2−1 転生先は異世界でした
「あら、起きてたのですね。」
ベットの上でモゾモゾしているところを女性が見つけ近づいてくる。
アカリは「あー。」と一応の意思表示をしてみせ、女性を観察する。
(メイド服に赤髪、ここって外国?)
目元にググッと力が入り半目状態になる。
すると、メイド服の女性は
「ガラガラがほしいのですね〜。」
と傍にあるタンスの上からとったガラガラを振ってみせる。
(あれ?言葉は、わかる。)
驚きパッと開いた瞳をみて、女性はフフっと笑う。
「もうすこしで、ミルクのおじかんですからね。」
そう言いながら、ガラガラを振り続ける。
(ガラガラはいいのよ、今のこの状態を説明して〜。)
「あう、あう。」と言いながら両腕を振り動かす。思考していることが言葉にならないもどかしさが、そこにあった。
アカリの不満はともかく、ガラガラか、ミルクという言葉に反応しているように見えるその姿は実に微笑ましく映る。
実際そう見えた女性は
「ごしゅじんさまをよんできますので、すこしまっていてくださいね。」
といって部屋を出る。ただし、部屋を出る前にメイドが起こした行動が、あまりにも異様だった。持っていたガラガラを浮かせ、無人で振り子運動が続く状態にしてから去っていた。
(マジック?……いや、そんなものじゃあない。これはマホウ。)
少なくない衝撃がアカリを襲う。それと同時に理解する。
(ここは地球じゃない。)
そう、ここはいわゆる異世界というものであると。
どの程度時間が経っただろうか、女性が部屋に戻ってきた。気品たっぷりのドレス姿の女性を伴って。
(誰だろうあの人?)
カレンとドレスの女性の視線が合う。すると、ドレスの女性は満面の笑みを浮かべると
「おめざめね、フィリア!ママですよ!」
赤ん坊を抱き抱えて頬擦りをする。
(ママ……この人が私の母親?)
アカリ、いやこの世界ではフィリアはまたひとつ自らが置かれた境遇のひとつを理解する。
烈火のごとく煌めく赤髪を持ち、ドレスを纏う彼女が母親であると。そして彼女はメイドを雇う身分であることを。
(もしかして私、悪役令嬢転生したの?)
フィリアがかつて生きた世界には、多種多様な令嬢モノのメディアに溢れていた。彼女も少なからずそれに触れてきた。立ち位置をそう想像するのは無理もない。
(意地の悪い真紅の髪のキャラが出てきた物語なんてあったっけ?)
こういった転生は、自分の知っている物語の登場人物に転生するのが相場だ。これから起こす問題を知り、自らの悲惨な運命を回避するように動いていく。そんなこれからをフィリアも思い描いた。
(思い出せないなぁ……もしかして、主人公の立ち位置?)
転生ものは、乙女ゲームの主人公であることもしばしばあるので頭を回転させる。
しかし、いくら考えても該当する漫画やゲームを思い出すには至らない。
(主人公ならまだいいけど、悪役なら詰んだ……。)
知らない問題が発生した時に、ヒールムーブを回避できなければ何かしらの断罪を受けることを考えると、少しくらい気分になっていった。
「あ゛〜‼︎」
意識しなくても、不思議と声が漏れる。それが赤ちゃんという生き物である。
自分の泣き声に右往左往する、母親とメイドの姿を見て何が起こるかわからない未来を思い描くより、今の平穏を生きようと心に決めるフィリアであった。