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021話 グレイス軍務大臣来店

◆◇◇◇◇◇



 開店から約1ヶ月が過ぎ、店の経営も落ち着いていた。

 日々の店舗来店客数は平均40名くらいで、売上1日辺り40~100万ゴールドで落ち着いた。

 実家の雑貨屋を手伝っていた感覚からすると、非常に高い売上に思える。

 武器屋としてはどうなのだろうか?1品単価が高いから、こんなモノなのだろうか?


 比較的品質が良い商品を揃えている自信はある。

 その為か、街での評判は上々とセロ社長が話していた。

 しかし品質が良いと言う事は壊れ難いので再購入まで期間がひらく訳だ。

 その為、日々の来店客数はそこまで増えないという。


 でも、この店の商品が気に入ってくれた冒険者のお客様は、冒険者ランクが上がり更に強い武器が欲しくなった時に来店してくれると思う。

 まぁ1部、スピカ目当てに毎日来店してくる稀有な冒険者もいるみたいだけど……

 まるで猫カフェならぬ、猫武器屋ってので別途料金を取るとか……

 止めておこう、カルディナ先輩ならいざ知らず、セロ社長には怒られそうだ。


 先週より、ジャン先輩とロジェ先輩とアーシェ先輩がルーン工房に見習いとして部署異動して来た。

 セロ社長の話では本人の希望もあるが、今後ルーン武器の輸出も始めると言う事で今から人員の育成も兼ねて部署異動の許可をしたようだ。

 輸出に関しては現在、宰相と経済産業大臣が協議し他国との調整を行っているらしい。


 セロ社長曰く、大手の商店を永続的に発展させるには人材育成が最重要課題だと断言していた。

 人件費を抑える為に最低人数で経営するのは不可能ではないけれど、病欠が発生した時点で運営に支障が出るような低人数経営をしている店は最終的に経営が行き詰まり、従業員に見限られると言っていた。


 将来的に発展を目指すのであれば人件費を掛けてでも人材育成を行い、優秀な人材に支店を任せるよう支援をするのが会社を発展させる経営者だと教えて貰った。

 義理の父は他人との対立や、しがらみが嫌で家族経営を選択していたけどね。


 ちなみに仕事の割り振りは基本的に主要部署を決めて、後はローテーション的に入れ替わる感じだ。


 オーナー:カルディナ

 簡単に言うとこの店の店長・経営者。

 商談、決済(仕入れ、必要経費、人件費、光熱費、広告宣伝費、資材費、廃棄等)管理。

 最終決定権を持つ総合責任者。


 マネージャー:リアナ

 主に従業員の体調・シフト管理と作業進捗率の管理。

 接客、製造と自由自在にポジションを変更して、業務の円滑化を図る仕事。

 オーナーが出張や休暇の時に責任者を代行する副店長でもある。


 作業長:ラルク

 僕はこの店の生産部門を主任として任される事となった。

 主に商品製造とルーン技術の人材育成の仕事だ。


 従業員:ジャン、ロジェ、アーシェ

 主に雑用をしながら接客を行い、空いた時間でルーン技術の研修を行う。


 現在はこのような役割分担で店を運営している。

 現在僕は先輩達の教育係をしているんだけれど、結構苦戦を強いられていた。

 アーシェ先輩は1週間かけて2文字刻みを習得したが、ジャン先輩とロジェ先輩は未だ1文字刻みの成功率が60パーセント程度と習得までには至らなかった。


 ジャン先輩達の才能が無い訳ではなく、恐らくそれが普通の事なんだと思う。

 タロス国でルーン部門を研修した僕達が異端の部類だと知る。

 レウケ様と従業員の人達が大袈裟に驚いていた訳じゃなかったんだと……


 開店特需も有り、先月1ヶ月間の店頭売上7270万ゴールド+国の依頼分の売上15000万ゴールド。

 国からの依頼品は素体から最高級品を使用、店頭商品も比較的良い物を揃えて貰ったので原価的には高かったはずだ。

 しかし、最終的にオーナーが計算した総利益率は脅威の26パーセントと高く、セロ社長もホクホクだった。

 ルーン文字という付加価値が、それだけの利益を生んだという事実は驚愕に値する。


 ちなみに僕達の給料は基本給30万ゴールド+歩合制となっている。

 公平性を重視する為に、作成者のルーン武器が売れる度に給料に加算される歩合制が適応されている。

 ちなみに……僕の今月の総支給額はかなり色を付けて貰って720万ゴールドだった。

 年収じゃなくて月収でだ、本当に夢じゃないだろうかと疑ってしまう。


 この金額は、オーナーのカルディナ先輩超えて1番高い金額となった。

 歩合制とは言え15歳の僕が貰って良い金額なのだろうかと……正直、物凄く動揺している。

 実は間違いじゃないのか?とセロ社長に聞いたが間違い無く正当な報酬だと話していた。


 税の徴収があるとは言え、庭付きの小さな家が一括で買えるだけの金額だ。

 リアナ先輩も「私も国のお仕事を手伝えば良かった~!!」と叫んでいた。

 先輩も店舗で売れた歩合が加算されて合計支給額420万ゴールドだったと言っていた。


 開店記念セールを手伝いに来てくれたジャン先輩達も3日間のアルバイト代が基本給に20万ゴールド追加されていたそうだ。

 しかし僕の支給額を知って、改めてルーン技術を学ぼうとやる気になっていた。


「すっげぇな、何だこの金額は!おい!ラルク!! ……じゃない、作業長!!」


「別にラルクで良いですよ、ジャン先輩」


「わかってねぇなぁ……上司なんだから、線引きってヤツがあるだろ?」


 確かに仕事中はカルディナ先輩の事をオーナーと呼んでるし、そういうものなんだろう……か?

 僕は年齢的に1番年下なので、立場的に誰かの上に立つなんて今まで考えた事も無かった。

 逆に言えば、目上に立つ者として恥ずかしくない実力を身に着けて、見合った立ち振る舞いをしないと恥ずかしいのか。

 今になって、オーナーの立場を指名された時のカルディナ先輩が感じた重圧を少し理解できた気がした。


「……って事で~、上司である作業長のおごりで決定っすね!」

「ラルク作業長、御馳走さまです!!」


「あ、あはははは……」

「もちろん、俺様も行くからな!」


 夕食の話をしていると、どこからともなくスピカが現れた。

 コイツ、食い物の話になると狙ったように現れるんだよな……

 結局、なんか上手い事言いくるめられた感はあるけど……ま、いっか。


 その後、カルディナ先輩とリアナ先輩も誘いタクティカ国で5本の指に入る高級店で夕食を奢った。

 敢えて金額は伏せるが、夕飯で支払ったと思えない額だったと言っておこう。



 ――翌日。


 今日の予定はカルディナ先輩はセロ社長と共にタロス国へ出張。

 そして、レヴィンが会わせたい人がいるので予定を空けておいてくれと言っていた。

 昨日、セロ社長が「明日はくれぐれも失礼の無いようにね」とウィンクをしていた。

 何か裏が在りそうな眼付きで、不気味なウィンクをしてたな……。


 僕はロジェ先輩にルーン技術を教えながらレヴィンの来店を待っていた。

 販売用のルーン武器は十分ストックがあるし、僕は素体となる武器の鑑定を行っていた。

 最近スピカから教えて貰った特殊技能(スキル)【アイテム鑑定】はとても便利で、ルーン技術を身に着けていると原料となる素体が何文字刻むのに適しているかも分かるという優れものだ。


「おし、出来た! ラルク確認してくれないか?」


 ロジェ先輩が2時間半かけて1文字刻みを完成させた。

 僕は先輩の造った剣を手に取り見定め、【アイテム鑑定】を使用する。

 時間はかかったけれど完璧な出来だ、売物としても申し分無い。


「1文字刻みは完全に習得しましたね。次は2文字刻みの練習をしましょうか」


「おっしゃ! でも、取り敢えず今日はあと2文字刻み2本で止めとくよ。気絶して店内清掃できないとか困るしな」


 ロジェ先輩もルーン武器製作練習中に何度か気絶し、自身の魔力(マナ)総量のおおよそが把握できたようだ。

 魔力(マナ)は本人の努力次第で総量を増やす事ができる。

 種族や特殊才能(ギフト)、それに加護による増加量の差は生じるが、基本誰でも修練次第で増やす事ができる。

 僕自身、測定器でも測りきれない魔力(マナ)総量は破壊神の加護による恩恵ではないかと思っているくらいだ。



 先輩と話をしていると工房にレヴィンが訪ねてきた。

 その後ろには黒衣のローブを深々と被った大柄の人物が見受けられた。

 この人がレヴィンの話していた会わせたい人?最初は怪しい人かと思ったが、見るからに上質な生地のローブを羽織っている事からお金持ちか貴族の偉い人かと思った。


「おはようラルク。それからロジェ君かな?少し邪魔させて貰うよ」


「ええ、どうもっす」

「いらっしゃいレヴィン。えっと……そちらは?」


 どう挨拶して良いのか分からず言葉に詰まる。

 レヴィンはローブの人物に目配せをすると、その人物はフードを下ろし素顔を見せた。

 歴戦の戦士を思わせるたたずまい、筋肉質で太い首元や顔に刻まれた傷痕。

 そして何より、何故か後ずさりしそうになる雰囲気がある。


「おおっと!自己紹介をせねばな、ワシの名はグレイス。軍務大臣を任されている者だ」


「ぐ、ぐ……ぐ、軍務大臣!?」


 イスに座り一息付いていたロジェ先輩が素っ頓狂な声を上げ、立ち上がる。

 そして、おもむろに普段使わない衛兵の敬礼のようなポーズを取る。

 えっ!何っ!?その敬礼って必須なの!?

 僕は焦ってロジェ先輩の真似をして敬礼をする。

 それを見たレヴィンが「ブッ!」と軽く噴き出したのが見えた。


「あー良い良い。今日はお忍びでな。がっはっは!」


 グレイス大臣は豪快に笑うとロジェ先輩の肩をバンバンと叩いていた。

 ロジェ先輩の表情から恐れ多いと反応に困るという感情がひしひしと伝わってきた。

 それにしても何故そんな偉い人物が来店したのだろう?

 周囲に護衛を連れている様子は見受けられない。

 お忍びって言ってたし、護衛は騎士団長レヴィン自らって事なのか……。


「……で、君が噂のラルク君かな? 今日はルーン技術を拝見したくてな」


「以前、造って貰った武器の評判が良くてね。制作者を紹介してくれと頼まれたんだ」


 レヴィンはそう言うと、背負っていた包みを取り出し手渡してきた。

 ズシリと重い感触が両手に伝わる、これは形状から察するに大剣だ。


「これは?」


 僕がレヴィンに尋ねると、包みを開けてみろと言う。

 包みを広げると両手じゃないと振るう事ができないような巨大な剣と、それを納めている白く美しい鞘に目が奪われる。


「これはツーハンドソードと言います。刃渡りはロングソードの1.5倍、そして約3倍の鉱石量を圧縮して造られています」


 3倍の鉱石……どおりで重い訳だ。

 今の僕の筋力では持っているのが精一杯で、とても武器として扱える代物ではない。

 僕は鞘から抜き、その海のように深い青色の美しい刃を見て思わず見とれてしまう。

 その刃は、高純度に圧縮されたミスリル鉱石の青。

 ロジェ先輩も見た事のない程の美しさを放つその剣に驚いていた。


 僕は剣に対して【アイテム鑑定】を使用してみた。

 ミスリル鉱石の最高品質「イシルディン」を使用して造られたツーハンドソード。

 ルーン文字は5文字までなら余裕で耐えきれるが、6文字刻みの場合4~5回の使用までしか耐えれないようだ。


 僕はタロス国で造った5文字刻みのミスリル鉱ルーングラディウスを思い出す。

 これは、あの凄まじい威力の攻撃力にも耐える事ができる武器の素体になりえる。

 ……僕は無意識にゴクリと息を飲む。


「ラルク君、ワシの目の前でこの武器に5文字のルーンを刻んでは貰え無いか? タロス国でも実現していない5文字刻みができると聞き及んだのでな」


「えっ!?」「はぁ!?」


 僕とロジェ先輩は驚いて思わず声を上げてしまった。

 多分、驚いたという内容には差異がある。

 僕はこの剣を加工してくれと言われた事に驚き、ロジェ先輩は僕が5文字刻みができる事に驚いているのだろう。

 リアナ先輩もカルディナ先輩もレヴィンの口止めを守り、僕がタロス国で5文字刻みを成功させた事を喋ってなかった。

 その為、研修に参加していた他の先輩達は完成品の4文字刻みルーンファルシオンが最高傑作だと思っていたはずだ。


「ロジェ君、実は1ヶ月前の時点でラルクは5文字刻みを1回だけですが完成させていたんですよ。この事は極少数しか知りませんので内密にお願いします」


「……わ、分かりました」


 ロジェ先輩は少したじろぎ、神妙な表情で頷く。

 僕は僕でこの美しい剣にルーン文字を刻むという行為に対して、「造ってみたい」と「失敗したらどうしよう」という相反する感情が湧いていた。

 5文字刻みが成功したのはタロス国の1度きりで、帰国してからは色々と忙しさが重なり挑戦した事がなかった。


 現在午前10時30分……

 以前5文字のルーンを刻むのに約21時間程度かかった。

 もし成功するとしたら、同じくらいの時間が必要なはずだ。

 僕はレヴィンとグレイス大臣に向き合い、一応本当に造るのか確認をする。


「知っていると思いますが失敗する事があります、そして5文字刻みを前回成功させた時は20時間以上かかりました。お預け頂ければ、明後日には成功した場合お渡しできると思いますが」


「ふむ、今日ワシがここに訪れたのは、ただの作製依頼ではない。この目でその高度な技術を確かめたいと思ったからだ。見学者がいると気が散って成功率が下がるのか?」


「いえ、そういう訳では……」


 グレイス大臣は長時間の作製時間がかかる事を承知の上で、ルーン技術を間近で見学したいと言う。

 完全に試されているような気がして、僕はレヴィンに助けを求めるような視線を送る。


「以前タロス国でレウケ様から聞きました、補助役が必要なんですよね?僕が引き受けますのでご安心ください」


 あれ?そういう助けを求めた訳じゃないんですけど……。

 レヴィンは笑顔で自身の胸を叩く、これはもう断れない流れだ。

 国から3文字刻みの依頼を受けた時以上の重責を感じる。


「分かりました、お引き受けいたします。ロジェ先輩、すみませんが長期間工房に籠りますのでリアナ先輩に事情を話しておいて貰えますか?」


 今日はオーナー代理としてリアナ先輩とアーシェ先輩が店番をしている。

 5文字刻みの事をむやみに広めないようにと、伝える内容をレヴィンが考える。


「おお、おう! 分かった。なぁ、その……俺も見学させて貰いたいんだが駄目か?」


「僕は別に構わないけど……」


 僕はお伺いを立てるような視線でグレイス大臣の方に顔を向ける。


「ワシも良いぞ。長時間の作業なら話し相手は多い方が良いのではないか?」


「よっし!ありがとうございます!! じゃ、伝えてきます!」


 そう言うとロジェ先輩は店舗の方に走って行った。


 その間に僕はグレイス大臣に工房内設備の紹介をする為に案内をした。

 皆で案を出し合って、ルーン技術に最適化された施設にグレイス大臣は感心し熱心にアレコレと質問をしてきた。

 僕はそれが嬉しくて、事細かく説明をした。

 その後、僕達は高反発素材の敷き詰められた区画に移動し作業の準備をした。


「ほぉ、これは何とも……高級ソファのような床だな」


「はい、同じ姿勢だと体が痛くなりますから。ここなら寝そべる事もできます。ただ、絶対に寝る事はできませんけどね」


 僕達4人は向かい合うように円形に座る。

 ロジェ先輩も2文字刻みの練習をする為にロングソードを用意していた。


 現在時刻は11時15分。

 今から始めて、約22時間かかるとして……

 上手くいけば、明日の午前9時頃に完成する。


「では宜しく頼むぞ!」


 グレイス大臣が刻む文字を指定し、僕はそれを了承する。

 こうして僕は久しぶりに5文字刻みに挑戦する運びとなった。

 これって失敗したら弁償しろと言われたりしないよな……


 僕は多少の不安も感じながら、最高位ミスリル:イシルディン鉱ツーハンドソードの作製を開始した。

お読みいただきありがとうございます。

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前日譚

なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

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