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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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(閑話)三人の女性の出逢い(サーヤver.)

 私は女性四人で結成したパーティー『紅のマーメイド』で射手をしているサーヤと言うわ。


 子供の頃から弓は得意で、いつの間にかお父さん達が畑で働いている間に鳥や獣を狩るのが当たり前になっていたわ。

 それが何故か出稼ぎ冒険者になって、リミエンでパーティーを結成してから一年と少し。


 駆け出しの段階を超え、やっとギルドから半人前の冒険者と認められた証『銀貨級』の冒険者ランクになったばかり。


 一人前の冒険者と言われるのは大銀貨級以上だからね。この銀貨級で挫折する人も多いと聞くわ。

 冒険者は街での雑用係のような仕事からスタートして、依頼を達成したり戦闘経験を積むことでランクアップ出来るのよ。


 街から出れば、いつ魔物に襲われるか分からない世界が広がっているわ。

 勿論街や農場に近い場所に出てくる魔物には領主様の組織した騎士団が即対応しているわ。

 リミエンの騎士団は領主様の近くで警備に当たる人を除くと、騎士と言うより魔物ハンターと言うべきだと思うけどね。


 騎士団の中に一般市民で構成された軍隊があって、人間同士の戦争がここ何十年か起こっていない状況だから、魔物を狩るか領内の治安維持の仕事しかないのよ。

 だから近年は軍縮の方向で動いているの。


 彼らは軍隊とは言われるけど、実際には半分は訓練で半分は農作業にあたっているわ。とにかく食料の確保がこの領の発展のキーポイントになるから仕方ないわね。


 でもそんな暮らしがイヤな人達は軍隊ではなく冒険者を選択するのよ。

 でも軍隊では普通の女性は募集していないからね。私達は農場でこき使われるか、冒険者のほぼ二択だったわ。

 読み書き計算が出来ればもっと違う仕事を選べるのにね。


 冒険者になってから文字の読み書きを習ったのよ。依頼を受けるにしても、読めないと選べないでしょ?

 これは冒険者ギルドで無料講習を開いてくれた現ギルドマスターのライエルさんに感謝ね。

 前のギルドマスターは私腹を肥やすことしか考えてなかったらしいから、冒険者に教育なんて思いも付かなかった訳よ。


 今日の我々はリミエン郊外の牧場主からの依頼で害獣駆除を行ったわ。

 その害獣の見た目は愛らしく、とても悪さをするような生き物には見えないのだけど…。

 土の中に巣を作るため、馬の脚が穴に落ちて骨折する事故を引き起こす厄介者なの。

 時折巣穴から出てはひなたぼっこをするを姿にホッコリと見蕩れて…。


 しかしこれは大切な馬を守る為のお仕事よ。泣きながら一匹一匹捕まえては殺処分を行わないといけないの。

 大きな個体では体長五十センチを超えていて、齧歯類特有の発達した細長い歯に噛み付かれると、革鎧を貫通する事があるので油断は出来ないわ。


 あっ! メンバーの一人が腕を噛まれた。鎧に傷が付くのは仕方ないけど、怪我はないかしら?

 あ、どうやら無事だったみたいね。あの可愛らしい姿に騙されると大変な目にあうから私も気を付けないとね。


 その日は多少のトラブルはあったけど、依頼の十匹の駆除を達成し、ギルドへと戻った。


 討伐証明である細長い歯を別棟の採取物提出カウンターに出して証明書を受け取り、依頼達成報告をギルド本館の受付カウンターで行った。

 慣れない頃は先にこのカウンターに来てしまい、慌てて別棟に提出しに行った事もあるわね。

 少し面倒だと思うけど、討伐した魔物の血がカウンターに付着するのは気持ち良いものでは無いわね。


 大銀貨十枚が今回の稼ぎ。大銀貨二枚が一人頭の取り分で、残りはパーティー共有資金にするのよ。これで武具の購入や修理、物品購入を行うの。

 一度の依頼で大銀貨二枚なら悪くないと思われるかも知れないけど、毎日依頼に出られる訳でも無いし、冒険者をいつまで続けられるかも分からないわ。


 生活にゆとりを持たせるには、もっと効率的に稼がなければならないと皆も思っているわ。その為にはもっと難易度の高い依頼を受ける必要があるけど。


 でも今のメンバーではそれが難しい。戦闘能力なんて訓練や経験だけで早々上がるものではないからね。

 だからパーティーメンバーの補充が一番確実だと考えているの。だけど私達は女性だけのパーティーだから、補充するメンバーも女性で考えているわ。


 今ギルド本館のラウンジのテーブルに付いているのは私達の他には大銀貨級『黒羽の鷲』、銀貨級は『山嵐』、『速き海猫』、他に大銅貨級が二組。

 『黒羽の鷲』が時折こちらをチラチラと見ている。イヤな視線だけど、女性だけだとこれは仕方ない。分かってはいても、気持ちの良いものではないわね。


 ジュースを飲み終え、ここを出ようかと話していたタイミングで見知らぬ一人の濃紺の髪の青年が入って来たわ。

 彼は物珍しそうにギルドの中をキョロキョロと見渡し、新人登録・依頼受付の窓口に真っ直ぐに向かったわ。


 今日も新人登録の担当をしているのは、このギルドの古株の腹黒リタね。

 ここからは二人の会話は聞こえないが、何かあったらしく「はいっ?」とリタが奇妙か声を上げたわ。

 彼が何か変な事を言ったのかしら?


 それからリタがギルドカード発行機でカードを作り、ギルドマスターの執務室に入る。

 何か問題があったのかしらね?

 新人登録ぐらいでギルドマスターに聞くようなことは無いと思うけど。


 直ぐに出て来たリタは、『黒羽の鷲』のリーダーの耳元で何か囁いたわ。

 訓練場に向かうみたいだから、どうやらあの新人と戦わせるのね。黒羽って実力的にはそれ程でもないらしいけど、仮にも大銀貨級よ?

 だとしたら、あの青年は大銀貨級パーティーと戦える程の使い手だと言うのかしらね?

 見た感じでは大したことは無さそうだけど。


 そう言えば、リタの対応した新人ってすぐに冒険者を辞める人が他の受付嬢より多いのよね。偶々なんだろうけど、まさか虐めたりしていないわよね?


 登録時に審査をする場合は、別棟の訓練場を使用するの。

 訓練場の壁は分厚く出来ていて、ドアを閉じると中の音は聞こえなくなるわ。余程の事が無ければ事故は無いと思うけど…帰って来たのはあの青年一人だっあ。


 彼はその脚ですぐに受付カウンターの中に入ろうとして、ミランダさんに止められたわ。当然よね。

 ギルドマスターの執務室は、聖域みたいなものなんだからね。

 あれ? 彼、その聖域に入っていったわね。ライエルさんが許可したみたいね。まさかリタが何かやらかしたのかしら?


 それからあっと言う間にリタは自主退職し、『黒羽の鷲』は大銅貨級に落とされたの。

 ライエルさんは普段見せない怒りの表情を見せていたけど、クレストと呼ばれたその男性に対してはフレンドリーに接しているのが気になるわね。


 ギルドマスターのライエルさんは四十代だけど、ダンディな佇まいと意外とおしゃれに気を遣うところがあり、女性職員、女性冒険者の人気を集めているわ。ある意味憧れの対象なの。


 金貨級以上でない冒険者はまともに相手にしてくれないと言われていたので、あの青年はそれだけの実力を持っていると言うことね。

 見た感じはそんなに強そうに見えないんだけど。凄い魔法が使えるのかしら?

 それにしては杖も持っていないし…杖どころか剣も腰に差してない!

 じゃあ、どうやって黒羽を倒したの?

 まさかの素手? そんな馬鹿な…うそ、馬鹿でした。

 素手なら盾とか持たせたら、うちのパーティーが安定して動けそうよね。私達のパーティー、防御力不足で困ってるし。誘ってみようかしら。


 彼が注目を浴びる中、リタの後に新人登録受付に座ったのは、まだ新人の殻が取り切れていないエマさんだったわ。

 彼の前に立った時は緊張の面持ちだったのに、次第に楽しそうに話し始めて、何と食事に行く約束まで取り付けているの!


 将来有望株かも知れない彼を新人に掻っ攫われた! これはギルド内が荒れるわよ…。


 面白い見世物が見られたし、今日消費した矢の補充も必要だからパーティー御用達の武器屋に行って支払いを済ませて帰ろうとしたら、クレストさんとちょうど鉢合わせ。


 これは大チャンスかも!


「あっ、貴方はさっき冒険者登録しに来ていた人ね。

 私は『紅のマーメイド』のサーヤよ。

 見ての通り射手をやっているわ。宜しくね」


 自然と思えるように挨拶してから右手を出すと、少しおどろいたみたいだけど握手をしてくれた。


 あら? 随分と柔らかい手をしているのね。これで強いなんて反則よ。

 これは多分、強力な戦闘系スキルを持っている筈。じゃないといくら何でも一人で大銀貨級のパーティーを倒すことは出来ないわよ。


「良ければ私達のパーティーに入りませんか?

 お互い銀貨級ですし。

 恥ずかしい話しですが、もう少し収入を増やしたいので、パーティーメンバーを一人増やそうかと思っていたんです」


 思い切ってそう聞いてみたわ。メンバー皆も同意してくれているし。

 ソロ活動だと最初は大変だもの、きっとオーケーしてくれるわよね。

 でも返事はまさかの、

「ごめんなさい!」


 なんで!? 貴方は告白を断る乙女じゃないのよ!

 これじゃまるで私が振られたみたいでしょ!


 メンバーの皆になんて言えばいいよの?

 折角のチャンスだったのに…あ、この子はエマさんみたいな子が好みだからなのね?


 どうせ私は貴方より年上だし、可愛くなんかありませんよっ!

 今日はヤケ食いしないと収まらないわね!

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