表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
37/199

(閑話)三人の女性の出逢い(エマver.)

 今日は色々とあった一日だった。

 まだ日も昇りきらない早朝が私のいつもの出勤時間。冒険者ギルドはほぼ一日中開いているから、受付嬢は交代制を取っているの。


 冒険者は朝一番にその日の依頼を探しに来る人が多くて、大体朝の八時(六時相当)から十二時(九時相当)までが受付カウンターは一番混雑するわ。

 その時間は受付カウンターにある四席を全て解放して対応するの。

 それと夕方の六時(四時半)頃から十時(七時半)頃にかけて、朝ほどでは無いけど依頼の達成報告をする人が多いからこの間も四人体制になるわ。


 私達は冒険者が請けようとする依頼がその人に達成可能かどうかの判断をしなけれらばならないの。

 冒険者に成り立ての頃の人は、データが無いから判断は難しいわ。戦闘能力については、大銀貨級の冒険者に査定してもらうことにしているんだけど。

 とにかく初っ端から躓くことの無いよう、安全な依頼から試してもらっているのよ。


 それと慣れてきた頃は兎角無理をしがちになるから、ここでも注意しなきゃいけない。でもコレがとても大変なの。

 ギルドマスターに口を酸っぱくして言われているのが、冒険者に怪我をさせないように依頼を調整することね。

 でも前回の依頼を無傷で達成した人って、自分の実力を過大評価しがちなの。


 極端な話、前回はオークを倒せたから今回はオーガを倒しに行こうぜっ!みたいな感じになるわ。

 そうじゃ無くて、パーティーでオークが楽に倒せるようになる、次はオークを二人で倒せるようになる、最後にオークを一人で倒せるように…そんな感じで段階を経て請ける依頼の難易度を上げて欲しいの。


 今日は無茶な依頼を請けようとごねる大銅貨級の五人パーティー『怒濤の豪猪(ヤマアラシ)』の相手に手間取って大変だったわ。

 私から見れば『五頭のハリモグラ』の方が似合ってると思うんだけど、間違ってもこれは絶対に口に出しちゃ駄目なやつだわ。


 私達の忠告を無視する人達って、請けた依頼を失敗したり怪我をしたりすると、

『お前が俺達なら達成出来ると判断して受付してんだろ!』

と訳の分からないことを言うから疲れるのよね。 


 冒険者って請ける依頼は自己責任なのよ。

 それが分かっていない人達が多いから困るわ。


 今日はたまたま後ろで順番待ちをしていた銀貨級パーティーのリーダーが、『お前達にはその依頼を請けるのはまだ早い』と説得してくれたから事無きを得たけどね。


 冒険者の業界は縦社会。自分達より上のランクの冒険者にそう言われると、納得していないけど渋々引き下がってくれたわ。


 でもこの『硬き黒蛇』の人達は、女性を見る目が嫌らしいのよ。

 このパーティーネームも、一説によると男性のアレをもじって付けたと言われるくらいだからね。


 お礼は言っておいたけど、黒蛇の人達には注意しないといけないわね。

 こうやって受付嬢からの好感度を高める狙いがある人達も多いそうだから。


 忙しい時間帯が過ぎると、受付嬢がずっと四人も並んでいる必要は無くなるから二人は帰宅するか、奥の事務室で書類仕事やお金の管理を行うの。

 これはその人の得意分野の作業を優先的にやるってライエルさんの方針に従った遣り方よ。

 人には得意、不得意があるから、得意な分野で活躍して欲しいって意味があるらしいわ。

 そのお陰でか、作業は早くなったし、ミスも減って良いこと尽くめ。これはライエルさんに感謝するわ。


 でも私の担当は運ばれてきた手紙を領主館に運ぶ仕事なのよ。

 別にコレが得意なわけじゃなくて、遣りたい人が居なくて若手の私に押し付けられた感じ。

 何故って今居る受付嬢の中では、私の実家の格が一番高いからだって。


 貴重な鉄鉱石の鉱山を発見、採掘を成功させて財を成したお祖父様が子爵だったわ。お父様も今は男爵だけど、このまま順調に進めばいずれ子爵になるらしいわ。


 コンラッド王国では爵位は完全な世襲制では無いの。他の国は爵位が世襲制だから、この国だけが違うのよ。

 それでも半分くらいの貴族家の跡取りは親の仕事を上手く引き継いで、その爵位を維持するわ。


 爵位を維持出来るかどうかは、詳しいことは知られていないけど国王直属の何とかって役人が調査をするらしいの。


 でも代替わりの時は他の貴族からの邪魔が入ったりするそうで、中々大変らしいわ。

 私のお父様も現在は炭鉱のある街に出掛けていて、現場の人達との付き合いを深めているそうよ。

 鉱山はとにかく危険な場所らしいし、働いている人の中には犯罪を犯して強制就労させられている人も居るから、お父様の無事を祈るばかりよ。


 なんでこんな話になったのかしら?

 そうそう、他の受付嬢が領主館に行きたがらないって話だったわね。

 領主様は爵位は伯爵で、当然だけどリミエンの街の中では一番偉い人よ。

 とてもお忙しいお方で、王都や関係先から毎日何通もの手紙が届けられるわ。


 手紙を届ける役目を冒険者ギルドに登録している冒険者が請け負っているから、ここに手紙が集まるわけね。

 王宮には各地方への領主に手紙や荷物を届ける専用の馬も用意されているけど、数に限りがあるからね。


 大切な手紙の輸送は大銀貨級以上のパーティーの依頼になるのよ。だから貴重な戦力である彼らのコントロールも必要になるの。

 いざって言うときに依頼を任せられるパーティーが居ないなんて事態は避けなければ成らないから。


 ギルドに届けられた手紙は、決まった時間に私が護衛の人を伴って領主館に持っていく。

 領主様はお父様の仕事の関係で子供の頃から何度もお会いしたことがあるので、私には気さくに話し掛けてくれる。


 今日も定時便で手紙を届け、少しだけ領主様の雑談にお付き合い。

 雑談と言っても冒険者ギルドの中の様子や街の中での出来事など、結局のところ市井の報告とそう変わらないんだけどね。


 その雑談を終えてギルドに帰ってみると、いつもと違う雰囲気になっていたの。

 何があったのか姉御肌で仲の良い先輩に聞いてみると、リタ先輩がライエルさんに処罰されたのと、その時に対応した新人が大銀貨級パーティー『黒羽の鷲』を一人で倒しちゃったと言うんだからビックリしたわよ。それも素手で!

 その時の様子を直接見れなかったのが残念ね。


 あのパーティーには悪い噂が囁かれていたから、ざまあ見ろってやつよね。

 リタ先輩も自己中心的だし、男性に媚びを売ったり、自分は美人だと自慢したりと痛いところがあったし…それにどうやらリタ先輩が『黒羽の鷲』の活動実績を操作していたらしいの。


 それに気が付いたギルドマスターのライエルさんが、その新人を利用して不正を暴いたみたいなの。

 クレストさんと言うキリアスから来た新人を、ライエルさんがどうやって見付けて連れて来たのか分からないけど。

 大金貨級のライエルさんには独自のルートが有っても不思議ではないかしら。


 話ではクレストさんってちょっと怖くて強引なところがあるみたいだけど、私には関係ないわね。


 と思っていたら、まさかリタ先輩の代わりに私が彼の対応を引き継ぐことになるとは思わなかったけど。

 あー、皆がびびってしまったのね?

 え?ライエルさんのご指名ですか?

 仕方ないわねぇ。


 彼の話を聞いた時はどんな怖い人かと思ってたけど、本人と会って話をしてみると全然そんなことは無かったわ。


 一通りの説明もきちんと聞いてもらえたし、説明が終わった後の雑談に入るとリタ先輩の第一印象からして悪かったと言っていたわ。

 時折見せる人を見下すような仕草とか、営業スマイルバレバレとか言ってたわ。

 確かに自分は上級市民権持ちだと自慢してたものね。


 それにしても、クレストさんの発想には正直驚いたわ。

 最初は単に宿屋が何処にあるか分からないから地図が欲しいって話なのだと思っていたら、それだけじゃなくてお値段とかお勧めメニューを書き加えるんだって。

 それにお店の看板の絵も付けたら見つけやすいとアイデアを出してくれた。


 それに何よりも食べ歩きマップよ!

 色々な食堂や屋台の場所を地図に示して、メニューや味の感想、お店の雰囲気なんかを別のページに書き込むのよ。

 二人で食べ歩きマップ片手に街を歩くなんて最高よね!

 これをライエルさんに提案したら、食べ歩きマップ作製に向けて領主様に働きかけてくれると言ってくれたから、作成メンバーには立候補するつもりよ!

 こんな業務なら残業になっても頑張れるわ!


 最後にお買い物マップね。街の中には沢山の雑貨屋、服飾店、武器・防具店なんかがあるわ。

 特にこの街に来たばかりの人は何処で何を買うのがお得なのか分からないからね。

 色んな雑貨屋巡りも楽しいわよ。


 それにそのお話しをしていて、彼ったらちゃっかり私も一緒に食べ歩きしようって誘ってくれたもの。

 

 美人揃いの受付嬢の中では私なんて下から数えた方が早いくらい不人気なのに。

 これはある意味デートよね?

 次のお休みを確認しなきゃ!

 あれ? 誘ったのは私の方からだったかしら?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ