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第151話 戦局の行方(Part 1)

 ダンジョンに入ってすぐのことだ。

 まさかバンパイアが魔界蟲三匹とオーガ上位種を出してくるとは。


「それで打ち留めか?」

「残念ながら、その通り。だが貴様らを殺すには過剰戦力だと思わないかね?」


 ベルさんが素早く一匹倒してくれれば何とかなりそうだが、その間に魔界蟲二匹とオーガ…か。


「悪いけどベルさんとラビィに魔界蟲一匹ずつ。

 アヤノさん、セリカさん! 魔界蟲を一匹任せた!

 オリビアさん、カーラさん、サーヤさんは二人の援護を!

 ルケイドっ! 勿論行けるよな!」


 何が勿論だよ。一撃でも喰らえば即死も有り得るってのに、男爵候補のルケイドをこんな危険な目に晒すしか無いとは。


「オーガは任せて! クレスト兄こそ油断しないように」


 言ってくれるね。

 問題はエマさんだが…魔界蟲の数が少なければオリビアさんの『光輪』の中で待機してもらうのだが、今回はオリビアさんも戦闘に参加してもらわないと手が足りなさそうだ。


「エマさんはドンドンを出せるように待機ね」

「うん! 気をつけて!」


 ホクドウを持つ右手をエマさんが両手で包むと、

「頼むから死なないで」

と囁くような声を出す。


「やるだけやってみる。ラビィっ!」

「ワイは切り札やからな。任せとき!」


 しゃがんでラビィに手を差し出すと、ラビィの前脚がポンと乗せられた。

 傍から見れば子熊にお手をさせたようだが、これでラビィは俺から吸えるだけの魔力を吸いとることが出来るのだ。


「来たで来たで来たでっ!

 久々のナイトベア・ラビィの復活やでっ!」


 ラビィの全身が白く輝く魔法の光に包まれ、バッと光が爆発したかと思えばば、そこには二メートルを越す毛深いオッサンが立っていた。

 胴体と脚、腕を守る銀色の甲冑を纏い、両手には巨大な戦斧を装備する。


 熊のような丸い耳がチャームポイントか。


「あんちゃん、魔力が思いっきりアップしてんのや。何かあったんか?」

「ラビィ…始めまして…か?」

「そやな、この姿はレアやで!

 ワイのマックスパワーやからな。今回は死なへんで! あんな蛇擬き、ちょいと片してやるわ」


 これで魔界蟲三匹とオーガの相手をする陣形は整った。残る親玉のバンパイアとは俺が一騎討ちか。


「ノーラクローダ、途中で攻撃をしてこなかったことは褒めてやるよ」


 いや、これマジだから。もしラビィの復活前に魔法攻撃されてたら、ラビィはヤバかったと思う。


「人間相手に魔界の覇者が本気を出すのは恥だからな。当然であろう」 

「なぁ、一つ聞いて良い?

 魔界の覇者が何でこんな場所に居るんだ? 普通は魔界に居ると思うんだけど。まさか自称じゃないよね?」


 道中でラビィから聞いた情報では、魔界は力こそ正義を地で行く群雄割拠の戦乱が続く世界だったそうだ。

 それなら覇者と言う立場に居て人間の住む土地に流れて来る訳が無い。


「つまり、アンタは覇者ではなくて敗者って訳だ。

 オンボロ馬車の廃車と同じだね」

「…少し魔力が多いぐらいで図に乗るな…」

「図星かな? やるなら場所を変えようか。その方がお互い思いっきりやれると思うけど」


 出来れば地上に出て戦いたいところだが、バンパイアがそう簡単に出てくれるとは思えない。

 それにラビィに渡した分の魔力を回復する時間が欲しいし、災害規模の魔法を撃つなら人が近くに居ない方が良い。


「好きにしろ。貴様がどう足掻こうが結果は変わらん。つまり、貴様の死以外有り得ないのだからな」


 そう言うノーラクローダから溢れる魔力の質が途端に黒く重苦しい物に変わり、ニヤリと笑って口元から鋭い犬歯を覗かせる。


「知ってるか?

 八重歯は歯並びが悪い証拠だってさ」


 『フライト』モジュールを発動して宙に浮かび上がる。何度も失敗して背中をしこたま打ち付けた甲斐があるってもんだよ。更に『空蹴』を併用して瞬発力をアップし、一気に森の方へと駆けだした。


 一粒三百メートルなんてキャッチフレーズのキャラメルがあったが、今の俺はひと蹴り三百メートルの水平移動だ。

 モジュール化と最適化を何度も繰り返して煮詰めた結果、俺が使える魔法は軒並み馬鹿みたいにパワーアップしているからな。


 それでもこの自称魔界の覇者が強敵であることに変わりはないのだが。

 何かの切り札がなければ勝ちを拾うのは難しいと正直に思う。

 だけど仲間達が側に居れば、コイツの魔法の巻き添えは確実だ。

 それに恐らくオリビアさんの必殺技でもコイツを傷付けるのは難しいと思うぐらい、魔法にも耐性がありそうだ。


 勝ち筋を考えるには時間が足りそうにないか…。



 クレストがノーラクローダをこの場から引き剝がした所で戦局は大きく動き始めた。


「ちっ! コイツ、硬いぞ!」

「ココは魔砂土のど真ん中や!

 四方八方から魔力を補給出来る魔界蟲のホームグラウンドやと思っとき!」


 一人で一匹の魔界蟲を相手取るベルとラビィだが、予想以上に硬い装甲と再生能力に手を焼いていたのだ。


「ええ格好して引き受けてんのや!

 これで負けたら男ちゃうで!

 ガンガン行くで、オーエドバクフ!」


 巨大な両刃の戦斧に魔力が集められると鈍い輝きを帯び始める。


「出し惜しみは無しやっ!

 一の手『眩陸悪絞(げんろくあこう)』。大地より立ち上る眩しき光よ、悪を拘束せしめよっ!」


 ラビィの詠唱が終わると同時に魔界蟲の周囲が眩しく光始める。そこからまさに光のロープとも言うべき光芒が魔界蟲を締めあげる。

 負けじと魔界蟲も暴れるが、光芒を振り解くには至らない。

 だがそれを成したラビィも額から大量の汗を滴らせているのだから、此れが容易な技ではないことは一目瞭然である。


「二の手『三連大斧』滅入礫(めいれき)滅入環(メイワ)緋の餌彪(ひのえとら)!」


 光芒に拘束された魔界蟲を三度の風切り音が襲ったかと思えば、長い胴体に真横に走る三筋の赤いラインが入る。

 その筋は時間と共に広がって行き、そこから青い液体を噴出させるまでに至った。


「留めの三の手…」


 両手に握り直したオーエドバクフをまるで薪割りのように振り構え、

「『暗征待獄(あんせいのたいごく)』っっ!」

と掛け声と共に振り切ったその斧は、風さえも刃と変えて魔界蟲に吸い込まれた。


 地面に埋まるまで全力で振り降ろされたオーエドバクフはやがて音も無く消えていく。


冥地畏審(めいじいしん)…オーエドバクフと共に往生せいや…はっ!」


 最後にバシッと両手を合わせたのは、姿を消した愛斧に対してか。

 それとも体のサイズの割に極小と言うべきその単眼から命の光を失い崩れ落ちた魔界蟲に対してか。


「やるなら正々堂々、正面突破。

 是がナイトベアの生き様や…」


 それだけ言うと、立つ力まで使い切ったのかラビィはその場に倒れてしまった。 



「なるほど…死ぬ気でやらなきゃ、コイツは倒せない…か。聞いたかい?」


 ベルがそう囁く相手はこの場には居ない。

 だがそのことを気にすることなく魔界蟲の攻撃を躱しざまに

「『狼爪(ヴォルフナージェル)』!」

と得意技で反撃を入れたが地上で相手にした魔界蟲と違い、両断には全然足りていない。


「一匹狼が狩りを成功させるにはね、群れとは違ったやり方が必要なんだよ。

 待ち伏せも追い込みも出来ないからね。

 そうなると得意の爪だけじゃ全く足りないよね。

 だから大切な牙を使うんだよ。

 噛んで倒すなんて愚の骨頂だよ。牙が折れちゃうかも知れないんだから」


 そう一人でブツブツと呟き続けるが、一体何をしているのかと見ている者が居れば不審者扱い間違い無しだ。


「目を醒ませ。牙を磨げ。お前の敵は手強いけど、熊に倒せて狼に倒せないなんてワケが無いだろ?」


 そこまで言って水平に構えた愛剣は『マクシミリアンハスキー』の銘を持つ。


「一撃なんて言わないよ。やればお前になら出来るさ。僕が言うんだ、間違いは無い」


 構えた両手剣が分かったとでも言うかのように光を反射させる。それ以外に何も変化は生じない。


 だが静かに息を吐いたベルの目は人の目から獣の目に形を変え、口元からは伸びた犬歯がはみ出していた。


「『魔狼見参』…」


 ベルが持つ特殊スキルは人と獣の両方の特性を併せ持つ。


「狩りは命を刈り取る儀式だから…誰にも邪魔はさせないからねっ!」


 次の瞬間、姿を消したベルは魔界蟲に一撃、二撃、そして三撃を入れ終えた。


「まだ行くよ」


 人の目に映るかどうかの瀬戸際まで瞬時に加速した脚力が垂直に立つ魔界蟲の長い首をまるで地面と同じように走り抜ける。

 そして鋭い牙の並ぶ口元に到達すると高くジャンプする。


「牙よ! 嵐となって降り注げ!」


 そして降り注ぐのは数えきれない程の斬撃か。それが一筋の青白い燐光のような光の軌跡を残しながら地面へと到達する。

 

 しかし魔界蟲はベルに向かってその牙を剥こうとし…幾つもの破片となって長い胴体が一瞬で半分程になる。


 どれ程再生能力に優れようとも、体の半分を失えば瞬時にその命は尽きてしまう。再生処理能力の喪失にはその能力を超えたり損失を与えるに限るのだ。


 ただしその代償は大きく、ベルをもってしても肉体に加わった負荷は戦闘能力の喪失へと繋がったのだ。


 だがこれで敵の戦力は半減となったのだ。

 後は可愛い愛弟子達と不思議な青年を兄と慕う、これまた不思議な少年に任せせれば良い。


 人外の活躍を見せた二人は一時休息を取ることに決めたのだった。

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