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第71話 お誘いの許可が出ました

 『エメルダ雑貨店』が多忙でマジックハンドは製作出来ない為、商業ギルドにアイデアを販売するとバルドーさんが決定した。

 だが、商業ギルドがどうやって発注する工房を決めるのかが分からないので、理解は出来ても個人的には納得出来ない。

 そこで各工房にマジックハンドを作らせて、コンテストを開く案を思い付いた。


 実現可能かどうかはかなり不透明であるが、他のイベントと抱き合わせで開催すれば案外行けそうな気がしてきた。



「コンテストのアイデアを出すのは、商業ギルド登録しているバルドーさんかケルンさんにお願いして良い?

 俺は登録してないからダメでしょ?」


 悪いが俺は商業ギルドには関わりたくない。

 と言うより、某副部長に極力会いたくないだけだが。


「あのなぁ、オマエが説明せんことには話が上手く伝わらんだろうが。

 とは言え、気持ちは分からんでもない。

 紙をやるから、オマエの考えを書いてくれ。書けたら提出しに行ってやる」

「すみません」

「はぁ、なんでオマエが冒険者やっとるのか儂には分からん。」


 ガシガシと頭を掻くバルドーさんに、前にも言ったけど元々は身分証明書の為で、今はライエルさんに絆創膏の研究所の設立を持ち掛けられるぐらいに名を上げる必要があるんだよ、と説明しなおす。

 バルドーさん達が名を上げろと言ったのは忘れてるのかな。


 でも、今になって思えば別にライエルさんじゃなくて、商業ギルドに持って行っても問題無いんだよね。

 それにもし医療系のギルドが存在するなら、そっちに持って行っても良いんだし。


 医療と言えば、医学の進歩の為にリタを人柱にして解剖をさせようって話をレイドル副部長にして、王都に話を持って行くってことになってるけど、あれからどうなったかな?

 その話をしてからまだ一週間だし、王都に手紙が届くのにも時間が掛かるはずだから、まだ動いていないかも。


 解剖するのは別にリタじゃなくても良いんだけどね。

 と言うか、リタの魔力が多いのならもっと魔力を有効活用する方法はないのかな?


 魔道具を動かすのに魔石が必要だけど、魔石の代わりに魔力を供給させるとか出来たらガシガシ働かせてやるんだけど。

 それか風の魔法で風車を動かさせて、小麦の製粉とかの強制労働でも良いんだけど。


 風の魔法?…確か船を動かすのに使える人が居ると良いんだよね。

 そう言う人の発掘も積極的にするべきなんだろうけど、この国ではやっていないのかな?

 才能があっても気が付かず人生を終えるとか勿体ないよね。


 おっと、今は商業ギルドに出す書類に集中しなきゃ。

 とにかく人を集めるイベントを開催して、マジックハンドの製作費を捻出出来るようにしなきゃ。


 羊皮紙と格闘しながらアイデアを書き連ね、バルドーさんに託す。後は商業ギルドがこの案に乗ってくれるのを祈るだけだな。


 だが考えてみると何かおかしい。なんで俺がイベント企画なんかしなければならないのだろう。

 それも冒険者ギルドと商業ギルドの両方向けに。

 ライエルさんにはゴマをする必要があるからまだ理解出来るが、マジックハンドの為にそこまでする必要があるのか?


 ま、ボツになっても俺の損にはならないからどう転んでも気にしないことにしよう。 

 手紙を持って出て行くバルドーさんを見送り、これでやっと石鹸作りの方に顔を出せる。


 実験室となっている物置小屋に入ると、ルケイドとエリスちゃん、それと奥様ネットワーク関係と覚しきご婦人が一人。

 作業スペースを考えると、この人数で限界だな。


 ルケイドの手元には何かのグラフを書いた羊皮紙がある。

 俺の顔を見るとルケイドが明るくニカッと笑った。

 

「ルケイド、おはよ~。調子はどう?」

「クレスト兄、おはようございます。

 濃度の管理をするのに、計算するのは手間だから表を作ってたとこです」


 なるほど、水溶液の濃度管理を一々計算するのは面倒だしな。さすが転生者と言うところか。


「ルケイド様はお若いのに、良く頭が動きますよ。作業が捗りますわ」

とご婦人がルケイドを褒めるが、褒められた側は微妙そうな顔をしている。

 その気持ちは良く分かる。

 教育レベルの格差が出ているだけで、自分自身の努力の結果と言い切れないからね。


 ところで灰の混ざった水はアルカリ性になるのだが、リトマス試験紙もBTB溶液も無い。

 リトマス試験紙は苔みたいな物が材料になるらしいが、そんな物を探す術も無ければ見つけたところで試験紙に加工する方法も分からない。


 だから灰を溶かした水のアルカリ度が計測出来ないのだ。現状で可能なのは、アルカリ度の管理ではなく投入する材料と水の量だけだ。


 ルケイドは水の量を一定にして、灰の量を変化させて灰汁のパターンを変える作戦に出たようだな。

 大量生産に入ると、材料の無駄は極力減らさなければならないからどの程度の濃度で石鹸になるのか調べるつもりのようだ。


 しかし、石鹸作りって灰汁に油を混ぜてずっと加熱したり掻き混ぜ続けなきゃならないんだよね。

 しかも色んなパターンを同時に試作しているので、一つずつ混ぜていくのは大変だ。

 なのでバルドーさんが五列×五列で二十五個のの掻き混ぜ棒を取り付け、ハンドルを回すと同時に掻き混ぜ棒がクルクル回る装置を作ってくれていた。


 これで一度に二十五パターンのサンプルを作ることが出来るようになった。

 ちなみにサンプルを作る為の容器のサイズは直径八センチ、深さ五センチ程の子供用スープカップを仮として使用している。(専用の容器も発注済み)


 このスープカップを湯煎して加熱、保温する為の、高さの低い鍋を用意して貰った。

 この国でも鉄のリサイクルは意識されており、側面が大きく凹んでしまったので鋳溶かす直前だった大きな寸胴鍋をゲットして、不要部分をカットしてちょうど良い高さの湯煎用鍋に改造したのだ。


 温度計は熱で体積の変わる魔物の液体を使用した物が実用化されているらしいが、正確さは不明。何の液体かは企業秘密らしい。


 変なところで転生者のもたらした知識が活用されていて、温度計も氷点がゼロ度、沸点が百度となっているが、ルケイドが言うに個体差が激しいのでおおよその目安にしかならないとか。


 モブ要員の奥様ネットワークのご婦人にもルケイドの知識が教えられているようで、酸性とアルカリ性の理解、中和について理解が出来ているようだ。


 今のところ、石鹸の研究に関してはルケイドに丸投げして問題は無さそうだ。

 トップは二人居ない方が良い。ルケイドには元々石鹸と紙を作る理由があったので、俺が前に出なくても勝手に進めてくれるだろう。

 目立ちたくない俺には非常に有難い存在だ。


 だが彼も一応は冒険者だ。ずっと研究三昧の生活をさせる訳にもいくまい。秘密の共有が出来そうな彼なら俺とパーティーを組んでもそう差し支えは無いだろう。


「なぁ、ルケイド。研究を続けてくれるのは有難いんだけど、たまには冒険者としての活動もしないか?

 俺、魔石の確保にも行きたいんだけど一緒に行かない?」


 デートのお誘いじゃないんだから緊張する必要なんて無いのだが、断られるとショックだ。


「クレストさん、ルケイド様はお貸し出来ませんわよ」


 モブ要員のご婦人がルケイドより先に口を開いた。アンタにルケイドの管理を任せた記憶は無いのだが。

 しかも俺には『さん』付けで、ルケイドに『様』付けで呼ぶ待遇の差。

 まさかルケイドの親衛隊気取りなのか?


 ご婦人の反応に苦笑しながら、

「チャムさん、研究は楽しいけど僕も週に一度ぐらいは外出したいですよ。

 クレスト兄が資金を出してくれてるからこうやって研究出来てるけど、生活費も稼がないといけない訳だから」

とルケイドがやんわりとチャムさんに訂正を容れる。


 俺を褒めつつ勤労意欲を示すとは、まだ十五歳の割にやるじゃないか。

 でも冒険者なのに、週に一度のペースで依頼を請けるのが適切なのか?


 銅貨級、大銅貨級の冒険者は殆どがその日暮らしの生活をしているので、生きていく為にもほぼ毎日依頼を請けないといけないのだが。

 彼は家がある分、ラクな方なんだろう。


「クレストさん、くれぐれも危険な場所に連れて行ったり、危ないことはさせないでくださいよ」


 アンタはルケイドのオカンか?

 リスク承知でリターンを得るのが冒険者ってもんだろうに…と俺が言うと、説得力に欠けるのが辛いところだが。


「子供の頃から管理の為に山には良く入っていましたから、僕もそれなりに動けるのでそんなに心配しないでください」


 冒険者になるのをやめさせようとする母親と、その母親を説得しようとする子供の会話を見ている気がしてきた。

 心配するなとは言わないけど、決めるのはルケイドだし。

 こう言う場合って、このご婦人にもリターンを与えると考え方が変わるのかな?


「魔石を採ってくれば魔道コンロも使えるようになるし、お肉も食べられるからね。

 折角だから関係者皆で焼き肉パーティーでも開いてみようかな」

「ルケイド様、週に一度と言わず二度…三度までは冒険に出ても構いませんわ。

 クレスト様、月に一度はパーティーを開いてくださいね。

 それと魔道コンロは早めにお願いします」


 週に三度って普通の冒険者と変わらないんじゃ?

 焼き肉パーティーを開くのは福利厚生の一貫だと思えば問題ないが、月に一度は多い気がする。

 新年会、忘年会、お花見にビアガーデンみたいなものだと考えれば、年四回程度の開催が妥当じゃないかな。


 魔道コンロはカセットコンロみたいなものなので、薪が不要なので俺も使いたい。

 燃費やランニングコストがどれぐらいなのか知らないので、大量に魔石が必要だと言われたら要検討に変わるかも知れないが。


 それにしても、ここまで見事な掌返しは初めて見たが、これで堂々とルケイドを連れて魔石狩りに出ることが出来る。

 後は一日の狩りでどれぐらいの魔石を得ることが出来るかが問題だ。


「チャムさん、月に一度はお約束出来ませんけど、年に四回は折を見て何か会をやりましょう。

 魔道コンロは前向きに検討します」

「…ケ…チっ…分かりました。それで妥協します」


 今ケチって言ったよね?

 リミエンに来てから初めて言われたよ。意外とハートに傷付くなぁ。


「パーティーじゃなくて、レストランでの食事会ぐらいなら毎月の定例会でも良いけど」


 一人あたま銀貨五枚なら二十人で大銀貨十枚。何人が参加するか分からないから、大銀貨十枚を補助して不足分は参加者で割り勘すれば良いだろう。


「本当ですか! やだぁ嬉しいわ、さすがクレスト様、太っ腹ですっ!」


 自分に利が有れば味方になってくれるタイプなんだろうけど、この人を甘やかして大丈夫かな…?

 やっぱり女性の扱いは難しいわ。


「クレスト兄、何を狙う?」

「俺、この辺りのことは良く知らないから。

 最初はオークぐらいかな」

「オークは害獣だからね。肉も美味いし。

 でも群れを見つけないと割に合わないんだよね」


 一般的に魔物は強い程魔力の多い魔石を持つが、その反面で繁殖力が弱い。故に人里近くには弱い魔物が多く棲息するようになる。


 強い魔物を求めて遠出をするか、近場で弱い魔物を数多く狩るかが悩ましい。

 魔石自体はかなりの数が供給されているので、資金力さえあれば魔石に困ることはない。だが自分で入手出来る物を購入するのは負けた気になる。


 常時依頼が出ていて、そこそこ強くてそこそこの数が狩れる魔物が居ればよいのだが。

 オークは常時依頼対象だけど、強くはない。もう少し上のランク…あれ?…それってどこぞやの衛兵隊長が言ってたオーガのクラスになるのか?


 確か大銅貨級ならオーク、銀貨級ならオーガって言ってたな。

 ルケイド、オリビアさんとパーティーを組んだら銀貨級パーティーになるならオーガ、大銅貨級になるならオークにしよう。


 だが待てよ。俺は武器も決めていないし、鎧もまだ完成していない。こんな状況で狩りに出ても良いのだろうか?


 折角だから、バルドーさんに何か武器を作ってもらおうか。木刀ならこの工房でも創れるし。

 ついでにメリケンサックも発注しよう。


 でもそれって魔物を相手にする武器なのか?

 ゲームだと初期に装備する『ひのきの棒』や『鉄の爪』クラスの武器のような気がするんだけど。

 けど、この手の武器って毛皮に傷を付けずに倒せるからアリじゃないかな?

 さすがに顔はマズいぜ、だけだね。


 骸骨さんクラスが持てば、こんな武器でも聖剣とか聖拳とか言われるレベルになるんだろうけど。


 ルケイドは片手剣の盾、又は両手剣を使い、戦闘中は常に強化スキルを発動することが出来るらしい。

 スキルのお陰で体格の不利をカバー出来るのはありがたい。

 それに『土属性』魔法も使用可能と言うのも、彼を仲間に誘う上でポイントが高い。


 オリビアさんが『水属性』魔法と『火属性』魔法の適正を持つらしいので、野営ではルケイドに竈を作ってもらい、オリビアさんに水と火の番をお願いしよう。


 俺は属性の付く魔法の制御にはまだ自信が無いので、無属性魔法しか使えない態を装うことにしている。

 なんか冒険中は俺が一番役立たずな気がしてきたのだが、多分気のせい?


「俺の武器を発注してくる。

 鎧と武器の両方揃ったら、もう一人魔法使いが仲間にいるから三人で狩りに行こう」

「じゃあ武器が出来るまでは僕は商業ギルドで割の良い依頼を請けるよ」


 何だって!? 商業ギルドの方がソロだと割が良いのか…知らんかったわ。

 でも商業ギルドには行きたくねぇな…くそ、あのプロレスラー議員擬きめ。

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