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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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第19話 雑貨店への依頼

 『マーカス服飾店』では奥さんの勢いに負けて、本来の目的とは別に、がま口のバッグと傘を作ってもらうことになった。

 フィッシングベストもリュックもボディーバッグも完全にオマケ扱いになったかな。


 けどなぁ、この世界の人って新しい物に餓えてんのかな?

 何も考えずに欲しい物を教えるのはマズいかも。自粛しなきゃ。


 他に欲しい物は…地味にピーラーだな。

 たまに料理を作るけど、包丁の扱いって少し苦手なんだよね。野菜とか果物の皮剥きは超下手くそだから、初めてピーラーを使った時は感動の余り涙を流した…うん、大袈裟だな。


 でもそれくらいピーラーは便利だと思う。あれなら子供でも料理のお手伝いが出来るからね。

 構造も刃と本体だけだから、これは簡単に作れそうだ。調理器具か野営用具を扱っているお店で注文してみよう。


 後はついでにスライサーも作るか。キュウリにニンジンにタマネギなんかをサクサクッと千切りに出来るやつ。

 プラスチックが無いから本体は木製になるのが懸念事項だけど、これも構造は簡単だ。

 それに刃を換えれば色んな切り方が出来る。普通のスライスしかしたことないけど。


 こうして考えてみると、プラスチックって凄いよね。ありとあらゆる道具に使われてる。

 これが無いだけで、作れる物が一気に減っちゃう。

 けど地球じゃ脱炭素社会とか言って石油製品の使用料を減らしていく方向らしい。無理だと思うけど。


 あっ、ちょっと待てよ。

 この世界にはプラスチックは無いけど、魔法がある。それに使える人は少ないらしいけど、錬金術もある。

 それに、とっても不思議な魔物素材もあるんだよ。

 これらをミックスすると、地球には無かったロマン素材が作れるかも知れないな。

 夢は無限に広がってるよ。実現できるがどうかは分からないけど。


 そうだ、スライサーは最後の方は指を切るかも知れないから、食材をホールドするホルダーも合わせて作って貰おう。かく言う俺も二度程切ったことがある。

 それで絆創膏で応急処置を…って、絆創膏も無い!


 絆創膏って、薬液に浸した綿か何かで作った傷口に当てるパッドを、接着剤を塗ったテープに貼れば出来る。理論的にはね。

 でも一番の問題は接着剤か。強力過ぎても弱過ぎてもダメ。それに肌がかぶれる物もダメ。

 パッチテストをかなり繰り返さないと販売は出来ないだろう。

 テープも通気性と耐水性と言う相反する機能が必要だね。


 冒険者って怪我をする機会が多そうだろうから、こう言う商品は欲しいよね。

 後は消毒液も必要だな。強いアルコールか塩素化合物か。この国は農業大国だからアルコールは何とかなりそうだ。

 確か塩素化合物は人体に使用する物じゃなかったし。


 希釈した過酸化水素水が消毒液になるけど、原液は劇物だから作らせたくないんだよ。

 設備の破損や老朽化で漏れると怖いし、いつか誰かが事故を起こすと思うんだ。


 俺自身は骸骨さんのお陰で治療魔法が使えるけど、ケルンさん情報だと治療魔法の使い手はとても貴重らしい。だから俺は身近な人以外には使うつもりは無いんだ。

 その為にも絆創膏や消毒液は必要なんだ。


 骸骨さんが貯め込んでくれた遺産があるから、研究所を作って研究員に丸投げするのが一番ラクそうだ。

 ケルンさんに聞いた限りでは『鑑定』のスキルや魔法は存在していないみたいだから、どの素材にどんな効果があるか試してみないと分からないのがツラいところだけど。

 

 新薬とか新素材の開発はかなり大変だと思う。

 よし、頑張れ、まだ見ぬ研究員達よ!

 草葉の陰から応援してるからな~!


 他にも便利グッズを色々と作っ…って、さっき自粛しなきゃって思ったばっかりだろ!


 心の中のメモ帳にピーラー、スライサー、絆創膏、高濃度アルコール、ここまでで打ち留めと書き込んでから道具屋さんを探して歩きだす。

 この街で一番品数が豊富で冒険者からメイドさんまで足繁く通うと評判のお店『ルイズ雑貨店』は大通りから二本それた通りにある。

 パッと見てその建物の大きさにあっと驚く。


 いやね、現代日本の感覚で言えば大したことは無いんだよ。でもこの辺りの他の建物と比べると、間口だけで三倍はありそうだ。

 店が大きいと期待出来そうだね。郊外の大型ホームセンターが丸一日遊べそうだと思うのと同じ感覚。


 でも逆に小さな雑貨店にアイデアを渡した方が良くない?

 繁盛店は俺が行かなくても繁盛してる訳なんだし。

 それなら個人経営の小さなお店の役に立つ方が良さそうだ。判官贔屓(ほうがんびいき)ってやつか。

 それに小さなお店の方が大きなお店より小回りが効きそうだし、俺のお願いも聞いて貰えそう。


 直ぐに模倣品が横行するだろうが、短期間でも独占販売をすればそれなりに稼げる筈だ。


 せっかくマーカス夫妻に教えてもらったんだけど、『ルイズ雑貨店』はやめて小さな雑貨店を探してみる。

 こう言う探索も初めて来た街を楽しむ醍醐味なんだよ。


 お登りさん丸出しでキョロキョロしながら歩くこと三十分程。

 大通りから外れる程に人通りは減っていくけど、奥様達が井戸端会議をしていたり、子供が走り回っていたりと生活感に溢れていて、こう言う生活感のある光景は好きだ。


 そんな中、少し寂れた感のある通りで控え目な看板のお店を発見、『エメルダ雑貨店』と言う看板には黒猫が書いてあった。

 目には光る鉱石を嵌め込んでいて、少しお洒落感を演出。

 何気なくドアを開けると、チリンチリンと音が鳴って女の子がこちらに振り返る。

 店員さんを雇う余裕は無いだろうから、多分家族だろう。


 明るい声で「いらっしゃいませ!」と迎えてくれる。さっき見た『ルイズ雑貨店』とは違ってお客さんは全然居ない。

 あれだ、大型のスーパーが進出して小売店や駅前通りが寂れていく、あのパターンだな。


 店内は清潔にしているし、明かり取りの窓を開けていて採光も良い。でも高い位置に採光窓があるから、開け閉めは面倒くさそう。

 この店専用のマジックハンドでも作らせようかな。ワイヤーとコイルバネさえ手に入れば、何とかなりそうだし。


 商品は手作りの木製の小物や髪留め等が主だが、手に取ってみると丁寧に作られた良い品物だと分かる。

 ここのお店は当たりじゃないかな? 


「済みません、ちょっと欲しい物があるんだけど、調理小物とか作る依頼って受けて貰えますか?」


 カウンターに座っていた、俺より少し年下に見える女の子に問うと、直ぐに奥から体格の良い中年男性がヌボッと出て来た。

 少し脚を引き摺っているのは、怪我をした冒険者が引退したんじゃないかと想像させる。


「俺が店主のバルドーだ。良く来たな。

 エリス、お客さんにお茶を頼む」


 見た目の迫力の割に意外と接客はまともだった。


 ちなみにお茶と一口に言っているが、その種類は千差万別。日本でも玉葱の皮、トウモロコシのヒゲ、熊笹等、茶の木以外の物から作った物でも茶と言うのと同じ理屈だ。

 四本足のものは机と椅子以外、どんな物でも食べようとする国もあるぐらいだからなぁ。

 この世界の人も美味いかマズいか、飲めるか飲めないか、ギャンブル感覚で試してんじゃないのかな?


 材料不明のお茶を頂いてから、例の鉄板に蝋石でイラストを書いてピーラーとスライサーを説明する。 


「なるほど、鋼の薄い刃を使った髭剃りみたいな物だな。この刃は鋼じゃないと駄目か?」

「と言いますと?」


 おや? このオヤジさん、鋭いな。セラミック刃のピーラーもあるから、鋼って決め付ける必要は無いんだ。


「鋼でも、それ以外でも大丈夫です。皮剥き器の刃は交換式にしても良いし、薄切り器はアタッチメント単位で交換しますから。

 刃の素材って鋼以外だと、どんな物があります?」

「これなら魔物の牙だな。良く詰まった牙なら貴族向け、それ以外は大衆向けだ。

 本体は貴族向けに岩蜥蜴(ロックリザード)の鱗がおもしろそうだ。大衆向けのは木製でも何でも良い」


 ピーラーを貴族向けに? オッサン、まじめか?

 まぁ、この顔が冗談を言うような顔には見えないけど。でもケルンさんの例もあるし、人を見た目で判断するのはいけないな。


「魔物の牙なら掃いて捨てるほど転がっている。これなら直ぐに試作してやる。待てるか?

 エリスは皮剥き器を作れ。儂が薄切り器を作る。

 お前さんは外で昼飯でも喰ってからまた来てくれ」


 そう言って良い笑顔を作ると、俺の返事を待たずに奥へと引っ込むご主人のバルドーさん。

 エリスちゃんはカウンター裏からゴソゴソと工具箱と材料を取り出してカウンターに置いていく。

 使うのは厚さ二センチぐらいの木の板と、長さが十センチに少し足りないぐらいの長さの牙?

 そんだけでかい牙の持ち主ってどれだけの大きさの生き物なんだ?


「あー、これね?

 試作に使うヒュージワームの牙。一回で牙が四十本ぐらい採れるお得な獲物だから、アンタも冒険者なら採ってきてね。でかいだけで弱いから常時採取の対象だから。

 頭をちょん切っても再生するから、間違っても斃しちゃダメだよ」

と何事も無いよう話すと、俺が鉄板に書いた絵と自分の手のサイズを見較べながら、木の板に材料取りの罫書きを始める。


 いやいや、そんな大きな牙を持つ虫が常時依頼だって?

 俺が居た森にもワーム系は居たけど、でかくて直径五十センチ弱だった。ただの芋虫だったけど、あれでもビビったぞ。


 それよりもっとヤバそうなのはカマキリかな。

 カマキリの体高が一メートルっておかしいと思ったけど、そのヒュージワームとやらに比べりゃまだ普通の大きさだよ。


 って、おいっ!

 頭をちょん切っても再生するって、どんな万能細胞の持ち主だよ!

 しかも何回でも採取可能って…可哀想が過ぎるな。


「見られたら気が散るから」

とシッシと手で合図されたので、

「じゃあお願いします」

と告げて店を出る。


 ただの店番かと思っていたけど、軒先に掛けてある看板はきっとエリスちゃんが作ったんだな。

 若いのに職人さんの雰囲気がバリバリに出ていたもんな。バルドーさんにこんな洒落た看板を作るセンスは無さそうだし。


 冒険者ギルドにも行かなきゃならないんだけど、皮剥き器と薄切り器の試作品を見てからにしよう。

 特に急ぐ必要も無いし。

 身元引受人がケルンさんになってるけど、今のところはトラブルの気配も感じないから多分大丈夫…だろう?

 とりあえず、もう少し街の見物をしながら何かお昼ご飯を食べようと思う。


 それにしても、街中を当たり前のように武装した若者やおっさんや、たまにお姉さん達が歩いてる。現代日本ならコスプレ会場以外じゃとても考えられないよね。

 でも廃刀令が出るまでは日本でも刀を刺してお侍さんが歩いていたんだから、おかしな訳ではないのか。竹光だった可能性もあるけど。


 それに未だ銃を規制していない大国だってある。

 同じ跳び道具だと考えたら、魔法使いって銃を持ってる現代人と同じ感覚なんだよな。

 そう言う意味じゃ、武器の所持だけを規制する意味なんて全然無いって訳なのか。

 寧ろ武器より魔法の方が広範囲に被害を与えるだろうし…これも一つのカルチャーギャップだね。


 この世界で生活していた骸骨さんには当たり前の光景でも、まだ転生初心者の俺には驚きの連続だね。

希釈した過酸化水素水は、日本薬局方のオキシドールと言う商品名で販売されているやつです。

みんな一度はお世話になったかな?


赤チン(マーキュロクロム液)は製造が終了とのこと。懐かしい一つの文化が無くなりましたね。

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