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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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第29話 衛兵さんと隊長さん

「銀色のカードっ?!」


 俺が取り出したギルドカードを見て、衛兵さんが驚いて俺の顔を見て、更にもう一度ギルドカードを確認する。


「いきなり…この色ですか。凄いですね」

と納得したような顔で頷く。


 俺も登録していきなり銀貨級とか言われて、おかしいと思ったけど。やっぱりそれが正常な反応なんだね。

 でもエマさんの説明に、ランクでカードの色が違っているって、無かったけど。


 忘れてたのか、それかライエルさんの指示でわざと黙っていたのか…。

 あのライエルさんならあり得るか…俺の焦ってる姿を想像して笑ってるかも知れないな。


「ケルンさんのお眼鏡にかなう訳ですよ」


 そう言われると、ケルンさんって戦闘狂みたいに思える。

 冒険者のランクは単に戦闘能力だけでは決まらないと説明されているけど、逆に言えば戦闘能力は必須ってこと。


 ギルドからの信頼的なものを加味してランクを決定すると言われても、それはライエルさんの気持ち次第な話だろう。


 それにしても、ただの行商人のケルンさんがどうしてそこまで評価されているんだろ?

 気になるけど、ここで聞くのも違う気がするなぁ。


「ではギルドカードを確認しましたのでお返しします。二階で保証金をお受け取り下さい。

 あと、黒い入門許可証はどうされます?

 持たれたままでも結構ですが、返却すれば大銀貨一枚を返金します。

 有効期限が過ぎると自動的に白色に変るので、面白がって持ち帰る人も中には居ますが、何の役にも立ちませんよ」


 ギルドカードは机に置いたまま、先に黒いカードをリュックから取り出しながら、ふと思った疑問を口にしてみる。


「もし、まだ俺がこの身分証明書(ギルドカード)を作っていないとして、一週間以内に用事で半日程リミエンを出るような場合、この黒いカード(入門許可証)は持ったままで出るんですか?」


 要は本人確認がこの黒いカード(コレ)で行えるのかの確認だ。

 冒険者ギルドの魔道具はかなりのハイテク魔道具だったが、ここにあるのは水晶玉のような魔道具であり、性能の違いが気になるのだ。


「そうですよ。何度もソレを作り直すのは経費の無駄ですから。

 それ、一枚用意するのに大銀貨一枚ほどかかるそうですからね」

「なるほど。それで用事を済ませて戻った時には、城門でコレを見せるだけですか?

 それとも水晶玉に手を当てるので?」

「一度発行すれば、もう水晶玉は使いませんよ。

 ソレを読み取り機に通せば、登録した情報が隣の部屋の表示器に表示されます。

 それで不審点が無ければ通行許可が出ます」

「情報って氏名、年齢、出身地、来訪目的だけだったよね…それって、コレを持ち出して年の近い別の人に渡せば、出入りが出来るんじゃ?」

「言われてみれば…そうですね…やります?」


 衛兵さんの目がスッと細くなり、身に纏う雰囲気が一瞬で冷ややかになった。コッチがこの衛兵さんの本性か?

 普段の穏やかな口調は芝居ってところか。だからと言って、何か思う訳では無いけど。


「やだなぁ、そんなことはやりませんよ。

 ギルドカードには本人確認の機能があったので、コレにもあるのか気になっただけですから。

 それに魔道具も全然違うので、性能が違うんだろうと思って聞いただけです」

「そうですか。

 大抵の人は大銀貨一枚と聞けば返却するのですが。

 良く気が付かれましたね…確かにこの魔道具は冒険者ギルドのカード発行機と違って本人確認と金銭管理は出来ません。

 ギルドカード発行機と同性能の魔道具の配備を要請したのですが、現在の魔道具技師には製作が出来ないそうなので、この水晶玉を使っている訳です。

 なので、毎回ソレを発行した後に、その人の容姿、特徴をメモしているんです。

 これが一番大変なんですよね」


 そう言うと、疲れたような笑いを浮かべた。


 魔道具技師のレベルが落ちたのって、実はかなり深刻な事態なんだね。

 今まで家電製品を使っていたのが使えなくなるのと同じようなもんだな。


 黒いカード(入門許可証)は記念に取っておこうと思っていたけど、変に疑われるのがイヤなので返却することにする。


 それと聞いていて感じた違和感がある。

 セキュリティ面から考えて、全数回収するのが一番確実なのに、敢えて持ち帰りを可能にする。これには何か裏があるのでは?と、疑ってしまう。


 この制度を悪用して、別の人をリミエンに招き入れるような奴を泳がしている、とか?

 まさかこのカードにGPS機能は無いだろうけど、発信器になっている?

 これはただの妄想に過ぎないが、衛兵さんが全部を教えるとも思えないし。


「もし町の中でコレを無くした場合は?

 無くした本人はもう一度作れば済むけど、コレは誰かの手に渡りますよね?

 このシステム運用、かなり問題がありそうですね」

「えぇ…その通りです。なので衛兵はソレを過信しないようにして、自分の目で相手を確認していますよ。だから人相とかメモをするんですよ。

 これ、言いふらさないでくださいよ」


 会社とかでもセキュリティゲートでICカードをタッチして通行するけど、他人のカードを使っても出入り出来るんだよね。

 だから網膜認証とかの技術が必要な訳だ。


 かなり杜撰(適当)と思える城門の警備に不安を覚えるが、技術的にどうしようも無いのなら衛兵さんに頑張って貰うしか無い。

 それに機械を過信しても良くないので、人の目でチェックしているならそれで良いと思う。


 よし、これで何かあってもケルンさんに迷惑が掛かることは無くなった…よね?

 後は二階でお金を受け取ってから宿屋に戻るとしますか。


 そう思って机に置いたギルドカードを手に取ろうとした時だ。

 立派な口髭を生やした、少しだけ白髪の混じった銀髪の男性が突然この部屋に入ってきた。

 ぱっと見でもかなり鍛えているのが分かる。人生の大半を荒事専門に生きてきたんだろうね。


「随分と楽しそうだったな。

 濃紺の髪…昨日の報告にあったケルンの連れか」

「隊長、お見えになられたのですね。

 はい、中々知恵のあるお方だったので、話が弾んで長くなりました。」

「そうか、そう言う者にリミエンに住み着いてもらえば発展していくだろう」


 この白髪混じりの人は隊長だったのか。

 衛兵さん達がどんな組織体系なのか知らないけど、かなり上の人なんだろうね。

 偉い人には目を付けられないように…あ、隊長の目がテーブルの上をチラチラ見てるけど、うん、無視しよう。

 銀色のギルドカードが置いてあれば、さすがに気が付くか。


 隊長の視線には気が付かない振りをして、ギルドカードをそそくさと鞄にしまう。


「忙しいところ、すまんが少しだけ話を聞いてくれ」

「なんでしょうか?」

「うむ、君はリミエン所属の冒険者となったことで、この門を通るための通行料は今後必要とはしない。

 だがその代わりに町の住民の一人としての責務を負わなければならない。何か分かるかね?」

「住民の義務と言えば…納税ですね?」


 義務と言えば、教育、勤労、納税だ。この内の教育はこの世界には無いからね。


「ほぉ、物分かりが良いな。結構結構。

 だが儂は税金のような難しい話は苦手でな、槍を振るう意外の仕事は出来ん。

 冒険者ギルドが冒険者の身分を保証するのは、納税者を増やすのが目的ではない。

 魔物に対する戦力をより多く確保するためだ」

「軍は…いえ、俺はそんな戦力にはならないですよ」


 やべえ、軍は何のために治癒魔法を使える人を囲っているのか、って言いそうになったよ。

 この手の脳筋族にそんなの言ったら炎上するだろうな。自粛、自粛と。


「謙遜せんで良い。

 住民達の為に、より多くの魔物を討伐することを希望する」


 この人、俺とは価値観がかなり違いそうだ。しかも議論しても永遠に平行線で終わるパターンだ。面倒くさ。


「冒険者ギルドが定期的に行う街道沿いの大規模掃討に参加すれば良いですよね。

 他にもやりたいことがあるので、普段は町の中で活動を続ける予定ですから」

と積極的な戦闘はしないと予防線を張っておく。


「馬鹿を言うな。何のための銀貨級だ?

 銀貨級ともなれば、そこらの有象無象共と違ってより強い魔物を狩ることを求められるのだぞ。

 オーガぐらいは狩って来て貰わねば話にならん。

 雑魚狩りなどは大銅貨級に任せれば良い。

 それに登録時に銀貨級になれる者などそうはおらん。

 特にライエルがギルドマスターに就任して、能力把握をしっかり行うようになったからな。

 お主のその等級に恥じぬ活躍に期待する」


 ほらね、こう言う超脳筋的発想だよ。

 冒険者ランクは戦闘能力の証明でもあるけど、皆が皆、戦闘がしたいって訳でもないと思う。

 そう思う最たる理由が、軍による治癒魔法の使える人の囲い込みだ。

 リミエンに来てまだ二日目だけど、軍関係者の姿は見ていない。この衛兵さん達が軍組織の一つだとしたらノーカンとして、だけど。


 そう言えば気になるのが、治癒魔法が使える人ってどれくらいの割合で居るのかだ。

 あの魔法、結構な魔力を消費するんだよ。腹黒性悪受付嬢には勿体ない能力だったな…。


 えっ?…じゃあ、治癒魔法を二回も使えたリタって、実は魔力が凄く多い人ってことか?

 性格は残念だったけど、能力的には貴重な存在だった…待てよ、魔力が多いってことは、それだけ魔法を使える回数が多いってことだ。


 つまり、他の魔法も多く使える…軍のやってる囲い込みって、単純に治癒魔法が使える、イコール魔力が多いって判断の基準にしてたってことか?


 考え過ぎかな。単に治癒魔法には適性があるだけなのかも知れないし。

 実情は囲われている本人に聞いてみないと分からないか。


「聞いておるのか?」

と隊長が返事の無い俺に不審げな顔をする。


「あ、すみません。

 魔物を倒すことだけが冒険者の仕事じゃないと思うんです。

 斥候の人なんて、敵を見付けるのが上手くて逃げ足が速けりゃ、戦力は無くても役に立つ。

 植物の知識が豊富な人は、戦えなくても有用な植物を採取してくれる。

 冒険者って適材適所で活動すべきじゃないかな?

 戦うことの強要とか、戦えるかどうかでランクを判断するのはおかしくない?」


 俺の中でモヤモヤしていたのは、非戦闘員に対してまで戦力を求めてランクを付ける、そう言う考え方が気に入らないからだ。

 隊長と話していて、考えが整理されたよ。


 力を持つ人が力を振るわないのが問題、と言われればそうかも知れない。

 でも、本来戦闘能力の必要のない人にまで戦闘能力を強要してランクを分けるの、おかしくない?

 冒険者は傭兵じゃないんだから。


 そりゃ、戦闘能力を持ってる方が生存率は上がるだろうけど。

 て…ちょっと待てっ! おまっ、このタイミングで…意識がふっと消えた。


 クレストは何を甘えたことを言ってんだろうね。

 所詮は人間の住む世界も弱肉強食の世界だ。

 知力も権力も強さの含まれる分、強さの定義の幅が野生の生物より広いだけだ。


 それに魔物と人間の生存圏がラップしてるんだから、戦闘能力の無い奴は町から出てくるな、出るなら強い奴を雇えってことだ。


「隊長さんよぉ、相手が強くなればなるほど、治癒魔法の必要性は高くなる。治癒魔法の使える奴が仲間に居なけりゃ、俺達だって安心して戦えない。

 それぐらいの理屈は分かるだろ?


 だが治癒魔法の使い手は軍が独占してら。

 それでも冒険者は強敵と戦え、怪我は自己責任だ、儂は関係ないと?


 冒険者は安心して戦えないし、職人は怪我しても治癒魔法で治せず引退する。

 そんな世の中にしておいて、何を好き勝手を言ってんだよ」


 隊長は俺の変化に顔付きを一変させ、今まで対応してくれていた衛兵さんはおどおどし始めた。


「軍がそう言う状況を作っているって気付いてるか?

 知ってて知らんぷりなら、良い身分だな。

 それが当然だ、軍の言うことが絶対に正解だと言うのなら、証明してくれよ。


 それと、俺はキリアスから出て来たばかりで、リミエンに定住する必要なんて無い。

 まぁ、俺が遣りたいことの為に倒さなきゃならない魔物が居ればキッチリと倒してくるから、それで良いな?」

「貴様、軍を批判するのか」


 良い感じに隊長の顔が赤くなってきたな。


「はぁ?

 俺は事実を言ったまでだが、批判に聞こえたのか。それこそ軍のやってることがオカシイって証明だろうがっ!


 俺はこの国のことなんて何も知らないが、治癒魔法使い云々の話は町で聞いてきた。

 聞いた話をアンタにサービスで伝えただけだが、それが罪になるなら、なんて罪か教えてもらいたいね。


 軍関係ではそれ以外のことは何も知らないから、軍を肯定も否定もしないさ。


 あー、それと悪いんだけど、俺の戦闘スタイルって格闘なんだよ。

 それでも俺に期待する?」


 鞄から冒険者カードを取り出して、戦闘の欄を指差して隊長に突き付ける。


「そう言えば…」

と衛兵はすぐに納得したが、隊長は俺の手からカードを引ったくるように取るとマジマジと見るのだ。


「確かに格闘だ…信じられん、ライエルは何を考えて…こんな奴を銀貨級に…」


 この国、予想以上に格闘の評価が低いな。

 確かに盾を持った相手にクレストは苦戦していたしな。あんなのは慣れりゃどうとでも出来るんだが。

 さて、このオッサンがどう出るか楽しみだ。

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