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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第1章 アレとコレ三つを混ぜたらこうなる
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第9話 全滅?

(グハッ!)


 ゴブリラの右脚でシュートを決められたサッカーボールの如く石壁へと激突した俺は、潰された蛙のような声を出し…いや、声を出してはいないが、まぁそんな感じだ。


 二つの魔石がスライム液の中で大きく揺れた。ある意味これがスライムの脳振盪だろうな。


 ポトリと地面に落下した俺を追い打ちをかけるようにゴブリラが拾い上げると、反対側の壁に投げ付けた。サッカーの次は野球かよ!

 体感時速二百キロメートルオーバーで石壁にぶつかれば、鋼鉄化した外皮であろうと呆気なく潰れてしまう。

 見た目は某ゲームキャラのメタリックなスライムに似せているとしても、中身は魔石とスライム液が詰まっている。さすがにそれらまで鋼鉄化することは不可能だ。


 何度となく執拗に投げ付けたられた俺の体が、このダンジョンの石壁のあちらこちらを少しずつ壊し、部分的に崩落もしている。

 新しい魔石を防御特化に割り振ったお陰なのか、辛うじて意識は残っているが、あと何度か攻撃を受ければこの俺は確実に死ぬだろう。


 ケンとタクに視線を送る余裕すら無い。ここで全滅するのか…。


 そして運が悪いと正にはこのことか。

 石壁に凭れてヨロヨロと身動ぎすると、その壁が上の方から崩落を始め、俺はあっという間に落ちてきた石の下敷きになってしまったのだ。

 真上から落下してくる大量の岩石を、俺の全方向カメラはまるでハイビジョン撮影のように鮮明に写しだす。その恐怖に俺は為す術が全く無かったのだ。



 俺はケンだ。

 ウィズの意識が朦朧状態なので、とりあえず暫くは俺視点にスイッチするぞ。


 ウィズがしつこくゴブリラの顔面に攻撃を繰り返した結果、奴の額をパックリ切ることに成功したものの…そのせいでウィズは激怒したゴブリラに野球のボールのように何度も壁にぶつけられている。


 あの状態でまだ息絶えていないのは驚嘆に値するが、それもいつまで保つか…。

 ウィズが言葉通りに体を張って作り出した時間のおかげで俺の全身武器化は完了して一本の剣の姿に変身しているし、タクの触手も準備は出来ている。

 だが防御・撹乱を担う筈のウィズが既にボロボロになっている今、俺とタクのコンビネーションだけでゴブリラに立ち向かうことが出来るだろうか?


 もし今から俺かタクのどちらか一人でもこの場から逃げ出すことに成功すれば、また分離して仲間を増やすことで再起は可能だ。

 そして今の俺達よりもっと強くなってリベンジすれば良いのだから。ウィズの編み出したデュアルコア化した四人でかかればきっとゴブリラを倒せるだろう。


 だが残念ながら、ここはゴブリラを斃さなければ脱出することの出来ないボス部屋だ。


(いきなり詰みだな。なんだよ、このくそゲーっ!)

(ゲームじゃない。これはリアルだ。諦めろ)


 触手を出してペチペチと床を叩きながら調子を見ているタクの声から、緊張していることが窺える。勿論俺もだよ。


 ゴブリラとの戦力差はマグレでは覆せない程に絶対的な差がある。それに神が奇跡が起こしてくれるのを期待するほど俺は信心深くもない。


 冷静に考えれば、今回の俺達の行動は無謀だったと言う他にはない訳だが、まだこの世界には俺という存在は残っている。

 この世界に来て初期段階でのゴブリン戦で分離した俺がまだ存命しているはずなのだ。


 別れ際にアイツは『絶対死なないように生きてやるよ』と言い残して行ったからな。

 例え今ここに居る俺達三人が全滅しても、きっといつかアイツがリベンジしてくれるだろうさ。

 距離が離れすぎてるせいで今の情報を送れないのが残念だけどな。


 そうと決まれば、やるだけやって死ぬだけだ。

 どうせ逃げられないなら、くたばるのは早い方が良いだろ?

 タクに合図を送ると、すぐに俺の柄の部分をタクの触手がクルクルッと巻き付いた。


(うげっ!)


 なんか気持ち悪いな、これ。

 変身してから誰かに持たれたことは無いし、当然触手に巻き付かれたことも無い。先に練習しておくべきだったか。


 とは言え今は緊急事態だ。そんな事を嘆いている場合じゃない。


(タク、お前に任せた!)


 俺はそう言うと、二つの魔石を攻撃特化に割り振って意識を閉ざす。こうすることで、俺は最高硬度に達することが出来る。その反面、一切の行動はできなくなるが。



 ケンが剣に変身して、魔石を二つとも攻撃特化に割り振ったことで身動き出来なくなったので、ここからは触手の俺の視点で話を進める。


 ケンを触手に巻き取った俺は、触手にスライム液を多目に流し込む。こうすることで、触手は自由自在に操ることが可能となるんだ。

 スライム液の中には魔石に貯め込んだ魔力を自由に流すことが可能で、その魔力は俺がイメージした現象を具現化するのに使用する。

 そう、今はこの触手は丈夫な鞭になるってイメージをしているのだ。


 鞭なんて大した攻撃力は無い。物理的に考えれば、質量が大きい程、そして硬い方が攻撃力は増大する。

 鞭は斬ることも、ましてや打撃で岩を破壊することも出来ない。

 武器としてはかなり中途半端な部類に入ると俺は思う。


 それでも鞭が世界から無くならないのは、それ以外に有用な機能があるからだ。

 日本の大学生だった俺は当然鞭なんて使ったことは無い。

 日本人で鞭を使ったことがある奴なんて、特殊な性癖の持ち主しか居ないだろ?


 鞭なんてせいぜいアニメと映画で見た程度なので詳しくはないのだが、鞭の一番の利点は意外性だと思う。勿論人によって違う意見もあるだろう。

 今は呑気に議論している場合ではないので、ここから生きて出られて、もし機会があれば語り合おうか。


 一本の触手を鞭のように扱い、文字通りペシペシとゴブリラに打ちつける。当然ながらゴブリラにはダメージがまるで入らない。

 だがこの攻撃はあくまで牽制に過ぎない。

 剣に変身したケンを使って、少しでもゴブリラに傷を付けることが目的だからな。ゴブリラに勝てるなんて思って無い。


 ウィズは意外と粘ったな。

 デュアルコア化なんてなんの役に立つのかと最初は思ったが、防御特化にすればゴブリラの攻撃さえ受けることが出来るなんてな。

 まあ、それでもやはりスライムボディには限界がある。奴のライフゲージは現時点でほぼゼロになっている。 


 それにしても、何ともまあこの不思議なダンジョンを壊しに壊したもんだ。石壁なんて簡単に崩れるものか?

 ここの壁は風化してる訳でもあるまいし。


(よし、攻撃に移行する)


 俺はケンを何度か振り回すと、俺を睨んでいるゴブリラ目掛けてケンを投げ付けた。振り回したのは遠心力をケンに上乗せするためだ。

 普通のナイフ投げと違うのは、投げた後も触手でナイフをコントロール出来るってことだな。今のケンはナイフと呼ぶには刀身がちょいとばかり長過ぎるが。


 しかし、ここには天井も壁もあるから、あまり大振りな攻撃は不可能だ。

 野外であれば自在に攻撃が出来るんだが、ここじゃチクチクと当てて弱らせていくってやり方しか出来そうにない。


 それでもこの攻撃はゴブリラにとって予想外だったらしく、回避反応の遅れによってあの分厚い胸板にケンが突き刺さった。これは僥倖と言えるだろう。

 ケンが二つの魔石を攻撃特化に割り振った結果とも言えるが。


 ただ、触手の先にケンを巻き付けているってことは、触手のスピードが著しく低下するって訳だ。

 もし触手をさっきみたいに千切られると、再生にまた時間が掛かる。

 だからケンが突き刺さってから慌てて触手を引っ込める。

 触手を掴もうとした両手をギリギリ躱すことが出来たので、一度体勢を整える。


 ケンは武器化している状態じゃ自力では動けない。ゴブリラが邪魔だとばかりに一度踏ん付け、ポイッと投げ捨てた。


 よく考えてみれば、ケンは誰かに持って貰わないと役に立てないような能力を磨く前に、違う能力を磨く方が良かったよな?

 でも、もし変身が出来るのなら剣に変身したいってロマンはよく分かる。俺もケンと同じ俺だからな。


 さて、銀幕の中で戦う考古学者ならこの場でも上手く立ち回ることが出来たかも知れない。

 でもこの状況はスライム対ゴリラだぜ?

 考古学者対プロレスラーより悪条件だと思う。


 ウィズはまだ息があるな。でもあれじゃろくに動けないだろう。鋼鉄化した外皮が破れてスライム液が滲み出ていたからな。

 今は崩れた岩の下敷きになっていて応援は頼めそうに無い。かと言って俺の触手じゃゴブリラを倒すことは不可能だ。

 ウィズの言うクアッドコアに進化してから挑めば、もっとラクに戦えたかも知れないが、今となっては全てがアフターカーニバル。


 今の俺達じゃゴブリラには手も足も出ない。

 二つの魔石を触手制御に特化させれば少しは戦えるかも知れないが、回避が出来なくなるから一撃KO確定だろう。


 まぁあれだ、弱肉強食の世界で今回は俺達が弱い立場に回っただけの話だ。特別なことではない。自然の摂理の一つに過ぎないんだよ。誰も気にすることじゃない。


 だから俺は回避を捨てて二つの魔石を触手制御特化に割り振った。触手を一本追加して二本の触手で反撃と行こう。

 ヒュンヒュンと音を立て、複雑な軌道を描いた鞭はゴブリラの躰を時折強打する。バシンッと痛そうな音が何度も響く。しかしゴブリラはまるで蠅でも追い払うかのように触手を払い除ける。


 そんな一瞬のスキを見つけてケンを掴み取ると、空いた触手をゴブリラの右脚に巻き付け、強く引っ張ってバランスを崩そうとした。

 そしてケンを持つ触手は背後から頸部を狙う。脚に巻き付けた触手は千切られることを覚悟で囮にしたのだ。


 予定通りゴブリラは触手を両手で掴む。


(ヨシッ!)


 狙いを付けてケンを背後から突き刺そうとした瞬間に、ゴブリラは突然触手を掴んだまま俺本体に向かってショルダータックルの姿勢で突進を始めたのだ。


 まるで背後からの攻撃なんてお見通しですって感じだった。単なる偶然だったかも知れないが。

 目測を誤ったケンはゴブリラの頸に切り傷を付けたものの、致命傷には至らなかった。

 そして回避の出来ない俺はゴブリラのキックをもろに受けて石壁へと激突した。その後で二本の触手をブチブチと細切れにするサービス付きだ。


 石壁に打ち付けられた俺の体は即時制御不能となった。魔石は無事のようだが、外皮が避けてスライム液がポタポタと垂れ流しだ。まるでお漏らしだな…。


(あっちはまだ動けないのか? こっちは駄目だ)


 時折崩れた石の下敷きになったウィズが居る辺りで石が動く音がしている。音だけで判断するなら、単にバランスの悪い石が崩れているだけに思える。


 きっとゴブリラもそう思っているだろう。


 だが情報をリンクしていた俺達三人は、俺達を全滅に追いやり勝ち鬨の雄叫びを挙げているゴブリラと違う。その時ウィズがやっていたのは…。

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