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第158話 伝える想い

 クレストさんがノーラクローダと戦っ戦った場所は一面が黒と灰色の石に覆われていた。

 でも唯一彼の持っていたペンダントを回収することが出来た。


 私がノーラクローダ…面倒だからノラって呼ぶわ、の言い口に腹を立てて噛み付いたら、アイツの頭に何故か亀の甲羅『こらコーラ』が落ちてきて、私を攻撃しようとしていたノラの邪魔をしてくれたの。


 でも何故亀の甲羅を?

 私達三人がその意味を考えていると、突然ダンジョンの入り口付近で大きな音がして、ノラが私とルケイドさんも連れて急行していくの。


 これがクレストさんの魔法ならもっと楽しめたのに。


 一時間の十分の一程の時間も飛べば、ダンジョン入り口付近に到着したわ。


 まだ予定の時間には早いからベルさん達はダンジョンには戻ってきていない。

 それより大きな音の原因だけど、どうやら天井の一部が崩落したようなの。


 まさかクレストさんが大きな魔法を放った影響がこんな離れた場所に出たのかしら?


 私とルケイドを降ろしたノラが一人で天井の調査を始め、

「崩壊が始まった訳では無さそうだ」

と教えてくれた。


 でも崩壊って何よ?


 ダンジョンの最奥には大きな魔石があって、それを取り出すと崩壊するって物語があるんだけど。

 冒険者ギルド所属の金貨級以上の冒険者からはそんな報告は入っていないわ。

 恐らくは物語を面白くするための設定だと思うのよ。


「時間になればまた来る」


 ノラがそう言ってまたさっきの現場方向に向かって飛んで行く。あの魔族も随分自由な人ね。


 でもクレストさんが生きている可能性は出て来たのよね?

 きっと何かの理由があって出て来られないだけよね?


 早くあの人に会いたい。そしてこの腕に抱き締めたい。

 今の私はそれしか考えられないの。


 それからいつの間にか設置されていたタイニーハウスで時が来るのを待つ。

 …おかしい。確かクレストさん、これを出す前に飛んで行ってしまった筈。なのに何故ここにあるの?


 いえ、隠れて出す必要は無いのに。まさか大怪我をして、その姿を見せたくないから?

 でも完全にひしゃげたセリカさんの両腕を治せたぐらいだから、自分の体ぐらいなら治せると思うし。


「どうして?

 あなた…どうして出て来てくれないの?」


 まさか私達だけでノラを倒せると言いたいの?

 でも、それならそうと言ってくれても良いのに。


 分からない。彼の考えが全く…。


 外からベルさん達声が聞こえてくる。もうだいぶこの部屋で時間を潰したみたいね。


「エマさん居るっ?! 出て来て!」

とアヤノさんが私を呼ぶ声に動揺が感じられたわ。

 何があったのかと急いで出ると、

「これ見て!」

と地面を指さすの。


 そこには木の棒で書いたような文字が彫られていたの。


『悪い、俺、死んだ。ノラを倒せたと思ったんだけど、倒せなくて御免ね。

 それでさ、死んだらどう言う訳かダンジョン管理者に設定されちゃった。

 この能力でノラを倒す手伝いをするから、皆は安全第一で。

 そうそう、古いタイニーハウスは回復スポットに改造してある。

 それとアイテムもそこに出しといたから好きなの使ってね。

クレストより』


 その文字はやがて消え去り、それとほぼ同じタイミングで前回使ったタイニーハウスが現れたの。

 まるでクレストさんがここに居て、出してくれたみたいに。


「…これって…?」


 光を上手く使えばそこに居ても見えなくなるように出来るとルケイドさんが言ってたけど、やっぱり近くにクレストさんが居るんじゃないの?


 キョロキョロと辺りを見渡して見るけど、探し人の姿は見つからない。

 だめか、と思って視線を落とすと、

『現在ノラを足止めしてるから。

 で、皆がノラを倒したら、このダンジョンの一番奥まで来て。

 大変かも知れないけど、そこで待ってる』

と、棒も無いのに地面に文字が少しずつ掘られていく。

 文字は一度そこで止まったが、またゆっくりと書き進められていく。


『今から大事なことを言うよ。

 エマさん、俺を好きになってくれてありがとう。俺もエマさんが大好きだったよ』


 そこから先は全く意味の無い、文字にもならない字が続いていく。


 ひょっとしたら、これって音声入力してるの?とルケイドだけが気が付いた。

 クレストもそれに気が付いたのか、一旦文字が止まる。


 泣いているエマさんを、女性達が黙って抱き締める。下手に言葉を掛けるより、誰かに触れられて居る方が心が落ち着く時もある。


 でもダンジョン管理者か…大きな魔石に魂が宿った感じなのか、それとも生前の姿でクリスタルに封印されているのか…まさか脳だけってことはないだろうと、アニメのシーンを思い出すルケイドだ。


『ルケイド、俺の意思を継いでくれ。

 それが重いと思ったら、周りの皆に投げれば良いから』


 石鹸、紙に始まり、馬車に玩具にスイーツ店…どこに行ってもクレスト兄の関係者は楽しそうだったんだよね。

 チャムさんとは袂を分かつことになったけど、それは自分にも責任があるかな。

 でも百周年記念の式典関係はどうしよう…さすがに普通の高校生で死んじゃった僕には荷が重いよ。


『オリビアさん、『光輪』はまだまだ進化するから頑張って!

 きっと光の剣にすることも出来るようになるから!』


 盾だけでなく、武器としても使えるようになったのはこのダンジョンに向かう途中のことだったわ。

 『光輪』って飛ばせないの?と不思議そうなクレストさんに『何を馬鹿な』と最初は思ったの。

 でもクレストさんには既に偽炎斬の姿が見えていたのよね。

 私以上に『光輪』のことを知っているなんて驚いたのと、やっぱり、と言う気持ちの両方かしら。


『マーメイドの皆もまだ延びしろあるよ!

 全員が金貨級にも到達出来るから!

 セリカさんの守りとアヤノさんの攻撃は、この国で一番のペアになる。

 サーヤさんのアメンボウは、にわか雨なんかじゃない。川をも溢れされる大雨だから。

 カーラさんは魔法の勇者の再来になると言っても良い。あのメモはそれだけの価値があるからね』


 四人が自分に宛てられた文字を大切そうに受け取る。この時ばかりはオチャラケ役のカーラさんも泣いていた。


『ラビィ、悪いけど俺の留守を守ってくれるか?

 ダンジョンネットワークで可愛い雌熊魔族を探してやるからさ。俺には良し悪し分からないけど』


「期待せずに待っとくわ。

 ダンジョンネットワークって何やねん?」


『ロイとルーチェには何て言えば良いのか…そうだな…大きくなったら会いに来いって伝えてくれる?』


「うん…私から伝えるわ。あなたの子供達は私の子供達だもの」


『辛い役を任せて御免ね。

 ブリュナーさんには美味しい食事と商会関連で奔走してくれて感謝してる。

 シエルさんには、いつも我が家をピカピカにしてくれてありがとうって頼むね』


「うん、伝えるね」


『最後にベルさん…には特に無いか』


「僕だけ無いんかぃ!」


 そう言って笑うベルさんの目にも、涙が流れていたの。


『あっ、ノラの足止めはもう終わりだ。

 急いで準備して!

 仕込みはしてあるから、決して慌てないようにね』


 皆の顔がそこで引き締まったわ。

 まずは言われた通り、タイニーハウスに入ると『回復の泉』と立看板の掲げられているプールがあったの。


 コレをどうするのか分からないけど、取り敢えず入って見ると全身を優しい光が撫でるように包み、とても温かくて気持ちが良かったわ。

 クレストさんが『洗浄』を掛けてくれた時もこんな感じだったかしら。


 そして床には沢山の宝箱が並んでいて、武器や防具が入っていたの。

 このダンジョンで出る予定だった物を回してくれたのか、クレストさんが持っていた物なのかは分からないけど。


 ルケイドさんは槍と金属鎧、オリビアさんはワンドとしなやかな革鎧ね。


 アヤノさんは無くした剣に変わる綺麗な両手剣と丈夫そうな革鎧。


 セリカさんには片手剣とナイフ。


 サーヤさんはグローブとブーツね。


 カーラさんにもしなやかな革鎧と亀の甲羅…うん、やっぱりこれはクレストさんの仕業ね。

 ガシッと甲羅を投げ付けると、ポンと音がして眼鏡が出てきたの。

 最初から素直に出せないのかしら?

 それより、この眼鏡は魔道具なの?


 ラビィには魔石の填められた首輪ね。ひょっとしてこれって…ラビィが変身するための魔力を貯める為の魔石なのね?

 どうやら魔石は十個付いていて、全部が赤くなっていたらフルチャージ状態ってことみたい。


 私には? 戦闘要員ではないから、私向けのアイテムは期待していなかったけど、長方形の水晶板と水晶のペンのセット、それとブーツが入っていたわ。

 水晶板は魔力で動作するメモ帳ね。これなら何処ででもメモが出来るけど、紙には?

 下に敷いた紙に印刷が出来るの! とても便利!

 ブーツは…躰が軽く感じられる…移動能力をアップしてくれるマジックアイテムだ!


「僕の分は?」

と悲しげなベルさん。貴方は十分な装備を持っているでしょ?


 クレストさんも迷っているのか、反応が無いわね。

 それでも何か思い付いたのか、ベルさんの前に宝箱が現れたの。中にはブレスレットとアンクレットが二つずつ。


「『緊魂還四点セット』。どんな魂もこれに触れると即座に消滅…?」

「ベルはん、ひょっとしたらあんちゃんがやられた技に対抗するアイテムやないんか?」


 四点のアクセサリーに不思議そうな顔をしたベルにラビィが面白そうに言う。

 

「防御無効技への対策か…でもキンコンカンってさ…」

「あのあんちゃんからの贈り物ぽくてえぇやん」


 そのラビィの返しにベルはアクセサリーをすかさずラビィに押し付け、

「じゃあ、ラビィが人型に戻った時に付けてくれる?」

とニヤリと笑う。


 たじろぐラビィは、

「…あー、忙しい、忙しい!

 首輪に魔力チャージせな!」

とその場からダッシュで逃走。


「…あんちゃんからの贈り物や、ありがたく頂戴しなさい!」

と追い掛けるベルに、

「時間無いから早く用意してよ…」

とアヤノが呟くのだった。

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