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第68話 料理を学びたい…そう言うと聞こえは良いけど

 それにしても、今日は濃い一日だったな。

 レイドル副部長に会って家の鍵を受け取り書類にサインして引き渡しが完了した。これで完全に我が家が確保出来たことになった。

 レイドル副部長の強引な値引きで土地込みピッタリ大銀貨一万枚の我が家だ。


 コックがメインだと言う二つ名持ちのブリュナーさん、新人メイドのシエルさん、そして新人家庭教師のオリビアさんを我が家に迎えることも出来た。

 お昼はバタバタしてたから屋台飯だったけど、晩御飯からはブリュナーさんが腕を振るってくれることになっている。


 家具屋でベッドを決め、荷馬車で運んで貰ったら前輪が舵を切れないから敷地に入れないと言う馬車の不便さを再認識。


 現代知識で魔改造した馬車を作ることを決意する。操舵装置はラック&ピニオン形式でクリア出来ると思う。自在継ぎ手も俺の頭にインプットされているから問題無し。

 タイヤはランフラットタイヤみたいに…あれも空気ははいってるからダメか。魔物素材でパンクしないタイヤを作ってもらうするつもり。


 肝心なのはサスペンション。板バネとコイルバネだけでは振動の吸収には限度がある。

 だからオイルを使ったショックアブソーバーを使用する。

 加工精度の問題はビステルさんにお任せすれば解決するんじゃないかと安易に考えている。

 彼女の気が乗らないなら、彼女専用の馬車を作る事を餌に釣るつもりだ。


 問題は操舵装置とサスペンションの固定だ。現在主流の馬車の木製フレームでは強度と重量増のため実現不可能だから、鉄のフレームが必要となる。

 そこで考えたのが、バギー車みたいな鉄パイプのフレームを作ること。

 規格化されたパイプと継ぎ手を使用すれば、プロに丸投げすれば意外と簡単に作れるんじゃないかとこれまた安易な丸投げだ。


 後は鉄パイプの工房を探し、フレーム製作を頼むことから始めなければいけないが、これに関しては自分で動くつもりだ。

 何でもかんでもブリュナーさんにお願いするのでなく、ブリュナーさんには石鹸関連の仕事を取り纏めて欲しいのだ。

 決して馬車作りの方が楽しそうだ、とか言う個人的な都合は半分しか無い。


 そのブリュナーさんにはもう一つ大きな仕事、我が家の改築を任せている。

 レイドル副部長が自信を持ってお勧めするガルラ工務店に施工してもらうのだが、俺は主に方針だけ話しをして後はブリュナーさんに押し付けたのだ。

 本人も楽しそうにやってるし、壁をぶち抜くなんて話もしてたけど、完成形を知らないので一体どうなるのか楽しみだ。


 他にも革ジャンとストレージベストの確認をしてきた。

 一番の収穫は何と言ってもビステルさんと知り合えたことだ。

 金属加工特化のスキル持ちの彼女なら、俺の無茶な要求にも応えてくれるだろう。


 そのビステルさん関係で予想以上に時間を食ってしまって帰りが遅くなった。

 家族皆が心配しているだろうな。

 俺の中にはブリュナーさん、シエルさん、そしてオリビアさんも入っている。


「ただいま戻りました」

とドアを開けると、スリッパを履いたシエルさんが飛んできて、

「旦那様、お帰りなさいませ」

とお出迎えをしてくれる。


 実は我が家では土足禁止なのだ。やっぱり家に帰ったらポーンと靴を脱いで上がりたいでしょ。

 最初は家族全員がなんだそれ?って顔になったけど、この気楽さがすぐに分かり適応してくれた。

 こうなると畳が欲しくなるが、商業ギルドの取扱いリストには無かったんだよね。


 貿易商のウィンストさんに違う大陸の情報を教えて貰うのも有りだと考えている。

 椰子の実を大量に運んで貰う計画は既に水面下で進行中だが、こうも欲しい品物が増えてくるとマジックバッグが幾つあっても足りなくなりそうだ。


 だがウィンストさんだけを優遇すると、彼に敵対する者が何か仕掛けて来る可能性もあるから難しい。

 マジックバッグ自体が高額商品なので、奪おうとする者が出てくるかも知れないのだ。

 そこらの賊に襲われても返り討ちに出来るぐらいの武力が無ければ、マジックバッグを持っていますと公表しない方が良いのだ。

 貿易船に乗る気があって、めちゃくちゃ強い人が雇えないかな?

 

 なんで貿易の話になったんだっけ?

 土足禁止の話からだったな。畳は無理だけど、コルクのマットとカーペットを敷き詰めたから素足でも冷たくない。寒冷地じゃ無くて良かったよ。


 でも小上がりになっていないから、大雨で浸水しないか心配だな。


 そんな考えごとは厨房から漂う良い香りですぐに消し飛ぶ。

 ニコニコ顔のブリュナーさんがエプロンを掛けて出て来ると、

「親方様、夕食の準備が整いました。

 家族全員で頂きましょう」

と食堂へ案内される。


 そこにはもうロイ、ルーチェ、オリビアさんの子供組が涎を垂らしそうな勢いでスタンバイしていた。


「オリビアさんも今夜は一緒ですね」

「ブリュナー様の夕食を戴けるなんて夢みたいです」


 そんなにか! 俺も早く食べたくなったよ。

 でもその前に手洗いしなきゃ。


 食堂は厨房の隣にあり、ドアの形の空いた壁で仕切られているだけなので、本来ならサービス用のワゴンに乗せてテーブルまで料理を運ぶことが出来たのだろう。


 だが俺が土足禁止にしてカーペットを敷いたので、ワゴンは使えない。シエルさんには申し訳ないがお盆に乗せて往復しながら運んで貰う。


 食堂には二脚の四人用テーブルを並べてあるので、家族六人でも余裕がある。

 シエルさんが手早く隣の厨房から料理を運んで配膳を終わらせたところで、ブリュナーさんとシエルさんにも座って貰う。


 本人達はメイドとコックが主と同じテーブルに付くのは無いことです、と言って最初は断ろうとしていたけど、その意見は却下した。

 だってウチは貴族でも偉い人の御屋敷でもないのだから、そんなの気にする方がおかしい。


 そんな一悶着も収まったところでブリュナーさんが、

「皆様が揃ったところで、ひと言。

 親方様、このたびは私共のような至らぬ者をお雇い頂き誠に有難く存じます。

 私は料理、財産管理、商会の立ち上げ及びロイ様の剣術指南役として。

 シエルさんは家事全般及び私の補助役として。

 オリビアさんはロイ様、ルーチェ様の教育係及びパーティーメンバーとして。

 それぞれの立場から親方様のなさりたいことを全力でサポートしていく所存に御座います」

と決意を語った。

 シエルさん、オリビアさんもその通りと頷く。

 そこまで言われるとこそばゆいな。でもここでおちゃらけた対応はすべきではないのだろう。


「ありがとう。三人の決意、素直に受け取らせて貰うよ。

 俺は故郷を捨て、何の当ても無くこの街に流れ着いたんだ。

 皆の忠誠を受けるに足る人間とは思わないが、これから皆と過ごし、教え、教えられる関係を続けるだろう。

 立場が違えば優先すべき物や考え方も違うだろう。

 俺が間違ったことをするかも知れない。

 皆は俺を正しく導いてくれる道標、そして癒しの場となって欲しい。

 そしてロイ、ルーチェ、二人は俺の弟と妹だ。

 遠慮無く甘えて欲しい。


 じゃあ、ブリュナーさんの心の籠もったご飯を頂こう!」


「おいしいっ!」


 一口サイズのサイコロステーキで作られた猫の胴体を真っ先に突き刺して頬ばったルーチェが満面の笑みを浮かべる。


 それをスタートに各自が思い思いに食事を始める。


 スープはコンソメかな。作るのは時間が掛かるはずだから、こっちに来る前に事前に準備していたんだろう。


「沁みるわ~」


 我ながらジジ臭い感想だと呆れるが、旨いより先に持て成されているという実感が沸いてくる。

 そして初めて食べたブリュナーさんの料理は、家族で食べられる幸せが調味料に追加されて、間違いなくこの世界で食べたどの料理よりも美味しいと思った。

 皆の好き嫌いも考えてくれているのでお残しも無い。


 ちなみにパン、スープ、メイン、サイドの四皿で構成されるのがこの国の中流階級以上の家庭のスタンダード。


 ブリュナーさんは気を効かせて子供達にもほぼノンアルコールの食前酒を付けてくれていた。

 あまり贅沢は教えたくないが、特別な日を演出したかったんだね。


 メインにはハンバーグのように付け合わせも乗せるし、サイドもサラダとウインナーの同時盛りにするけど。


 その付け合わせの飾り付けも綺麗だし、ロイとルーチェの皿はキャラ弁ぽくなってて遊び心もあった。

 この人を紹介してくれたメイベルさんに感謝しなきゃね。


 オリビアさんも高度な教育を受けているのだから良いところの出だと思うが、こんなに美味しい料理は初めてだと感動を表していた。


 ロイとルーチェは勿論、シエルさんも同様だ。


 食後はリビングにベターッと寝転ぶ。犬とか猫とか飼っていたら絶対乗ってくるやつだね。

 土足禁止にしたからこそ、こんな寛ぎかたが可能なのだ。


 ルーチェは早々お眠になりそうになったので、シエルさんが湯浴みに連れて行ってくれた。

 ロイがお手玉の技を披露していると、オリビアさんが意を決したような表情で、

「クレスト様、私の勤務時間を延長して頂けませんか。

 料理を学んでみたくなりました」

とお願いを申し出てきた。


 それはブリュナーさんの許可が最初に必要かな。許可されたらメイベル部長に報告か。

 でも急に何故?


「ブリュナーさん、どうでしょうか?」

とまずは当事者に聞いてみる。


「オリビアさん、今までに料理の経験はございますか?」

「ございません。料理人を雇っておりますから。ですがいずれ解雇になると思いますので」


 そう言うことか。てっきり毎晩ブリュナーさんのご飯を食べて帰りたくなったんだと勘違いしてたよ。


「料理の技術を教えることは問題ありません。冒険中に野外で調理を行うこともあると思いますし。

 幾つかの基本をしっかり覚えれば、後は慣れと応用ですからね」


 応用は当然だけど、大抵の人は慣れる前に自己流になってしまうんだよね。

 冒険中の食事もマジックバッグに詰めとけば熱々の出来たてが食べられるけど。

 お弁当とか作っておけば、配膳も何もしなくて済むからラクだな。


 おっと、思考がそれてしまった。サンドイッチは弁当のメニューに確定として、一旦置いておこう。


「親方様は如何されますか?」

「ブリュナーさんに問題が無ければ、俺もそれで良いよ。

 ついでに一緒に食べてから帰ってもらっても」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 ブリュナーさんに問題が無いならと許可をすると、予想以上に嬉しそうな反応を示すオリビアさんを見て、まさか毎晩食べて帰りたいって言うのが本音じゃないよね?と少し疑ってしまった。

 そう思う気持ちも分かるけど。


 オリビアさんの勤務時間は朝の十二時(九時)から夕方の七時(五時過ぎ)までだったのだが、本人の希望で夕方八時(六時)に延長となり、本人の強い要望により夕食も一緒に食べる運びとなった。


 一人分の夕食が増えたぐらいでは我が家の財政には大した影響はない。

 方法は不明だが骸骨さんが稼いだお金は俺のお金。

 俺がどう使おうが文句は誰も言うまい。


 ただし、基本就労時間が延長になったら契約書の修正が必要かも知れないけど、タイムカードが無いから時間管理は出来ないし、月契約だから給料は変わらないかも。

 夕食費で相殺となるかも知れないが、時給と夕食費を比べるとどちらが高いのやら。


 そのうち一緒に朝ご飯を食べている光景が想像出来るような食いっぷりを見せていただけに、少々不安である。

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