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第78話 ダンジョンと無関係だと思うのは甘いのでは?

「それで、聞いて欲しい話とは?」

とさっきまで楽しそうだったライエルさんの表情が一変した。


 ここからは俺の想像と思い込みの話になる。


「ダンジョンが発見されたのは、偽装の魔法をスオーリー副団長配下の人が見破ったから、と聞きましたが合っていますか?」

「そう言う報告が来ているね。

 ウチからも今までに何人か送っていたのに、誰も気が付かなかったとは悔しい限りだけどね。

 何か特殊なスキルを持っていた人だったのか、時間が経って偽装を続ける為の魔力が弱まったのか、魔力を供給する回路が壊れたとか、発見された理由は幾つか考えられるけどね」


 それもそうか。かなり前からダンジョンがあったらしいから、隠蔽魔法に何かの不具合が起きた可能性もあるんだよね。


「で、それがどうしたと?」

「そのダンジョンとは無関係かも知れないけど、ルケイドの家が所有する山の件です。

 何年間も植樹が上手く行かない原因が、同じように隠蔽されているんじゃないかと思うんです」


 ライエルさんが一度目を瞑ると、立ち上がって地図を取り出しテーブルに広げる。

 そして貯水池、ダンジョン、問題の起きている幾つかの山にピンを刺すと、貯水池とダンジョンを結んだ先に山の一つが位置しているのが一目で分かる。


「ふぅん、これは面白くない結果になりそうだね」

「と言いますと?」


 先生、勿体ぶらずに話をしてください!


「幾つかの仮定が成り立つだろうが…私も考えながら話すから、身近な所から攻めて行こうか」

とコメカミをトントンと人差し指で叩く。


「まずはリミエンが木材不足になって得をする人物が居ると仮定しよう。

 木材を扱う貴族家は三つあるが、ルケイドの(カンファー)家の他には影響が出ていないことを君はどう考える?」


 あからさまな妨害工作を行う馬鹿が居るとは思いたくないが、可能性がゼロではない。


「普通に考えれば、他の山の持ち主が何かの破壊工作をしたと思いますね」

「そうだよね。

 でも領主様も我々も、その可能性を疑わない訳が無い」


 それで色々と調査しても結局何も発見出来ず、原因不明のまま調査はお仕舞いとなった訳だ。

 その為にカンファー家の資産である山林の価値は暴落し、遠くない未来に爵位を失う屈辱的な憂き目に遭いそうなのだ。


 証拠は見付からなかったものの、これで木材を扱う貴族家同士はクチには出さないだけで『誰がどうやったのか知らんが、うまく遣りやがったな。次はウチか?』と疑心暗鬼になったことには間違いない。


「過去の調査では証拠が見つからなかった為に他の貴族家の犯行では無いと思われていたが、ダンジョンに隠蔽魔法が施されていたことを考えると、そうも言えなくなった訳だ。

 それだけでも各貴族家と山の再調査を行う理由になる」


 だけどライエルさん達をも欺き続けてきた魔法によるダンジョンの隠蔽だ。こんな事が可能な相手は厄介過ぎると思う。


「もう少し範囲を広げてみようか。

 木材不足の結果、リミエンから冒険者が買い出しに出ることになったよね。

 この場合の被害者と加害者は?」

「こうなると被害者はリミエン、加害者は買い出し先の何処かと考えられるけど…」

「何か気になる? 続けて」

「木材不足を引き起こしてリミエンの市民に不便を強いて、リミエン伯爵には統治能力無しのレッテルを貼って追い落とすことですかね」


 我ながらそんな答を述べながら嫌な気分になる。そんな事の為に人に迷惑かけるなよ、と大声で言いたくなる。


「もしそうだとしたら、随分と気の長い作戦ですよ」

「人間基準ならね。でも長寿種族…エルフや魔族ならそうでもないけど」


 エルフは分かるが、魔族なんて初めて聞いたよ。名前を聞くからにヤバそうだ。


「で、運良く買い出し先に悪さを企むエルフも魔族も居なくて、リミエン伯爵がターゲットでは無かったとしようか。

 買い出しにはマジックバッグが使われる。

 マジックバッグは現代の技術では製造不可能な貴重品だ。

 それが買い付けの為にバンバン使われることになる。

 しかもタイミング悪く、金貨級以上の冒険者はダンジョンに向かっている」

「そうなると、マジックバッグを略奪する大チャンスの到来ですね」

「そう考えることが出来る」


 これも可能性の話だが、マジックバッグ欲しさの為に何十年も時間を掛けて木材不足に追い込むまで待つか?

 そうだとすれば何とも嫌らしい遣り口だ。


 ワザとルケイドの家だけにターゲットを絞り、あたかもリミエン内での争いがあるかのように見せ掛ける。

 そして戦力を分散させ、各個撃破でマジックバッグを略奪するのだから。


「不発に終わったけど、同時に起きていた『魔熊の森』の戦争がこの件に連動して起こされたものだとしたら?

 あの森はキリアスとの緩衝地帯になっているが、魔物との戦争が起こればかなり破壊されたはず。

 そうなるとキリアスからコンラッドへの軍隊の侵攻も容易になる。

 リミエンの伯爵軍もコンラッド王国軍も魔物との戦争で痛手を受け、金貨級はダンジョンに潜り、銀貨級、大銀貨級は買い出しに出る。

 リミエンを守る戦力はどこにも無い。

 これは領土拡大の大チャンス!とも考えられる」

「それじゃ、容疑者だらけじゃないですか」

「そう言うことさ」


 探偵漫画ならここで容疑者が出揃った場面なんだろうけど、このライエルさんの話は容疑者自体も仮定に過ぎない。

 悔しいのは一つ一つに容疑者として納得出来る要素があるだけに反論出来ないことだ。


 俺には名探偵の素質なんて無いから謎解きも出来ないけど。


「隠蔽されていたダンジョンが一つとは限らないし、山の最後の調査から時間も経っている。

 調査をしてみるか」

と腕を組みつつライエルさんが言うが、あまり浮かない顔をしている。


「魔石狩りの為に町から出るついでに、山に寄り道してみます」

「それは有難いが、容疑者にはこうやって調査に出て来させて更にリミエンの戦力不足を引き起こすって目的があったのかもね。

 そうだとしたら、実に嫌らしく狡猾だ」


 木材の買い付けには大銀貨級が優先して出ていくとなると、調査に出るのは銀貨級か。

 このランクが魔熊の森の戦争の後にリミエンに残る主戦力になる予定だったとしても、さすがにそれが狙いだと考えるのは考え過ぎでしょ?


「ダンジョン自体は自然に発生するものだから仕方ない。

 隠蔽魔法もダンジョンの仕様だった可能性もある。ダンジョンには意思があるらしいからね。

 一番良いのは山にダンジョンが出来ていて、その仕様で隠蔽されていただけで人の意思は無かったってパターンだね」

「一番悪いのは?」

「キリアスがマジックバッグの略奪とコンラッドへの侵攻を策略していたってパターンかな。

 内戦を終わらせるには圧倒的戦力が必要になる。それをリミエンの支配によって賄おうと考えていたのかも」


 そんなの聞いただけでも嘔吐が出そうだ。

 キリアス人の知り合いなんて一人も居ないが、キリアス出身と言うだけでも白い目で見られる事になる。


「犯人がマジックバッグを略奪するのが目的だったとしたら、その後に何に使う?」

「商人が犯人なら普通に商品の運搬、または御禁制の品の運搬。

 キリアス人が犯人だとしたら軍事物資の運搬。

 リミエン伯爵を追い落とす為だとしたら、それこそ悪用し放題ですよね」

「そうだね。

 それと有り得ないかも知れないが、所有者を殺すことでマジックバッグに収められている品をこの世から無くす事自体が目的かも知れないし」

「そんな勿体ないことはしないでしょ?」


 この世界のマジックバッグには特殊な仕様がある。

①一つのバッグに荷物を入れられるのは一人だけ。

②荷物を入れた人しか荷物は取りだせない。


 つまりマジックバッグに荷物を入れたままで入れた人が亡くなれば、中の物は二度と取り出すことが出来なくなるのだが、そうなるとその荷物は二度とこの世界に現れることは無いのだ。


 マジックバッグを他人に譲渡するには、中の物を全て取り出し、バッグを裏表に引っくり返して魔力を通しすことでリセットする必要がある。

 その手順を踏まずに別の人が裏表に引っくり返すと、中に入れた物は二度とこの世に取り出すことが出来なくなる。


 そんな面倒くさい設定を付与したのは、恐らくアイテムボックスの隠蔽の為だと考えられる。

 セキュリティ対策にしても手が込みすぎだ。


 こうなると、居るか居ないか知らないが一番望ましい犯人はアンチマジックバッグの人達だろう。

 例えばマジックバッグを所有出来ない運送業の人達の仕業でした、と言うオチが平和で良いのだが。

 でもこれだけ大掛かりな事が出来るのなら、マジックバッグだって購入出来ただろう。


 今のところ何一つ物証が無いのだから、容疑者さえ絞り込めない。

 正直この仮定の話をしているだけでもストレスが溜まってくるのだ。


「山に寄り道するのは構わないが、単独行動は禁止だね。

 ルケイド君、オリビアさんの二人は絶対として、他に行くなら山に詳しい人を一人は連れて行くべきだね。私の心当たりに頼めるか聞いてみるよ」


 ライエルさんなら大勢の知り合いが居るだろうけど、俺の知り合いの冒険者ってアンバーかビリー、あとはマーメイドの四人ぐらいか…随分と少ないな。


 確かサーヤさんは山に詳しいと言ってたから、月一回のお付き合いだと思って四人と同行するのもありかな。

 彼女達も銀貨級だからそう足手まといにはならないだろうし。


「準備もあるだろうから、五日後ぐらいに調査に出発してもらおうかな。

 本当なら私も行こうと言いたいが、そんなにギルドから離れる時間が取れないからね」

「来てくれない方が良いんで助かります」

「相変わらず君はハッキリ断るなぁ。」


 両手を上げてヤレヤレと溜息をつくが、それ程嫌がった様子ではないようだ。


「じゃあ、その話はそれぐらいで構わないかな?」

「そうですね。現地を見ない限りはどれも仮定の話に過ぎないですし」

「そうだね。それなら私はさっきの事業案の話を商業ギルドに伝えに行こうかな。

 雨の事さえ抜けていなければ良かったんだけどね。

 後は予算だが、それは君達冒険者に頑張って獲物を狩ってきて貰うしかないからね」


 ライエルさんは今から急遽商業ギルドへと向かうらしく、カウンターでその話をするとミランダさんを筆頭に受付嬢達が慌てていた。

 思い付いたら即行動って良いように思えるけど、偉い人に予定外の行動に出られると他が迷惑するから程ほどにしないとね。


 俺もマジックハンドの件で商業ギルドに出向くようにバルドーさんから言われているし、担当者も教えられてるから行かない訳にはいかない。


 この後ギルドで少しお喋りして、ライエルさんとは別々に行こうと思っていたら、

「勿論君も一緒に来るんだよ」

と襟を引っ張られたのだ。なんて横暴なギルマスだよ。


 連行される俺にエマさんが手を振ってくれたので俺も手を振る。こう言う人が居てくれると癒しになるんだよね。

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