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(閑話)転生者同士だ、友達になろう

 僕はルケイド・カンファー。カンファー男爵家の三男で現在十五歳。当然独身だし、恋人もガールフレンドも許嫁も居ない。

 まだ結婚は考えたことは無いが、彼女の一人ぐらいは欲しいと思う。多分健全な男の子だ。


 カンファー男爵家はリミエンに十幾つかある男爵家の一つだ。

 広大な面積の山林を所有所有し、コンロッド王国の建国前から木材を扱う商売をしていた旧家である。


 そう言うと良いように思えるが、その実は屋台骨を揺るがすような自体が起こっている最中なのだ。


 木を伐採すれば植樹し、木材として使えるように育つまでに何十年か待つ必要があるのは皆さん御存知のことだろう。

 当然我が家にも植林のノウハウは伝わっているので伐れば植えるを繰り返していた。

 土作りをして植えれば後は待つだけ、それで今までは木が育っていた。


 それが何故か我が家が所有している山はここ数年、植樹をしても成長せずに枯れてしまうようになってしまったのだ。


 今のところ伐採可能な木はまだ残っているが、この状況が続くとリミエンは確実に木材不足に陥るのだ。

 そんな事態を引き起こせば我が家の信用は丸潰れ、収入の目途が立たないとか言うレベルの話では収まらなくなるのだ。


 古くから伝わる秘伝の肥料を撒くと木の成長は早く、リミエンで一番の木材生産量を誇っていた歴史を持つだけに、必死になって原因を調査したのだが結局原因は不明のまま。

 不審に思った僕も調査に行ったが手掛かりは掴めなかったのだ。


 我が家の他にも木材を扱う家は三軒あり、そちらにはそう言う被害が出ていない。

 従って何か嫌がらせが行われているのではないかと考えるのが自然だと思うが、悔しいかな証拠が掴めないのだ。


 リミエン伯爵領にはまだまだ手つかずの山が他にも沢山あり、所有者である領主にお金さえ出せば所有権を認められる。


 でも残念ながら、我が家には山を買うだけのお金が無い。欲の皮が張った両親が投資に失敗して大きな赤字を抱えてしまったのがその原因だ。

 このままではカンファー家は廃爵の憂き目を見ること間違いなしだ。


 コレは困った。

 当然両親は対策を打とうとするも、何をやっても空回り。

 兄の二人は二十歳と十八歳。ごく平凡な能力しか持たず、そんな我が家の経済状況を知って右往左往をするだけだ。 


 なんて呑気な奴らだ。

 だが悔しいかな、この二人、見た目だけは超一流でかなり女性にもてるのだ。


 母親違いの僕は二人と違って、まあそれなりの見た目に出来ていると思う。一応が付くけど貴族の家だから母親達は美人揃いだから、父親の顔の成分が多目に出てしまったんだろう。


 見た目の話は終わりにしよう。

 僕が話したいのは、僕には不思議な能力があってこと。

 その能力を使うには対象となる植物を手にして魔力を流す必要があるけど、そうすることで触れた植物の解析が出来て、毒性の有無、可食性が判るんだ。

 よく目にするような一部の植物なら、かなり詳細な情報も判る。


 あまり見ない植物でも、もっと細かな魔力制御が出来れば詳細に判るようになるかも知れないと思って訓練中。


 どんな植物でも、見ただけでも用途が分かるようになればもっと使える能力なんだけど。


 とても稀少なスキルを『レアスキル』と呼ぶんだけど、僕の持つ『植物図鑑』もそのレアスキルの一つ。

 まだ小さな頃には何の事だかサッパリ分からなかったけど、流石に町から出て活動をするようになってから色々と分かってきたんだ。


 まだ殆どの植物が詳しく判定出来なくて、

 ○○草:食用不可。用途不明。

 こんな感じの結果が出る。


 始めてスイカズラって花を見た時、誰かに花の付け根に甘い蜜があるって教えられて吸ってみたら、

 スイカズラ:蜜は食用可だが、大量に摂取すると腹を下す可能性あり。加熱処理により甘味料として利用可能。

と表示されて、僕のスキルの意味が分かったんだ。


 触れて魔力を流さないと詳しくは判定出来ないってところは少し勝手が悪いと思うけど、この世界には見ただけで物や人を識別する『鑑定』なんてスキルは無い。

 だから、僕の『植物図鑑』で植物の判定が出来るだけでも物凄いことなんだけど。


 ん? なんで僕が無いはずの『鑑定』スキルの存在を知っているのかって?

 そんなの僕が転生したからに決まってるでしょ。

 ちょっと木に引っ掛かった洗濯物を取ろうとして登ったら、枝が折れて落下して。それで呆気なく逝ってしまったんだ。


 それで女神様に会って、まんま年末ジャンボのやり方でルーレットを回してスキルを決められて…筋力強化、魔法適性(土属性)、植物図鑑の三つが与えられたんだ。

 まるで農家をやれ!と言われてるような微妙なスキル構成だろ?


 うちの山の異常を知ったのは六歳ぐらいの時で、両親がうっかり僕の前で話してしまったからだ。

 そのまま状況が改善されなければ我が家は収入源を無くし、赤字街道を一直線に走ることになる。


 だから僕は転生前の知識を持つアドバンテージを活かし、魔力操作と体作りに励んでいたんだ。

 いつでも家から出て一人でやっていけるようになるために。


 その甲斐あって、魔力は普通の人よりかなり多くなっているみたいだし、戦闘能力も中々のレベルに達していると評価されるようになった。


 ただね、やっぱりスキルってのは反則だよね。スキルの有る無しの差は、努力の結果を簡単に覆してしまうことがあるんだ。

 下の兄が我が家で唯一の剣術スキル持ちで、大して訓練していないのに、真面目に訓練を続けてきた僕に勝つことがあるんだから。


 筋力強化を使えば勝ちは拾えるけど、あまり勝ちすぎて恨まれるのも馬鹿らしいから模擬戦ではスキルは使わないことにしているんだ。


 でも転生したからと言って、この世界で特別な何かしようって思わなかったんだよね。

 貴族としての家はそのうち潰れるだろうけど、その方が気楽だし、自分が一人で暮らしていく分には不自由しない程度のスキルを持ってるからね。


 電気もガスも水道も無いから不便ではあるけど、十年以上暮らせば慣れるもんだ。

 今では特にインフラについては何も思わなくなっている。


 でも最近になって、紙と石鹸ぐらいは作ってみるか、と思ってきたんだ。

 羊皮紙が書き物にそれ程適していないのは事実だし、家族がお腹を壊した時におトイレが汚れて大変だったからね。


 石鹸も紙もどちらも原料に植物を使うから、植物図鑑が機能してくれれば何とか出来そうだし。

 ちょっと試しにやってみようと思った訳だけど、我が家には実験に回せるお金が無い。余分に薪を買うことが許されないんだ。


 それなら無駄に広いこの御屋敷なんて売り払って現金化し、ついでに爵位を返上すれば良いと思うんだよね。

 でも旧家のプライドがあるらしくて。そんな物でご飯が食べられるかって!


 ついそんな事を口に出してしまったもんだから、現在家族とは絶賛冷戦中。

 石鹸と紙さえ作ることが出来れば、地に落ちる寸前の我が家の権威も浮揚するってもんなのに。


 先立つ物が無ければ実験すら出来ない。コレはごく当たり前だ。

 貧乏貴族の三男で、人並み外れた武力がある訳でも無い僕には騎士団に入るのは無理。

 強化スキルは体の見た目以上のパワーを引き出せるから力仕事は得意なんだけど、短期間で稼げる仕事なんて無いし。


 最初は読み書き計算が出来るので商業ギルドに登録して活動してたけど、一攫千金を狙って冒険者として活動を始めて三年が過ぎている。

 薬草や珍しい植物を採取する依頼を中心に熟して大銅貨級に上がったものの、やはり討伐系の依頼を熟さなければこれよりランクを上げるのは難しい。


 そうなるとパーティーを組まないと依頼が請けられないことになり、それなりの能力しか持たず、落ち目のカンファー家ってのが知られているせいで誘ってくれるパーティーが無く。


 寝る場所としての実家があるから宿代は掛からないので、その分は食費や装備に充てるお金を貯めることが出来るけど、我が家の再興に繋がる程の稼ぎにはならない。


 片道三日の先に歩く山に自生する高価値の植物を採取してギルドに戻ってきた時のことだ。

 登録初日に銀貨級になった冒険者が現れたと聞き、これは転生者が来たのかと思ったんだ。

 だから浮草の回収依頼を請けてその人に会ってみた。


 馬車の中で自己紹介して、登録初日のエピソードを聞こうとしたけどギルマスの指示だからと言って話してくれない。

 素手で大銀貨級のパーティーを圧倒したと言う噂だから、少しは自慢するのかと思ってただけに意外だった。


「それにしても、よくこんな依頼を請ける気になったね」

と、この依頼の話を振ってきたので浮草のことを聞き、色々な植物を調べていることを話すとクレストさんが大いに興味を示してきた。


 僕が植物を調べている目的を知りたいかと訊くと、逆にクレストさんが既に始めている研究があって、その研究に参加しないかと言いだしたんだ。

 それは何かと訊くと、

「第一弾は、泡の実に変わる洗浄剤だ」


 それを聞いて思わず彼の手を取った。

 僕もその研究をしたかったのに、資金が無くて出来なかったのだ。

 製法は熟知している。お金さえ出して貰えれば必ず成功するし、ぼろ儲け間違いなしなのだ。


 石鹸を作ると言うことは、クレストさんも転生者なのかも。

 僕と違って黒…いや濃紺の髪はコンロッド王国や周辺国では珍しく、北のキリアス王国が過去に召喚した勇者がその髪の色だったそうなので、ひょっとしたらその子孫なのかも知れないけど。


 そして第二弾が頭髪用洗浄剤と食器用洗浄剤で、第三弾が羊皮紙に変わる紙だと言う。

 しかも成功させる自信があり、問題は材料供給だと言い切るんだから。

 良くわからないけど、奥様ネットワークなるものまで持っているって言うし、資金も豊富。


 コネと資金があるだけでも彼と付き合うメリットが大きいし、同じように現代知識を有する者同士だ、話が合わない訳が無い。


 転生したの?と訊く必要もない。同じ物を欲しがり作ろうとしていた僕が転生者だとバレてる筈だからね。


 それにしても、クレストさんの手はタコなんて出来ていなくて柔らかかった。とても格闘してる人の手じゃない。

 スキルの恩恵ってこんな所にも出るんだね。


 話をしてみると、チグハグな感じで危なっかしいところもある人だけど、意気投合してその日の帰りに洗浄剤の研究を行っている『エメルダ雑貨店』に紹介してくれることになった。

 この後ギルドで会議があるのを忘れてたみたいだけど。


 驚いたのは、明日家の引き渡しだと言うことだ。まだ二十歳ぐらいなのに、もうそんなに稼いでいるの?

 でも一日銀貨六枚の依頼なんか請けてるし。訳が分からない人だね。


 石鹸の開発にはエメルダ夫人がリーダーとなって、ご近所の奥様達と協力しあって進めているそうだ。それが奥様ネットワークの正体だった。


 皆で何か一つの事に邁進する、地球に居たときには体育祭や文化祭で経験したことなんだけどね。


 貴族の世界ってそう言うのは有り得ないんだ。脚の引っ張り合いなら喜んで協力するような連中だからね。


 石鹸の作り方は分かっているので、後はどの灰かを決めるのが最優先だと思いつつサンプルを見ていると、エリスちゃんの食べ残しの海藻(淡水藻)がビンゴだったのには笑うしか無かったね。


 アルカリ性の排水を大量に下水道に流すのは良くないので、中和してから流すように工夫したのが僕の最初の仕事だったかな。


 それでこの先には固形石鹸だけじゃなくてハンドソープ、ボディソープ、シャンプーに使用する液体石鹸用の材料と紙の材料の選定もしなきゃならない。


 宿題が色々ある訳だが、まずはこの固形石鹸を効率良く作る為のデータ取りから始めなきゃならないね。

 製造方法は知っていても、適切な濃度や温度等は試してみないと分からないからね。


 商品として製造するのは思ったより大変かも知れないけど、それでも皆と一緒に居ると楽しいし、これからもあの少し変わった人(クレストさん)と色々やっていこうと思う。


 あの人には僕が転生者だと打ち明けたところで何も変わらないと思うんだよね。

 「ふーん、そっか」で終わりそう。


 そう言うところが友達として付き合っていても気楽でいいんだけどね。

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