英雄の出涸らし令嬢
私はイリア・アースと申します。
アース辺境伯の娘にございますが、こちらの呼び名の方が通りが良いかもしれません。
「英雄の出涸らし令嬢」
私の父クリストファー・アースは、今から二十年ほど前、この国の辺境に現れた邪竜を倒した英雄として近隣諸国にまで知られております。
当時父は、生まれ故郷だった彼の地から遠く離れ、別の地で冒険者をしておりました。平民だったのでございます。
生まれ故郷のグストハム男爵領のみならず、隣のレトナーク子爵領までが邪竜に蹂躙された頃、ようやく話が父の元まで届きました。
話を聞くなり、未だに父しか使う事の出来ない転移魔法で一瞬で駆けつけ、山のように巨大な邪竜を苦も無く倒したと言われております。
宮廷に招かれては、剣技だけで宮廷騎士団を圧倒し、宮廷魔術師団が長く果たせなかった数々の魔法を実現させて見せ、なお謙虚な様子だったと聞き及んでおります。
父はその功績で、領主一族を亡くした旧グストム男爵領と、レトナーク子爵領の復興不可能と思われたほど被害が出た地を合わせた領地を所領とする男爵を拝命することになりました。
その際に、地味な妾腹の王女も下賜されております。私の母です。
父はさらにその後、隣国の革命の折、嫁いでいた元第二王女殿下と御子を助けるなど功績を積み、今は辺境伯を拝命しております。
父の英雄譚は、この国のみならず近隣諸国で男子なら憧れぬ者は無い、と言われるほどに有名でございます。
一方で、四十路を迎えてなお、太陽が輝くが如き金髪碧眼の美貌は、数多の女性の心を虜にし続けております。
父の子は、私、弟、妹の三人でございます。
数多の女性の心を虜にしている父ではありますが、母アリア以外を相手にする事はございません。
妹アマリアは、父の美貌を十全に受け継いだ金髪碧眼。父譲りの豊富な魔力量に、父にしか使えぬと言われた奇想天外な魔法を習得し始め、齢十六にして宮廷魔術師団入りを打診されております。
弟クリフォードは、茶髪茶目と色味こそ地味な母譲りですが、面差しは父に似た美貌。
齢十七にして、宮廷騎士団団長と剣技で互角に渡り合い、将来は父の如き英雄となるのではとの評判でございます。
対して私は、母譲りの地味な茶髪茶目、母譲りの地味な顔立ち、母譲りの執務系の地味な才能しか持ち合わせがございません。
父の美点を十分に受け継いだ妹、次いで父譲りの才能の弟、父譲りのところの一切無い私。
ついたあだ名が「英雄の出涸らし令嬢」でございます。
長子なのに出涸らしとは、これ如何に。
陰口相手に言うだけ野暮というものでしょうか。
私は、学園の第三学年。最高学年になりました。
昨年は弟が、今年は妹が入学しております。
……憂鬱です。
昨年は弟だけでしたので、性別の違いもあり、こうもあからさまに比較されることはございませんでした。
妹の入学以降は、似ていないと指摘されるのはまだ優しい方でございます。
それでも攻撃魔法の教科などで、教師の方に似ていないと言われるのは辛いことではございますが。
妹と同学年の一学年の生徒など、わざわざ三学年の学級まで、妹と私を比べに来たりされます。
中には、
「まぁ、本当にアマリア様のお姉様ですの?
随分と慎ましやかなお顔をされていますのね」
などと宣う方も居られます。
「あら、デンドリー伯爵家の方だったかしら?
このグラスター公爵家のオリヴィア・グラスターの親友たるイリア・アース辺境伯令嬢に何か用ですの?」
「え!?い、いえ、何でもございません。失礼いたしましたわ」
慌てて走り去っていく御令嬢。ギャラリーもはけていきましたので、良かったですわ。……ギャラリーって何だったかしら?
「行ってしまわれましたね」
「オリヴィア様。いつも申し訳ありません」
オリヴィア・グラスター公爵令嬢は、我が国の筆頭公爵家の御令嬢でございます。
去年までは、学園には在籍はしていたものの、実質的には隣国に留学なさっておいででしたので、こうしてお会い出来るようになってからは、まだほとんど間がありません。
オリヴィア様が私の事を「親友」と呼んで下さって、こうして助けて下さるのには訳があります。
「構いませんことよ。
わたくしも貴女にお願い事をしている身ですから」
「お願い事なんて、とんでもない事でございます。
むしろお詫びのしようもございませんわ」
思わず、ため息をつきながら窓から中庭の様子を見ます。
妹が、数人の殿方と親し気にしているのが見えます。
大きな声で笑い、互いに肩などを叩きあったりする様子、我が妹ながら、少々はしたのうございます。
学園に入学後間もなく、同学年の彼らと妹は仲良くなったようなのです。
父に憧れのある騎士団長子息のベンジャミン・ソルテール子爵令息様。
父を敬愛している宮廷魔術師団長子息のアイザック・ルズベリー伯爵令息様。
アース領の隣領を所領とする財務大臣子息のトリスタン・エンゲイト侯爵令息様。
高名な方の御子であるだけでなく、実力もあり見目麗しいとのご評判でございます。
中でも一際高貴な方が立太子を有望視されているアンドリュー第一王子殿下でございます。
金髪緑目。美しくありながら、逞しさを感じさせる風貌をなさっておいでです。
勇猛果敢で知られるアンドリュー殿下もまた、父を大層慕っています。
所用があり母と王宮に参った際には、
「……地味だな。魔力量も多くなさそうだ。出涸らしなどと揶揄されていると知っていてなお、期待した俺が間違いだったか……」
あちらから話しかけてこられたにも拘らず、随分な物言いでございました。
ソルテール子爵令息様、ルズベリー伯爵令息様、エンゲイト侯爵令息様のお三方は、嫡男ではございませんので、婚約者もいらっしゃいません。
けれど、アンドリュー殿下はこちらのオリヴィア様の婚約者でございます。
本来ならば何を差し置いても、姉として妹の行いを窘めに行くところでございます。
しかしながら、当のオリヴィア様に「お願い」と止められてしまったのでございます。
以降、オリヴィア様の目を盗んで、妹アマリアに注意をしに行こうとしても、私の親友を自称するようになってしまったオリヴィア様やその取り巻きの方々に見つかってしまって、果たせないままでいます。
オリヴィア様達と居るのは楽しいのですが、一体、何をお考えなのでしょう?
妹は日中、学園に居る間は、アンドリュー殿下を始めとした四人の殿方と一緒に過ごしていると噂になっております。時には、さらに多くの殿方が加わっているとも。
時折すれ違う度に何とか接触を試みようとしますが、私を見ると嘲笑を堪える様な表情をして足早に立ち去って行ってしまいます。
弟とは何とか話せましたが、
「アンドリュー殿下の婚約者のグラスター公爵令嬢の御意向とあれば仕方ないんじゃないの?
向こうの方が身分も上なんだし」
協力は得られませんでした。
学期が終わり、長期休暇に入りました。
学園は、国中から貴族子女が集められるため、全寮制になっております。
弟と妹は帰らないそうです。
アース辺境伯領が遠方のためで、ほとんど、とんぼ返りになってしまうためです。
私も残りたかったのですが、三人のうち誰か一人は帰るように実家から連絡がありまして、私が貧乏くじを引きました。
……とんぼ返りと貧乏くじって何だったかしら?
帰るのが億劫なのは、効率が悪いからだけではありません。
私には、父との思い出がほとんどないのです。
学園に入ってから、会話も交わしたことがありません。
思い出すのは、幼い妹が父に抱っこをねだって応える父の様子ばかり。
……記憶のアングルがおかしい気がします。
アングルって何だったかしら?カメラの角度?カメラなんて魔道具ありませんのに。
最近、調べても意味の分からない言葉が思い浮かぶようになっております。何故かしら?
我が家に着きました。
「お父様。学園長期休暇のため、戻って参りま ガボッ……」
口に何か突っ込まれました。
もぐもぐごっくん。
「甘くて美味しい」
お父様は手をひらひら振って立ち去っていきます。
お母様がクスクス笑いながらやってきます。
「さ、お部屋に参りましょう。
旦那様がお作りになったおやつがありますよ。
なんでも、なまきゃらめる、とか」
生キャラメル。父が作ったのか。……生キャラメル?
私は女の身ですが、このアース辺境伯の跡取りと決まっています。
短い間であっても、母に教わる事が山とあり、休暇は瞬く間に終わってしまいました。
旅立ちの日、父は相変わらず一言も口をきいてくれません。
かわりに頭をぐしゃぐしゃにされました。
だーかーらー、大型犬とかじゃないんだから、そんな撫でないでって!
……?
学園に向かう馬車の中で考えます。
私に父との思い出は無いハズ。
私のあだ名も、元はと言えば、父がこぼした言葉からです。
「可哀想に、まるで出涸らしだな」
窓の外を見ながら、父が言ったのを私も聞いています。
……窓の外を見ながら?
何か重要な事を忘れているような気がいたします。
けれど、思い出せない。
もどかしいまま日々は過ぎ去ります。
妹とアンドリュー殿下達の噂は広まるばかり。
そして、アンドリュー殿下とオリヴィア様の仲は悪くなるばかり。
「オリヴィア・グラスター!
お前のような年増が俺の婚約者とは嘆かわしい。
次の夜会からお前のエスコートを務める事は無い!
そのつもりでいるように」
「……かしこまりました」
最近、アンドリュー殿下の立太子を危ぶむ声が大きくなっております。
元々、近年では政略のみの婚約が廃れつつありまして、学園などで当人がお相手を探すのが主流になりつつあります。
アンドリュー殿下は勇猛果敢と言えば聞こえは良いが、少し考えの足らぬ方。
正妃様のお産みになった第三王子殿下はまだ幼く、第二王子殿下は妾腹。
第一側妃様を母に持つアンドリュー殿下に、筆頭公爵家の御令嬢で才媛と名高いオリヴィア様を正妃としてあてて、継承争いを避けようとの政略だと広く認識されております。
それがこれではねぇ。
学園の中でも、二つ上の婚約者を年増呼ばわりしているので、高学年の女生徒を中心に、評判を落としています。
我が家は、次期当主たる私を面と向かって愚弄された事により、当初より第一王子派ではございません。
元々中立派でしたが、第一側妃様に派閥換え打診の呼び出しに応じたところの、直前のアンドリュー殿下との散々な邂逅でしたので、断るのも容易でした。
オリヴィア様に第一王子派でないと確認していただいて、次期アース辺境伯として信用していただいてからは、胸の内を明かしていただけるようになりました。
「王家からの婚約の打診に渋々応じたのはこちらですのに、
『お前のような年増で我慢してやるんだ。お飾りの正妃に甘んじておけよ』ですわ。
周りからは、子供の言う事だから我慢するようにと言われましたが、殿下は当時もう十三でしたのよ。
幸い正式な手続きはまだでしたので、保留してもらい動き出すことにしましたわ」
正妃様を味方につけ、大国である隣国に留学されました。
オリヴィア様の御実家は実力主義なところがあり、オリヴィア様が御自身で成し遂げるならば、と送り出していただいたそうです。
隣国では、私達と同年の王太子殿下が外交的な理由で婚約解消となっていました。
オリヴィア様はその新しい婚約者の座を見事ゲットされて帰国しています。
私達が第三学年になった時には、アンドリュー殿下の婚約と立太子は既に取り消された後だったのです。
アンドリュー殿下は御存知ありません。
「直ぐにでも婚約解消の発表をしていただきたかったのですが、アンドリュー殿下の見極めに協力して欲しいと言われておりまして、黙っているところですわ」
王家からの婚約を保留にしたまま、新しい婚約を結んできた罪悪感もあって引き受ける事にしたようです。
「我が国と隣国の王子を両天秤にかけたようなものですからね。
巷の劇で噂の悪役令嬢と言われても仕方ありませんわ」
言葉とは裏腹に、オリヴィア様の笑顔は爽やかでした。
心配なのは、妹アマリアです。
アンドリュー殿下を含む四人の殿方と行動を共にしているだけでなく、他の殿方とも懇意にしていると言う噂です。何故か、女生徒からの評判は落としてないようですが。
弟との時間も持てませんでしたので、再び学期終わりに共に帰ることにしまして、やっと話が出来ました。
「アマリアは、本気でジャスミン伯母上の所に就職するつもりなのかも」
「え゛?あんなに母さんに反対されたのに」
「?姉さん、やっと母さんの暗示解けたの?」
母さんの暗示?
………………(;゜Д゜)!!!
「解けたみたいだね。今ならアマリアも会ってくれるんじゃない?」
「……休み明けになっちゃうね」
暗示が解けたのが手遅れだった気がします。
ともあれ暗示が解けた事を、両親、特に父が喜んでくれました。
「イリア~。遅いよ~。お父さん、寂しかったよ~」
「ごっめ~ん、父さん。直ぐって約束したのに三年近くかかっちゃったよ」
「もう、イリアったら。暗示が解けるなり、言葉遣いが戻ってしまって……」
父には前世の記憶があるそうで、地球の日本での暮らしを私達に話してくれていました。
そして今世でも平民生まれ。
子供の頃から父にベッタリだった私は、言葉遣いは父譲りの平民口調。
おまけにこの世界には存在していない言葉が自然に口をついて出ます。
十になる前から淑女教育を始めたものの、手遅れ気味。
母は魔力量はそれほどでもないものの、細かい操作に長けています。
学園に入る時期が来ても、言葉遣いが直らない私を見た母は、諦めて暗示魔法をかけることにしました。
私も同意しています。
「直ぐ解けるように頑張るね」そう約束しました。
私にかかっていた暗示は、父から教わった言葉を無意識に使ってしまう事が無くなるまで、それらを思い出さない、というものでした。
子供の頃の私は、ほとんどいつも父に抱っこされていたり、膝にのせてもらっていたり。
思い出さないのは言葉だけとは言っても、その時の記憶ごと思い出さないようになっていました。
唯一思い出せたのが、私を抱っこしている父に、妹が「私も抱っこ~」と言っていた事くらいです。
「言葉遣いくらいの事でここまでしなくてもいいのに~」
「言葉遣いだけではありませんよ!
旦那様の話のせいで、ジャスミンお姉様の施術院が出来たり///、妹マデリーン夫妻から社交界に変な話が流行ってしまったりしてるじゃありませんか///」
「え?子供にそんな話してないよ?ね?」
弟と一緒にそっと目をそらします。
父はお酒に酔うのが好きで、酔うと何でも答えてしまいます。
ジャスミン伯母様からは、父から「キャバクラ」「ソープランド」などを教えてもらって、王家の辺境領で騎士や兵士相手の慰労施設を作った話を聞きました。
マデリーン叔母様の夫で、今の宰相閣下からは、父に「SMプレイ」について教わったおかげで夫婦円満であるというお礼がよく届きます。
ちなみに父と母は別にプレイなどはしていません。
ただ毎日激しいだけです。
「そういえば何で、姉さんが出涸らしなの?」
弟よ。話をそらそうとしたのかもしれぬが、何故、その話題。
「あ~、やっぱりどんなに可哀想でも、子供に出涸らしなんて言っちゃダメだったね~。ゴメン。
あれ?でも、イリアの事じゃないよ?」
「旦那様は認識が少し変わってますから///」
出涸らしは末っ子のアマリアの事だったらしい。
母激ラブ至上主義の父からすると、
第一子(私)=見た目も能力も母そっくり=恵まれた子、
第二子(弟)=色味などが母と似ている=普通、
第三子(妹)=父そっくりで母とは全然似てない=可哀そう、
という事らしい。
「そもそも出涸らしなんだから、末っ子の事じゃない?」
いや、まぁそうなんだけども。
「普通、貴族以上の身分ではお茶を自分では入れませんから、『出涸らし』がよく分からないのでしょうね」
それで、私が出涸らし呼ばわりされたのかぁ。
父は後日、アマリアに謝ると言っている。
私は、まぁ、記憶を取り戻した今となっては、父を恨む気は無いなぁ。
「あ、アマリア、ジャスミン伯母上の所に就職するつもりっぽいよ」
弟の発言で、父が転移魔法で駆けつけようとしたが、母に「学園にいる間は、基本的に親は不干渉です」と言われて、肩を落としていた。
休暇が終わって、学園にとんぼ返りです。
言葉遣いも元に戻しませんと。
アマリアの事は、私と弟に託される事になりました。
「三学期だけじゃあ、手遅れかしらね」
学園も父の話から出来たものなので、日本と同じ学期になっております。
大急ぎで行動を開始しましょう。
オリヴィア様達も協力してくださいました。
「どうやら、女生徒に不埒な事をしようとした男子生徒を女生徒から引き離そうとして、あのような事態になった面があるようです」
オリヴィア様の寄子貴族の女生徒が調べてくれました。
「ソルテール子爵令息様、ルズベリー伯爵令息様、エンゲイト侯爵令息様のお三方も、それぞれの御家より、優秀ではあっても素行に問題ありと思われているようです」
「殿方達は、アンドリュー殿下と同じ道を辿る事になりそうですわね」
「オリヴィア様?」
優美な仕草で、そっと唇に人差し指をあてます。
……私が教えてしまった「内緒」のポーズですけど、やけに色っぽいぞ。
何はともあれ、触らない方が良い事情がありそうです。
アマリアの事は助けたい、という希望は
「大丈夫だと思いますわ。念の為、彼らとは引き離しておいた方が良いですけど」
と答えてもらえました。
弟に伝言してもらい、アマリアと会います。
「お姉様!
お兄様に聞きましたけど、暗示が解けたんですって?」
「ええ、そうですわ。
心配かけましたね、アマリア」
「ブッハ。ちょ、無理無理。噴き出しちゃうよ~」
「……そっちから始めたから乗ったんじゃないのよ、も~」
暗示にかかっていた頃、嘲笑を堪えるような、と思っていた仕草は、単に噴き出すのを堪えていたせいでした。
「アハハ、ゴメン、ゴメン。
でもお姉ちゃんは、そっちの話し方の方が良いよ」
「他の人がいるとそういう訳にはいかないけどね」
ほとんど一年振りに、アマリアとちゃんと話しました。
アマリアは私よりも要領が良いので、暗示など使わなくても、上手く猫をかぶれていました。
暗示でいつも淑女モードの私に違和感しかなかったそうです。
「ジャスミン伯母様の所に就職するつもりなの?」
「うん」
「どうしても?」
「うん」
「宮廷魔術師団入りを打診されているのに?」
「もう断ってる。ジャスミン伯母様の後を継ぎたいの」
ジャスミン伯母様は実質的に独身のまま、四人の子持ちです。
二人は王宮で、王族として公務に携わっています。
残りの二人は双子で、遊戯施設を立ち上げようとしています。
……父が遊園地の話をしてしまったからです。
「……私からは、もう反対しないわ。
でも、アンドリュー殿下達とは、しばらく距離を置いて」
「何かあるのね?
他の女の子達に被害が無いなら別に良いよ」
「他の女生徒をかばってああなってたの?」
「それだけでもないけどね。
無理強いされるのを見るのは嫌だから」
私も調べてみましたが、妹はなかなか人望があるようです。
「貴女が辺境伯を継いでも良いんじゃないの?」
「いやいや、やりたくないし。
『領地経営の才能』を母さんから受け継いだお姉ちゃんが継いでよ」
「クリフォードも冒険者になりたいって言ってるし。
宮廷からの打診を我が家で二つも断っちゃうわね」
「まぁ、父さんの子だからね」
笑いあいました。
私達はこれからもずっときょうだいです。
その後。
アンドリュー殿下は、第一学年の終わりを待たずに、学園を退学になりました。
見張りがつけられている事にも気付かず、卒業式にオリヴィア様との婚約破棄を叫ぼうと画策していたためです。
卒業式前には、アンドリュー殿下とオリヴィア様の婚約解消が王家から、オリヴィア様と隣国の王太子殿下との婚約がグラスター公爵家から発表されました。
オリヴィア様は、卒業式のパーティーで隣国の王太子殿下にエスコートされて、幸せそうでしたわ。
私は、うっかりしていたので、弟エスコートです。
……これから婿探しですね。
正式な立太子はまだですが、次期国王は第三王子殿下に決定でしょう。
アンドリュー殿下が有望視されていた頃、国王陛下は少しお身体を弱らせておいででした。
母が間に入り、父に治癒魔法を使ってもらいましたので、国王陛下は今はご壮健、王太子が少し幼くても問題ありません。
アンドリュー殿下他、妹に侍っていたソルテール子爵令息、ルズベリー伯爵令息、エンゲイト侯爵令息達は、南の大国に出k……、後宮に婿入りする事になりました。
南の大国は代々女王が治めており、男性で出来たハーレムがある事で有名です。
中では大事にされ贅沢できる、という話ですが、一度入ると二度と生きては出られないという話の方が有名です。
この度、女王が代替わりする事になり、各国に後宮入りの募集がまわっていました。
南の大国は鉱山資源が豊富で、他国に侵略する事も無いので、外交上重要な国です。
我が国では当初、立場の弱い第二王子殿下の後宮入りが検討されていました。
しかし、アンドリュー殿下の件があり、当の大国に打診をした所、一人の女生徒に複数人で侍る様子が、一人の女王に仕える適性が高いと好意的に受け取ってもらえたとの事。
全員まとめての出k……後宮入りになりました。
本人達を除き、何処からも反対も無く、恙なく輸送終了しています。
妹は、特にお咎めなしにすみました。
久々に我が家に帰ってきています。
「思春期の子との距離は開きやすいからね。
やっと皆帰って来てくれて、嬉しいよ」
「旦那様、思春期の子との距離が開きやすいってハンコウキ以外の理由もありますの?
何度もお風呂に入ったり、洗浄の魔法をかけたりしていた時もそう仰ってましたけど」
「女性は、血縁の近い男性の匂いを不愉快に思う本能があるんだ。
十代半ばから後半の頃が一番強く作用するんだよ」
妹と顔を見合わせます。
「ちょ、ちょっと何なのキミたち、いきなり後ろに回って来て。
あ、ちょっと、フンフンしないで!」
「「ホントだ、嫌な臭い」」
「傷つくよ?!」
父は相変わらず、ヘンテコな事を言って私達を楽しませてくれます。
私達はこれからも仲良くやっていくことでしょう。
「……ヘンテコな事じゃなくて、医学的な事実だよ?ねぇ、聞いてる?」
fin.
読んで下さってありがとうございます。