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第50話 初顔合わせ

 商業ギルドに急いで行かなきゃならないって時に、運悪く?…いや、運良くバターを使ったホットケーキ擬きを焼いている屋台に遭遇した。


 俺の食生活改善の為に、彼女とのパイプを繋いでおこうと思い立った俺は焼けるだけで焼いて!とホットケーキ擬きを大量注文したのだった。


 一枚大銅貨六枚は正直言って高過ぎて、こんな一般市民の通る場所で売れる訳が無い。

 後で商業ギルドに文句言ってやる!と憤慨しながら脚を進める。


 夕方も過ぎて時刻は十時前(七時過ぎ頃)

もう遅い時間なので商業ギルドの一階ロビーは閑散としていた。

 ここが日本のオフィスなら省エネの為に蛍光灯を間引いて点灯するような時間帯だ。

 使用している灯りは恐らく魔道具なのだろう。ランプのような温かみのある発色とは違う気がする。


 総合受付には受付嬢の姿も無く、誰にも声を掛けられることなくメイベル部長を訪ねて『人材派遣部』の入口を潜る。

 もし俺が悪意を持った人物だったら、ここに居る人達ってヤバくない?


 商業ギルドには大量の現金が保管されているだろう。

 金庫の周りは厳重に警戒されているとしても、各部の部長やギルドマスターやその取り巻きのギルド幹部等のお偉いさんが人質に取られる可能性も在るだろう。

 これが冒険者ギルドなら、ハンパな戦力で喧嘩を売れば返り討ちに遭いそうだけど。


 とまぁ余計なお節介だと思うがセキュリティ対策が甘々過ぎるのは誰かに進言するとして、俺の顔を見た職員さんがすぐに応接室へと案内してくれた。


「済みません、遅くなりました」

とメイベル部長に頭を下げる。


「お仕事の都合もあったんでしょ?

 王都の偉い人がそちらのギルドに出向いていたって話は聞いているから」


 それは間違いなくスオーリー副団長だな。

 そんな人と新人冒険者を結び付けるのは、ちょっと考えが飛躍しすぎてると思うけどね。


 まあ、あのオッサンのことはどうでも良い。リミエンに居ればもう会うことはないだろうし。

 それよりも、メイベル部長の後ろに控える二人がメイドさん候補かな?

 まだ十代前半のスミレ色のセミロングの髪で快活そうな女性と、俺と同じか少し年上ぐらいの赤茶色のロングヘアでインテリ系の女性だ。

 どちらも掛け値無く美少女と言って良いだろう。


 でも俺のイメージするメイドさんには、ロングヘアは無かったな。

 こちらでは普通で俺の妄想が偏っているだけなのかも。

 でも髪の毛のお手入れは大変だから、ロングヘアを維持出来るのはそれなりのお金持ちだと思うのだ。


「クレストさん、こちらは新人メイドのシエルさん。

 貴方の所にはルーチェちゃんが居るから、一番若い子を入れることにしたわ」

と言ってセミロングの髪の少女を示す。


「クレスト様、初めまして。

 シエルと申します」

と少しはにかんだ笑顔で挨拶するので、俺も少しだけ頭を下げて「よろしくね」と声を掛ける。


「経験不足の面もあると思いますが、その分はベテランにカバーさせるようにする予定です。そちらは後で説明しますわ。

 それで、教育係も若い人が良いと思って。

 こちらが新人家庭教師のオリビアさんよ。

 若いけどしっかりしているわ」

と、ロングヘアのインテリ系の少女を示す。


「オリビアと申します。保護されたお子様のことなどを伺い、クレスト様ならと応募させて頂きました」


 オリビアさんにも同じように声を掛けて頭を下げると、彼女の固そうな表情が少し柔らかくなった気がする。


「二人とも事前にクレストさんの情報は持っていたようで、話は早かったわね。

 若さと誠実さを優先して決めたからね。

 それで、えー、ゴホン、若い男性へのお約束だから言わせてもらうけど、夜の「言わなくていいから!」あいてはどういのも……もう、クレストさんのイケズ!

 最後まで言わせなさいよ!

 今日一番盛り上がるセリフなのに!」


 メイベル部長がおかしな事を口に出しかけたので、慌てて遮った。

 四十代女性が頬を膨らませても誰得だからね?


 夜のホニャララの話は冗談半分、本気半分らしく、雇ったメイドを側室に迎える貴族も中には居るし、子供は産ませてお金で解決と言う貴族も居るとのこと。

 後者が圧倒的多数派らしいけど。


 勿論そんな事をするつもりは無い、と応えると、

「皆さんもそう仰りながら、いつの間にか孕ませますからね」

と複雑な表情を浮かべるのは、父親の分からない子供を憐れんでいるのだろうか。

 きっとメイベル部長が引き合わせた男性が原因で、離職した女性も居るのだろう。


 普段は少しおちゃらけた雰囲気を纏うのは、そう言う気の重い仕事への反作用のせいかもね。


「さて、クレストさんの下半身事情は置いておきます。

 それで残りのベテランは誰にしようか、と言う話です」


 メイベル部長が途中から真面目モードに一瞬で早変わりした。

 俺としては、置いておかずに捨てて欲しいんだけど。


「実はまだ決めかねているのよ。

 募集したら、たった一日で希望者が予想より多く集まって来ちゃってね」

「へぇ、そんな事があるんですね」


 誰も応募が無くて渋々って訳じゃ無いのは有難いけど、多過ぎるのも困るね。

 でも何故だろう?


「よろしいでしょうか?

 何故だろうと思われているようですが…」

とオリビアさんが発言を求める。


「何か理由が?」

「はい。ふらりとリミエンに現れて、見ず知らずの子供達を保護、ギルドの受付嬢と四人で食事に赴いた際の様子は微笑ましく、まさに仲の良い新婚夫婦のようであったと。

 不動産部のレイドル副部長と仲も良く、しかも本日試作が展示された皮剥き器と薄切り器の共同開発者では無いかと噂されております。

 そのようなお方の元で働きたいと思われるのは当然かと」


 ちょっと待てーっ! 何で新婚夫婦だよっ!

 変な噂を流すのはエマさんにご迷惑だろ!

 ただでさえロイとルーチェがパパ、ママ呼びして困ったんだから。

 それにプロレスラー議員擬き(レイドル副部長)と仲良くなったつもりは無い。


「そうだったんですか?

 私は素手で乱暴な冒険者達をあっと言う間に再起不能にした、期待の大型新人だと言う情報を聞いています。

 凄いですね!」

とシエルさん。


 黒羽の心は折ったかも知れないけど、再起不能にはしてないからね…多分。

 それとも俺の顔を見るだけで思わず内股になる程の精神的ダメージを負わせたとでも?


 ロイ、ルーチェとエマさんが仲良くしていたのは事実だから仕方無いとしても、噂の広がるのが早過ぎるだろ!

 これが娯楽の少ない中世辺りの世界の当たり前なのか?

 いくら何でもゴシップ大好き人間が大集合し過ぎだろ!


 『人の噂も七十五日』と言うから、ほっとけば落ち着くだろうけど。しばらくは外に出るの控えようかな。

 さすがにもうメイベル部長から爆弾投下は無いだろうね?


「ところでベテランのメイドですが、何か条件はございますか?

 これだけ女性が揃いますと、失礼ですが先程申したようにムラムラと来ることもありますよね。

 同意の上なら…いえ、男性の方が良いかと。

 ですが責任はキチンと…やっぱりロマンスグレーで片眼鏡とかが。

 最初は優しく扱って…経理の得意な人が良いですよね?

 アレの際には子供達にはバレないよう気を付けて」

とメイベル部長が不穏な事を言いながら、訳あり顔で俺を見る。

 と言うより、半分以上はホニャララ関係だったよね?


 だから、メイドさんや教育係の人には手を出しませんって!

 どうしてもってなったら、その手のお店をケルンさんに紹介してもらおうか…。


 この人に任せていたら、らちが明かないかも。


「それで、男性のメイド的な役割の人が執事で、家の事を纏めて面倒見てくれるのが家令とか言う方ですね?」


 この国でも確かこんな感じの召使いさん達がいるんだよね。


「そうです。

 クレストさんの財産はアレコレとおかしなことになっているようですから、しっかり管理を任せられる家令を雇われるのが良いかと」

「勿論それで構いませんよ」


 メイベル部長も俺が金持ちって知っているのか。きっとレイドル副部長が教えたんだろうね。

 ちゃんとした銀行とか無いから、お金を管理してもらえる人が居るのは有難いね。


「そちらで同意頂けたので、お薦めの候補が二名です。

 一人は元侯爵家の家令を務めていた方で四十七歳。

 特技は料理とナイフ投げ。頭の上に置いたリンゴを投げたナイフで壁に打ち付けたと言う伝説がある方です。

 応募理由は老い先短いので最後に前途有望な若者と共に暮らしたいとのことです」


 ウィリアム・テルの投げナイフバージョンか、それとも大道芸か。


「もう一方は第三王子の養育係を務められた方で四十五歳。

 特技はリミエンでは珍しい格闘技で、なんでも片手でスイカを潰せるらしいです。

 応募理由は素手で戦う人に仕えるのが面白そうだから、です。フルーツジュースがお好きなら、この方もお勧めですね」


 素手で潰した果物でジュース作らせるなよ!

 そんな二人が候補だったら、最初から選択肢が無いでしょ!


「勿論二人…「いえ、一人目の方でお願いします!絶対です!」めで…もぅっ!クレストさんのイケズねっ!」


 特技が格闘技で応募理由が面白そうとか、俺と闘う気満々でしょ!


「一人目の方って、もしかして速贄(はやにえ)のブリュナーさん?」

とオリビアさんがメイベル部長に訊く。そんなに有名な人だったんだ。


「はい、その方ですね。

 引退する老いぼれなので、お給料がなんと月大銀貨二十五枚で良い、とのことです。

 料理もプロ級ですから、実質的にコックと家令の二人を雇うのと同じ価値がありますね」

「それは嬉しいですね」


 それって、コックさんが家に居るのと同じで、毎日ケータリングサービスを利用してるみたいなもんだよね。

 ちょうどミレットさんと知りあえたところだし、これは最高の巡り合わせでしょ!


 まだ手元の資料を見ていたメイベル部長が、

「第三王子の養育係の方ですが、もし選ばれた場合には毎朝トレーニングに付き合って頂きたいとのことです…こちらの方が良いのでは?」

「無いです…それ、その人に決めたら、言うつもりは無かったんでしょ?」

「ばれてる?…ほんと、クレストさんのイケズっ!」


 マジでその人を選ばなくて良かった!

 と言うより、アンタがなんでそんな危険人物を勧めるのか訳が分からないよ!


 シエルさん、オリビアさんを雇うことに俺は反対も無く、彼女達も同意してくれたのでその場で契約書を作成してもらい、それぞれサインした。

 そして二人に「三日後から宜しくね」と声を掛けてから今日は帰宅させる。


 その後でレイドル副部長を訪ねる…何故かメイベル部長も付いて来るが無視だ…と、予定通りの日程で作業が進んでいると教えてくれた。

 つまり三日後からマイホームに住むことが出来るのだ。


 スライムから始まった新しい人生だけど、ケルンさんや各工房の皆、冒険者ギルドでの出会いのお陰で、順調に足場が出来上がって来ている感じがするね。

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