妹の服をこっそり着てみたら妹に見られてしまった!
僕、桜井叶太には二歳年下の綾音という妹がいる。
綾音は今、高校一年生なのだが、身びいきなしに可愛いと思っている。
綾音と僕は同じ高校に通っているが、地味で目立たない僕とは違い、綾音は明るく元気でクラスの人気者だった。
僕らの兄妹仲は最悪というほどではなかったが、取り立てて良いというわけでもなかった。
そんな僕らの関係がすっかり変わってしまったのは、とある事件がきっかけだった。
まあ、その事件に犯人がいるとするなら、それは僕自身なのだが。
去年の夏休みの出来事だ。
綾音が友達の家に泊まっている時、綾音に貸していた英和辞典が必要になったので、少しためらわれたが、僕は綾音の部屋に入り辞典を探した。
辞典はすぐに見つかりそれを持ってすぐに部屋を出ればよかったのだが、この時の僕はそうしなかった。
言い訳がましく聞こえるかもしれないが魔が差した、としか言いようがない。
ハンガーラックに掛かっていた白いワンピースが目に入った。
そのワンピースはオフショルダーで、スカート部分はレースがあしらわれた、フリルスカートになっているものだ。
僕はそれを、どうしようもなく着てみたいと思った。
抗しがたい誘惑に駆られ、僕は着ていた服を脱ぎ捨てると綾音の白いワンピースに袖を通した。
僕は男子にしては小柄だったし、綾音は女子としては背が高い方だったので背格好はよく似ていて、服のサイズはピッタリだった。
近くにあった全身鏡に映る僕は、元々女顔だったこともあり、とても似合っていてすごく可愛かった。
僕は鏡の中の僕に見惚れていた。
まるで、ギリシャ神話のナルシスみたいだなと思った。
泉に映る自身の美しさに見惚れて、そこから動けなくなり次第に痩せ細り、最後には死んでしまった少年ナルシスの話。
その泉にはのちに水仙の花が咲いたことから、西洋では水仙をナルシスの花と呼ぶようになったのだとか。
ナルシシスト(俗に言うナルシストのこと)の語源にもなった逸話だ。
幸い、僕は花にはならなかったが想定外のことが起こってしまった。
もしかしたら水仙の花になってしまった方が幸せだったかもしれない。
「お兄ちゃん、何してるの?」
綾音に白いワンピースを着ているところを見られてしまったのだ。