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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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第22話 ケルンさんは出来る男だった

 バルドーさんのお店にケルンさんが訪れ、皮剥き器と薄切り器の高評価を戴いた。


「どちらも早く量産して貰いたいですね。

 これならクレストさんは占有販売権を持てそうですよ」

と言ってケルンさんが微笑んでからお茶を一口含む。

 それを聞いて、ケルンさんが来る前の遣り取りをエメルダさんが説明する。


「ところでクレストさんは昨日『新しい技術を生み出した場合に保護される制度はあるのか』と言う趣旨の質問をされたと思います」

「えーと…はい、まぁそんな感じ?…の事を聞きましたかね?」


 あれ…おかしいぞ。

 ケルンさんには『発明をした時に特許はどうなるのか』って聞いたつもりなんだけど。

 まさか異世界翻訳機能が誤訳したのかな?

 うーんっ、困った…。

 あぁ~っ、そもそも論でこの世界に特許権って概念が無けりゃ、正しく伝わる訳が無いじゃん!


「話が難しくて余り理解出来ず、てっきりクレストさんはキリアスで最先端の技術者なのだと思っていました。

 だからこの国には、残念ながら技術を保護する制度は無いと返事をしました。

 理解不足で申し訳ないです」

と言ってペコリと頭を下げられた。


 大学の講義で聞いた特許の話で、発明の定義が『自然法則?を使った技術的思想?で作った凄い物!』みたいな感じのうろ覚えだったけど、時間潰しにその話をしてケルンさんに余計な勘違いをさせたみたいだ。


 こりゃ、地球にあるから大丈夫なんて迂闊に喋るのはマズいかも。

 この世界にある情報を基本にして喋らないと、また違った勘違いをさせるかも知れないし。

 そう言えば屋台のおっちゃんに『ご馳走様でした』と言っただけで貴族と勘違いされたぐらいだからね。


 勘違いで済めば良いけど、下手打ちゃ異端審問とかされちゃうかも…まさかそれで骸骨さんが魔王って呼ばれるようになったとか?

 そんなことは無いと思いたいけど、可能性は無視できないか。


 物凄く端折って言うと、発明した技術を他人に勝手に使用させないのが特許。

 新商品を他人に勝手に作らせない、売らせないのが占有販売権。

 その新商品の基準が曖昧なので、占有販売権の対象になるかどうかを商業ギルドが審査するそうだ。


「それがまさか、既に新商品のアイデアを持っているとは思っていなかったので、占有販売権の話はしなかったのですが」

「あはは、それは済みませんでした。親切な人に久し振りに会ったので、つい」

「キリアスでは苦労されたのですね…」


 なんとか誤魔化せたかな?

 けど、はい、皆で一斉に同情するような視線を向けるのやめて欲しいです。居たたまれないので。

 それにしてもキリアスってどんだけヤバい国なんだろ? 逆に興味が沸いてくるよ。


「今回は偶然にもバルの店にアイデアを持って来たので事なきを得ましたけど。

 皮剥き器と薄切り器、どちらも単純なのに素晴らしい商品です。この商品を開発した人にはかなりの注目が注がれそうですが…それがバル…なんですか。

 大丈夫ですかね?」


 ケルンさんがゆっくりバルドーさんの方を向くと、バルドーさんはばつが悪そうに頬を掻く。


「仕方ないだろ?

 こんな奴に役所の対応なんて任せられん」

「あぁ、まあそれは確かに。クレストさん()危なっかしいですもんね。

 で、クレストさん。もし他にも新商品に関わる事があれば、十分に注意してくださいよ。

 下手な店に頼むと…はい、まさか?」


 ケルンさんの話を聞いているうちに、俺の目が泳いだらしい。追求されたので仕方なく既に『マーカス服飾店』でがま口や傘などを頼んだ事を白状する。


「はぁ、まだマーカスさんのお店なら、それ程悪いことにはならないでしょうか。あそこも基本的にはオーダーメイドの店ですからね。

 後でマーカスさんにも話をしに行きますから、クレストさんも来て下さいね。

 それにしても、まさか昨日到着したばかりで、もう二軒も巻き込んでいるとは。

 新商品って普通は中々出ない物なんですよね?

 それなのに何でそんなにポコポコと考えつくのやら…」

とケルンさんが疲れた顔を見せる。


 わざとじゃないんですよ! 信じてください!

 前世では普通にあった物なんです!なんて言えないよね?


 けどケルンさんって行商人だよね。なのに他の商人さんとの調整役みたいな事が出来るんだね。

 行商人ってのは仮の姿で、実は水戸のご老公様みたいに偉い人なのかな?


「あのね、ケルンさん、クレストさんは他にも凄いことを考えているのよ。どう思う?」

とエリスちゃんが衛生に関する一連の説明と、石鹸の開発と絆創膏の研究の話を始めた。

 その流れで高濃度アルコールの製法についても説明しておく。


 一通りの話を聞き、暫く考え込んだケルンさんが難しい顔をして溜息を付いた。


「ライエルさんにしても、洗浄剤の製造に危険性のある液体を扱うと言われると困るでしょう。

 それなら切り傷用の応急処置テープの研究開発だけをお願いする方が、まだ理解を得やすいでしょうね。

 それと消毒液?は、技術的には比較的簡単に出来そうですが、お酒を原料にするので麦の収穫量を大幅に増やさないと酒造ギルド(飲んだくれ共)の反発が凄いことになりそうです。

 一応、農業ギルドと酒造ギルド(酔っ払い連中)の知り合いに話を入れておきますが。

 もし企画書を求められたら、クレストさんにお願いします。

 必要な物が燃料と濃いめの酒だけなら、酒造ギルド(役立たず共)の試験研究費に捻じ込ませてサンプルを作りましょうか。

 量で勝負の奴らですから、どうせ新商品なんて作っていませんからね。一体毎年どんな報告を上げているのやら」


 ただの人の良さそうな行商人だと思っていたけど、ケルンさんってバルドーさんよりよっぽど出来る男だね。これぐらい頭が回転しないと商売人は務まらないのか?

 結論はエメルダさん達と同じなのに、聞いてて凄く納得したよ。

 それにしても、ケルンさんの酒造ギルドに対する評価が辛辣過ぎ!


 石鹸の方が個人的には優先なんだけど、絆創膏の研究開発をやって貰える可能性があると分かっただけでも一歩前進かな。


 それなら石鹸と一緒に中性洗剤を作ろうかな。

 中性洗剤で汚れが落とせるのは界面活性剤の効果だ。界面活性剤は何種類かの植物に含まれているので、抽出・濃縮で多分出来るだろう。


 この世界にもムクロジの実みたいなやつが泡の実と言う名前で販売されてて、農場で栽培されている。

 他にも同じような成分を持つ植物があるかも知れないから、時間があれば誰かに()()()()みようかな。


 泡の実で体を洗うのが不満だから石鹸を作ろうとしたのに、中性洗剤の為に泡の実に戻って来るというこの悲しさ。


 椰子油とかパーム油からでも中性洗剤が作れるけど、手に入るのかな?

 この地方は熱帯じゃないから、あっても輸入になるのか…こりゃお高い買い物だな。


 考え事をしている間に少々ケルンさん達がハイテンションになり、中々お店を出るに出られない状況になってしまった。

 その間にも俺は皮剥き器と薄切り器の試作品の細かな出来を確認し、角を丸めたりと手直しをしていく。


「それで、もうネタは無いのかい?」

とケルンさんまで俺を恐喝してくる。いや、恐喝と言うより確認かな。

 見ていない場所でアイデアを出されるより、見ている時に出して欲しいと言う感じだね。


 俺がこの店で見つけて、なんだこれ?と思ったのが爪切り代わりの石のヤスリだった。

 こちらではザラザラした石の板をヤスリにして爪を削るらしい。粗さが三段階から選べる充実振り。

 現代社会で普段使ってるパチン、パチンと切る爪切りって割と最近の商品だからね。でもステンレス鋼が無さそうだから塗装になるのかな?

 爪切り、提案するかな、どうしようかな。


「ねぇ、さっきから爪削りを持ってるけど、何かアイデアあるのね? あるんでしょ? あるに決まってる!

 てか、さっさと言いなさいよ」

とエリスちゃん。ケルンさん達の話し合いから追い出されてこちらに来たみたいだ。


「無いことは無い。でも実現不可能かも。一応絵は書いてみるけど」


 例の鉄板にクリッパー式爪切りのイラストを書く。

 鋼は高価だろうから、要所となる上下の刃、ビス、板バネ部分だけに使い、他の部分は木でも魔物素材でも好きな物で作って欲しい。

 オール金属製の方が作るのは簡単だと思うけど。バルドーさんは金属部品は外注に出すんだろうな。

 皮剥き器と薄切り器で忙しくなったら、一式外注に出すようになるかもね。


 すぐに思い付くネタは無くなり、ケルンさん達の話も終わったので、ようやくお店を出ることが許された。

 そしてケルンさん同伴で『マーカス服飾店』へ。


 店に入ると奥からマーカス夫妻達の話し声が聞こえた。店番をしていた店員さんに奥へ案内されると、がま口と傘のイラストを書いた鉄板を前に二人の見知らぬおじさん達がいた。随分対応が早いな。

 この奥さんは、そんなにがま口と傘が欲しかったのか。


 おじさん達は細かな細工物が得意な鍛冶師で、普段からちょっとした部品や飾りを頼んでいるそうだ。

 そんな二人が偶々今日店を訪れて夫妻の餌食に…もとい協力者になったらしい。


 ケルンさんが大袈裟に額を抑えながら、占有販売権の話を四人にする。俺はがま口と傘に関する権利を一切放棄し、利益に関してはマーカス夫妻に一任することを明言した。

 契約書なんて無いので口約束…大丈夫かな?

 でも契約書を作ると俺の名前が世に出るから作る訳にも行かないのだ。


 考えてみれば服の専門家にがま口の形や傘の仕組みを考えられる訳が無いので、鍛冶師の二人が居てくれたのはタイミングが良かったな。


 ついでにこの二人に爪切りも作って貰うことにした。打ち合わせが終わったらエメルダ雑貨店に寄ってもらおう。


 フィッシングベスト擬き、リュック、ウエストポーチ、ボディバッグについては占有販売権の対象になるかどうかは微妙とのこと。

 以下は各商品のケルンさんの評価だ。


・単にポケットをたくさん付けただけのベストなので、それ程注目されないだろう。見た目にも疑問。


・メッシュ素材の使用でリュックを背負っても背中が蒸れにくくなることは評価出来るが、他にはストラップやポケットを追加しただけなので新商品とは言えない。

 これならメッシュだけ別売りすれば良いだろう。

 それより、このカチッと嵌めれば固定が出来て、両端を押せば解ける差し込みバックル(サイドリリースバックル)自体が新商品だ。早く試作してくれ。

 バックルは受ける側は金属でも作れるけど、差し込み側は金属で作るのは難しいと思う。

 鋳物でバネみたいに弾力のある金属が出来るのかな?

 苦笑している鍛冶師の二人に任せよう。


・ウエストポーチはそんなの誰が買うの?

 デザインが良ければ多少は売れるかも知れないね。


・ボディバッグは確かにスリ対策には良さそうだけど、体の前にバッグを持ってくる事に女性は抵抗がありそうだ。後はデザイン次第でしょう。


 まあこんな感じだ。差し込みバックルについては実現すれば新商品として申請することになった。


「じゃあクレストさん、また何か新しい商品が閃いたとしても、決してすぐには動かないでくださいね。

 下手な事をすると目立ってしまいます。

 くれぐれも気を付けて」


 ぐぬぬ、ケルンさんに全く信用されてない!

 それだけ俺のことを心配してくれてるってことなんだろうけど。

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