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第36話 予想外とはこの事か

 レイドル副部長の提案を受け、メイドさんを二人雇うことにした。

 金額的に見て、屋敷より人件費の方が高くなったのだが諦めよう。

 俺の資産はなる早で使い切って市井に還元するつもりなのだ。


 ざっと計算して十二、三億円相当を骸骨さんが用立ててくれている。確かにその金額で考えると、記念コイン的な物の発行額で考えると妥当かも。


 この国の経済規模が分からないけど、それぐらいのお金が流入したぐらいでは経済的な影響はそんなに無いだろうし。それに恐らく商業ギルドが上手くコントロールしてくれるだろうし。

 単純に俺の懐には使えるお金が沢山あるって思ってりゃ良い訳だ。


「ところでクレストさん、この国を発展させる為に何が一番重要だと思う?」

「当然、人ですね。人口の増加、知識層の増加、労働者の増加。これらが無いと国は発展しませんよ」


 突然レイドル副部長が国政に関するような話を振ってきた。

 どんな思惑で聞いて来たのかは分からない。


「ふむ、人を増やして育てる、か。建設的な意見だな。

 メイベル、これに関して意見はあるか?」

「いいえ、確信を付いていると言えますよ。

 足りないとすれば、その為の費用をどこから持ってくるか、と言うことかしら」

「そうだな。どんな良い発想があっても、先立つ物が無ければ話にならん。

 逆に言えば、それが無いから発展が足踏みしているとも言える。

 だが、国内での金銀の生産量には限度がある。

 故に他国から金を得たいのだが、何か方法は無いか?」


 遠回りな話をするなぁ。最初からそう聞けば良いのに。

 それにしても、商業ギルドの欲しい案って外貨の獲得なのか。当然と言えば当然か。


 会社だって、外からお金を貰うから成り立つのと理屈は同じ。会社と国では規模もやってることも違うからそう単純ではないけど。

 外貨の獲得には輸出と観光客の獲得だ。何を売るかが問題となっているんだよね。


「それなら観光とか文化の発展ですかね。

 観光は魔物の影響で難しいけど、文化なら小説とか、まん…絵がメインの小説的な物とか売れそうです。

 書く人を育てる必要があるけど。

 後は歌ったり踊ったりするアイドルを育てる、ですかね」


 小説は敷居が高いとしても、漫画なら読まれるだろうし。

 アニメは漫画が根付いてからだし、そもそも機械が無い。

 アイドルなら確実に…歌にしても楽器と奏者が必要だし、どんな楽器があるのか知らないや。


「小説とアイドル?

 随分変わった提案だな。やはり君は面白い。

 普通なら野菜の輸出量を増やすとか、新しい農作物を育てるだと思うがな」


 それならとっくにやってるでしょうに。

 何故俺にそんな話を振るんだろ?

 キリアス出身者設定だから?


「せっかくリミエンに屋敷を構えてくれたんだ。

 何を輸出するかで君の好きな物を知ろうと思ったのだが、食べ物より文化とは。

 かなり学があるようだ。

 冒険者にしておくのは勿体ないと思う。本気で商業ギルドに勧誘しようと思うのだが、どうだろう?」


 あー、これはマジな引き抜きか…よし、さっさと逃げよ…。


「あら、それは良い提案ね。私からもお願いしたいわ」

と人材派遣部のメイベル部長まで同調する。


 俺ってそんなに商業ギルドが欲しがるような人材なのか?

 評価してくれるのは嬉しいけど、変に期待されても困るんだよね。期待外れになると申し訳ないし。

 それにサラリーマンみたいで窮屈だ。


「俺は俺のしたいことをして生きたいので、それは無かったことでお願いします」

「あら、振られたみたいね。やっぱり私みたいな年増の誘いじゃダメ?」

「イヤよイヤよも何とかのうち、とも言う。そのうち気が変わるのを待とう。

 それより昨日、女性を一人保護したんだが。

 少々訳ありでね。名前をリタと言う」


 リタ?! それに、なんで保護?

 と言うか、話を切り替えるのがめちゃくちゃ早いし、なんて爆弾を投げてくるんだよ。

 本題はこっちで、勧誘はその気があればラッキー程度だったのか?


「冒険者ギルドに行ってライエルに経緯を確認した。

 勿論、彼女自身の言動に起因する結果なので、当方としても冒険者ギルドの処分内容に付いて特に思うことは無い」


 レイドル副部長がライエルさんに聞いた?

 普通、そう言うのって総務系のお偉いさんの仕事だろ。アンタ、何を出しゃばってんの、と言われない?


「ギルドからの帰り道で、『黒羽の鷲』に雇われた男にバッグを引ったくられて追い掛けていると、スラム街の方に引きずり込まれたらしい。

 そこで乱暴されようとしていたのを、偶々通りかかって助けることが出来たのだが」


 黒羽のやつらか! まさかそんな非道な真似をするなんて最低な連中だな。再起不能にしとくべきだったか?


「リタの性格的な問題はあるが、貴重な治癒魔法の使い手だ。このまま放置しておくのも勿体ない。軍属になるつもりは元々無い人なのだが。

 どう扱えば良いと思う?」

「何故それを俺に聞く?

 確かに俺が留めを刺したかも知れないけど、それこそ偶々俺が新人登録に行った時にアイツが対応した、それだけだ。

 違う受付嬢が対応していれば、リタのやっていたことはまだ発覚しなかった」


 リタの扱いなんて知らないし。そんなの家族で話し合って決めるんじゃ?

 それとも家から追放された系?


「ライエルが調査していたので、遅かれ早かれ処分されたようだが。

 軍に彼女を渡さず、かつ彼女の能力を最大限に活かすにはどうすれば良いと思う?

 現在は我が家に逗留してもらっているが、いつまでも、と言う訳にもいかん。

 メイドとしても働けん無駄飯食いだからな」

「リタのやっていたことや治癒魔法が使えることは、口止めしても冒険者経由で漏れますよね。それだと隠すのは悪手。

 むしろ堂々と…贖罪の意味を込めるのが良いでしょうね」


 定番の修道院での拘留じゃ、治療魔法が活かせない。


「彼女は男爵家の次女だったからな。矯正の為に子女を修道院に送る貴族も居ない訳では無いが。

 もう少し他の手は?」

「活用したいのは治癒魔法ですよね…変なことを聞くようですが、この国で医学はどんな感じで?

 具体的に言うと、人体の構造を知るために解剖したりしますか?」

「っ! そんなことをする訳があるまいっ!」


 やっぱり解体新書的な物はないのか。日本では腑分けとか言われて、やった人はやべえ奴と思われてたんだろうな。

 でもそれをやらないと医学は進まないんだよね。


「でしょうね。ですが、これって医学の進歩のためには必要なことです。

 レイドル副部長、同じ魔法を使うとして、知らないことを実行させるのと知っていることを実行させるのとで違いがあると思いますか?」

「同じ魔法を使うなら、当然同じだろ?」

「いえ、違いますよ」


 魔法はとにかくこうなったらいいなと想像して魔力を込めて使うんだ、と夕べ外食後に外を歩いていた時に酔っ払っている魔法使いから聞いたんだよね。


「何故そうなるのか、自然法則を知らなくても魔法は使える。だから知ろうとしないのでは?

 で、思ったのが、例えば火を熾すのに火種を熾して周りの物を燃やしていくのと、いきなり大きな火を熾すのだと、結果的には全て燃えるけど過程が違いますよね。

 火種の魔法と炎の魔法、消費魔力は全然違うにも関わらず、結果は同じです。分かります?」


 レイドル副部長はハッと何かに気が付いたような顔をした。メイベル部長はピンと来ていないようだ。


「つまり、人体の構造をよく理解していれば、治癒魔法を少ない魔力で使えるようになる、使い分けることが出来ると言いたいのか?」

「はい。その可能性はあるかと。

 この国では遺体の解剖と言う行為が受け入れられないかも知れませんが。

 ですが外出先で骨折した時とか、適切な応急処置をするのとしないのとで、治り方が変わる筈です」


 そこで何か思い当たりがあるのか、メイベル部長が頷いた。


「言わんとすることは分かったわ。

 魔法士ギルドが聞いたらどうなるやら?

 喧嘩を売ったと思われるか、偉業と褒め称えられるか?

 坊やだと思っていたけど、意外と精神的にもタフな子ね。うちに来て欲しいわ。レイドル、ダメかしら?」

「こんな考えの出来る奴を置くのはやめておけ。秘密の外部顧問として意見を聞くぐらいがちょうど良い。

 しかし人体の解剖をリタにさせると言う発想…キリアスとは恐ろしい国だな」


 キリアス王国の皆さん、ごめんなさい。悪者になってもらいました!


「えぇ、まぁ、あの国にも場所によって色々ありますからね」

「そうか…だが今後は人体の解剖などと言う発想は誰にも披露するな。

 それこそ魔王認定されかねんからな」


 おぁ、マジかょ…これで魔王認定とか洒落にならん。絶対人には言わないでおこう。

 でも人体の構造を理解していないと上手く応急処置とか出来ないのは事実だからね。是非とも進めて欲しい。


「この案件、リミエンが主導して行うには影響が大きすぎる。

 王都での対応案件だな」

「へぇ、レイドルはこの話を王国議会に掛けるべきだと思うのね。役立たずのロートル連中の反対が多そうね。

 治癒魔法が使いやすくなるなら、軍務局辺りは喜んで賛成しそうだけど」


 王国議会って国会みたいなやつかな?

 年寄りの権力者が集まるイメージはイヤだな。


「あの、どうして軍は治癒魔法の使える人を囲い込んでいるんですか?」

「ずっと以前は教会が囲い込んでいた。それで坊主共が高額な治療費を取るようになってな。

 それを軍が粛正したのだが、今度は軍が独占を始めた。

 実戦さながらの訓練を行う為、毎日怪我人が山ほど出ると言ってな。嘘か本当かは知らん」


 信仰を利用した搾取から権力側への移動ですか。実に素晴らしい流れですね…勿論褒めてないし。


「それに軍と言ってもリミエンは違うぞ。王都を拠点とする三つの国王軍がやっていることだ。

 それに治癒魔法の使い手は好待遇だから、本人が希望するケースも多いからな」

「噂では、ゴリラのような姿の魔王がこの国のどこかに現れると予言があったそうよ」

「ゴリラ?」

「そいつが近くの魔物を率いて王都を目指すという予言だ」


 …それって骸骨さんが斃した奴のことじゃないかな?

 あんなのが複数居ると思いたく無いし。

 森の中の魔物が随分多いと思ってたけど、まさかそのせいだったのか?

 魔法の制御の訓練中に軽く千体は斃してるんだけど。


 ゴブリラの遺体はダンジョンに吸収されたから、証拠が無いんだよね。でも骸骨さんが二発で熨したから、それ程強かったとも思えないし。人…いや魔王違いだよね?


 ゴブリラの件は保留でヨシとして、医学が進歩すれば、治癒魔法が使える人が増えるだろうし。リタにはその先鋒として活躍してもらおう。

 上手くいくかは分からないけど。


 それにしても予言なんてものまであったのか。

 この世界はやっぱりファンタスティックだな。でもスライムと融合した骸骨さんが魔王(仮)を倒すなんて神様でも思うまい。


 それにしても、まさかリタがレイドル副部長に保護され、骸骨さんは記念コイン泥棒の疑いあり、それに予言の魔王(仮)は既に討伐されてる可能性あり…まさに予想外とはこう言うのを言うんだね。

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