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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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第26話 お掃除完了

 執務机に座るのは、当然だが当ギルドのギルドマスターだ。それが分かっていながら、

「おっさん、あれはどう言うことだ?」

と言ってしまった。


 クレストみたいな甘ちゃんに、こんな狸オヤジを相手に上手く交渉なんて出来ないだろうが、俺も交渉は苦手だ。だが、やっちまったもんは仕方がない。

 責任を持ってなんとか切り抜けるしかないが…時間が…。


 俺の言っている意味が分からない、とでも言いたそうな表情のギルドマスターは、嫉妬できるぐらいは何気にナイスミドルだ。

 しかも俺から漏れる威圧もまるで微風程度にしか感じていないようで、むしろ俺より強者の風格が漂っている。

 だがそれに怯むような俺ではない。


「このギルドは随分な性悪年増とやんちゃなゴブリンを飼ってんだな」


 俺の言いたい事が理解出来ない、とばかりにギルドマスターが首を傾げる…あんたもか!

 リミエンでその仕草がブームなのか?!


「確か、武器も使えないクソ雑魚が登録に来た。追い返すか?

 とリタ。

 戦闘手段など登録段階では参考にはならん。ラウンジに居る『紅のマーメイド』の前衛二人に能力把握を依頼しろ。

 それで合っているか?」


 スライムの耳を通して、リタとギルドマスターの会話を聞いていたのだ。完璧に盗聴…だけどな。


「なる程…随分良い耳だね。何かのスキル持ちのようだけど、どうしてそれを教えるんだい?

 普通なら隠密系スキルは人には教えないものだよ。

 隠していた方が何かと都合が良いからね」


 それは当たり前だ。言われなくても分かっている。

 誰だって自分の知らないうちに会話を盗み聞きされたなんて教えられたら、俺のことなど信用出来なくなるだろう。

 だが、知っていなければ一連の俺の言動について理解出来ない筈だ。それにこのカードを切るのは打算があってのことだ。


「あいにく盗聴の趣味は持ち合わせていなくてね。今回は緊急事態だから特別サービスだ。

 俺の秘密一つが手土産で上手く片付けて貰えるなら安いもんだ。これ以上、教えるつもりは無いが」

「こちらとしても、それを誰かにバラすつもりは無いと約束しよう」

「アンタの差し金で動いたことにするにも、口裏合わせが必要だろ?

 既に察して貰ったようなので、もう説明は要らないと思うが」

「そうだね、ちょっと強引だったけど。職員には私の方から説明しておくよ」

「助かる。それでリタの件だが…」


 ここで突然骸骨さんの意識が無くなった。会話の途中で急にシフトチェンジされても困るんだけど。

 けど、今回は骸骨さんが意図的に隠れたと言うより、タイムアップで強制退去させられたような感じだね。


 話の流れは何となく掴んでいるから、この後を上手く続けられるかは俺の演技スキル次第か…はぁ、そう言う系統の持ち合わせが無いんだけど。


 骸骨さんはギルドマスターから極秘任務を受けていた態で新人登録に来て、悪さをしている受付嬢と仲間の冒険者を現行犯で捕まえたって言う筋書きにするつもりなんだ。


 でも受付カウンターでの遣り取りとか、ギルドマスターへの対応とか、もっとマイルドに出来なかったのかな?

 よっぽどリタ達のことが気に入らなかったんだろうけど、後処理するのは俺なんだよ。


 でも、あの盾への一撃は骸骨さんが力を貸してくれたから感謝だ。あんな器用な魔力の使い方なんて真似出来ないし。

 あれって装甲を無視してダメージを通す技の一種だろう。面白そうだけど、どんな修行したら使えるようになるんだろ…おっと、余計なことを考える前に話の続きをしなきゃ!


「えー…俺からは今後この件について喋ることはしない。 

 腹黒性悪受付嬢のリタと、クソ雑魚『黒羽のカラス』は訓練場に転がしてある」

 急に口調を変えても不審がられるだろうから、骸骨さんの感じで言ってみる。


 劇団経験なんて無いから、ちょっとヤバいかも。

 案の定、ギルドマスターの頭の上にクエスチョンマークが三つぐらい浮かんでいそうな表情だ。


「…まぁ…何と言うか、ご苦労さん?

 しかしアレだね。ちょうど処分する為の資料が纏まったところだったんだが…必要が無くなったようだ」


 そう言ってギルドマスターから渡された資料には、リタの過去の行動に対する調査内容が記載されていた。


「君のお陰で、ギルド内の掃除が前倒しで出来るようになった。感謝する。

 そうそう、私は冒険者ギルドリミエン支部のギルドマスターのライエルだ。

 気楽にライエルさんと呼んでくれて構わないから」

「えっ!? マジで『ライエル』さん?

 よくある名前、ですかね?

 あ、クレストと言います。今後ともお願いします…」

「私の聞いた限りでは、この名前は私一人だね」

「…ですよねぇ」


 聞いたことがある名前どころの騒ぎじゃない。

 いつか億単位のお金を掛けた計画を頼もうとしていたご本人だった。一気に冷や汗をかいて体温が急低下したような気がする。


 まるで『さっきまでの骸骨さんの言動なんて気にしていないよ』、そんな雰囲気を作りながら握手を求める冒険者ギルドのギルドマスターが、あの『ライエル』さんだったとは。

 このことを俺が知った時のことを想像して、今頃バルドーさん達は笑っているだろうな。


「ああ、マジでライエルさんだ。今後ともよろしく頼むよ、クレスト君。それとも…。

 おっと、早く訓練場に行った方が良さそうだね」


 まさかライエルさんがギルドマスターとは知らずに怒鳴り込んでしまった…これって印象最悪だろ!

 これじゃ俺のお願いなんて聞いてくれないかも知れないぞ。

 なんて間の悪いタイミングで骸骨さんに切り替わるんだよ…しかも言いたい事だけ言って途中で引っ込みやがった。


 ライエルさんは俺の態度を全然気にしていないように見えるけど、見た目と内心は全然別物って人も居るから安心出来ないぞ。


 俺は気まずさを感じつつ、ライエルさんの後を付いて執務室を出る。

 ミランダさんと隣に座る受付嬢二人が席を立ってライエルさんに会釈をする。


「訓練場に顔を出して来るよ。

 それとエマ君が帰って来たら、クレスト君の登録手続きの引き継ぎを頼むように伝えといて」

「畏まりました」


 受付嬢の二人と、ラウンジと呼ばれた談話スペースに居た冒険者達から一斉に注目を浴びる。

 彼らには俺のことを受付カウンターを無理矢理通ろうとした礼儀知らずだと思われていたかもね。

 ホント元魔王と呼ばれた骸骨さん、いきなりやらかしてくれたよね。多分あの性格のせいで魔王と呼ばれてたんだろうね。もしアレが日常だったら敵を作りまくっても仕方がないよ。


 残念な性格の骸骨さんにガックリしながら、ライエルさんと訓練場に入ると、泣いているリタと宥めているゴブリン役達の姿が眼に入った。


 全員気絶から復帰してたのか。それならもう少し強めのパンチでも良かったか?


 ライエルさんは静かに歩み寄って彼らの前に立つと、リタを一瞥した。


「リタ、私は『紅のマーメイド』の二人を審査役として指名したのだが、ここには『黒羽の鷲』の四人が居る。

 どう言う理由かは後で説明を聞かせて貰う」


 怒っているでもなく、かと言って優しくもなく。

 感情無しで指示を出しただけだ。

 それからゴブリン役達の方を向き、

「ラウンジでリタに何と言われてここに来たか、一句も間違えずに言ってみろ」


 こちらも同様に淡々と指示を出す。

 だけどズシリと響くような迫力があった。これは威厳とカリスマ性があるからこそ為せる業だろう。


「…調子に乗ってる雑魚がいる。いつも通り軽くのしてやりな、です」

と盾持ちのゴブ二郎が答えた。こいつがリーダーだったのか。確かにあの鉄砲玉みたいな剣士がリーダーとは思えないな。


「間違い無いか?」

と俺の顔を見てライエルさんが質問するが、それを俺に対する質問とは思わなかったのか、

「はい」

とゴブ二郎が肯定した。俺は黙って頷くだけだ。


 それを見てライエルさんが少し怒ったような顔をリタに見せた。それだけで周囲の温度が一気に数度下がったような気がする。


「リタ。受付嬢の身でありながら、由緒あるリミエン冒険者ギルドの品位を穢す行為は冒険者ギルド規約に叛するものである。

 拠って一週間の謹慎、及び三ヶ月間の減給処分とし、評価を二段階落とす。異議は受け付けん。

 私と彼を甘く見過ぎたのが裏目に出たな」


 こんなことズバッと言うとは予想外だった。ライエルさんは容赦ないね!

 上に立つ人って、何となく有耶無耶に終わらせようって人が多いもんね。ちょっと格好いいかも。

 それともリタは敵対派閥の関係者だったとか?


 それから俺はメッセンジャーボーイを頼まれ、ミランダさんにライエルさんの伝言を言付け、にわかにギルド内が動き出した。

 ギルド本館二階で勤務している幹部達が『黒羽の鷲』の捕縛をし、リタの取り調べを始めたのだ。


 その後リタは冒険者ギルドを退職することになったのだが、公式には俺と関わりがあった為では無い。

 そりゃ俺が留めを刺したのは間違い無いけど、他にも過去にやっていた悪事をライエルさんが調べ上げていたんだから言い逃れは出来なかったんだね。

 自業自得ってやつだ。


 『黒羽の鷲』もリタと組んで新人いびりをしていた事実が発覚し、二段階降格で大銅貨級に落とされた。

 このパーティーを解散しようが、今後彼らは銀貨級に昇格することは無いだろう。


 そして今まで彼女達の虐めが発覚しなかったのは、怪我をさせた冒険者をリタが治癒魔法で治療していた為だと明らかになった。

 骸骨さんが折ったゴブ太郎の手と、俺が折ったゴブ三郎の手首は当然リタに治療させた。それだけの技量があるのに有効活用していないなんて勿体ないね。


 リタが治癒魔法を使えることは彼ら以外には教えていなかったそうで、能力の無駄遣いも甚だしいと呆れるしかない。

 元はリタも貴族家令嬢であったのだが、何処で道を踏み外したのやら。

 軍に従事するのがイヤだと言う気持ちは分かるが、だからと言って彼女達がやっていた事は陰湿であり、許されるものではない。


 治癒魔法を使える者を軍が囲い込む、こんなことが罷り通ることがそもそもおかしい。

 冒険者こそ魔物との戦いを日々繰り返しているのだし、職人達だって大怪我を追う可能性はあるのだ。

 軍が何を考えているのか知らないけど、このやり方は許せないな。

 だからと言って、たかが新米冒険者の俺に何か出来る訳でも無く。


 併設の酒場で後味の悪さを誤魔化すように冷えていないジュースを飲み干し、受付カウンターから声が掛かるのを待つのだった。

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