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第40話 市民権と商売

 宿屋に戻り、ロイとルーチェの二人を俺の家族とすることを宣言した。

 俺の人生で初めて出来た弟妹だ。二人の為に玩具などを作ろうと思ったのだが、プラスチックが無いので色々と大変そうだ。


 日本で普段何気なく使用しているアイテムがどうやって作られているのか、全然知ろうとしなかったことを後悔しつつ、ファンタジー素材で何とかならないかと開き直る。


 遊び人と思われない為に冒険者ギルドに依頼を見に行こうと思ったのだが、その前に『エメルダ雑貨店』に寄って行こう。

 商業ギルドでの皮剥き器と薄切り器の打ち合わせ結果がどうなったのか、早く知りたいからね。


 店に着くと既に勝手知ったる何とやら、ガチャリとドアを開けて、

「大将いる~?」

と挨拶をする。


 馬鹿みたいな事だけど、こう言うことが出来る店があるとこの街の住民になってきてるって感じがするんだよね。


「あっ! クレストさんいらっしゃい。パパーっ!」


 嬉しそうな笑顔でエリスちゃんが出迎えてくれたので、商業ギルドでの話はうまく纏まったのだろう。

 タオルで手を拭きながら、すぐにバルドーさんが奥から出て来て軽く手で挨拶をした。


「バルドーさん、今朝方振り」

「おうょ。そう言えば家はどこにしたんだ?

 木の食器や小物ならエリスが作れるから、好きなの持って行け。

 家具屋は紹介してやる。布団もいるな。ベッドはダブルサイズにしとけ。エリスと買いに行って来い」


 家の話をバルドーさんがいきなりばらしちゃったよ。

 それを聞いてエリスちゃんは、

「何? 家って何? 買ったの? 嘘でしょ」

と信じていなかったが、基本的に冗談を言わない人なので本当だと分かると、すぐに遊びに来る気満々になった。


 けどバルドーさんよぉ、何もベッドの話なんてしなくてもいいじゃん…。


「ええ、レイドル副部長がかなり値引きしてくれたので、この近くの事故物件を。

 値段の割に広くて庭付きで最高ですね」

「うわっ、アレを買ったの…?」


 ほぉ、そんなに有名な物件だったのか。

 同レベルの物件の半値に近くてお買い得だったよ。


「事故物件って言っても建物には傷も汚れも無かったですし。

 最初は広すぎたかと思ったけど、三人で住むからちょうど良いよ」

「三人って?…やだぁ、気が早いよ…」


 こらこら、三人の中にエリスちゃんは入っていないからさ。で、あと一人は誰のつもりよ?


 隠すつもりも無いので、二人の子供を保護したことを説明する。


「貴方は底なしの考え無しのバカなのか、ただのお人好しなのか…判断は人に寄って分かれるでしょ」

とエリスちゃん。


「褒められてはいないよね?」

「さぁ? 人の道としては正しいと思うわよ。

 それをしたくても出来ないのが普通よね?」


 まあ、そうだろうね。見ず知らずの子供二人を理由も無く保護なんて普通はしないし、出来ないよ。


「エリス、母さんの手伝いをしてきなさい。

 儂は少しクレストと話がある」


 バルドーさんにそう言われると、エリスちゃんは「はーい」と返事をして奥に入って行った。

 意外と素直だったんだね。


 バルドーさんが腕を組み、

「来たのは今日の打ち合わせの結果を聞きにだろ?」

と本題に入ろうとする。

 話が早くて助かるよ。

 でも、それにプラスして『人材派遣部』のメイベルさんから聞いた市民権の事も確認しておきたい。

 この辺りでは常識なんだけど、俺は全然知らないから非常識と思われるんだよね。


「はい。それと市民権と商売の話も知りたくて」

「それなら先に市民権の話をしよう」


 バルドーさんも俺がキリアス出身でコンラッド王国の常識を知らないのだと思ってくれている。

 キリアス王国出身だから、で常識を知らなくても当然となるのは有難いんだけど、よくそんな国がまだ残っているもんだ。


 まさか他国の軍事支援を受けているとか?

 新兵器の実験場として利用されているとか?

 そんな陰謀めいたアレコレがあるなら、内戦も長期に渡るだろうな。


「最低限の事はケルンから聞いているだろうから、その前提で話すぞ」

「はい、教えてもらいました。市民権にはグレードがある事は聞いてます」

「そうか…そのグレードによって与えられる権限が違うんだ。

 まず市民権の取得だが、在住五年間、その間重犯罪なし、納税額が年に大銀貨五枚以上で第一級を購入可能となる。

 そこから更に五年、納税額が年に金貨二枚以上で第二級。

 更に三年で納税額が年に金貨五枚以上で第三級。

 更に三年、納税額が年に大金貨一枚以上で第四級」


 グレードは四段階か。ちなみに貴族はこの市民権より上のグレードになる。


「儂ら商売人で言うなら第一級は下積み時代、第二級は商店立ち上げ、第三級は繁盛店、第四級は大商店と言ったところだな。


 権限は第一級では露店と行商、第二級は小売店と自家生産、第三級は複数店舗と工場建設、第四級は国外輸出入が可能になる。うちは第二級だ。


 商売以外では第一級で結婚が可能に、第二級で妻が二人、第三級は妻が三人と子供の教育機関への入学、更に下級役員への就職、第四級は妻が四人で上級役員への就職。こんな感じだな。


 他にもあるが、覚えきっていない。詳しくは役場で聞かんと分からんな」


 これって聞けば聞くほど競争を煽ってギスギスした関係を作るだけの悪手に思えて来る。

 一体誰がこんなシステムを考えたんだよ? 


 結婚に関しては、別に市民権が無くてもする人はするだろうし、しっかり戸籍管理がされていないこの国では規定に意味が無い。

 そもそも姓の無い市民には結婚して籍を移すと言う概念が無いんだから、何をもって婚姻と言うのか?ってことだね。

 ハーレムを作りたい人専用の規定かな?


「商売に関して言えば、商売がステップアップしたら自然とそうなるって話だよね。

 第一級では自分で作ったものが自分で売れないって、その理由が分からないけど。

 入学にしても就職にしても、優秀な子供の機会を潰してるだけだ。国は何を考えているんだろ。

 別に市民権が無くても結婚する人はするよね。その規定には意味があるのかな?

 子供は十一歳になったら市民権の対象になるんだね。親が税金を払って市民にする訳か。馬鹿げてるね」


 第二級になるためには仕入れや商売の基本を覚えろって意味合いか?

 それにしても元手になる物を自作するのが禁止されてる訳だよ。意味が分からない。

 主婦が便利グッズを発明しても商売出来ずに卸すしかないってことだ。

 市場への新規参入の制限に近いな。つまりは既得権益保護が目的な訳ね。


「市民権は条件をクリアして、金を出して購入する必要があるから、臨時税収的な意味合いじゃな。

 級が落ちれば、上げる為にまた購入しなければならん。級を維持するのも大変じゃ。特に飲食を取り扱う商人とかはな」


 作物の出来不出来で売り上げが変わる業種もあるわな。


「ただし、市民権は条件を満たしていなくても、市民権販売金額の十倍を支払えば購入可能らしいぞ。

 寧ろ余裕のある商店はこちらの手を使って各地に販売店を増やしとる筈じゃ。支店長の市民権を十倍で買いとる…羨ましい限りよのぉ」


 何だって? 金があればショートカットして高いグレードに一気になれるのか。


「リミエンに来たばかりの俺でも大銀貨五十枚を役場に持って行けば、それで第一級市民権が貰える訳か。

 金貨二十枚で第二級か…。これは単なる金持ち優遇政策だね。よく分かったよ。

 ひょっとしたら、強い魔物を退治して売却した利益で上位の市民権購入なんて冒険者ドリームを煽っているのかもね」

「まぁ、その通りだな。実際に腕の立つ冒険者は登録して一ヶ月か二ヶ月くらいで第一級になれるらしい。

 クレスト君も銀貨級ってことは、積極的に狩りに行けばすぐにそれぐらいは行けるってことだ」

「あー、狩りにはそんなに出るつもりは無いからそれは無理…街中の安全な依頼メインでやるから」


 そう言えば衛兵の隊長が狩りに出ろってうるさかったな。アイツの言いなりになる気は無いけどね。


 それよりも金貨五十枚で第三級、大金貨十枚で第四級なら、大金貨十八枚も出せばいきなり第四級市民権が購入出来る訳か。

 出せるけど…そこまでしようと言う気にはなれないね。市民権なんて十倍も出して買ったら負けな気がする。

 ゲームでも課金はしない派だったからね。


「市民権は衛兵さん対応以外だと、商売人にしか意味が無い、そう覚えていて間違い無さそうだね」


「そんなところだな。

 それで本題の皮剥き器と薄切り器じゃが、当店で一年間の独占販売とすることが出来たわい。

 二年目以降も独占販売を継続するかどうかは、売り上げを見ての判断じゃ。占有販売権を維持するにも税が掛かると言われてな。

 前年の売り上げの三割が維持する為の税金額だから、販売数が落ちれば損になるから見極めが大事じゃ」


 はぁ、良く出来たシステムだな。褒めてんじゃ無いぞ。貶してんだよ。

 独占販売を続けたければ、売れていなくても税金を収めるか、更に売り上げを伸ばさせて税金をむしり取ろうとしてるって話だ。


「独占販売を二年目以降も続けるなら、機能を追加するか切り方のバリエーションを増やすか」

「そうだな。そこらは儂らで考えるわい。

 じゃが他にもアイデアがあるなら受け付けるぞ。

 余所に先を越されるとその分だけ損になる」

「考えとくよ」

「それで、クレスト君への支払いは二割か三割か、と言う相談だが」

「あー、それは要らないから。

 お金儲けをする気があるなら、さっさと二級市民権を買って自分で売るから。

 でも俺には商売なんて無理だし、俺は欲しい物を作ってもらってそれが手に入ればラッキー、それだけなんだ」

「どちらも千個は売れるぞ?

 純利益を考えても大銀貨五十枚は渡さんと、こちらが儲け過ぎじゃが」

「それなら、別の商品を大量生産したいので相談に乗って下さい。

 実はこちらが本命なんだ」

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