第161話 残酷な選択
水晶の像になってしまったクレストさんと再会を果たすことが出来たわ。
これを再会と素直に喜ぶのは、少し難しいんだけど。
『分かった事から教えていくから。
エマさん、メモをしてくれる?』
聞かれなくても、あなたがくれた魔道具のメモ帳はスタンバイしてます!
『このダンジョンは、後ろに生えてる世界樹が遙か昔に生み出したものなんだ。
俺が管理者になる前は地下百層を超える巨大なダンジョンだったみたい。
でも新人管理者の俺が維持に必要な魔力を無駄遣いしたせいで、縮小されてここで行き止まりになった訳。
不幸中の幸いってやつ?
そうでなければ…会えたのは何年後か分からないや』
あの…連絡をくれた時って、それ程深刻な様子は無かったから、既に縮小してたってことで良いのよね?
あの後にも大きな地震が起きたけど…あれは関係無いのよね?
『あー、そう、あの時は確か三十階層ぐらいだったかな。
途中にサイクロプスと戦って貰う必要があったんだ』
普通なら私達はそこで死んでますけど…クレストさんの基準、少しおかしくない?
『タイニーハウスを改造したり、地震を起こしたりしたら結構な魔力を使ってね。
地下七十階層のドラゴン達をノラに当てれたのはラッキーだったよ』
…確かにノラが気の毒な程に疲れてたわよ。
それでも強かったけど。
『山の異変の限界は、三匹の魔界蟲が木から養分を吸い上げてたこと、それと大きく成りすぎたこのダンジョンが放出してた魔力のせい。
木も強過ぎる魔力を浴びると枯れるみたい。
でも雑草は魔力を浴びても枯れないのは不思議だね』
それだと、これからカンファー家は植林を再開出来る訳ね。
またダンジョンが育ち過ぎたら管理者が地震を起こして魔力を無駄遣いすれば影響が出ない…それは分かるんだけど。
管理者って何年続けなきゃいけないの?
水晶の体は…ううん、その体でも良いから動いて欲しいなんてエゴよね。
言いたいこと、聞きたい事がいっぱい出てきそう。
『ノラがこのダンジョンに居たのは、勇者が中途半端に封印して捨てたのを世界樹が拾ったんだって。
ノラと対等に戦える能力がある人間が管理者に相応しいから、試験官として雇った感じみたい。
本人はその事を知らなかったと思うけど。
ある意味、世界樹に操られてただけの可哀想な人だね』
可哀想かも知れないけど…それでクレストさんが死ぬのは納得行くわけ無いでしょ?
『山に異変が起きれば当然調査が入るでしょ。
そこでこのダンジョンの入り口を見付けて貰おうって腹だったみたい。
だけど誰も見付けられなかった。
そりゃ、地下の魔砂土の層にある入り口なんて普通は見付けられないでしょ』
それを見付けてしまったあなたが恐ろしいのです…地面を割るなんて普通は出来ないんだからね!
『まぁ、世界樹がどこまで人間の普通ってやつを認識してるのかってところは疑問だよ』
あなたがどこまで自分の異常さを認識してるのかも疑問ですよ?
『そう言う訳で、ルケイド、植林事業は再開出来るようになったけど。
禿げ山にしちまったし、その前にだいぶ栄養分が山から流れ出てしまってるから補填しないといけないか…うん、何種類か地上に再生担当を派遣するよ』
それって魔物です?
人を襲ったりしないですよね?
『ワーム系、昆虫系、植物系…俺の支配下の魔物は人を襲わない設定にしといた。
おっ! マジシャンキラーも支配下登録されてる!』
確かそれって魔法が効かない魔物で、樹液か樹皮が魔力の絶縁に使える可能性があるって言ってたわね。
『山が再生するまで、マジシャンキラーも派遣しとけば一石二鳥かな。
ヨシ、そうしよう』
管理者ってそんな事まで出来るのね!
「あっ! まだ魔物達は送らないで!
上にはギルドから派遣された人が居るから!」
『えっ! もう送っちゃった…テヘ』
テヘじゃないわよっ!
オッチョコチョイね!
地上に送られた魔物達が慌てて回収されたようで、私達の回りは魔物だらけになってしまったの。
襲ってこないと分かってても、この数は恐怖ね。
ラビィ、ワームに乗って遊ばない!
あっ! その植物の魔物はイチゴ蛇にオーガリリー! 超稀少種よ!
って、いけないいけない。この子達はクレストさんの…家畜?
それともペット?
ペットと言えば、水晶みたいなスライム達!
「クレストさん、あのスライム達ってずっと前から?」
『気付いた? そうだよ、俺が『魔熊の森』で見付けた子達。中々優秀でね』
優秀なんてレベルは通り越してると思うけど、それはクレストさんだから仕方ないわ。
でも、水晶のクレストさんは眉一つ、口も目も動かしてくれないの。
水晶だから当たり前なんだけど。
…私は元のあなたにもう一度会いたい。無理だと分かってるけど。
『ねぇ。皆は神様が居るって信じてる?』
クレストさんの質問は、私達にとっては当たり前のこと。
でも神様と会話をすることなんて無いんだけど。
『ダンジョンって神様の世界とも繋がってるみたいでさ。
俺に興味を持った神様がコンタクトしてきたんだよ』
神様とお話しを? 姫巫女様にもその能力があるそうだから、不思議ではないのかな?
『一つだけ、俺が人として復活する方法を教えてくれたんだ。
でも、これは***なことだから。
もし復活したら、俺は**すると思う。
だけど…このことを伝えるのが、こうやって皆に会って話しをするための条件だったんだ』
途中に聞き取れない言葉が混じったのは、その神様が言わせたくない言葉だったから?
「その方法を教えて!」
『…言いたくないけど、言わないといけないみたい。
《とても単純なことだ。この中から誰か一人、この男の身代わりになれば良い》』
…途中からクレストさんの声ではなくて、男性とも女性とも判断の付かない声に変わったわ。
ひょっとして、クレストさんに興味を持ったと言う神様なの?
《そうだ、この男の体を借りて話しておる。この男を解放する為には、代わりとなる魂を捧げよ》
『…てことらしい。だから俺はそれを望まない』
「そんな…」
話に聞く神様は、優しさと残酷さの両面併せ持つ存在だったわ。
今まさに残酷さが現れたってことなのね…。
「それなら一番年上の僕が最適だよね」
と真っ先に手を上げたのはベルさんだ。
「何言うとんや。ワイかて二度死んどんのや。ここはワイが行くべきやろ」
と子熊姿のラビィがベルさんの脚をペチペチ叩く。
「ダメだよ。これは元々カンファー家の問題なんだ! 僕がやる!」
「ルケイドさん、それはクレストさんが一番望まない選択肢だと思うわよ。
私の命一つで済むならお安い御用です。
エマさん、幸せに暮らしてね」
ルケイドさんは確かにクレストさんが拒否するわね。弟みたいに可愛がっているもの。
でも、だからと言ってオリビアさんが?
一時は確かにクレストさんを巡って争ったけど。
「私がやるわ。この両腕は一度無くしたもの。この恩に報いたい」
「それは私がミスしたからよ。私がやるわ」
アヤノさんとセリカさんって、こんな時まで思い合ってるのね。女同士の友情は成り立たないとか言うけど、二人は別ね。
「リーダーもセリカもマーメイドには絶対必要なの。これは一番中途半端な私の役目よ」
「サーヤ、それを言うなら私がマーメイドの中で一番役立たず。
それにクレたんの為なら何でもやると決めたの!」
この二人も仲良しコンビだよね。わたしとミランダさんみたいな感じ。
だけど…皆の気持ちは嬉しいと想う…でも、一つだけ間違ってる!
決して言って良い言葉ではないと分かってる!
だけどね!
「皆…ダメだよ。
気持ちは嬉しいけど…間違ってるよ!
クレストさんはそんなの望んでいないの!
あの人はねっ!
いつも突拍子もない事を言ったり始めたり、でもそれは皆の事を思ってやってる事なの!」
言ってて色々な事を思い出してきちゃう。
あなたと初めて会った時の強烈な印象は、他の誰にも負けていないわよ。
知らずに涙が溢れてくるけど、もう構わない。
「私だって出来ることならクレストさんの代わりになりたいよっ!
だって私には人に誇れるものなんて一つも無いんだから!」
自分で言うと悲しくなるけど、本当私には取り柄なんて一つも無いもの。
だから私が一番適任なのは間違いないわ。
「でも、私は狡い女だから皆がそう言ってくれて良かっと少し思ったわ。
だってクレストさんを抱き締めたいし、抱き締めてもらいたいんだから!
でもね…前提を間違ってるのよ。
クレストさんは望んでいないの!
誰にも替わりになって欲しくないの!」
私の言葉に皆が唖然として静まり返った。
当然よね。
皆の気持ちを裏切るような事を言っしまったのだから。
《それが答えで良いのか?
今ならまだ》
「神様だろうがシツコイと嫌われるわよ!
女に二言は無いのよっ!
クレストさん。ごめんなさい。私のこと、嫌いになったかもね」
《神に対して何と言う…》
やばい、後先考えずに怒らせちゃった?
《アハハハハハっ! 実に良いっ!
神に向かってシツコイなんて言った人間は初めて見たぞ!
こんな楽しい事は予想外にも程がある!》
あれ? 愉しそう?
《仲間達に自慢できるぞ!
愉快愉快!
それとクレストよ。賭けはお主の勝ちじゃからな。約束通り、入れ替えてやる》
賭けって? えっと…つまり騙されてたの?