(閑話プラスα)魔が散る
前回は失敗したな。
心の弱い人間で、手頃な女を選んでみたんだけどまさか十年程であの体を捨てなきゃならなかったとは。
次は心が弱いのは当然として、もっと大きな体の持ち主に宿ることにしよう。
体が強ければそれだけ僕が生き残る確率が増える訳だからね。
核に魔素を纏っただけの僕の体は風に乗って簡単に流される。魔素は空気中では不安定ですぐに散り散りになる。
核だけになると動くことさえ出来なくなる。
そうやって僕達は封印されるんだ。
でもこの核は物理でも魔力でも破壊は出来ない。だってこの世界の理から外れた存在だからね。
どうして僕がこの世界に居るのか、僕自身にも分からない。気が付いた時には存在してたんだから仕方ないだろ?
おっと、無駄話をしているとまた魔素が千切れていったよ…ん? あれはどうだ?
「ビリー! お前は何度言ったら分かるんだ! デカいのは図体だけか!」
おー、怒られてるねぇ。いいね、いいね。そう言うの、大好きょ~。
心に傷が入る程、僕が入り込みやすくなるんだからさ。
今回の宿主はビリー・ファロスか。
体は大きいけど、ヘタレメンタルの持ち主でコミュ障気味。
うん、こいつは最高の物件じゃないか!
前回は新人いびりなんて事をやってたせいで、あの男に目を付けられたんだ。
こいつの精神を完全に支配するまでは、俺は表に出ないように…慎重に操って行こう。
と思っていた時期がありました。
今、目の前に居るのはつい先日に俺をボコボコにしやがった黒髪の男じゃねえか!
なんか俺に恨みでもあんのか!
こりゃ、こいつに目を付けられるとやべえから、早めにビリーを操作して闇討ちしなきゃならんな。
このヘタレメンタルならすぐに支配できそうだぜ。
えっ! ヘタレのクセに王都に行くのか。
それならこいつに会うことも無くなるな。
ビリー、ヘタレのくせにナイスな判断だぜ。
どうせすぐにヘタれんだろうがな。
そうなってお前が弱気になった時が、俺にはビッグチャンスなんだけどよ。
壮行会ぐらいなら付き合ってやるよ。
黒髪の男よ、てめえの面を拝むのはこれで最後になるだろうからな。
「食べ過ぎた…」
てめえ、食い過ぎは体に良くないんだぜ。
不健康な体には不健康な魂が宿るって言うぐらいだから、俺には有難いんだがよ。
「クレスト、今までありがとう」
礼ぐらいは言わせてやるよ。黒髪に会うのは最後…。
「俺はなーんもしてないぞ?」
大嘘つけっ!
俺をリタから追い出したくせに!
ヤベッ!
興奮したら体から少し出ちまった…て!
ビリーッ!
このくそボケッ!
こいつから早く手を離せっ!!
ずっと魔力を流し続けんだろうが!
アタタっ! こいつの魔力はやべえって!
まさかコイツ、俺の存在に気が付いてやがったのか?
だからわざと俺をおびき出すようなセリフを吐いて…その上で俺に直接魔力を流して来やがった…体が痺れて…
「ビリー君、今までリミエンの為に尽くしてくれたことに感謝の意を表す」
ん?気絶してたのか…いつの間にか黒髪の攻撃は終わってたのか…死ぬかと思って…
…オマッ! 何で俺の存在を知ってんだ!
…だ、脱…出…できねぇ…ギィヤャャーッ!