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第59話 会議開催、そして紛糾

 誘拐され掛かった子供を母親の元に届け、クイダオーレの打ち合わせに出てみれば、幹部のブルガノさんが余りにポンコツ過ぎた。


「ブルガノさん、領主様はですね、

『楽しそうだね、ウチの文官に無い発想だから試しにやってみてくれないか。

 町に出た時に、すぐ行きたい店が分かる物があるとありがたい』

と、そんな軽い感じで承認されました。

 ブルガノさんの仰りようでは、文官と同じなのでは?」


 唯一本件で領主様と話をしているエマさんが領主様の反応を教えてくれた。

 俺の考えとマッチしていて問題無い。


「エマさん、しっかりしてください。

 領主様がそんな中途半端な指示をなさると思いますか?

 それでは表面だけしか見えていないのです。

 何のために地図の利用をお認めになられたのかを考えれば分かるでしょう!


 店舗数、利用者数、時間帯別の通行人数その他諸々、エリア毎にデータを出し、記事にする最適な店を割り出せとのご意向なのですよ」


 マシンガンみたいに良く言葉が出るなぁ。

 ある意味感心するわ。

 でも、それって今必要な議論かな?


「あの、すみません。

 ギルドでの会議って初めて参加したんで分からないんだけど、いつもこんな感じで?」

「初回はよく揉めるかな」

とミランダさんが少し面倒くさそうな表情をして答える。


「こう言うレベルの話し合いなら、俺が出る意味が無いんで帰りますよ。

 てっきり食べ歩きマップの具体的な方針、エリア分け、紙面の作り方、ページ数、配布枚数、予算分配…そんな物を決定するのかと思っていました。


 それが来てみれば、領主様の裏を読む、読まないの話ですか。

 今頃になって、そんな話をするなんてアホじゃないですか!?


 そんなのは、この会議迄に直接領主様に確認しておくべき事項でしょ。


 幹部は大きな方針を決定し、部下に考えを伝え、スムーズに作業が進むようにサポートし、時にチェックするのが役目じゃないですか。

 その程度の考えさえ出来てなくて、それで幹部なんてものが良く務まってますね!」


 あ…これはやっちまったょ……な。

 気まずいぜ。


「何よ! 知ったふりして!」

「さぁ、何よと言われても。

 俺、何か間違ったことを言いましたか?


 それともこのギルドの幹部って、会議前のお膳立てさえロクに出来ないのですかね?」


 こうなりゃ、徹底的に俺は悪く無い作戦だ。

 下手に譲歩したら、このポンコツ元美人は付けあがるだけだろう。


「まあ、クレスト君、落ち着いて。

 こう見えてブルガノもデータの分析はウチで一番出来るんだ。

 深読みしすぎる傾向にあるのは確かなんだがね。


 それと、若いのに幹部の役割を良く知ってるじゃないか。リーダーの研修でも受けたことがあるのかな?


 それともキリアスではこう言う教育もしているのかな?

 幹部になれる人材が中々育たなくてね。

 良ければ君も幹部にならないか?」

「なりませんよ。

 こんなんじゃ余計な苦労をするのが目に見えているので」

「残念だ。気が向いたらいつでも言ってくれ」


 この人の考えも相変わらず分からないな。

 イケオジなんだけど、腹の中はドロッドロの真っ黒ぽいよな。


 リタと言い、ブルガノと言い、なんでこんな人達を使っているのやら。

 それとも使わざるをえないのかな?


 事情は分からないけど、食べ歩きマップを作るのにブルガノの存在は邪魔なだけだ。

 コイツが監修すると、役人の作った面白みのないガチガチの物になりそうだ。


「ライエル、このままだとラチがあかん。

 ブルガノをトップにしたグループと、クレスト…はギルド職員じゃないから…ミランダをトップにしたグループのそれぞれで食べ歩きマップを作らせてみるのはどうだ?」


 おっとブサメン幹部がしゃしゃり出てきた。

 だけどアンタね、そのやり方は禍根を残す悪手だぜ。誰が好き好んでポンコツブルガノのグループに入るかってんだ。


「こちらもかなりのアホですね。

 どうやってグループ作るんです?

 どの派閥に入るかハッキリさせたいの?

 踏み絵で馬糞を隠すんですか?

 愚策も良いとこ過ぎて、出ベソがお湯を沸かしますね。


 既にエマさんが作ったサンプルを見て領主様がゴーサインを出したんですよね。

 それを今更別のパターンを考えたから、どちらが良いか判断してくれと?


 そんな事をしたらギルドの管理能力を疑われますよ。その程度のことが分からないんですか?

 別の案を出すのなら更新時にですよ。

 その際、三パターン程を用意して選んで貰えば良いじゃないですか」


 ほんと、なんなんだよコイツらは?


「ギルドマスター、一つ訊きますけど。

 ギルドマスターがこの会議の参加者として最初に考えたのは誰々ですか?

 そして、途中から勝手に入って来たのは誰かを教えてください」

「…それ、訊くの?

 答え判ってて訊いてるよね?」


 ライエルさんが想像外の質問に少々戸惑う様子を見せる。

 その答えで幹部候補二人がこの会議の患部だと判明したけど。


「さあ?

 ギルド内部のことなんて、俺は一切知りませんよ。幹部の顔も初めて見ましたし。

 どうもギルドマスターの考えと違う方向性が示されたと思って聞いたまでです。

 適材適所って言葉はご存知ですよね。

 ブッチャケ言うと、新しい事を始めるのに古い考えの人は邪魔なんですよ。

 特に既得権益がある人とか、影響力のある人と何処かで繋がりがある人は害にしかなりませんからね」


 その後言葉に患部の二人が目を吊り上げ、汚い言葉で俺を罵るが無視する。

 患部が黙ったタイミングで、

「言い方はアレだが、そうだね。

 今回は発案者であるクレスト君の言うことに一理あると思う。

 幹部だからと言って勝手に入って来た二人は、本件には手も口も出さないでもらいたい」

と火消しに掛かってくれる。


 でもそれでは不十分だ。会議室を出てからもこの患部を抑えて貰わないとね。


「それだけじゃないです。

 それを許したギルドマスターにも、管理責任がありますよ。

 ギルドマスターは本件においては予算の承認とチェック以外に不要です。」

「フフッ、ハッキリ要らないなんて言われたのは何年ぶりだろう。

 良いだろう、ここは若い者に任せて我々年寄りは出ていこう。

 物が出来上がるまで見ない方が、後で楽しめるしね」

「ええ、期待を裏切ることはしませんから。

 ここの若手メンバーに任せてください」


 納得が行かないとブー垂れる幹部二人を笑顔で無理矢理外に引き摺りだすライエルさん。

 悪いけどここは彼に悪者になってもらおう。

 本人も最初から途中退席するつもりだったと思うけど。


 三人が会議室を出ていってから、

「クレストさん! 凄いです!」

とエマさんが俺のもとやって来た。


「本当、あの二人って頭ガッチガチで困ってたの。

 何かにつけて首を突っこんできて、口出ししていくのよ。居なくなって清々(せいせい)したわ」

「助かった~!」

「これで好きなように作れるわ」

と、ミランダさんを筆頭に十~二十代の職員達が口々に喋りだした。


 三人が居なくなった所で、

「ハイハーイ、じゃあここで仕切り直しね。

 クイダオーレの第一回目の会議を始めるわよ~拍手っ!」

と進行役を買って出たのはミランダさんだ。

 姉御肌の彼女が若手を纏めるには最適だろう。


 参加者は受付嬢全十人中の四人。二人は現在受付業務の最中で、残りの四人は興味を示さず。


 他部門の事務員など含めて男女合わせて総勢十二人のギルド職員がこの場に参加している。


「ブルガノのアホが言ってたことは完全に頭から消しといてね。

 食べ歩きマップの目的は、美味しい物が何処で食べられるかを一目で分かるようにすることよ!

 それ以外の難しいことはいらないわ」

「でも、リミエンの中にもお店が沢山あります。とても一枚の地図には入りきらないわよ」

「それは軍師クレストが考えてるわ。

 じゃ、先生、解説をお願い」


 参加者の一人から質問が出たところで、俺の考える食べ歩きマップの完成形について、彼女達に教えていく。


 まず一番大きくはエリア毎に分けること。リミエンを四つの区域にするだけでも情報量が四分の一だ。


 次は営業形態、利用目的だ。

 接待用、家族向け、デート向け、冒険者向けなど、それからランチ、ディナー、酒の提供の有無で分けていく。勿論これは分け方の一例であり、実際に調査してから取捨選択していく必要がある。


 そしてマップに載せた店の情報。星五つでの評価は不採用となったが、地図とは別のミニ冊子は制作することに。


 幾つかの情報誌のレイアウトをパクったが、言葉通りに世界が違うのだからセーフだろう。


 その紹介だけで予定の一時間が悠に過ぎた。

 後は手当たり次第に飲食店のデーターを足で集める地道な作業を割り振るだけだが、

「すみません、カップル向けのお店って、現在行けるのってクレスト・エマコンビだけになりませんか?

 これは不公平です!」

と言う発言から、誰が何処に行くのかで収拾が付かなくなったのだ。


「じゃあ、付き合いたい人が居る人は、その人を誘って行くこと。

 他の人はそれを陰から応援する。

 これでどう?」

「告白しろって言うの? 無理よ」 


 ミランダさんの言葉にときどき顔を見る受付嬢が首を振った。


「そう言う人は、

『記事作りの為に一緒に行く相手が必要なんです。

 経費はギルドから出ますから一緒に行きませんか!』

とか言って何とか説得を頑張って!」

とその受付嬢にアドバイスをすると、

「はいっ、ありがとうございます!

 やってみます!」

と笑顔で答えた。


 それを見てミランダさんが、

「じゃあ、クレストさん、記事のために」

と言いだしたところで待ったがかかる。


「ミランダさん!

 そんなのダメには決まってるわ!」

「さっきクレストさんがそうしたらって!」

「クレストさんは私のよ!

 貸しませんから!」

「独占禁止法違反でアウトーッ!」


 とまあ、こんな訳で紛糾したまま初回の会議が終わったのだ。

 ミランダさんもだけど、エマさんも「私の」なんて言われても困るんだけど。

 あと、独占禁止法はこの件には適用されないからね。


 まあ、後は班分けするなり、ペアを作るなり、ミランダさんに任せりゃ何とかしてくれるだろう…不安は残るが。


 俺が遅刻したせいもあって、ギルドを出たのは十二時(九時)に差しかかっていた。


 今日は帰りが遅くなるとロイとルーチェには伝えてあるから、それ程心配はないだろう。

 それより明日は待ちに待ったマイホーム!

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