(閑話プラスα)魔が差す
人は心の弱い生物だ。
どんな魔物より、どんな動物より、下手したら昆虫より弱いかもね。
そんな心の弱い人間って、僕らからみればカモにしか過ぎない訳さ。
…僕がこの世に産まれて来たのはいつのことが分からない。
魔力が渦を巻くポイントさえあれば、僕みたいな存在はいつでもどこでも産まれる可能性がある。
でも魔力の寄せ集めに過ぎない僕の体はとても不安定なんだ。風が吹けば散り散りになるぐらいだからね。
だから、心の弱い人間の中に潜むのさ。
僕が選んだのは、ちょっと傲慢なところがある小娘さ。
親に連れられて見世物の試合を見に来たみたいなんだけど、この子には刺激が強すぎたんだね。
顔が歪むほど殴り合った男達の姿に耐えられなかったようだ。
良い具合に心に傷を負ってくれたね。
無くした心を僕が埋めてあげるよ。
なるほど、『格闘』なんて大嫌い、二度と見たくない。それが君の心の傷だね。
分かった。格闘する男達から君を守ってあげる。御礼なんて要らないからさ。
ただ君の心の中に居座らせてくれれば良いんだ。
僕が体を持てるぐらいに育つまでね。
だから、その時に君の体を僕に頂戴ね。
あれから二十年も経ったのか。思ったより君の心を脅かす存在が居なくてびっくりだよ。
一番面白かったのは十年程前の男だよね。
ギルドカードを要らないなんて言って帰るんだよ。何しに来たんだろうね?
僕も気分転換がしたい時があっててさ、時々新人いびりをしてたんだよね。
勿論すぐにバレたら困るから、被害…お持てなしをした子には少し記憶を弄る処置は施してたよ。
年に一回で良いからこう言う遊びは必要なんだよ。僕だって魔の者なんだから。
今日のいびり対象は濃紺の髪の男か。ちょっと変わった魔力波形の持ち主だね。
っ!なんだよ、この魔力は! 戦闘になったら急に膨れ上がったじゃないか!
こんな魔力は伝説の魔王しか…嘘ん!
剣士を一撃で倒したの…え?
魔力が急に終息して、さっきまでの状態に戻った?
まさかこの男、二重人格?
人格が入れ替わると魔力量も跳ね上がるタイプか。危ない奴だなぁ。
ありゃ、盾持ちを攻略したのか。これはあの子の玩具達じゃ勝ち目は無いかー。
ちょっと!魔王みたい奴!こっちに来るな!
その威圧感を今の僕が受けるのはマズいっ!
「嘗めた真似をしてんじゃねえぞっ!糞カス女!」
ウワッーーーッ! 殺られる!!
脱出!!!
あっぶねえ、せっかく二十年間貯めた魔力を今ので散らされちゃったよ。
もうすぐこの子の体を乗っ取ることが出来そうだったのに!
あー、ヤバいよ、早く違う体に入らなきゃ僕は消えちゃう。
何処かに心の弱い人間は居ないかな…良い匂いを探してみようか。
こんな奴が居るのなら、今度はもう少し強い奴に潜り込まなきゃ。