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アリスプロジェクト2225:ブルースカイ  作者: 黒衣エネ
第一章:空中都市計画
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マキナ・ミッショナリー:Ⅰ

ヒトから生まれたものが奇跡を語り、ヒトの手で作られたモノが人を語る。


「選別機械と巡回清掃ドロイドのどちらも問題無く動作しています。ただ正式に開通後は人口の急増が予想されますので、それに伴う作業量増加にどこまで対応出来るかはまだ未知数ですね。仮想空間での検証では基準をクリアしていますが。」


「安定するまではあたしも定期点検に来るからさ。一応起こりそうなトラブルの対処方法はマニュアルに同梱してるけど、それでも対応出来ないイレギュラーな問題は直接会社に連絡お願いね。」


タブレット端末を片手に作業員とそんなやり取りをするアカリ。そのタブレット端末すら恐らく自作の一品であり、彼女が使う為に最適化されている。一般的なモノや業務用程度では、彼女の求める機能水準には満たないのだ。



「ん?どうしたのフレスちゃん、何か珍しいものでも見たような顔をしてさ。」


「いや、キミってやっぱ社長で技術者なんだなぁって思ってさ。普段のデタラメな行動でつい忘れがちだけど。」


「ちょっと~あたしは何時だって大真面目なんだって!」


後ろで炭酸水を片手に呆れとも感心とも取れる顔をしながら、その様子を見ていたフレスヴェルクは思わず呟いてしまった。彼女が多少砕けた口調とは言え、こういった真面目な会話をしているのが意外に感じたからだ(当の本人は不服そうだが)。


「それはともかく、リサイクルセンターと清掃システムの案件はこれで終わりかな?」


「うん、空中都市は使えるスペースが限られてるからゴミ処理の問題は重要だからね。ここは時間をかけなきゃいけない箇所だったから、ちょっと予定より遅くなっちゃったかも。」


タブレットの画面に表示される時刻を確認しながら、アカリは軽く溜息をつく。重要箇所の案件を終えたと言え、まだまだ先は長い。




「それじゃ次は…」


そこまで言いかけて、フレスヴェルクはハッとした様子で周囲を見回す。その表情には緊張が浮かび、右手は腰のビーム弾を撃ち出す拳銃『ビームハンドガン』のグリップに触れている。


「気付きましたか、フレスヴェルク少佐。」


「ああ、レーダーに敵対反応のある存在は感知されてないけど、何か嫌な感じがする。」


合流後は今まで一切言葉を話さずに待機していたベガも同様に何かに感付いた様子で、アカリを護るように立ちながらフレスヴェルクに声をかける。


戦闘用サイボーグと護衛型アンドロイドが同時に反応した以上、何かがあるのは間違い無い。



「フレスちゃん、ベガ、一体どうしたの?」


「皆さん、一体どうされたのですか?」


それが分からなかったのは、そういう荒事とは無縁の(戦闘力そのものは高いとは言え)基本的に技術者でしかないアカリと、一般人の作業員達だ。



「来るぞ。」


ベガが呟いたその時、爆発音が響き渡り、続いて警報がけたたましく鳴り始める。程無くあちこちから悲鳴が上がり、警察車両がサイレンを鳴らす。


そして、様々な音に混じって金属が擦れる音も聞こえる。


「まさかね…」


その金属が擦れる音から、一抹の嫌な予感を感じつつも、フレスヴェルクは切り替える。少女であってもフレスヴェルクは軍人である以上、果たすべき任務がある。


「リサイクルセンターの作業員の皆さんは僕の指示に従ってターミナルビルへ避難してください!場合によってはバードピアからの退避もあり得る状況です!」


フレスヴェルクの声を聞いて動揺からパニックになりかけていた従業員達は、迷わずフレスヴェルク達の元に集まって来る。こういう時に有名人であり軍の上位士官の肩書が役に立つ。注目を集めるには都合が良い。


「アカリ、すぐに退避だ。ベガさん、キミの任務外の事だとは思うんだけど…」


「分かっている、私もマスターだけでなくあの従業員達もカバーするように動きます。そうすることをマスターも望むでしょうから。」


ベガはフレスヴェルクの言葉を途中で遮り、協力を約束する。



「待って!まだスピカが…!」


「マスター、今はマスターの身の安全が最優先です。スピカもそれを望むでしょうし、それにスピカの性能ならこの状況にも対応可能です。」


アカリが別行動中のスピカの安否を心配するが、今は彼女が自力で合流出来る事を祈る他は無い。多くの従業員を連れたまま探す事は出来ないし、戦闘能力を持つ人員が限られている状況では、その頭数を割いて捜索するのもリスクが大きい。


「スピカ、どうか無事でいて…」


何か言いたそうだったが、アカリはそれをぐっと飲み込み、一言だけ呟いた。




************************





「そう言えば、何でこれだけ騒ぎになって多分爆発も起こってるっぽいのに対災害用システムや警備アンドロイドが動く様子が無いの?確かその辺りはアンドロイド兵士製造大手の『ケーテック社』が担当してるから間違い無いはずなのに…」


仕方無く、他の従業員と同時にいそいそとターミナルビルへと移動を始めたアカリはふと疑問を述べる。


このバードピアは様々な会社が開発に参入している。中でもアカリ曰く、警備システムの多くを開発整備したのは軍用アンドロイド兵に開発生産強い大手メーカーだ。そんな有名メーカーの作ったシステムが恐らく『正常稼働していない』。



「やっぱり悪い予想は的中か。その答えはあれだよ、アカリ。」


フレスヴェルクの緊張した声。その視線の先には、ぞろぞろと集結し前方を塞ぎながら此方に向かって来るアンドロイドの一団。


ややマッシブな人型で、紺色のボデイに赤いモノアイの頭部が特徴的なアンドロイドで、手には人間で言う機動隊が持つような盾と、人が扱うとすれば太く大きすぎる金属製の警棒を装備している。


数はおよそ40機程度だろうか。



「連続アンドロイド暴走事件、遂にバードピアでも起こってしまったか…」


フレスヴェルクは機械翼を展開し、ビームハンドガンを抜いて構える。


ここ最近問題になっていたアンドロイドが暴走する事故(或いは事件)、それが今バードピアでも起こったのだ。


幸い此方に向かって来る暴走したと思われる警備アンドロイドに射撃武装を持つ個体は居ないようだった。遠距離から多数居る従業員が狙われる可能性は、取り敢えずは無さそうだ。


だがそれでも敵対反応が明らかな警備アンドロイドを見て動揺した従業員達の足が止まる。あの数に対して性能差は有れど、戦えるのは今社長で護衛対象のアカリを除けば、フレスヴェルクとベガの2人だけだ。人数差がある以上、動揺しても仕方が無い。


それに何が起こるか分からない以上、手早く処理して先を急がなければならない。



「まだ距離がある上に射撃武装で反撃してくる個体も居ない、更には周囲に既に民間人は確認出来ず、戦闘に巻き込む可能性は低い。なら、ここは私が処理します。」


「ベガさん?」


飛行し、戦闘に入ろうとしたフレスヴェルクを止め、ベガが先頭に立つ。しゅるりと、ネクタイをほどき、着ていた白いシャツのボタンを外し始める。


「ベガさん?一体何を…」


「私のネクタイとシャツを預かっててください。着用したまま起動するとこれらを破損してしまいますので脱ぎました。この服はマスターから頂いたものですから、破損は避けたいので。」



ベガはそのままシャツを脱ぎブラも外して上半身裸になると、ネクタイと一緒にフレスヴェルクに投げ渡す。


「背部内蔵型拡散粒子ビーム砲『BP-V69』起動。私は元々『殲滅型機動兵器』…成程、機体が人間型になった以上積載量は大きく減少したので、物体弾であるミサイルランチャーを廃してビーム兵装に変更するのは理に適っている。」


感心するベガの背中が変形し、銀色で細い8本の棒状の機械が展開され、まるで翼の骨格を背負っているような風貌になる。棒状の物体の周囲にはバチバチと青白い稲妻が走り、棒本体も青く輝いている。



「殲滅します、発射。」


短く告げた途端、棒状の機械の先端から次々に青白い光弾が雨のように上空に射出され、それらは光の特性を無視して空中で軌道を変えると、迫って来た暴走した警備アンドロイドの集団に降り注ぐ。


単発でも着弾箇所を容易に焼き溶かす程の高出力ビーム弾を雨霰のように受けて警備アンドロイドはバラバラに粉砕されながら爆散する。当然その下の道路も無事では済まず、爆薬を炸裂させたかのように陥没し、一部は溶けて歪な形に冷え固まる。



「冷却装置作動、敵部隊の全滅を確認。」


プシュー、と背中から煙を排出しながらベガは攻撃を止め、レーダーによってまだ行動可能なアンドロイドが存在しない事を事務的に告げる。


「凄い破壊力、と言うかこれ戦術兵器並みの規格なんじゃ…」


「元々私は殲滅兵器です、これでも元々の機体に比べれば攻撃範囲は大きく減じてはいます。まぁ、故にこうした用途に攻撃範囲を絞って運用も可能になったのですが。」


冷却を終えた棒状の機械、ビーム砲の砲塔を再び変形させ背中に収納すると、フレスヴェルクからシャツやネクタイを受け取ると事も無げに言いながらそれを着直す。


それでも人型としては破格の破壊力だ。現にフレスヴェルクだけでなく、威力を目にした作業員達もざわついている。



「それ、本当は緊急事態の為の最後の最後のとっておきの切り札のつもりで搭載したんだけど…だから簡単に使えないように背中に配置して服着てると破っちゃうから脱がないと使えないようにしてたんだけど…」


「なら、今がその緊急事態で間違い無い。マスターの身の安全確保に勝る緊急事態など無いから。では少佐、先を急ぎましょう。長居しては次が来る可能性が高いと予想されます。ターミナルに脱出用の飛行艇はありますね?」


ぼやく自分の主に言いつつ、作業員達を含めた人々に先に進むのを促しながら、ベガはフレスヴェルクに訪ねる。バードピアの非常事態は既に地上に伝わっている可能性が高く、そうなれば通常の航空便は既に全便欠航しているだろう。


「うん、バードピアには避難用の飛空艇が十数機あるし、それに軍部も救助用の航空機を飛ばす筈。」


だがそれで空中の孤島になってしまう要では開通の許可など下りない。当然、いざという時の備えはある上、軍部と連携も行っている。



「了承しました、では私はこのままマスターを護衛しつつ避難します。」


「僕はキミたちを脱出艇に乗せた後は総督に可能なら連絡を試みて、そのまま他の人の救助活動とこの件に関して出来るだけの調査をするよ。最終的には僕は自分の翼で脱出するから。」


周囲を警戒しつつ人々を先導しながらフレスヴェルクが言う。最初はリサイクルセンターの作業員だけだったが、フレスヴェルクやアカリが避難先導をしているのを見て、他から逃げて来た人々が次々に合流してきている為、現在集団の人数は既に300人を超えている。



「待って、あたしは残るよ!ここはあたしが作った物も沢山あるから、あたしにもこの件を調査する必要があるし、何よりスピカが無事かわかるまで自分だけバードピアから脱出したりしないよ!大丈夫、ちゃんと装備も持ってきてるから、何かあっても戦えるよ!」


しかしアカリはバードピアから退避するのは拒否した。技術者としての責任か、友人の安否を気にするからか、或いはその両方からか。いずれにせよ、先程とは違い、今度は引き下がる気配はない。


そして彼女自身が言った通り、警備アンドロイドを含めた保安システムが信用出来ない現状、アカリは数少ない『戦力に勘定出来る存在』でもある。以前掘削マシンを倒した時と同じく、フレスヴェルクとしても協力を求めたいのも事実だ。


「マスター、わたしはマスターを護るのが役目だ。それをスピカにも任されている。」


「それにキミは、一応一般人だし何より僕の友人だ。危険な目に遭わす訳には…」


それでも今回は状況が違う。今はまだ脱出艇がある、軍部も動くだろう。だが状況が変化すればどうなるかは予想出来ない。上空6000mに浮かぶバードピアは交通手段が無くなれば、空の孤島だ。完全飛行能力を持つフレスヴェルク以外は外へ出るのすらままならなくなる。だからこそ、どれだけ強くても軍人でも警察でも無い一般市民の彼女には逃げて欲しかった。



「ベガ、あたしがそうしたいんだ、お願い。」


「…マスターの意志に沿うのが私の役目だ、マスターがそれを強く望むなら私はそれに従うだけ。」


アカリのそのテコでも動きそうも無い意志を目にして、ベガは自分の主に従う事を決める。


「…はぁ、わかったよ。まぁ、キミはそういう性格だったよね。まずは一般作業員の人々をターミナルへ送り届ける、そして総督に連絡だ。無線通信で呼びかけてるけど、現在総務部の応答は無い。あっちも何らかのトラブルが発生してるのだろうから、まずは状況をはっきりさせるよ。」


「うん、機械系のトラブルがあったらあたしに任せて!」


そう言ってアカリは手にしたアタッシュケースを目の前に掲げた。

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