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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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(閑話)三人の女性の出逢い(リタver.)

 私の名前はリタ・モーラ。

 苗字があるから分かると思うけど、貴族の娘よ。今はしがない男爵家だけど。

 リミエンって農業以外には大した産業が無い、面白味のない場所よ。だからリミエンに居る貴族って殆どが農業関係者。

 一部には商売人から成り上がった連中も居るけど、何故か農業系貴族とは折り合わないみたい。


 農業だとか商売だとか、そんなのどうでも良いと思うんだけどさ。どうせ貴族の娘なんて恋愛結婚は出来ないんだし。


 やさぐれていた私にパパが持ってきた仕事が、冒険者ギルドの受付嬢だった。

 パパが当時のギルドマスターのカールムさんと知り合いで、何人も受付嬢が辞めていくからと必死になって頼まれたそうだけど。

 読み書き計算が出来て、見た目の良い若い女性と言う条件だから、私が選ばれるのは最初は当然だと思って喜んでたわ。


 でもだからと言って、なんであんなむさ苦しい連中の相手をしなきゃならないのよっ!

 毎日、やれ魔物だの武器だの女だの男だの、そんな話しか出来ない馬鹿の相手をするなんて思わなかったわ。

 私が相手をしたいのは、銀色に耀く鎧を纏った騎士なの。冒険者なんてまるで正反対!


 こんな所で働く気なんてすぐに無くなったけど、パパの命令だから仕方なかったわ。


 でも冒険者も稼げる奴は下手な騎士より稼ぎが良いって聞いて、それなら仕方ないわ、大金貨級なんて贅沢は言わないから、金貨級で稼げる冒険者を見付けて騙してやろうと思っていたの。


 でもすぐに後悔したのよね。

 とにかく馬鹿な冒険者のせいで依頼主からのクレームが多くて何度代わりに頭を下げに行ったことか。


 しかも私が適当に受け付けた依頼で出ていったパーティーが大怪我をして帰って来るなり、

「リタ! てめぇがあの依頼を押し付けたからバサンが腕を無くしたんだぞ! 責任取れ!」

なんてぬかして来やがったの。


 確かに私も深く考えずに、懐が寂しいから稼げる依頼を回してくれって言われて、金額だけ見てあれを渡したのよね。

 少し顔が好みだったから、今までサービスしてやっていたのに、メンバーが怪我をしたぐらいで私を怒鳴るなんておかしくない?

 やっぱり冒険者は甘やかしちゃダメね。


 そんな事があって、ギルドの壁に

『自分が請けた依頼を失敗したり怪我をしたりしても、受付嬢を責めないこと』

『請けた依頼は自己責任』

『注意一秒、怪我一生』

なんて貼り紙が出されたのよね。


 それがもう十年前のことね。

 十年前と言えば、新規登録に来た青年が面白かったわね。

 少し見ただけで良く鍛えてあると分かる体だったし、服もかなり高級品だったわ。

 子供の頃から剣術を習ってきたのね、少し歳はいってるけどキープしとこうかと思ったら、まさか剣も槍も弓も使えないなんて言うのよ!


 じゃあ、その筋肉は何なのよ!と聞いたら、

「親から貰った拳は何にも勝る武器だ」

なんて意味不明なことを言ったのよ。


 見た目も良い、お金持ち、なのに中身は蛮族よ。

 私が呆れても当然でしょ?

 だって冒険者は魔物を相手に戦うのよ、なのに何が悲しくて拳で戦うの?

 私が文句を言ったら、そいつは「じゃあ冒険者にはならん」と言って登録せずに帰っていったの。玄関に塩を撒くのは忘れなかったわょ。


 そんなことがあってから、私は見込みの薄そうな人が登録に来ると諦めさせることにしたわ。

 だって私が怪我をさせた訳でもないのに、私のせいにされるなんてやってられないでしょ?!

 それに金貨級に上がれない奴らの世話なんて私の時間の無駄だし、向こうも汚くてしんどい仕事をするなんてソレこそ無駄よね。

 だから私のやってることはお互いの為になると思ったわ。


 それでも私の言うことを聞かずに登録する馬鹿な奴は、ちょっと訳ありのパーティーを使って少しお勉強させてあげることにしたのよ。


 そうやって受付嬢を続けて今から二年前、王都で活躍していた元大金貨級パーティー『青嵐』のライエルさんがカールムさんの後を継いでギルドマスターに就任したわ。

 歳は四十歳過ぎのいけてるおじ様よ。もっと若ければアタックしたのに残念ね。


 ライエルさんが就任してからギルド改革が始まったわ。

 彼が一番に目指したのは、怪我による冒険者の引退の防止だったわ。

 そのために無理な依頼の受注は出来なくなるように、私達受付嬢は各パーティーの能力把握を徹底されたわ。


 最初は冒険者達から物凄く反発されたけど、半年続いた所で目に見えて怪我をする冒険者が減っていったわ。

 怪我をしなければその分多くの依頼を請けられるようになるし、出費も減る。

 そうしてトータルでこのやり方の方がより儲けられると理解されたのは一年が経ってからね。


 この頃には私もこのギルド務め始めてもう八年。もう少しで三十歳の大台に入るわ。

 ベテラン受付嬢と呼ばれるようになっていたのに、結局私のお眼鏡に適う冒険者は現れなかった。


 私の実家は畑を貸し出して農家に作物を作らせている地主みたいなことをやっているわ。

 農家の人は自分で機材や消耗品を買わずに済み、給料を貰えるってことで結構な人数の農民を使っているらしいの。


 パパの後は兄が継ぎ、長女の姉は早くに何処かの伯爵家に嫁ぎ、三女の妹も二十歳前に何故か勝手に恋愛結婚をして家を出てしまったわ。

 次女の私は他の貴族の元か有望な冒険者を見付けて嫁ぐつもりだった。


 でもパパが病気で亡くなり、兄が当主に変わってからは良く分からないけど何もかも上手く回らなくなったようなの。

 そのせいか、私を嫁に欲しいと言う貴族は居なくなってしまったわ。


 歳は確かに若いとは言えなくなってきたけど、見た目には自信があるわ。人気投票すれば冒険者ギルドの中ではトップスリーに入る筈よ。


 そんな私の前に現れたのは、新人登録に来た濃紺の髪と瞳の二十歳ぐらいの青年だった。

 入ってからキョロキョロとした後、真っ直ぐこちらに来たわ。字は読めるみたいね。

 服は高級品、顔も悪くないわね。

 見込みがあるなら色気を振り撒いてみようかしら。


 彼がカウンターに立ったところで、私の百万金貨級の笑顔を浮かべて迎えてあげた。

 とても高価な鏡の前で何度も練習したこの笑顔で墜とせない男は居ない筈よ。


「初めまして、当ギルド受付嬢のリタと申します。本日は私が新人登録の担当を致しております」

と挨拶をして軽く頭を下げたわ。

 これで大抵の男は私に釘付けになるもの。


 きっと彼もそうなると自信があったのに、

「ご丁寧にどうも。クレストと言います。

 冒険者登録をしたくて来ました」

と本当に何事も無かったように返事をされたわ。


 若い男にこの必殺技が通用しないなんて信じられない。これは多分私の顔を見る余裕も無い程に緊張しているのね。

 だから私の顔がよく見えるように席に座らせたわ。どうでも良いと思う奴なら立ったままで居させるけど。


 冒険者登録の申込書とペンを渡すとスラスラと書いて行くあたり、かなりのボンボンね。

 これは当たりかしら?と思っていると、剣も槍も使えるけど格闘がメインの戦闘手段だと言ったのよ。

 あなたの体はどう見ても格闘向けではないわ。

 全く意味が分からない。

 私は作り笑いで誤魔化すのに必死だったし、格闘と書かれた申込書を見て糞雑魚決定と不機嫌になったわ。


 例え糞雑魚であろうと規則は規則。ギルドカードの発行までしなければならないのよ。

 丁寧に扱わないといけないと分かっているけど、ついギルドカード発行機を机の上に雑に置いてしまった。

 血の一滴でその人の状況が分かる奇跡の一台と言われ、壊すと修理すら出来ない代物なのに。


 血の採取が完了すると、勝手に字を打つ部分が動いてギルドカードが出て来た。『格闘』の文字に間違い無いのを見てアホらしくなったわ。


 カウンター奥にギルドマスターの執務室があるの。

 元は二階にあった執務室をライエルさんが広い部屋はいらないと少し改築してここに移動したの。


 ライエルさんは『虹のマーメイド』が来ていることを知っていたみたいで、そこの二人に糞雑魚の相手をさせて確かめろと言ったけど、私は勝手に仲間の『黒羽の鷲』にその役目をさせることにした。


 こいつらは私が治癒魔法を使う現場を目撃されていて、それを黙っておいてもらう代わりに私が糞雑魚認定した奴を虐める役目をさせて鬱憤を晴らさせていたの。

 新人いびりが禁止されてから、表立っては出来なかったから彼らにも良かったみたいね。


 それと割の良い依頼を優先的に回したり、依頼人からの評価を上方修正したり、起こしたトラブルも揉み消してやったりしたお陰で大銀貨級にランクアップしたの。

 今では私の方が彼らを操る位置に立っているわ。


 そんな黒羽を使って訓練場で糞雑魚をボコボコにしてやるつもりだった。怪我をさせても私が治療してやるんだからノーカンでしょ?

 でも結果は完全なる予想外だった。


 振り下ろされた両手持ちの剣を持つ右手を踏み付けられて振ることさえ出来ず、パンチの一発であっさり地面に転がされた。

 

 矢は全て回避され、魔法は手で弾かれる。

 大きな盾もろともリーダーを吹き飛ばし、後衛の二人も瞬殺されたわ。


 これが私の馬鹿にしてきた格闘家の実力なのね。


 幼い頃にパパに連れて行かれた闘技場で素手で殴り合う男達の姿を見て、なんて野蛮な生き物なのかと驚いたの。

 顔の形が変わるまで殴り合い、終われば治癒魔法で回復してから笑顔で握手を交わすんだから私には理解出来なかった。

 あれ以来ね、格闘と言う言葉に嫌悪感を抱くようになったのは。


 ライエルさんは就任以降、ギルドで行われてきた不正の調査をずっと続けていたらしいの。私が誤魔化したきた事も綺麗さっぱり洗い出されていて驚いたわ。

 ただ強いだけの人じゃなくて、頭も凄く良かったのね。処罰を受けた私はすぐに退職したわ。


 だってもうここには居られないわ。冒険者達がまるで私を汚物の様な目で見るんだから。

 そして黒羽は大銅貨級に落とされた。この人達もリミエンでの活動は出来なくなったわね。


 その日の帰り道、黒羽に待ち伏せされていたわ。私のせいで冒険者を続けられなくなったと言いがかりを付けてきたの。

 今まで良い思いをさせてもあげたのは私の方でしょ。それなのになんて馬鹿なことを言うのかと憤ったけど、結局男四人からは逃げることは出来ず、貧民街へと連れて行かれそうになった私だけど、運良く商業ギルドの人達に助けられたわ。


 皮の鞣し作業がこの辺りで行われているそうで、定期的に見に来るそうなの。

 兄達の馬鹿にしていた連中に掬われるなんて情けない…そう言えばこのガタイの良い奴、あの時登録もせずに帰った男じゃないの?


 この男も一人で四人を相手に…ちょっと格闘って格好良いかもね。

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