5−1 初めましての世界です
馬との顔合わせから3年が経過した。
フィリアはこれまでにいろんな知見を得ていた。
ひとつ、ここは大陸にある6つの国の一つであるということ。
ひとつ、科学は魔法で置換されているということ。
ひとつ、前世と暮らしの差異は違和感程度のものでしかないということ。
ここまではどうでもいい情報と、嬉しい情報。
ひとつ、陸続きにある北の大陸では覇族という種族との戦争が続いているということ。
ひとつ、貴族は徴兵に応じる義務があるということ。
フィリアはいづれ戦地に赴かなくてはならない。その事実を突きつけられていた。
あまつさえウォーラ家というのは、軍人として名を馳せた家柄であった。
「にーさま、大人げないですわ。」
戦争の事実を知った時、フィリアはひとまず死なないための努力が必要だと感じた。
前では漠然と言葉の意味としては知っていたもの。
曰く悲惨である。曰く涙を流す時間すらない。曰くもう2度と起こしてはならない。
理解できていないそれらを理解する時に勝者でありたいと彼女は切に願っているのだ。
だから今日も剣を振るっている、兄フィーダと共に。
「う〜ん、でも油断はできないからね。フィリアって時々訳のわからない攻撃をしてくるから。」
笑いながら手をグッと引き寄せ幼女を立たせる。
言葉では警戒をしているといっているが、余裕を滲ませている顔にリルフィーは少しムッとする。
「だとしてももう少し手をぬいてもいいでしょう。お兄さまは3つもとしうえですのよ?」
口をツンと尖らせてみせる。
前世の記憶があるにしてはいささか子供じみた仕草であるが、フィリアは現在の年齢に則した言動で過ごすと決めていた。
昔から冷静沈着といった性格というよりは、まず行動に移る性質だったので大きな問題も起こらずにここまできている。
「手抜きで負けるとそれはそれで怒るじゃないか。」
服に付いた土を払いつつ戯ける。
フィリアが剣の稽古に突撃してきた際に怪我をさせたら大変だと、フィーダは最大限の手加減のうえ負けて見せた。
木剣とはいえ3歳児が扱うのは無理がある。
それゆえ、ある程度満足させやんわりと遠ざる予定での行動なのだったが、これでは糧にならないと地団駄を踏んで講義をしてきたのだ。
フィーダも剣を握ったのは5歳でフィリアもそれでいいのではと、彼女のわがままに彼も周囲の大人も説得へまわった。
しかしながら、来るべき戦争に対する熱意はフィリアの決意を強固にしていた。
あまりの圧に、素振りだけならと許可を出してしまった。
当然、素振りだけでは満足しなかった。打ち合いを求めてきたのでそれに応じることとなった。
はじめのうちは受け流して、頭に木剣を置いて終わり。そんな稽古を続けてきた。
ある日彼女以外の想定を超える事態が起きた。
フィリアは闘いの中に魔法を混ぜ込んできたのだった。
フィリアにもフィーダにも相手を怪我させるようなつもりはなかったものの、不意の魔法に慌てたフィーダが強く振った木剣がフィリアの足を払い大きくないものの怪我を作ることとなる。
こういったことに怪我は切り離せないことは皆重々承知していた。
しかし、これは少しばかり考えの範疇を外れていたため、リルフィーを中心に大人たちは策を考えなくてはならなくなった。
まず第一にフィリアを遠くに置くことが考えられたが、リルフィーが却下した。
戦地に行くことの重さを理解している彼女は、娘が戦うことに意識を向けている今を否定したくなかった。
次に魔法を使わないことを厳守させることがあがった。相手は3歳であるという現実がこれは無理だと思わせる。
大人が相手をするという考えもあったが、背丈が違いすぎて得るものが少ないと白紙になる。
色々と案が出ては消え、最後に残ったものは
想定内の怪我であれば問題ないのだから、魔法の発動を与えないことで剣技に集中させる。というものだった。
「だとしてももう少しやさしくていいです。」
なんとも筋肉質なフィリア魔法対策の決定を知らないのは、フィリアだけだった。