どうしてこうなった
ここで、佐々木結花について少し説明しておこう。
前にも言ったが見た目は黒髪ロングで、幼い顔立ちとはミスマッチな眼鏡がチャームポイント。
真面目な性格で、委員長気質なんだけど(だからこそ我がクラスの委員長をやってるのだろう)、如何せん愛らしい顔立ちのせいで迫力に欠けていて、ふざけている男子に注意してもなかなか言うことを聞いてもらえない。むしろ委員長に注意されたいがためにもっとふざけるという不届き千万の者もいるくらいだ。
そんな女の子が、女装した僕の方をじっと見つめている。
「もしかして、桜井君?」
いきなり核心を突く佐々木さん。
バレた? いや落ち着けまだ慌てる時間じゃない。ここは素知らぬ顔でやり過ごそう。
「えーと、どなた?」
可愛らしさを意識してぽけっとした表情で首をこてんと傾け普段より心持ち高めの声で聞き返す。
「やっぱり!桜井君だあ!」
なぜかバレた。
「どうして分かったの?」
「私ね桜井君が女の子の恰好したらきっと似合うだろうなーって思っててね、いっつも妄想してたんだ!だからすぐに分かったよ!まさか本当に桜井君が女装してるとは思わなかったからすぐには声を掛けられなかったけど」
突然、早口でまくし立てる佐々木さんに呆気にとられる。
「あの、このことはみんなには内緒で...」
「えー!もったいないよ。桜井君の可愛さは全世界の人に知らしめないといけないのに!」
佐々木さんの強引な物言いに、どうしたものかと考えていると、綾音が声をあげた。
「ちょっと、あなたなんなんですか!」
「あら、妹さん?」
「そうですけど」
「はじめまして、佐々木結花と申します。あなたのお兄さんのクラスの委員長をしております」
「これはこれはご丁寧に...じゃなくて!お兄ちゃんの女装は私とお兄ちゃん二人だけの秘密なんですけど!」
「ちょっと待って綾音。こんな往来で大声でそれ言っちゃダメだって」
綾音はハッと我にかえり小声で
「だってこの女が変なこと言うんだもん」
僕たち兄妹のやり取りを見ていた佐々木さんがこんな提案をしてきた。
「じゃあ、こういうのはどうかな?桜井君の秘密を誰にも喋らないかわりに私が用意した女の子用の服を桜井君が着る」
図らずも綾音と同じ条件を出してきたな。おそらく綾音は反対するだろう。自分の用意した服を僕に着せる機会が減るのだから...なんて思っていると
「それ!最高ですね!他の人のコーディネートした服を着るお兄ちゃん見てみたいです!」
さっきまで怒気をはらんだ目で睨みつけていたのに今はきらきら輝く眼差しを佐々木さんに向けていた。綾音が乗り気である以上僕に拒否権はない。
そんなわけで僕は、妹だけでなくクラスメイトにまで秘密がバレ更にはその子の用意した服まで着る羽目になったのだった。