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第163話 御礼は忘れない

 小鳥のさえずる声で目が覚める。

 私の隣りには、優しく私を見つめるクレストさんが居てくれる。

「おはよう、エマさん」


 そう言うとクレストさんが私の唇にキスをする。勇者達はこれを朝チューと言うそうね。


 えっ、これって打ち切りエンドじゃないのかって?

 失礼ね、これは私の妄想なんだから!



 …気のせいか随分長い間、エマさんのターンが続いていたような気がする。

 一度仕切り直して、少しだけ俺が死んだ後のことを話そうか…。




 如何に不死を誇るバンパイアであろうと火山噴火に巻き込まれれば滅ぼせると考えた俺は、傷む手足の治療を諦めて攻撃に専念することにした。


「『ボルカニック…イラプション!』」


 この火山噴火魔法は恐らく俺が持つ魔法の中でも最大火力で、かつ回避の困難な大技だ。

 ノラの真下の地面から一気に噴き出したマグマがノラの姿を覆い隠し、奴の最後を確信した。

 しかし動く力も魔力も残っていなかった俺は防御壁も何も用意出来ないままに、降り注ぐ火山弾とマグマを浴びて文字通りロストした…筈だった。


〔いや、君凄いよ。よくあのアンパイアをあそこまで追い詰めたものだ〕


 真っ暗な空間に漂っていた俺は、これが死語の世界なのかと予想外の光景にガッカリしていた。

 三途の川やお花畑を期待した訳では無いが、黒一色だと殺風景にも程がある。


 そんなことを思っていると、頭の中?に声が響いてきたのだ。


『誰?』


〔初めまして。ダンジョン管理者です。名前は無いので、適当に呼んでくれて構わないから〕


『ダンジョン管理者?

 ラノベによく出るやつか?

 ダンジョンの一番奥に陣取ってて、ダンジョンコストを消費してダンジョンを成長させるやつ』


〔ラノベ?…あ、理解した。

 ダンジョンの成長を司る存在であることには違いない〕


『そうか。それで管理者が俺にどう言う要件だ?

 オレは死ぬのに忙しいんだけど』


〔そう、君はさっき自分の魔法で死んだんだよね。しかもノラはまだ生きているしさ〕


『嘘だろ! あの攻撃を喰らって何で生きていられるんだよ!』


〔ノーラクローダは腐っても不死の王だから。

 爪先からお臍の上までは無くしたみたいだけど、ダンジョンの魔力を集めてレジ袋に入ったみたい〕


『その袋は有料か?』


〔いいねぇ、その返し!

 レジ袋は廃止しても、結局ポリ袋の消費量が増えただけで意味は無いんだよね〕


『…管理者ってこの世界とは違う世界のことまで知っているのか』


〔そんな訳は無い。君の記憶にアクセクしているだけだよ。

 だから寒いギャグも君に近いだろ?〕


『寒くて悪かったな。

 それよりノラだよ。アイツが生きているってことは、皆がやばいだろ!』


〔そうだよ。このままだと確実に皆殺しに向かうだろうね〕


『防ぐ手段は無いのか?

 俺に出来ることなら何でも言ってくれ!

 誰一人死んで欲しくないんだ!』


〔それ、残された皆もそう思ってるだろ?

 あの時は仕方なかったかも知れないけど。

 まぁ、それは置いておこう。

 何でもって言うのなら、君にダンジョン管理者をお願いしたいんだよ〕


『それで皆を守れるならやってくれ!』


〔オーケー、じゃあ、さっそくポチッとな〕


 一瞬目の前の景色が高速でグルグルと変わっていくような気分の悪さを感じた。

 だが吐き気が有るわけでもない。

 

 ふと気が付くと、自分の体が澱みの一つもない綺麗な泉の上に移動していたのだ。


〔この泉がダンジョンを管理するコントロールセンターになっている。

 既に君は全権限を手にしているから、もう説明の必要は無いよね?〕


『そうだけどさ。自分で説明しろよ』


〔ちっ、仕方ない。チュートリアルぐらいは付き合ってやるか〕


 こんな感じで死んだらすぐにダンジョン管理者になった訳。


 それからはとにかく夢中で皆がノラを倒せるようにアレコレやって、最後は天井を崩してノラに太陽光を浴びせることに成功した。

 皆の強化やノラへの妨害工作など、コストを管理しながらの作業はまるでゲームみたいだった。


 魔界蟲戦で消耗した皆の体力をどうやって手早く回復させるか、これはかなり悩んだ。

 結局回復の泉なんてゲームみたいなご都合主義な手段を取ったけどね。


 ダンジョン管理者になれば、このダンジョンを作り変えることも出来るし、ドロップアイテムだって任意に設定出来る。

 マジックバッグとダンジョンのドロップアイテムの話をラビィから聞かされたことがあるけど、誰に何を渡すか自由に設定出来るんだよね。

 それなりのコストは必要だけど。


 ノラを倒せば当然皆は俺を探すだろう。

 水晶化したこの体を見れば、エマさんも諦めてくれるだろう…そんな風に思いながら皆を俺のもとに誘導したんだ。


 そして皆がもうすぐ到着ってところでギャンブル好きな神様が突然やって来た。


《なあ、お主。儂と賭けをしてみんか?

 お主が勝てば、ダンジョン管理者を別の者に再設定し、お主の体を再生してやろう》


『神様は暇なのか?

 もっと信者の祈りに耳を傾けるべきだと思うが』


《神が暇なのは世界が平和な証拠じゃよ。

 人間同士の多少の紛争は自然の摂理。

 それはお主も認識しておるようじゃな》


『さすが神様…お見通しか。

 それで俺が賭けに負けたら?』


《ダンジョン管理者として、この後何千年か管理して貰うつもりじゃ》


『それは長いな』


《そうじゃろ?

 だから鬱憤の溜まった管理者がたまにストレス発散の為にスタンビートを起こすんじゃよ》


『迷惑なストレス発散だな』


《移動も出来ず、毎日ダンジョン管理ばかりやってみろ。誰だってそうなるじゃろ》


『それで人が死ぬんだぞ。俺はそんなのは認めない』


《それは今はアッチにホイじゃ。

 で、賭けの対象じゃが、誰がお主の替わりになるかでどうかの?》


『その前に一つ。別の人間を管理者に設定しないといけないんだな?』


《何を人間と定義するか…。仲間のラビィは人間か?

 ノーラクローダはどうだ?

 其奴らも本人に意思があれば管理者に設定出来る》 


『なるほど。で、神様は誰に賭ける?』


《お主を守りきれんかった責任を取ってベルがなるのに一票か。お主は?》


『皆が責任を感じて立候補するだろう。

 でも…多分…誰も俺の替わりにはならない』


《それじゃお前が継続だが、それでファイナルアンサー?

 受付終了五秒前じゃ…五……四…》


『うぜぇよ。

 エマさんなら…俺の愛したあの人なら、辛くてもきっとそう言うと思うから』


《本当にそうなったら、泣かせる決断じゃな》


【じじい。俺も人間に入るか?】


《一つ誤解しておるな。本人が納得すると言う条件さえ満たせば人間には限らんよ。

 で、お主は魔王の霊魂か…お主がそれで良いなら儂は認めよう。

 確かにお主みたいなイレギュラーをいつまでもこの世に存在させておく訳にはいかんからのぉ》


『骸骨さん…まだ生きてたのか…』


【勝手に殺すな…いや、死んでるからこうやって会話に出て来られる…いやいや、お前が死んでも俺は死ななかったと思うが訳が分からんな。

 クレスト、神の爺ぃが言うとおり俺は本来ここには居ない存在だ。

 『魔熊の森』のダンジョン管理者だった俺なら、このダンジョンを管理するのは問題無い。

 骸骨の姿より、今の水晶の姿の方が遙かにマシだしな】


『…たまに遊びに来ても良いか?』


【いつでも来い。ドラゴンのパーティーでお出迎えしてやるよ】


『笑えない冗談だよ。

 でも…悪い、恩に着る』


【まだ賭けは終わってねえ。

 お前の読みが間違ったら意味は無いんだからな。しっかりしろよ。

 だけど、俺もお前の賭けに乗ったぜ】



 こうして賭けは成立し、あの日を迎えたんだ。

 エマさんが骸骨さんを身代わりに立てて俺が納得しないだろう、そう俺自身も気が付いていない俺の本心を言い当てたんだよね。


 骸骨さんは俺であって俺でない存在だ。

 最初にこの世界に転生し、魔王セラドリックと呼ばれるに至ったもう一人の俺。


 セラドリックとしての俺の死後、魂の一部を残して地球に転生したのが今の俺の元の俺。


《そもそもそこよ。本来そんなことは起こりえんのじゃが。

 上位神が気まぐれでも起こさん限り、転生した魂が二つの世界を行ったり来たりはせん》


『げっ! 人が物思いに耽ってる時に降りてくんなよ。

 しかも人の思考を盗み読みしやがって。

 神様って暇な自由人か?』


《そう言うな。

 イレギュラーの塊が歩いておるようなお主のことを…(何かトラブルを起こすんじゃないかと)心配するのは当然のこと》


『何か知らんけど、失礼なこと考えてないよね?

 それに、もう俺だってガキじゃないんだ。保護者はいらないよ』


《たかだか百年程しか生きられん人間など、儂らからしたら皆子供じゃな。

 それにガキじゃないと言いながら、まだ中二病は治ってないじゃろ?》


『精神病の患者で悪かったな。

 それなら次に降臨するのは、中二病の特効薬が出来てからにしてくれ』


《そうするかの。

 おぉ、最後に一つ良いか?》


『皆を待たせてるから、手短に頼むな』


《神様に向かって、お主もエマも酷い言い草だな。

 まぁ良い、これでお主と会うのは最後になるじゃろうからな…ゴホン、お前達の冒険はまだ始まったばかりだ!

 アディオス アミーゴ!》


『てめえっ! 人が一番気にしてることをっ!』


 それっきり神様の気配は感じなくなった。


 そして、俺の中でグルグルと回転していた魔界蟲も俺の身代わりとなってあの泉の上に今でも浮いている。


 どうしてアイツがそんな選択をしたのか理由は分からない。


 だけど、あの銀色の光が消え去る前に、

『今度会う時は、強くて可愛い子になってるから』

と言う声が届いたのは今でも覚えている。


 魔界蟲って、実は他の魔物が産まれる前の仮の姿なのかもな。

 魔力の塊だと言われているけど、成りたい自分の姿が見つかるまではあんなアスパラみたいな形で地面を進んでいるのかも。


 ただ一つ困ったことがある。


 魔界蟲が俺の中から出ていったのが影響したのか、それとも肉体が再生したときの不具合なのか分からないけど、魔力が使えなくなったのだ。


 その影響は想像外の場所に被害を及ぼした。


 このダンジョンの最奥にあるこの地点に、俺のアイテムボックスに収納していた物が全部出て来てしまったのだ。


「締まらない奴だよ…」


 お宝ともガラクタとも判別の付かないその山に、今は仲間達が総出で整理に当たってくれている。

 やらかした当事者の俺はと言うと、

「クレストさんはまだ病み上がりなの。

 ゆっくりしてて!」

とエマさんに無理矢理座らされたのだ。


「キャーッ! 何コレ! 下着よね!

 エマっち、後で穿いてみて!

 絶対クレストさんは鼻血を出すから!」


 骸骨さんよぉ、お前の貯め込んだコレクションってどっから持って来たんだよ?


 ……。


 やっぱり返事はないか。


 でもさ、骸骨さんが俺の中に居るのは分かるから。

 俺のルーツを自分で無くすところだったけど、エマさんの言葉に助けられて。


 骸骨さんもありがとうな。

 返事は無いけど、『気にするなっ』て言いながら笑ってやがる気がするよ。


 泉の上にはクルクルと回り続ける銀色の塊が一つ。

 そしてその泉に映る巨大な樹…世界樹がダンジョンに吹く風に葉を揺らす。

 このダンジョンを作ったのは、この世界樹なのか。


 どおりでやたらと広い森が広がっていた訳だ。

 それに俺が破壊した辺り一面も元通りに戻っていたらしい。

 それならこのダンジョンの木を伐れば、リミエンの木材不足は解消されるよね?


 でもまだ見ぬ温泉郷への憧れは捨てがたい。

 やり残したことはまだ沢山あるんだよね。


「だから…おまえには感謝してる。

 銀色の相棒…ありがとうな。

 俺の中に戻りたくなったら、いつでも来い。一緒に冒険を楽しもうぜ!」


 灯り石の照らす柔らかな光を受け、静かに回り続ける銀色の塊は回り続ける。

 それが彼の唯一の意思表示だから…。


「クレストさんっ!

 なんですか、この破廉恥な下着の数々は!

 こんな趣味があるなんて見損ないました!」


 走ってきたエマさんが、顔を赤くしながら恥ずかしい下着を手に俺をポカポカと叩く。

 骸骨さん! 頼むから何でこんなの持ってるのか早く思い出してくれっ!


 

ここまでおつき合いくださった皆様、誠にありがとうございます。


後半の執筆中にゲームに手を出し、読み返さずに投稿したので誤字が多発したかと思います。御不便お掛けして申し訳ありません。


本作は一旦この話をもって完結とします。


明日から第二部『銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます』をとして、本作の続きを投稿開始します!


部で管理しようと思ったら、なろうはシリーズでの管理?…シリーズではないので、思い切って話が変わるタイミングで分けることにしました。


打ち切りエンドかって?

いいえ、ただの力不足と寝不足です!


まだまだクレストにやらせることは残っています!

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