(資料)市民権の概要
エメルダさんから教えてもらったことを述べるね。
バルドーさんは職人としては腕利きなんだけど、こう言うことの説明や事務処理なんかは苦手なそうだ。
市民権の正式名称は『コンラッド王国在住認定及び行動の自由を得るため権利証』と言って、長い名称だから誰からともなく市民権と呼ぶようになったそうだ。
俺は当然市民権なんて持っていない。
そう言う人が一番手っ取り早く身分証明書を手に入れる方法が、冒険者ギルドに行って冒険者登録をしてギルドカードを貰うことだ。
俺みたいに他国等から流れてきた身元不明の不審人物の身元保証人になってくれる唯一の組織が、冒険者ギルドである。
魔物を退治して生活の糧を稼ぐ冒険者は、魔物による被害を減らすために何処の町でも多く必要とされているから、ある意味ウインーウインの関係と言えるだろう。
実際のところは、冒険者なんて換えの効く鉄砲玉ぐらいにしか思われていないんじゃない?
しかしながら年齢であったり、肉体的な問題であったり、理由は様々だが身元不明の人間全てが冒険者になる訳ではない。
冒険者にならない人が身分の証明の為にどうするのかと言えば、役所に行って市民権を購入するのだ。
逆説的に言うと、冒険者は住民扱いではないのだ。
なんてむちゃくちゃな社会だ!と突っ込みを入れたくなるが、引っ越しをしてから引っ越し先の市役所に住民登録しないのと同じような状況だと思えば納得だな。
ここで大きな問題。冒険者になれなくて、市民権を購入するだけのお金が無い人はどうするのか。
コンラッド王国では奴隷制は採られていないが、かと言って社会保障制度が充実している訳ではないので、貧民となるしかないのだ。
リミエンにもスラムと呼ばれる地区が幾つかあるが、詳細は割愛する。
市民権を持たない人は、もし町の中で何かのトラブルで衛兵さんのお世話になった場合、衛兵さんに話を聞いてもらえないんだとか。
なので冒険者と言えども、ある程度の蓄えが出来たら市民権を購入する人が多いらしい。
住民登録の為には、それなりのお金が必要と言うことだ。
しかも市民権にはグレードがあって、より上位の市民権を持つ人の方が何かと優遇される傾向にある。
合法的なカースト制を敷いているとも言える。
俺みたいな根無し草が市民権を購入するには、一定期間この町に滞在し、期間中に犯罪を犯さないことが求められる。
途中でよそに出ていた期間はノーカンなのか、一定期間の滞在をどうやって証明するのか等、不明点は残る。
恐らく担当者の気持ち次第なのだろう。
また、一つ上のグレードになるには、更に一定期間の滞在プラス納税額のアップ。そこから更にグレードを上げるにはどんどん必要な納税額が上がっていく。
そしてグレードを維持するだけの納税が出来なくなると、その年の納税額によってグレードを下げられると言うシビアな仕組みだ。
しかも別の町に移住すると、またその町での市民権を購入する必要がある。
この仕組みのせいで、この国では移住するのを躊躇う人が多いそうだ。
とは言っても、余程のことが無い限り移住しようとする人は居ないだろう。現代社会と違って会社の都合で転勤とかそんなに無いからね。
転勤があるとすれば、大きな商店が他の都市に出店するとか、その程度だろう。
しっかりした後見人が居れば、引っ越ししても最低限の市民権は保障されるらしいけど。(結局はお金次第だ)
市民権を購入すると市民権カードが発行され、城門の通行時等に身分証明書としてこれを提示する。
偽造や他人のカードを使用することも出来そうだと思ったら、市民証明カード(市民生活カード)には何かのセキュリティ対策がされているそうだ。
なお、十歳未満の子供は市民権を購入することは出来ないが、身分証明書が無くても城門の出入りが自由に出来る。
と言え、正確に戸籍管理されている訳では無いので子供は出入り自由と言う感じだ。
ただし衛兵さんもカカシではないので、怪しい子供が通行すれば職務質問や持ち物検査を行うそうだ。
他にも色々と制度に不備があるが、なあなあで運用されている節はある。