035話 破壊神が現れた!
◆◇◇◇◇◇
僕は魔法で造られた黒い蛇のような物体で捕縛され、村を避けるように迂回しながら樹海の中を歩く。
灼熱のような髪色の女性が手綱のように黒蛇を持ち、僕の肩を抱くように歩く。
普通にしていれば美しい女性だと思うけど、ルーティアさんを倒した強さが脳裏に刻み込まれたせいか、体を密着されてもまったく嬉しいと思えない。
「……」
「なぁ少年。名前を教えてくれないか? なぁなぁ?」
何なんだこの人……。
逃げれないと覚悟して着いて来ると分かった途端やたらと馴れ馴れしく体を密着し、くねくねとしな垂れ掛かってきた。
後方を歩く黒衣の男が時より「……チッ」と舌打ちをし、こちらを睨むのが見える。
僕はこの視線に覚えがある。
ビクトリアと一緒にいる時に感じる嫉妬の視線と同一のモノだ。
どうにもならない居心地の悪さを感じながら樹海の中を進んで行く。
1時間くらい歩いた所で正面から2人の人影が視界に入る。
あれは、妖精種?
片方は昼間に因縁を付けてきて剣を奪った少年だ。
……何故こんな所に?
「待たせたな、ストラス。首尾はどうだ? オルトロスは討伐されたが、この通り作戦は成功だ」
正面の黒衣の妖精種はストラスという名前らしい。
「問題無い、陽動は成功して自警団は樹海西側の大規模火災の消化を行っている。ベ・リア様もお疲れ様でした」
僕の肩を抱いている女性はベ・リアという名前らしい。
連中の話ぶりから僕を捕縛した男とストラスは同僚で、女性は敬称に「様」を付けて呼ばれている事からこの中で1番位が高いと理解する。
……じゃ、あの少年も仲間なのか?
昼間出会った少年は虚ろな目付きで空を見つめている。
何か様子がおかしい、幻術にでもかけられているような焦点の合わない表情を浮かべている。
「そいつは? ……ああ、弟子とか言ってたヤツか?」
「ああ。その通りだ」
ストラスと呼ばれていた男が少年の額に手をやると少年が一瞬ビクッと体を震わせ、まるで今正気に戻った様な感じでキョロキョロと周囲を見渡す。
そして捕縛されている僕と目が合い、小動物が驚いた時に見せるような戸惑った表情を浮かべる。
「あ、あれ……? そいつは昼間の?」
ストラスは少年の肩を軽く叩き、満足そうな笑みを浮かべる。
「御苦労だったな、目標を捕縛出来たからもう行っていいぞ。ああ、あとその剣はディガリオ作の物では無い、俺の勘違いだったようだ。わっはっは!その剣は作戦に協力してくれた礼にやるよ」
彼の手には昼間僕が渡した剣が抱えられていた。
仲間と言うより協力者って感じなのだろうか、それにしては状況が飲み込めないような表情をしている。
「え? 俺は……確か師匠の剣を取り戻す為に……え? 師匠の剣じゃない? 捕縛?」
やっぱり、目の前の少年は操られていたって感じなのか。
ビキビキ……
その時、ストラスの腕が猛禽類のような鋭い鍵爪の付いたモノに変化し少年の眼前に突き出される。
「もう、お前は用済みだ。……死にたく無かったら去れ!」
このストラスという男は妖精種じゃない。
魔族が妖精種に擬態しているのか……?
ストラスが脅すと少年は「ひぃぃ!」と叫んで村の方角へと逃げ出して行った。
昼間に僕と社長に対して凄んでいた態度が嘘のように怯えて、その場から消えた。
ああ、そうかあれは操られて行った事だったのか。
そう思った瞬間、少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。
極悪人に騙されて剣を奪われた訳じゃ無いって分かったからだろうか?
それとも、名前も知らない少年が無事に逃げれた事に対しての安堵だろうか。
合流を果たした3人は、改めて僕を連れ樹海を歩いて行く。
一体どこまで行くんだろうか……。
更に30分が経過し、樹海の出口が見え始めた時の事だった。
「追い付いたぜぇぇぇぇぇ!!!」
後方から甲高い女性の声が聞こえてきたと思った瞬間、金色の閃光が頬を掠め通り過ぎる。
一瞬何が起きたか理解が追い付かなかった。
僕に擦り付いていた女性が何者かに弾き飛ばされ、その衝撃で僕も地面に倒れ込む。
前方と後方を警備していた男達も何が起きたか分からずに驚いた様子だった。
そして、僕の真横には見た事の無い少女が立っていた。
その姿は2年前に生き別れとなった妹と同世代じゃないかと思う程に小柄で、下着姿と見間違えるような服装から色白の肌を晒していた。
彼女は全身に小さな粒子を纏い、薄暗い樹海の中で一際輝いている。
小柄な少女は僕と同じ黒色の髪を靡かせ怒りの表情でベ・リアを睨んでいた。
その瞳はベ・リアと呼ばれた女性と同じ黄金色をしていた。
「てめぇ……俺を蹴りやがったな? 今日は仮装して無いようだしな、本気でやろうって事か?」
吹き飛ばされて膝をついていたベ・リアは起き上がり、目の前の少女に喋りかける。
少女は心底”下らない”といった表情を浮かべ蔑むように口を開く。
「……俺様は、お前なんかに興味はねぇんだよ!」
ベ・リアは縛られて垂れ込む僕の方に顔を向け、ニヤリと笑みを浮かべた。
体の芯から背筋を通り、凍るような冷たさが全身を駆け巡った。
「そうか、お前の任務って……ハハッ! そう言う事か……」
何かを理解したベ・リアはゆらりと体を揺らし立ち上がった。
「バラム! ストラス!」
ベ・リアが名前を叫ぶと怯んでいた男達がハッとして武器を構える。
僕を捕縛したバラムという男は腰から抜いた双小剣を逆手に持ち、腹部と背部に構えた。
ストラスは両手の爪を長く伸ばし、獣が駆け出す前のような腰を低くした前進姿勢をとった。
目の前の少女が僕に手をかざし、何かを呟くと僕を拘束していた黒い蛇は溶けるように消滅した。
自由になった体を動かし、少女にお礼を言おうとした瞬間に彼女が叫んだ。
「走れ! ラルク!!」
謎の少女の叫び声が樹海中に響き、周囲に生息していた雪鳥が一斉に飛び立つ。
「あっ……」”ありがとう”と言いかけた僕は口を紡ぎ力の限り来た方向へと走り出した。
誰だか分からないけれど、少女は僕の名前を知っているようだった。
それに、彼女の雰囲気はベ・リアという女性の強さに匹敵するような気がした。
「逃がすか!!」
僕の正面には後方に控えていたバラムが双小剣を構え、道を塞ぐ。
僕が足を止めようとした時、地面を白い何かが蛇のようにうねりながら這い回りバラムの両脚に纏わり付いた。
それに気付いたバラムがその場を移動しようとした瞬間、両脚から巨大な氷柱がせり上がり彼の動きを完全に止めた。
「なっ!?」
半身の凍ったバラムは驚きの表情を浮かべていた。
凄い魔法だ、バラムが回避行動を取らなければ全身が凍っていたに違いない。
僕はその横を迂回するように走り抜けた。
しかし、上空を何か巨大なモノが飛び越えたような気がした。
そして、その生物は僕の目の前に降り立った。
かろうじて原型を留め、獣のような姿に変容したストラスだった。
「うわっ!?」
僕が驚いて叫ぶと同時に、右足を払われたような感覚を受けた。
グチャリという鈍い音が聞こえた瞬間、僕はバランスを崩しその場に倒れ込んだ。
少し遅れて右足に激痛が走る。
あまりの痛みに歯を食いしばり自分の足を押さえる。
僕は動かす事のできない足と、その異常な痛みを確認する為に姿勢をずらした。
そして僕は現実離れした光景を目撃して驚愕する。
右足が……無い。
膝の下から下の部分がごっそりとなくなり、砕けた骨と肉が剥き出しとなり周囲の雪を赤く染め上げていた。
現実を認識した瞬間に、恐怖と激痛が脳内を支配し始める。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
今までに出した事が無いような悲痛な叫びを絞り出す。
本能からでる叫び声だ。
後方で金色の光と赤い光がぶつかり合うのが、霞む視界の中にぼんやりと見えた。
……正直、全てがもうどうでも良い。
今はただこの痛みが消えて欲しいと心から”神”に願った。
そして僕の脳は全てのストレスから体を守るかのように意識を刈り取った。
◇◇◇◆◇◇
強烈な打撃を腕に受けて体ごと真横に吹き飛ばされた。
俺はゆっくりと起き上がりボンヤリしている頭を押さえる。
脳震盪か、視界がぼやける。
俺はハッとする。
まずい!あの少年は!?
そこで俺の目に飛び込んで来たのは睨み合う魔人同士だった。
少し離れた場所に俺達の上司のベ・リア様と、少年のすぐ近くに黒い髪を揺らした魔人アル・ゼが立っていた。
アビス国に居た頃に見た事のある……7大魔人の一柱。
極大攻撃魔法を自在に操り、命も能力も全てを喰らい尽くす最強の魔人。
2年前にタロス国でベ・リア様が戦ったと話していたが……。
俺は2年前に対峙したと言っていたベ・リア様が話していた内容を思い出した。
黒猫の姿をしたアル・ゼにやられたと話していたが、少年の周りにウロウロしていたあの黒猫こそが、かの魔人アル・ゼだったのか。
……黒猫に擬態して密かにあの少年の護衛をしていたって訳か。
「バラム! ストラス!!」
考え事をしている時にベ・リア様の声が聞こえた。
俺は未だはっきりしない頭を振り、背中の携えた双小剣を引き抜き構えた。
そして周囲の状況を再確認した。
正面には魔人アル・ゼと少年、その先にはベ・リア様。
ベ・リア様の後方の少し離れた場所にストラス。
「走れ! ラルク!!」
俺の作った拘束をいとも簡単に解き少年を開放した瞬間、魔人アル・ゼは叫んだ。
クソッ!俺程度の魔法じゃ力不足って事か。
少年は何かに取り憑かれたかのようにこちらに向かって走り出した。
コイツ!何故迷い無く走れるんだ!?単純に俺が舐められているのか!?
ベ・リア様が少年に対して色目を使っている姿を思い出し、無性に腹が立ってきた。
あんな風に他人にベタベタと絡みつくベ・リア様の姿は初めて見た。
あんなガキが好みなのか?と思ったが、恐らく何らかの特殊才能を持っていやがるんだろう。
まぁ今は丸腰のただのガキだ、俺が再度拘束してやるぜ!
そう思った矢先に少年の足元から素早く動く物体が蛇のようにうねりながら地面を這い、俺の足元に纏わり付いた。
「なっ!?」
なんだこれは!?っと言おうとした瞬間に、その蛇が巨大な氷柱へと姿を変えて俺の足元を地面に固定した。
氷を司る上位魔法か!?
クソッ!動けん!!
もがくように体を捩るが、両足がまるごと凍り微動だにできない。
これは氷に間違いないはずだが、まるで鉱物のような強度だ。
焦る俺をしり目に真横を走り抜ける少年、おい!待ちやがれ!!
一瞬、ブワっと風が舞う。
巨大な影が俺の上を通り過ぎた。
ストラスだ。
少年の事は相棒に任せて、俺はこの氷を解かすことに専念した。
そして、俺の聡明な頭脳は瞬時に名案を閃いた。
腰のベルトを外し、ズボンを犠牲にする事で氷柱から抜け出す事に成功した。
ふぅ、足の表面部分だけが凍ってて助かったぜ、全身が包まれていたらアウトだった。
しかしなんとも恥ずかしい恰好になったが、黒衣で隠していれば見えないだろう。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
その時、少年の叫び声が聞こえた。
俺はストラスの飛んだ方向へと駆けつけると、右足を失った少年が大量の血を流し気絶していた。
「うげぇ……足がちぎれてるぞ。お前がやったのか?」
俺がストラスに問い掛けると、彼は首を横に振る。
何が原因か分からず、周囲を確認すると目の前の木に掌程度の血濡れた石がめり込んでいた。
魔人アル・ゼと戦いながら、ベ・リア様が少年を逃がさない為にコイツを投げてブチ当てたのか……
……おっかねぇ腕力だ。
しかし、考えが無さすぎる。
コイツが死んだら任務失敗だっていうのに……。
その事を忘れるくらいに魔人アル・ゼが強くて、考える余裕が無かったんだろう。
くそっ!・・まずいな。
「それよりも止血だ! 死んじまうぞ!バラムお前、回復促進の魔法使えたっけ!?」
「使える訳無いだろ!?」
あたふたと同様する俺達は、もう一つ重要な事を思い出した。
ベ・リア様が魔人アル・ゼと現在進行形で戦っているんだった!
「おい、こいつを人質に使うぞ!! 取り敢えず傷口をしばっておけ!!」
俺は再度少年を拘束してストラスが自身の黒衣を破き、右脚の付け根をきつく縛りつけて簡易的な止血を行う。
しかし、出血量が激しい。
……このままでは時間の問題だ。
コイツを人質にして魔人アル・ゼを無力化してベ・リア様に回復魔法をかけて貰うしかない。
俺は拘束した少年を肩に担ぎ、ベ・リア様の元へと向かった。
「おい! 息が上がってるな! 本来の姿なら俺様と貴様は天と地の差が有るって事が理解出来たか!!」
「ハァハァ……うるせぇ! グダグダ言ってないでかかって来いよ!!」
俺達がベ・リア様の元に戻ると、未だ拳と魔法の激突が続いていた。
ベ・リア様の息が上がっている、確実に劣勢だ。
しかし、とてもじゃないが合間に入って攻撃加勢出来る状況じゃない。
コイツを使えば……いけるはずだ!
俺はイチかバチか人質作戦を決行した。
もし、俺の予測が正しければ魔人アル・ゼは手出しができなくなるはずだ。
「止まれ! 魔人アル・ゼ……様。コイツがどうなっても良いのか!?」
思わず敬称を付けてしまった情けない自分が少し恥ずかしい。
俺が拘束した少年をを抱え、ストラスが3本の鋭い鍵爪を少年の喉元に突き立てる。
それを見た瞬間、魔人アル・ゼの動きが止まる。
「……ラルク!!」
隙を突く形でベ・リア様の拳が頬にクリーンヒットした。
思った通りだ、ヤツはコイツを盾にされると動く事ができない!!
「……くそっ!!」
魔人アル・ゼは受け身を取り、態勢を立て直す。
――――フッ
その瞬間、周囲の雰囲気が変化する。
どう表現するべきか分からないが周囲の空間が白と黒のみで表現されたような感覚を覚える。
視覚を含めた五感の80パーセントを支配されたような不気味な気分だ。
「な、なんだぁ!?」
ベ・リア様もそれに気付き周囲の気配を探る。
俺は気が付いてしまった。
揺れ動いていた木々の葉が動きを止め、風や空気の流れすらも停止している。
まるで世界の時間が完全に凍り付いているような……明らかに異常な事態だ。
『”どうなっても良いのか”と言う問いに僕は”駄目です”とお答えしましょう』
!?
脳内に女性のような声が響く。
……この声には聞き覚えがある。
姿こそ見た事は無いが、約12年前にこの世界全ての国に対して宣戦布告をしたアビス国の最高責任者にして唯一神その者……。
――破壊神レイス様の声だ。
声はここにいる全員に聞こえているようで、皆一様にキョロキョロと周囲を確認している。
魔人アル・ゼだけは俯くように立ち尽くしていた。
そして、あの”強さそのもの”を体現した存在のベ・リア様の表情には恐怖の色が浮かんでいた。
魔族の頂点に位置する2人の魔人が畏怖する存在が、すぐ近くにいる……。
そう考えただけで身震いする。
――ハッ
目の前に見慣れない衣装の少女が居た。
短めの髪型で一見美少年にも見える。
ささやかな胸の膨らみがあり、上下紺色のスカートタイプの衣装を着用している事から性別は女性だと認識した。
いや、そもそも「神」と言うくらいだから性別なんて無いのかも知れないが……
頭が混乱して様々な事を考えてしまう。
つい1秒前に彼女は"存在"していなかった。
しかし、たった今そこに"存在”している。
『そのラルクを放して頂けますか?』
脳内に直接響く声に全身を恐怖が包み込む。
俺はなすすべ無く少年の拘束を解き、大切な荷物を置くようにそっと地面に横たえる。
破壊神レイス様はスゥっと宙を浮くように移動し少年の前に膝を付いた。
間近で見る破壊神レイス様は神の威光とでもいうのだろうか、脅威や恐怖とは別の独特な威圧感を放っていた。
昔、ベ・リア様に少しだけ聞いた事がある。
破壊神レイス様は「その全てをこの世界から消滅させる力」があると……
肉体も記憶も存在も……そして魂すらも。
「レ、レイス……様」
その場に居る全員が動く事ができない中、魔人アル・ゼが少年の元に駆け寄り回復魔法を施し始めた。
翳した両手から優しい光を放ち、失われた少年の右足が見る見る修復されていった。
ベ・リア様の使える下位の回復魔法では傷口を治す程度で欠損部分の修復はできない。
やはり魔法の扱いでは魔人アル・ゼ敵わないのだろう。
『ありがとう、アル・ゼ』
「い、いえ。俺様の失態でラルクを危険な目に遭わせてしまいました」
あの魔人アル・ゼが悔しそうな表情で本当に申し訳なさそうに話す。
その姿は母親に叱られて落ち込む子供のようにも見えた。
『ラルクと知り合って初めて僕を呼んでくれたんだ。嬉しくて思わず一人で来ちゃったよ』
落ち込む魔人アル・ゼとは対照的に、嬉しさを全身で表すように左右に揺れながら少年の顔を愛おしそうに撫でる破壊神レイス様。
その姿は先程感じた威厳や威光とは程遠いというか歳相応に見える。
そして、親しい友人に接するようなフレンドリーな口調で話す破壊神レイス様に俺は動揺し始めていた。
こうして見ているだけなら、本当に強いのか疑わしく思えてくる程に幼さを感じる。
破壊神レイス様はおもむろに顔を上げると、「めっ!」と言いそうな表情でベ・リア様に話しかけた。
『ベ・リア、ラルクに酷い事をしては駄目だからね!』
「な、何でだよ! ……あんたにはかんけーねぇ…ないでしょう!」
あの我侭で傲慢な態度のベ・リア様とは思えない程に歯切れが悪い。
あきらかに後退るような態度をとっているように見えた。
やっぱり戦闘になったら確実に勝てないと分かっているんだ。
『ラルクは僕の大切な人、それで十分だよね?』
「……うっ」
逆らえない人物の大切な人と言う明確な理由を提示されたベ・リア様は何も言えずに後退る。
これで俺達の作戦は完全に詰んでしまった。
『ねぇベ・リア、そろそろアビス国に戻って来ない?』
!?
破壊神レイス様の言葉に俺達全員は驚きを隠せなかった。
約12年前、理由は知らないがデウス様と共にベ・リア様と俺達はアビス国を去った。
そんなベ・リア様に戻って来いと言う。
「へっ! やなこった!! 軍の規律とかはっきり言って面倒なんだよ!」
『それがアビス国を去った理由なの?』
「そーだよ! デウスは違うみたいだがな!」
……そうなの!?
えっ!?初耳だけど、軍規が煩わしくてデウス様に付いて行ったって事?
それに俺達は付き合わされた訳ですか!?
あまりにも短絡的な理由に驚愕する。
そもそもティンダロス国の方が厳しいような気がするんだが……
あ、それで今回も逃亡を考えているのか。
『ティンダロスの方が自由なの?』
「うぐぐ……」
俺の考えていた事をそのまま言葉にした感じだ。
まさに確信であり、ベ・リア様は痛い所を突かれる。
つい先日まで1年以上牢獄に閉じ込められて、今回の任務が失敗したら居場所すら無くなり、下手したら処刑される事を知っているかのような口ぶりだ。
『じゃ、ベ・リアにうってつけの条件で再雇用しようか!』
破壊神レイス様は嬉しそうに両手をパチンと叩いた。
そしてベ・リア様に近付き、何やらゴニョゴニュと耳打ちをする。
……地声で話すと聞こえないのか。
ベ・リア様は最初は疑わしいような険しい表情をしていたが、「おっ!」と言いそうな表情をした後、ニヤリと何かを企んだような表情に変化していった。
「本当だな! ちゃんと書状を出してくれるんだろうな!?」
そして余程提示された条件が気に入ったのか、身を乗り出して楽しそうに叫んだ。
それにしても、書状って何だろう。
『では再雇用の契約書はレ・ヴィに届けさせるよ』
「おう! 頼んだぜ!」
破壊神レイス様に対して軽口を叩くベ・リア様を物凄い形相で睨む魔人アル・ゼの姿が視界に入った。
どうやら少年の右足は完全修復したようだ。
それを確認した破壊神レイス様は満足そうな顔をして少年の頬に触れた。
『ラルク、久しぶりに会えて嬉しかった。また今度逢おう』
――――フッ
そう言って破壊神レイス様は、その場に"存在"しなかったかのように姿を消した。
同時に周囲の雰囲気も元に戻り、木々の騒めきが聞こえ始める。
まるで夢でも見ているような時間だった。
――無論、悪夢という名前のな。
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