しつつ、月光は攻撃のチャンスを伺う。
月光が武装として携行しているのは太刀ともう一本腰に差している予備の小刀、通称『脇差』と呼ばれている刀だけだ。無論そのその刀身は玉鋼ではなく、チタンとアンオプタニウムを中心とした合金であり、更に電磁コーティングと斬撃時に微細に振動する事で切断力が極限まで高められている。
しかし大小2本の刀しか装備していないと言うのは銃器を含めた射撃武器を持たない事を意味している。
これは月光が銃器を好まないと言う点、彼女の戦闘技能に合わない点、何より月光本人が内蔵メモリーにプログラムされた最低限のレベルでしか銃器を扱えない程度に銃器の扱いが苦手なのが、基本的に射撃武器を持たない理由だ。
故に彼女は先程見せたように斬撃で衝撃波を放つ以外には、基本接近戦を仕掛けるしか攻撃手段がない。
衝撃波の威力はアリーナの天井を破壊する程だが、あれだけ巨大な兵器相手では効果は薄い。そもそもその距離は相手のビーム砲や機銃の射程内だ、撃ち合いをするのは不利が過ぎる。
「さて、どうしたものですか。」
牽制に放たれた機銃の連射を刀で全て弾くか切り落としながら呟く。ミサイルは上空のフレスヴェルクが撃ち落とし、いくつかの機械触手を牽制射撃で引き付けて攻撃を分散させているが、対峙する月光は中々接近出来ない。
地面は崩落しているし、何より下に降りては相手が巨体過ぎて上から全ての攻撃を喰らう事になる。頭を押さえられていては行動が大きく制限される上に、上空のフレスヴェルクとの連携にも影響が出て来る。
「なら、方法は一つ足場は一つですね!」
決心し月光は再び跳躍する。今までより大きく高く跳び、それに対して牽制として放たれた対空機銃を刀で全て弾き飛ばしながら、うねる巨大な機械触手の上に着地し、駆け出す。
勿論上に乗った異物を振り落とそうと触手を振り回す『アリストテレス』だが、月光は優れたバランス感覚と履物の底から展開されたスパイクによって落下したり躓くことすらなく、触手の上を駆け抜ける。狙うは、中心の胴体だ。
こうなってしまえば、もう『アリストテレス』は月光にはビーム砲を撃てない。自分を撃つ事になるので自滅するだけだ。
『アリストテレス』の動力炉やCPU等の重要な機能が胴体にあるのは余程の愚か者でない限り直ぐに見当がつく。
「見えた!月光、装甲が薄いのは触手の付け根の下側だ!」
「了解です、フィー!」
そして、上空でミサイルと触手の猛攻を捌きながら解析していたフレスヴェルクが反撃の最後のピースを埋める。
上に乗る月光を叩き落とさんと、自身へのダメージ覚悟で左右から機械の触手が振るわれるが、月光は巧みに身を逸らしながらそれを紙一重で回避し、刀を横向きに構えながら走る。
「『月式・反鏡』」
触手の付け根付近で、銀色の半月が煌めく。
跳躍と同時に空中で前転しながら振るわれた刀は半円の斬撃を描き、太い触手の1つを切断する。だがそれだけでは終わらない。
「2つ!」
右隣の触手に着地すると、再び宙返りと共に『反鏡』を打ち2本目の触手も切断してしまう。
「まだまだっ!3つ!」
月光はそのまま空中で鋭く刀を振るうと、斬撃は衝撃波となって宙を飛び、更に隣の触手の付け根に命中。切断こそされなかったが、だらりと垂れ下がり動かなくなった。
しかし、巨大兵器もやられっぱなしではない。月光が再び着地するのを予測して少し身を引いて軸をずらし、反撃にビーム砲を向ける。この距離ではビーム砲が『アリストテレス』自体に当たるだろうが、それより月光の方が遥かに脅威と判断したようだ。
はっ、と目を見開く月光。いくら月光でもビーム砲の直撃には耐えられない。
「月光っ!」
反射的に刀を正面に構えて防御姿勢をとった月光の身体を、矢のような速さで急降下してきたフレスヴェルク掴み、上空へ飛び上がる。
機銃が掠ったり、ミサイルの爆風が当たったのか、その頬は少し切れて人工血液が一筋流れており、胴体は右肩を中心に煤汚れ装甲に傷が付いている。
「フィー!大丈夫ですか!?」
「うん、直撃はしてない。それより、キミのおかげで敵に王手がかかったよ。」
心配する月光にそう言うと、フレスヴェルクは『アリストテレス』の方を見る。体勢を立て直しつつ再び残る触手のビーム砲をこちらに向けているが、隣り合った3つの触手付け根から損壊した影響で、その周辺だけ装甲がごっそりと脱落していた。
そして、その上の位置には、カメラとセンサー類が満載された透明のドームがある。
「これだけ装甲を削れば、あそこを狙える。あのドームの下の部分と胴体部分の境目が機密処理が甘い。装甲を剥がしてしまえば、同時攻撃で動力炉までダメージを与えられる。」
勿論、最初にフレスヴェルクが触手の付け根を弱点と言った時点で、それが装甲破壊の為だとは月光も気付いていた。一手遅れてフレスヴェルクに救援させてしまったが。
「済みませんフィー、私の詰めが甘かったばかりに…」
「いいんだ、それよりそろそろトドメと行こう。」
だが、装甲破砕が完了した以上、もう何も恐れる事は無い。
「では行きましょう、合体戦術です!」
月光の声と共にフレスヴェルクは更に上空まで飛び上がり、左腕で月光の手を掴み右腕でレーザーブレードを起動して構える。
そして、上下1対の巨大な刃と化した二人はそのまま落下を始める。狙いは『アリストテレス』の胴体、ドームの下側の付け根だ。
手を繋ぎ一体となったニ人を撃墜しようとビーム砲と機銃が斉射されるが、弾丸は二人の刀とレーザーブレードで切り落とされ、ビームは二人の息の合った重心移動で紙一重で回避して行く。最早二人を阻むものは無い。
「「合体戦術『不朽の蒼剣』!」」
機体の懐に超高速で潜り込み、空中を落下したことによる速度を乗せて二人同時に振り抜かれた斬撃がその胴体を穿ち抜き引き裂いて、月光の刀から生じた衝撃波がその巨大な胴体部を内部からカチ割り、フレスヴェルクの振るうレーザーブレードが中枢部の回路を焼き切る。
次の瞬間、その巨体が大爆発を起こしながら二つに裂けながら地面に倒れた。
「『AW Type-023:アリストテレス』の撃破確認、あとは逃げた関係者を捕縛したら任務終了だ。」
「ええ、最後まで気は抜きません!既に事後処理の増援部隊も手配してます。」
炎上する『アリストテレス』を見下ろし完全沈黙を確認したのを確認すると、月光は地上に飛び降りると駆け出し、フレスヴェルクはそのまま空中を鷹のように円を描いて警戒する。
程無く消防隊が到着し消火活動を初め、軍からは増援部隊が到着。
空中のフレスヴェルクの監視網から逃げ切れるはずも無く、今回の闇闘技場を管理していた主要メンバーは約2時間後に全員確保された上、観客の一部すらも逮捕もしくは追い詰められ自首し、文字通り組織は完全壊滅した。
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「相変わらず流石だねぇ二人共、流石ウチの部隊最強のバディ『カウンターズ』だねぇ。」
基地の事務室で寛ぎながら、新聞を片手にメガネの位置を直しつつセンパイが呟く。次の日の朝刊には、既に二人の活躍が大体的に載せられていた。
『フレスヴェルク少佐と月光大尉、またまたお手柄!テロ組織壊滅!』と見出しに書かれたそれを見てセンパイは苦笑を浮かべる。随分わかりやすい、お世辞目的の記事だ。そしてそれは、物事の本質を覆い隠す為の欺瞞でもある。
「アレさ、あの集団はテロ組織じゃないただの剣闘賭博を資金にしてたマフィアみたいなもんだよねぇ?団長ちゃん。」
「そう見て間違いないだろう。所有してた『アリストテレス』も闇で流通した設計図や企画書から建造したに過ぎない。敵対組織への鬼札としてな。」
センパイの言葉にそう返したのは、その隣に腕を組みながら立つ一人の女性だ。
褐色の肌を持つ外見は30歳半ば程に見える如何にも厳格そうな表情の女性で、長い黒髪を後ろで一つに結び、身長が高くグラマスな肢体を漆黒のバトルスーツに包んでいる。左右の腰には大口径拳銃を装備し、背中には2本の刀を背負っている。その装備から、彼女もサイボーグだという事が分かる。
「カンザキ、お前の見解は?」
「団長ちゃんが考えてる事と同じだよぉ。これさ、政府ないし国連が何か隠してるでしょ。分かりやすい賛辞で早々に話題を処理したがってる。でさぁ、設計図が流れたのも多分過失じゃないよねぇ。これワザと誰かが流したと思う。もしくは『設計図そのものが逃げた』のかねぇ。」
「『設計図そのものが逃げた』だと?」
彼女に『団長』と呼ばれた女性はセンパイに聞き返す。その言葉の意味が解らなかったからだ。
「設計図もデータで保存してるなら、ねぇ。管理してるのはAIだろうしぃ。」
「データバンクの管理AIが故意に流出させたという事か?」
「それか『形の無い何者か』が奪っていったかねぇ。どっちにしてもお役人様達は秘密にしたいってカンジだねぇ。」
センパイもその言い方から、推測は出来ても確証は持ってないのだろう。
「『形の無い何者か』か。」
「団長ちゃんは何か引っかかることがあるの?」
その言葉を反芻し、思案顔になる団長にセンパイは問いかける。何か心当たりがありそうな反応だった。
「そうだな、これは団の主要メンバーと共有した方が良いだろう。メンバーの予定を確認し、明日には皆を集めてくれ。総司令には私が話を通しておく。」
「りょーかい。」




