050話 Dランク冒険者
◇◆◇◇◇◇
冒険者登録をする為に冒険者ギルドにラルクを案内して受付へと連れて行く。
普通なら個人カードを提示して、特殊技能などを調べて再登録後カードを返却してもらい終了する。
ここまでの一連の流れが約5分といった所な訳だが、特別な個人カードを持った彼は当然のようにひと悶着起きた。
1.まずは受付嬢が大声を上げ、これ見よがしに両手で口を塞ぐ。
2.可愛いくて人気の受付嬢だった為か、周囲にいた男の冒険者が何事かと駆けつけラルクを囲む。
3.騒ぎを聞き付けた職員が受付嬢から事情を聞き、騒ぎを治めようとする。
4.しかし、ひょんな事から職員と冒険者が言い合いになり乱闘騒ぎとなる。
結局、顔の効く私が仲裁し治まった訳だけど、事情が事情なだけにラルクは別室へと通されて行った。
あの特別なカードの内容は私も気になる所だが、まだ名前で呼び合う程度の仲では教えてはくれないだろうなと、少しだけ寂しさが込み上げる。
「おいおい、何の騒ぎかと思ったらお前のツレかよ?」
そう気安く声を掛けてきたのは、友人のスティーブだった。
もともと癖っ毛だけれど、今日は寝癖も相まって至る所がカールするように跳ねていた。
「姉さんお久しぶりっス!」
スティーブの巨漢の脇からひょこっと顔を出したのは、彼の弟分にあたるデビットだった。
デビットは戦闘面においてはスティーブより劣るが、能力の高い斥候で、ダンジョン探索に国家的な諜報活動、それから家猫探しまで何でもこなす凄腕冒険者だ。
その為、弟分を自称しているが冒険者ランクは”B+”とスティーブよりも若干高い。
「久しぶりだねデビット。元気そうで何よりだ」
「……で、この騒ぎの原因は何なんだ?もしかして、また教団がらみか? さっきも広場で騒ぎを起こしていたと冒険者仲間が話していたが」
流石に冒険者達の連絡網は耳聡い。
案外、特別個人カードの事も情報として流れているかも知れないな。
「ああ、うん。友人の冒険者登録をする為に来たんだ。さっきの騒ぎはちょっとした誤解を受けたみたいでね、特に問題無いよ」
「その割にはさっきの黒髪の少年、奥の部屋に連れていかれましたっスね?何かあるんスか?」
やはりデビットは鋭い、よく観察している。
案外、特別個人カードの持ち主が珍しい”黒髪の人間種”というキーワードだけで、ラルクが該当の人物だと察しているかも知れない。
……
私は少し考えて、2人を冒険者ギルドの隅へと追いやった。
そして彼が特別個人カードの持ち主で自分の大切な友人だと話し、どのような噂が広まっているか聞いてみた。
教団の手回しなのかどうかは分からないが、要人が街を訪れた程度の噂で留まっており、特にラルクを特定するような話は上がって無かった。
「デビット、依頼をしたいんだが受けては貰えないかい?」
「いいっスよ、今手が空いてるんで! 教団の事を調べるんで?」
私はラルクに対して妙な噂が立たないように情報操作を依頼した。
例えば要人の特徴は髪の色が濃い茶髪で中年男性……というように吹聴して欲しいと話した。
それと、この街に滞在している間に要人に関する情報を集めている人物や探している人物がいたら、報告して欲しいと頼み、白金貨1枚をデビットに渡した。
「ちょっ、ちょっと姉さん。これは払い過ぎっスよ!」
デビットは目をむいて驚き、小声で喋りながらとっさに両手で白金貨を隠した。
しかし好奇心を押さえられず、そっと手を開き白金貨が本物かどうか吟味している素振りを見せた。
滅多に見れない貴重な硬貨だから気持ちは分かる。
この辺りの露店や屋台ではお釣りすら返せなくて使う場所すら限られるはずだが、彼の交友関係や人脈なら換金の心配はないだろう。
「デビット、それくらいの価値がある仕事って事だ……察しろ。俺は聞かなかった事にしておくぜ」
「ありがとう、スティーブ」
その後、デビットは「この不肖デビット、報酬以上の価値のある仕事をして見せまっス!」と自分を鼓舞するように自身の胸を叩いた。
用件を伝えた私が立ち去ろうとした時、不意にスティーブが私を引き留めた。
「その、なんだ。あの黒髪の男は友人と言っていたが、その……どういう関係なんだ?」
どうも歯切れの悪い態度のスティーブを見て、少し悪戯心が湧いてきた。
スティーブが私に好意を寄せている事はかなり前から気付いている。
しかし残念な事に、如何せん私の好みからは外れている。
何と言うか彼は大柄な割に超奥手で、自分の想いを相手に気付かせた上で相手から告白をされるのを待っているような受動的なタイプだ。
”石橋を叩いて渡る慎重派”と言えば聞こえが良いが、色恋において女性の評価としては大幅なマイナスポイントと言える。
友人としては良いが私自身が考える恋愛対象としては、対象外だと言わざるを得ない。
この際、それを自覚させる方が良いかも知れないな。
そう考えた私は少し考えるような素振りをした後、微妙に照れた演技を見せて、こう答えた。
「そうだね、彼は私を迎えに来た白馬の王子様……って感じかな。じゃ、またね」
そう言って後ろを向いてヒラヒラと手を振った。
後方から「ア、アニキ大丈夫ッスか!? アニキィーー!」とデビットの叫び声が聞こえたが、私が振り向く事はなかった。
ダシに使ったラルクには申し訳無いが、スティーブにとってはこれで良いんだ。
神の加護という”呪い”を受けた者の人生に合わせる事は無い。
友人として普通の家庭を築き、幸せな人生を送ってほしいと心から願う。
受付の方へ戻ると丁度別室に通されたラルクが戻って来て、私を探しているかのようにキョロキョロと周囲を見渡していた。
どうやら個人カードの更新ができたようだ。
是非とも見せて貰いたい。
私はほんの少しの罪悪感と抑えられない好奇心を隠し、同じ呪いを持つ友人に向かって手を振った。
◆◇◇◇◇◇
僕は出来上がったカードをまじまじと眺め、少し嬉しさを感じていた。
まっさらだった個人カードの裏面に新しく項目が増え、そこに自分の持つ能力が刻まれた。
■表面
ラルク ♂ 出身国:タクティカ国
加護:*****
特殊才能:**** **** **** ****
タクティカ国教皇:ユーディ
タクティカ国軍務大臣:グレイス・フェオ・ウスキアス
タクティカ国公爵:レヴィン・セグ・ゴーヴァン
商人:セロ
■裏面
冒険者ランク:D
職業:錬金術師
特性:ハイアタッカー
特殊技能
魔力総量成長率+ ルーンエンジニア
基礎体術 基礎剣技 騎士剣技 魔法
職業の選択肢は錬金術師と商人の2種類があったので、錬金術師を選んだ。
理由は単純だけど商人は職業としては一般的でかなり人口が多く、どの国にも数百名は存在する。
逆に錬金術師は職業人口が少なく、特別感がありカッコイイと感じたからだ。
不可解な事が1つあった。
特殊技能の欄にあった”魔力総量成長率+”というのは冒険者ギルドの職員達も見た事が無いと言っていた。
……これは多分、破壊神の加護が影響して付いたものなのだろう。
応接室を出るとクーヤの姿が見えなかったので周囲を見渡す。
酒場には……いないな、掲示板の方だろうか?
「あるじ、右側の方で手を振ってるぜ!」
レオニスの言った方へ顔を向けると、大勢の冒険者の中で手を振っている人物を見つけた。
ああ良かった、はぐれたかと思った。
彼女が冒険者ギルドはもうすぐ混む時間になると言うので、僕達は近くのカフェへと移動した。
彼女が興味深々といった表情で僕の更新された個人カードを見てみたいと目を輝かせていたので手渡し、僕もクーヤの個人カードを見たいと話すと、彼女は喜んで見せてくれた。
彼女の個人カードは一般的な物で、青白いカードをベースに黒文字で書かれていた。
■表面
クーヤ・イジ・ユーイン ♀ 出身国:ハイメス国
加護:爆雷の女神の加護
特殊才能:電撃無効 癒しの息吹 鬼神の腕力
■裏面
冒険者ランク:S+
職業:最高位聖騎士
特性:アルティメットアタッカー
特殊技能
基礎体術 修道士体術 基礎剣技 騎士剣技
鈍器戦技 上位魔法
聞いた通り”爆雷の女神”の加護が付いている。
”電撃無効”って事はネイの得意な上位魔法や、シャニカさんの複合攻撃も無効化できるって事なのだろうか?
そして”鬼神の腕力”って名前だけでも強さが伝わってくる。
”癒しの息吹”は治癒力向上って以前言ってたな。
どれをとっても一級品に見える。
これが自分の個人カードなら自慢したくなるくらいだ。
そして何より目を引くのは唯一金色の文字が刻まれている冒険者ランクの部分だ。
「S+」とは冒険者ランクで数えると上から2番目の位置となる。
昔レヴィンが話していたが大国でも1人か2人程度しか存在しないとの事だ。
そういえばタクティカ国のグレイス軍務大臣もS+級冒険者だったな。
マウリッツさんの話では、この「S」の文字もアルファベットの名残りだと言っていたな。
確かにルーン文字の太陽を象徴する「シゲル」の文字と瓜二つだ。
珍しい物を目にしたという新鮮な感動を覚え、何故か得したような気分になった。
よくよくクーヤを見ると、僕の個人カードを見て「凄いな! いいなぁ!」といろんな角度から眺めていた。
お互いに相手の個人カードを見て感動している姿に気付き、その可笑しな光景に2人で笑いあった。
「この”魔力総量成長率+”っていうのは初めて見たよ。珍しい特殊技能だね」
「職員の人も同じ事を言ってました、初めて見たって……」
僕の魔力総量が多い原因がこの特殊技能を持っているからだろうか。
保有許容量が多いだけで1度に引き出せる魔力が微々たるものなので、上位魔法は使えないという非常に残念な身体だ。
……とは言え、これで正式に冒険者登録できた訳で、今日から僕はDランクのれっきとした冒険者なんだ。
僕はまた1歩足を前に進めれたような気持になり、嬉しさが込み上げていた。
「そうそう、魔法学園に行くんだったね。案内するよ、ここから1時間もかからないから」
「そういえば魔法学園にクーヤのお母さんが務めてるんだよね?」
クーヤの母親は火、水、風、土の4属性を使いこなす高位魔術師で、魔法学園では実技講師として働いているらしい。
確か名前は、”アーネン・イジ・ユーイン”だったと思う。
マウリッツさんは婿養子としてユーイン家に入り、奥さんのアーネンさんが直系と話していた。
伝説の使者の血筋という事はクーヤと同じく潜在能力がズバ抜けて高いのだろう。
僕はクーヤの案内で魔法学園へと到着した。
自分が卒業した学校とは違い、まるで小さな村程度はある広さの敷地に3階建ての巨大校舎が聳え立っていた。
闘技場や修練場付きの広い校庭に、生徒1000名以上在籍し暮らす生徒用の寮が見えた。
「はぇ~! この国はどの建物もでけぇな!」
足元のレオニスが3階建ての校舎を見上げ感心していた。
このいかにも学校って感じの雰囲気がとても懐かしさを感じさせる。
実際、母校とは敷地面積も建物の大きさも規模が違い過ぎるので別物なんだけどね。
魔法都市と呼ばれる国でも最大級の専門学校は、その名に違わぬ荘厳さを誇っていた。
入口の守衛にマウリッツさんの書状を見せ、入校の許可を得て校内へ足を踏み入れた。
長い廊下を歩き職員室へ行くと数名の教員が書類仕事をしており、クーヤの姿を見て驚いていた。
クーヤはハイメス国内で冒険者としても有名らしいが、この魔法学園に11歳で特別入学した後、年上の同級生を押さえ主席で卒業した最優秀生徒として名前が轟いているらしい。
……まさに才能の塊で、別格という感じなんだなと感心する。
「いやぁ、懐かしいな。入学した時はこんなに小さかったのに今じゃ立派な冒険者か。ワシも歳を取る訳だ、わっはっは!」
初老の教師がクーヤを見上げ昔話に花を咲かせる。
教師は僕に対して彼女は入学当初、自分よりも背が低かったんだと言いクーヤは照れながら苦笑いをしていた。
元生徒と教師が再会し、昔を懐かしむというのはなんだか心温まる光景だ。
今は授業中らしく、アーネンさんは実技授業で校庭にいると初老の教師が調べてくれた。
そして僕達に見学証明書を発行してくれたので、それを首から下げて校庭へと向かった。
廊下を歩きながらクーヤが施設の説明を自分の思い出話を交えながら教えてくれた。
彼女の表情は誇らし気で、この学校が本当に好きだったんだなと真直ぐ伝わってきた。
今にして思えば、僕は初等部と中等部はなんとなくダラダラと過ごしてしまったなと感じる。
少なくとも彼女のように充実した学生生活だったと誇れる事はないだろう。
……そう考えると少し後悔の念が湧いてきた。
広い校庭に出ると50名程度の生徒が集っており、そのうちの8名が横一列に並び人型を模した的に魔法を放っていた。
同い年くらいだろうか?皆お揃いの制服姿で真面目に授業を受けている様子。
その中に綺麗な緑色の長髪に目立つ長杖を携え、生徒に指導をしている人物がいた。
その姿は眼鏡を掛けたクーヤそのもので、半妖精種の長寿という特徴を色濃く表していた。
「……見た目で分かると思うが、あれが母上だ」
微妙に照れた表情のクーヤが自分そっくりの母親を紹介する。
「……そっくりだな」と僕の頭上で寝ていたスピカが目を覚まし、ボソッと呟いた。
もう少し近くで見学しようという事になり、邪魔にならないように敷地を仕切る柵沿いに近付いて行った。
「おい、あれ見ろよ!」「えっ!? 先生が2人?」
「あの黒猫を頭にのせたヤツは誰だ?」「あっ!足元にも黒猫がいる!」
「何あれ? 使い魔かな、可愛い!」
……と、僕達の姿を見つけた生徒達が騒めき始めた。
予想できた反応ではあるが、間接的に授業の邪魔をしてしまったようだ。
「はいはい、どうしたの? 今は授業中よ、集中しなさい!! ……あら?」
火事場に集まった野次馬のように騒ぎ出した生徒を注意するアーネンさんが僕達の存在に気付いたようだ。
眼鏡をはずし、こちらに向かってツカツカと小走りに近付いて来る。
授業中だという事を忘れ、娘との久々の再会に我慢ができなかったのだろうか?
「母上、お久し……」
彼女が声を掛けた瞬間、アーネンさんは気付かなかったかのようにクーヤを無視してそのまま通り過ぎ、突然僕の両肩を掴み、そのままグイっと体を引き寄せられた。
皺ひとつ無いクーヤそっくりの顔が間近に迫った。
勢いに任せて唇を奪われるんじゃないかと思い、思わず仰け反ってしまった。
「君、凄いわね!! 何組みの子かしら!? いえ、見た事の無い顔ね。もしかして転校生かしら? 名前は? 個人カード持ってる? 貴方、本当に凄いわ! 1000年に1人の逸材よ!!」
矢継ぎ早に質問をされ何から答えて良いのか分からず、状況が飲み込めないまま動揺する。
視線を感じて周囲を見ると、授業中の生徒達が唖然とした表情を浮かべ僕達を観察していた。
「ははうえっ!!」
クーヤが怒った表情を浮かべ、僕とアーネンさんを”鬼神の腕力”で無理矢理引きはがした。
「あら? クーちゃんじゃない。久しぶりね、元気だった?」
アーネンさんは何事も無かったかのように、久々の再会を果たした親子の挨拶を交わす。
クーヤは僕の肩を掴み、倒れないように支える。
それを見てアーネンさんは目を細め、口角を上げて微笑んだ。
「もしかして、クーちゃんの彼氏さんかしら?」
この何かを企んだような表情で人を揶揄う口調はクーヤそっくりだ。
……間違いない、この2人は親子だ。
僕はユーイン家に流れる伝説の使者の血脈を強く意識した瞬間だった。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも面白いと思ったなら「ブクマ」「いいね」「☆での評価」お願いします。
前日譚
なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ
https://ncode.syosetu.com/n6335hw/




