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第44話 子連れデート? いえ、仕事です

 冒険者ギルドで初の依頼を請けることにし、ミランダさんに遊ばれながら受注処理を行ってもらった。

 その時ちょうどエマさんが着替えを終えて二階から降りてきた。どうやら今夜の食事で食べ歩きマップのサンプル記事を作成するらしい。


 俺を見つけたエマさんが一緒に食事に行こうと提案、と言うより、どんな記事を書けば良いのか教えて欲しい、そう言うお願いを頼まれた。

 これもエマさんの業務になったのか、と思っていると周りの注目を浴びていたようで、エマさんが慌てて俺の手を引きギルドを出た。


 少し歩いたところで、そう言えばと子供達の事を思い出す。


「あっ、エマさん、一度『南風のリュート亭』に寄って下さい。子供達に言っておかないと」

「えっ、子供達?」


 エマさんが驚いて振り返ったので二人を保護したことを説明する。今日これで三回目かな?


「ふふふっ、クレストさんって優しいのね!」

とエマさんが笑う。

 その笑顔に一瞬どきっとしたけど、顔には出てないよね?


「それなら子供目線でも記事が書けるかな?

 でも今日は二人で行きたいかな」

「二人にはマナーを教えてからの方が安心出来るかな」

「あら、冒険者ってマナーとか知らない人も居るのに、クレストさんはしっかり者ね。安心できるわ」


 何故かエマさんに良い評価を付けて貰えたようだけど何故だろう?

 お店ではマナーって守るのが当然だよね。


 宿屋に到着し、エマさんを連れて二人の部屋に入るとルーチェが抱き付いて来た。置いて行かれたと不安になっていたのかもね。


「お兄ちゃん。お帰り!」

「クレスト兄ちゃん、お帰りなさい」


 おっ、ロイは意外と落ち着いてるな。甘えるルーチェの頭を撫でてやる。


「ねーねー、そのお姉ちゃんはお兄ちゃんのお嫁さんなの?

 初めまして! 私、ルーチェなの!」


 おわっ! ルーチェが盛大な勘違いしてるよ。エマさんも子供の言うことだからと気にしていないようだ。


「ルーチェちゃん、ロイ君、今晩わ。私はエマって言うの。宜しくね」

と言ってルーチェと握手をする。女の子同士だからか、とってもスムーズだね。


「エマさんは冒険者ギルドでお仕事をしてるんだよ。

 今日はお仕事の関係でエマさんと外で晩御飯なんだ。だから二人はここでご飯を食べてくれる?」

「えーっ、やだ! ルーチェも行きたいっ!」


 ありゃ、今までは良い子にしてたのに。寂しかったのかな?


「分かったわ。ルーチェちゃんとロイ君も一緒に行きましょう。

 そのかわり、私とクレストお兄さんの言うことは守ってね」

「ママ、ありがとう!」

「ママ…」


 抱き着くルーチェの背中を撫でながら、エマさんが思いっ切り顔を赤くしている。ルーチェはわざと言っているのかな?

 それともお母さんが欲しいのかな?


「パパも早く行こっ!」


 ルーチェが右手に俺、左手にエマさんを捕まえて物凄く良い笑顔になった。

 きっと両親と別れたのが寂しくて、替わりを求めているんだろうな、と勝手に想像する。

 スラムでの生活がよほど辛かったのと、そこから出てこられたと言う反動が大きいのかも。


 ルーチェの右手には俺の左手を、左手にはエマさんを捕まえた。

 その姿はまるで捕まった宇宙人のポーズだけど、俺とエマさんに挟まれて物凄く良い笑顔だ。


 俺は「仕方ないなぁ」と苦笑しているけど、反対側のエマさんが、

「ママにパパだって…」

と言って完全にフリーズしちゃったよ。

 突然そんな事を言われたら、困惑するのも当然だよね。


「クレ兄は馬鹿の振りして意外と策士。

 外堀を埋めにきた…」

と訳知り顔の様子で呟くロイ。


 おーぃ、ロイ、君は一体何を言ってんのかな?

 そんなセリフはちょっと聞き捨てならないよ?

 と言うか、お前まだ十歳のチビの癖になんでそんな言葉を知ってるのか、きっちり説明してくんないかな?


 ルーチェの前にゆっくりとしゃがんで顔を見ながら、

「ルーチェ、エマさんのことは『お姉さん』って呼んであげないと、エマさんが困るからね。

 俺のことも、パパじゃ無くて『お兄ちゃん』って呼んで欲しいよ」

とお願いする。


 あぅっ! お兄ちゃん呼びの強要なんて…これは地味に精神的ダメージを喰らうな。


「うん、分かった! マ…エマ姉、ごめんね!

 お兄ちゃん、早く行こ!」


 ルーチェが素直にエマ姉とお兄ちゃんと呼んでくれるようになったみたいで、一安心だな。


 それでフリーズを解除したエマさんだが、

「ふつつか者ですが…」

と俺に頭を下げる…まだバグは残ったままか…俺、一体どうしたら良いのよ?


「ルー、良かったな!

 父さんと母さんになってくれるって!」


 エマさんの混乱に乗じたロイがニヤリと笑って(そのように見えたのは気のせいかも)エマさんに抱き付くと、

「エマママ、早く行こっ!」

とエマさんの左手を引いてドアに向かう。


 エマママってその言い方は無くねえ?

 せめてエマお母さんって呼んで…って、そう言う問題じゃねえよ!


「…宜しくおねがいしましゅ」


 こりゃエマさんのデバッグが終わるまで、ロイにはこめかみグリグリの刑プラスお説教だな…。


 今まで過ごしていたスラムから保護されて、味方が増えて嬉しいのは分かるけど、ちょっとやり過ぎだよ。

 年頃の男女が二人だとそう見られるのは仕方ないけど、エマさんとはまだ会ったばかりなんだし。


 そりゃ、俺も男だし、可愛い女の子と一緒に居られるのは嬉しいよ。

 でも付き合っているとかそんな関係でも無いし、エマさんには冒険者ギルドの受付嬢って立場があるから、そうそう変な事は出来ないよ。



「エマさん、ごめんね」

「気にしないで!

 いきなりママなんて言われて驚いたけど…でも、私には妹が居ないから少し嬉しいかも」


 お腹いっぱいになってテーブルに突っ伏して寝ているロイとルーチェを愛おしそうに眺める眼差しは、まるで本当の姉のようだ。

 食べ歩きマップ用のメモに子供の意見が書き加えられた事は幸いだったが、エマさんには思わぬストレスを与えちゃったかもね。


「でも、ママ…悪くはないかも」


 ぽそりと呟いた声はクレストの耳には偶然入らなかった。なぜなら、

「あっ、こんなところに上客発見!」

とクレストに声を掛けた女性が居たからだ。


「メイベル部長、今晩わ」


 偶然出くわしたのは、商業ギルド人材派遣部のメイベル部長だ。軽く頭を下げておくけど、上客って俺のこと?


「デート…にしては子連れだし。

 あぁ、今日保護したって言う子達ね?

 ははぁ、アレか、目的の彼女の母性本能をくすぐろうって策ね?

 クレスト君は甲斐性があるから、子供が出来たら認知してあげるのよ!」

「ちょっ!と何言ってんですか! 訴えますよ!」

「あは、冗談よ。で、こんな場所で書き物なんて仕事してるのかしら?

 ん…食べ歩きマップ?」


 エマさんの前に置かれたメモ帳の表紙に書いてあるタイトルを見て、彼女の目が大きく見開いた。


「なんて素敵な…ねえ、それ売るつもりなのっ?

 いつ販売開始?」


 まるで獲物を見付けた猛禽類のようだな。予想以上の食いつきだよ。


「これはまだ試作の記事なんです。地図情報を載せた物は領主様の了承を得ないと作れないので。

 口頭での説明では判断付かないから、サンプルを見せて欲しいと言われたので今日ここに来たんです」

と、キリリとビジネスモードで対応するエマさん。

 ロイに遊ばれてフリーズしてた時とは大違いだね。


「でもそれでクレストさんが居るのはどうして?」

「食べ歩きマップはクレストさんの発案なので、どのような形にするかのアドバイスを貰っていました。

 子供達はクレストさんと一緒に居たかったようなので連れて来ました。

 子供達の意見も記事に反映出来るかも知れませんし」

「へえ、それは領主様も乗り気のようね。

 でも商業ギルドの職員に見られないようにしなさいよ。アイデアをパクる奴も居るんだから」


 いや、そう言う貴女も商業ギルドの人でしょうが。部門が違うからなのか、それ以上は言わなかったけど。


「メイベル部長は良くこのお店に来るんですか?」

「この店は割りと落ち着いた雰囲気のお店だから、打ち合わせの時によく使うのよ。周りがうるさいと話に集中出来ないでしょ?」

「へぇ、そうなんですか」

「興味無さそうね。いいけどね。

 そうだ、マップがある程度出来たら私を訪ねて来てね。冊子を製作する部門を紹介してあげるわ。

 飛び込みで来るより、紹介の方が確実だし良い対応してくれるわよ。

 じゃあ、お邪魔して悪かったわね」


 それだけ言うと、ヒラヒラと手を振って個室のある方へ歩いて行った。


「さっきの人はどんな人なの?」

「商業ギルドの人材派遣部の部長さん。メイドさんを二人と、この子達の教育係を探して貰ってるんだ」

「えっ! メイドさんって…もしかして家を持っているの?」

「商業ギルドに家を借りるつもりで行ったら、改築出来る物件を買うことなったんだ。それも今朝ね…」


 それから家を買うことになった経緯を説明する。

 改めて思えば考え無しと言われても仕方無いかな。


「若いのに凄いなぁ…宿に一年間泊まるなら確かに借家って選択肢もあるわね。

 冒険者もベテランになると家を借りたり買ったりするから。どうしても荷物も増えるしね。

 五日後に引き渡しなのね…休みの日に遊びに行ってもいい?」

「うん、ルーチェが喜ぶよ」


 女の子同士の方が話も合うだろうしさ。多分その時には、俺はロイとセラドンゴッコでもしてるんだろうな。


「あのさ、女の子って小さいときはどんな遊びをするのかな?」

「定番はママゴトだけど、一人じゃ出来ないわね。

 私はお花とか色々な物でアクセサリーを作ったり蝋板でお絵描きとかね」

「この子達に教育係を付けるのは早かったかな。

 もう少し遊ばせてあげたら良かったな」

「今まで生きていくだけでも大変だったでしょうね。

 メイドさんや教育係の人はなるべく若い人にして、遊んでもらったりお手伝いしたりするのがいいかもね」

「そうしようかな。後でメイベルさんに伝えておこうか。

 じゃあ、そろそろ帰ろう。遅くなると家の人が心配するよね?」

「…うん、帰ろうか。ロイ君、ルーチェちゃん、起きてょ」


 結局俺がルーチェを背負い、エマさんがロイの手を引いて宿屋に戻った。


 なお、受付嬢のエマさんは二つのギルド公認のクレストのガールフレンド扱いとなったのだが、それを知らないのは当の本人達だけである。

この後に、八時に閑話を三話投下します。

リメイク前の閑話と大きく変わらないので同日投下断行です。

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