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(閑話)荒れる商業ギルド(レイドルver.+α)

 商業ギルドはその名の示す通り、この街の商業に関するあらゆる面からの支援を行うことを目的に発足した団体だ。


 例えば、新たな商売を始めようとするも、資金の面で上手く立ち行かない者が居れば、その商売の将来性を検討の上で資金援助を行うこともある。


 例えば、新たな商品を開発しているが、専門的知識の不足や原材料の調達で困ることがあれば専門家を雇ったり原材料を手配することもある。


 他にも土地、建物、流通関連等、多くの部門に分かれて様々な方向からこのリミエンを支えているのだ。


 その為には町の中での事件、出来事を収集、分析する特殊な部署も存在する。

 表向きには『経済情報部』と看板を掲げ、物価動向や作物の生育状況等の分析を行っている。

 だがそれに留まらず、不審人物、不正な取引、詐欺等の調査も行っているのだ。


 この部署から各部の部長、副部長クラスには毎日定期報告が送られてくるのだ。

 普段は大した問題は起きないものだが、時々意味の分からない問題が起こることがある。


 昨日と今日、若い男性が旧キリアス王国の貨幣の換金に訪れたと言う報告があった。

 ごく稀にそのような事も有り得るだろうが、今回はその枚数が問題であった。

 大銀貨までの各貨幣を百枚とは、一体何処からそれだけ集めて来たのかと問いたくなる程の量なのだ。


 貴族連中の中には、使いもせずに金貨を眺めて悦に入るアホも存在する。

 そう言うアホ共がその旧貨幣にこれまたアホみたいな金額で買い取るのだからタチが悪い。


 しかもその貨幣は実際には殆ど市場に流通しなかった幻の貨幣なのだ。

 それが今回大量に出回ったことで希少性と言う価値は暴落し、純粋なコインマニア達を相手にする古銭商が、その値付けに苦慮していると報告があったのだ。


 両替商は何食わぬでその古銭商に旧貨幣を従来価格で売り付けたのだから、濡れた手で小麦を掴むようにボロ儲けである。


 一体何処のどいつがそんなレア物を持ち込んで来たのだ?

 確かに他国の貨幣なら両替商でもコンラッド貨幣に両替するのは当然だが、レアな旧貨幣となれば話は変わってくる。


 現在の貨幣は資源保護の観点から純度を下げた金銀を使用しているのだ。それに対し、旧貨幣は高純度の金銀を使用している為、純粋な価値が違うのだ。


 そのような物をアホ貴族共の慰めに使わせるような無駄はさせたくない。もしまだ旧貨幣が持ち込まれるようなら、俺がそいつを捕まえてやる!


 そう意気込んでいたり矢先に、一人の青年が俺を訪ねてやって来た。

 濃い紺色の髪としては瞳…確かケルンの荷馬車に乗ってやって来て、冒険者ギルドで登録した時に『黒羽の鷲』を素手で圧倒したと言う男だ。


 なる程、これで全て繋がったな。


「…支払いは旧貨幣でも可能ですか?

 大量に持っていまして」

「犯人確保…」


 まさか当の本人が自首してくるとは予想外だったが、コイツは使えると俺の直感が訴える。

 ただの金持ちではない。話に聞く過去の勇者や魔王と同じ髪と瞳の持ち主だ。

 勇者達が復活したとは思わぬが、何かの縁はあるに違いない。


 なる程、そう考えれば大量の旧キリアス王国貨幣の出所にも合点が行く。コイツの出身地もキリアス王国だ。

 あの国は既に崩壊寸前。コイツはクーデターや内戦などに関わらず、さっさと逃げ出すのが吉と判断したのだろう。


 混乱に乗じて上手く立ち回れば、かなりの財産を手に入れることだって可能だっただろう。


 だがコイツの出した貨幣は俺の想定を遥かに超えていた。小出しに両替するにしても限度がある。

 貨幣の流通量は多すぎても少な過ぎても経済に影響を与える。故に鋳造は計画的に行われるのだが、持ち込まれた量は記録にあった鋳造量のほぼ全量ではないか。

 当時の勇者が全額を持ち逃げしたと伝えられている、幻の貨幣をそっくりそのままこのアホは入手し、俺に渡そうとしているのだ。


 一気に胃が痛みだしたが仕方ない。


 これだけの金銀をアホ貴族連中に渡すには惜しい、などと言う甘い話ではなくなった。

 これは歴史の闇に消えた貨幣なのだ。

 偶然数枚だけ出てくることはあり得るだろう。

 だが、この枚数となるとこのアホが勇者の血縁だと考えるのが妥当なのだ。

 持ち逃げした勇者以外に、このレア貨幣をこれだけ大量には所有出来ない筈なのだから。


 いや、当時は二人の勇者と一人の魔王が居たそうだ。その三人とも、このアホと同じ濃紺の髪と瞳だったと伝えられている。


 このアホはいずれの勇者か魔王の子孫で間違いないだろう。

 そして格闘で大銀貨級パーティーを圧倒した実力を持つのなら、恐らくは魔王の血筋だろう。

 

 このレア貨幣は貴族共にこれ以上流す訳には行くまい。

 鑑賞用にされるぐらいなら、無かった物にして造幣局に直接持ち込んで、新規貨幣の材料に使う方が余程有用だ。


 俺はクレストと名乗る青年をリミエンに定住させるべく、出来るだけの助力を惜しまぬことにしたのだ。


 だがコイツは武力も然る事ながら儲けを出すことに関しては天才的だな。

 不審人物として報告があった時点でマークさせていたのだが、まさかリミエンに来て早々にエメルダ雑貨店を巻き込んで新製品を作るとはな。


 バルドーとケルンが占有販売権について打ち合わせを行ったが、今後もクレストの名前がそこで出ることは無いだろ。

 あくまでコイツは裏方に徹するつもりなんだな。


 暫くはコイツを刺激せずに好きにさせておく方がリミエンの為になるだろう。

 出来れば商業ギルドの会員となって活動をしてもらいたいのだが。


 家を買わせ、メイドも雇わせた。さすがに金があるだけに躊躇はない。

 だがその直後にスラムで子供を二人保護しただと?

 一体どう言うつもりだ。その二人と暮らすつもりなのか?

 そんなことをするより先に結婚をして自分の子供を作れと言いたい。


 そう言えば、コイツはまだ市民権を購入していないな。結婚するには市民権が必要だ。第一市民権ならクレストにとっては端金で買える。

 いつか勧めてみるか。


 だが、この日のクレストの予想外の行動はまだ続いた。

 何とその保護した二人だけでなく、冒険者ギルドの受付嬢と四人で高級店『茜の空』に食事に行ったと言うのだ。


 あの店は人材派遣部のメイベルが良く利用する名店だ。格式は敢えて高くしてはいないが、家令クラスの登録者の接待にも使える個室がある。

 現在二人の二つ名持ちが登録しているらしいが、何故王都ではなくリミエンに住んでいるのかは分からない。


 どうやら『早贄』がクレストに付くようになったか。あの人は料理人としても一流クラスであるし、組織運用、資金活用に長けていると聞く。

 クレストの資産を任せるには最適の人材だな、ここは素直にメイベルの手腕を褒めるべきか。


(ヘクシュンっ! あら、どうやら誰かが私の噂をしているみたいね)

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