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第149話 滑りますっ!

 ダンジョン入り口に到着、ベルさんのサインを貰った冒険者がホクホク顔になった。

 有名な冒険者ってある意味スターなんだよね。


「これからダンジョンアタックですね?! 応援しています!

 あっ! 握手もよろしいですか?」


 ファンとの交流も大切に…ってか?

 芸能人じゃあるまいし。でもルーシュさんに握手してあげるベルさんも平常運転なんだよね。


「それでルーシュ君。

 ダンジョンアタックには何日掛かるか分からないが、君はずっとここに居るのかい?」

「はいっ! ベル様がダンジョンから戻られましたら、すぐに狼煙を上げて近くの村から馬車を呼びますので」


 そうだったよ、ステラさんとビステルさんとはここで一旦お別れなんだよね。

 俺達と違って、この二人はとても忙しいんだよ…なのに昨日一日、完全に遊ばせてしまってごめんなさい!

 でも、たまには息抜きも必要ってことで納得してもらえるよね?


「じゃあ、私達は帰るわね。

 帰ったらすぐにトレーラー型馬車の設計に入るから」

「クレちゃん達はしっかり冒険してくるのよ。

 良い? 『ガシガシ行こうぜ!』の設定は移動中の雑魚魔物が相手の時だけだから。

 中ボス以降は安全第一、負けてもリセット効かないんだからね!」


 そう二人が言って馬車に乗り込む。

 中ボスにリセットが効かないって、転生者にしか意味が分からないじゃん。


 俺とルケイドには自分も転生者だって隠すつもりも無いからそう言う言葉を平気で使うんだよね?

 でも悪意を持つ転生者が居るかも知れないんだから、ビステルさんには気を付けてほしいものだ。


「乗せてきてくれてありがとう。二人とも帰りの道中は気を付けてね。

 新型、期待してるから!」


 二人を見送り、魔砂土の層から伸びたダンジョンの入り口の前に立つ。


「いよいよだ。

 ルケイド、気合い入れてけよ」


 少し緊張気味のルケイドの頭をポンと叩いてそう言うと、

「クレストさんこそ。調子に乗ってヘマしないでくださいよ」

と笑顔になった。


「うん、確かに調子に乗るのはいけないね。

 で、隊列を決めようと思うんだけど。クレスト君、アヤノ君、どう考える?」

とベルさんが質問してきた。いや、質問と言うより試験だろうか?


「エマさん、カーラさんを中央にして守るのと、先頭には防御力の高いセリカさんと目端の利くサーヤさん。

 最後尾はバックアタック対策と全体を見渡せるようにベルさんとオリビアさん。

 俺とルケイドとアヤノさんは遊撃ですかね」

「ルケイドさんも中央が良いと思うわ。三人並んで進めるなら三人で横一列、無理ならルケイドさんを少し前にしてエマさんとカーラを並べましょうか」


 そうだね、ルケイドも守らなきゃいけない対象だったね。うっかりしてたよ。


「それと荷物を運んでくれているクレストさんも先頭には置けないわ。

 私が先頭グループに入るから、クレストさんは後列に回ってね」

「それで行こうか。縦長になる二人五列より三人三列の方が安全そうだ。

 ベルさん、どうですか?」


 俺もアヤノさんの考えに大きな隔たりは無さそうだ。

 ベルさんが少し考えてから、

「そうだね、セリカ君とサーヤ君、そこにアヤノ君が先頭グループに入ればかなり安定すると思う。

 後列は僕とオリビアさんの二人、中央はエマさんとクレスト君、ルケイド君とカーラ君の三、二、二、二で行ってみようか。

 横に三人が並ぶと真ん中の人は対応が遅れるかも知れないからさ」

と変更を加えた。


 ここは経験者の言うことに素直に従うのが吉だろうと言う訳で首を縦に振る。


「なぁ、ワイのこと忘れてへんか?」


 今まで黙っていたラビィが自分の名前が出なかったことに不満を覚えたらしい。


「ラビィ、お前はこの探索の切り札だよ。魔界蟲に対しても鼻が利くし。

 遊撃として自由に動いてくれないか」

「切り札か! それはええな!」


 一瞬で上機嫌に変わったラビィが俺の足に体を擦り付けてくる。

 それはマーキングか?


 それから着替えの為にタイニーハウスを出し、中で各自鎧を装着してもらう。

 俺は革ジャンとストレージベストのままで変わりはないから外で待つことに。


 ここで密かにエマさんに暑くならない革素材のコートをプレゼントした。

 ルシエンさんの息子のコラルさんに無理をしてもらい、出発に間に合わせることが出来たのだ。

 コートは鎧と違ってサイズを厳密に測る必要もないし、それ程デザインに凝らなかったのも早く作れた要因だろう。


「クレストさんとお揃いだ!」

と地味なコートだけど大はしゃぎをしたエマさんがガシッとハグをしてきた。


「ありがとうね! 大事にするから!」

と満面の笑みを浮かべるエマさんに、

「消耗品だと思って気軽に使ってよ」

と言うと何故か頬を膨らませた。


「クレたんは女心を分かってないね」

「こんな人に惚れた人達はホント大変ね」


 カーラさんがクスクスと笑いながらそう言うと、続けてサーヤさんが意味ありげなことを言う。

 それはエマさんから聞いた、俺と結婚しても良いと思っている人達のことかと思うと少しも笑えないし、何が悪いのかと考え込んでしまう。


 この二人も着替えの必要は無かったので、外で待っていたのだ。


 それから遅れてベルさんとルケイド、アヤノさんとセリカさんが出て来た。ルケイドが鎧を着た姿は初めて見たけど、無駄に美男子だから様になっている。

 腰には今まで使っていた片手剣を刺し、手には俺が渡した槍を持っている。


 ベルさんは見た目は地味なハードレザーの鎧を着ているが、何となく魔力を感じるから恐らくマジックアイテムなのだろう。


 セリカさんは俺の渡した鎧と盾を装備しているので、この中では一番防御力が高いはずだし一番目立つ。鎧が元々美人の彼女を更に凛々しく引き立たせているようにも思えるんだね。

 彼女の鎧姿にルケイドも暫く見蕩れ、セリカさんが恥ずかしそうにしているのが新鮮に映る。


 アヤノさんは両手剣を持つ軽戦士スタイルで、防御力には難があるけど、奥義書を使って鍛えられた攻撃面には期待させて貰おう。

 その両手剣とセリカさんの腰にある片手剣には見覚えが無いから、新調したのか、ベルさんかルベスさんが譲った物なのかも。


「装備品には問題ないね?

 …無いよね?

 ホント、それで行くんだね?」


 何故かベルさんが俺に視線を固定してそう念押しするのだけど、そんなにおかしいかな?

 右手には俺のメインウェポンとなるホクドウを握っているんだけど。


「ダンジョンにそんな装備で入る冒険者なんて初めて見たよ…木の棒って冒険者に成り立ての人の装備だよね?」


 そうだよね、ゲームでも最初のダンジョンに入る前には青銅の剣ぐらいは買ってるだろうし。

 でも木刀は男のロマンだから絶対譲れないんだよっ!


「…金属アレルギー体質の人は放置しようか。

 じゃあ、ランタンを持ってくれ。灯り苔か光石があれば不要だけど、入ってみないと分からないから」


 この世界のダンジョンにはそう言う便利な植物や岩があるんだね。そう言えばゴブリラのダンジョンも明るかったんだよね。今更だけど。

 ランタンを持つってことは片手が使えなくなるってことだから、両手剣を持つアヤノさんや槍を持つルケイドには任せられない。サーヤさんも弓矢がメインウェポンだから、先頭グループはセリカさんがランタン係だ。


 真ん中のグループは俺が持ち、後ろの列はオリビアさんが当番になった。

 ずっとこんなの持って歩くのは面倒だから、ヘルメットや頭に付けるヘッドライトみたいな魔道具が欲しくなる。

 魔道具が小型化出来るようになったらカミュウさん達に作ってもらおうかな。


 でも今は余計な事を考えている時じゃない。いよいよ今からダンジョンに突入するんだからね。


「未知のダンジョンか…この緊張感って溜まらないんだよ。

 さぁ、みんなっ!大冒険の始まりだ! 気張って行こう!」


 ベルさんがそう号令を掛け、ラビィを除くみんなが一斉に「はいっ!」と答えた。

 どうせなら円陣を組んでやりたかったな。   

それは次の機会にとっておこうか。


 赤っぽい魔砂土で出来たダンジョン入り口の中を覗くと、自然の洞窟のように見えなくもない。

 だがこの入り口は数メートル下の魔砂土の地層から俺達の前にビヨーンと伸びて来たものなのだから、普通の洞窟ではないことは間違いない。

 

 その入り口の横幅は三人が並んで歩くのに十分な幅があり、高さも二メトルは確実にある。

 そのすぐ目の前に三人と一匹が立つと、

「はいっ! アヤノ、行きまーす!」

「リーダー狡い! 先頭は私だから!」

「貴方達ねぇ…せーの、で三人一緒に入れば良いでしょ」

「ワイも前衛でこの三人の面倒を見とくわ」

とコントをやっているのかと思うような遣り取りの後に、「せーの!」とタイミングを合わせて足を踏み入れた。

 それから数秒間遅れてラビィが入る。


 人がダンジョンに入った直後にトラップが発動するような意地悪は無かったようで、

「大丈夫そうね。みんな入って来て」

とサーヤさんが外で見守る俺達に声を掛けてきた。

 その声を聞いて隣に立つエマさんと頷き合い、並んで中に入る。


 ダンジョン内部は入り口から少し行った所まで水平になっているが、そこから先はすぐに地下へと降りるスロープのようになっていて、伸びてきた通路の外見と一致する。


 足下もしっかり固まっていて、壊れそうな心配も無ければ他にも異常は無さそうだ。

 後からルケイドとカーラさん、そしてベルさんとオリビアさんが続けて入ってくる。


「内部も周囲の全方向が赤い土で出来ているのか。こんなダンジョンは初めてだよ。

 まだこの辺りは外から入る光で明るいけど、この坂を降りた先は分からないから、心の準備は忘れないようにね」

と慎重に周囲を見渡しながらベルさんがそう言った。


 水平的部分から先のスロープ部分の傾斜角はかなり急で、しかも階段状にはなっていないので気をつけて歩かないと滑りこけそうだ。


 鼻の利くラビィがここで一番前に出て、その後に先頭グループの三人が坂道を降り始めると、

「杖が無いとヤバいわね」

とサーヤさんが最初に感想を述べた。確かに不安定な様子が一目瞭然だ。


「慌てなくて良いからゆっくり進んで」

と先頭グループに声を掛け、ホクドウをアイテムボックスに戻すとエマさんの手を取った。


「行くよ」

「うん!」


 後ろから誰かが冷やかす声を掛けてきたが、それに応答するより足下に気をつけてないと。

 全員が坂道を進み始めるとすぐに無言になった。一度足を止めたエマさんが、

「これは地味にキツいね」

と愚痴を溢す。


 約二十度の勾配に、二本足で歩く皆の気持ちは同じだろう。

 先頭グループより更に前を進むラビィだけが、

「そうか? これぐらい何ともないやん。もっと運動しいや」

と平気な顔をしていて腹が立つ。


 帰りは四つん這いになって登らないと進めないなと呑気に考えていると、徐々に足下から下に向かう流れを感じ始めた。

 傾斜した板の上に砂を乗せるとザーッと流れ落ちて行くが、その砂の中に居るような感じだ。


 しかもスロープの角度がゆっくりと急になり始め、砂の流れも早くなっていき、歩く事が困難になった。まるで蟻地獄の巣に足を踏み入れた蟻のような気分だ。


「クレストさん! これって?」

「トラップか? エマさん、俺に捕まって!」


 ランタンを急いでアイテムボックスに収納してエマさんを両腕で抱き抱える。

 そして砂の流れに抗おうと試みるが、

「キャーっ!そこ退いてー!」

とすぐ後ろに居たカーラさんの体当たりを背中に喰らい、エマさんを抱いたまま背中からドスンと倒れてしまった。


 ウォータースライダーならぬサンドスライダーを初体験だと喜ぶ余裕も為す術も無く滑り落ちた時間はそれ程長くは無かった。

 坂道の終わった先に蟻地獄が待ち構えているような凶悪なトラップは無かったのだが、まだ倒れたままの先頭グループに足から突っ込み蹴り飛ばした。


「痛っ! クレストさんひどい!」


 俺が蹴ったのはアヤノさんのようだ。その俺達の上から後続グループが滑って来るので慌てて避けると、

「受け止めてくれても良かったのに」

とオリビアさんが残念そうな顔をする。


「で、いつまでエマさんは抱きついてるの?」

とカーラさんが突っ込んでくると、

「もうちょっと?」

と照れ笑いを浮かべながらエマさんが答えた。


「はいはい、仲良しも程々にね。

 結構落ちて来たけど、怪我は無い?」

とベルさんは落ち着いた様子だ。

 何人かは口の中に砂が入ったようでペッと吐き出している。


 目や鼻、服の中にも砂が入っているはずなので、全員に『浄化』を掛けて綺麗になってもらう。

 さすがに九人プラス一匹分だと魔力消費量は少なくないが、久しぶりにアイテムボックスの中の魔界蟲が出番だとばかりに魔力を発生し始めてくれた。


「全員持ち物を点検して。特に武器に歪みが無いか慎重にね。

 金属アレルギー君、そんな魔力を使って平気な訳?」


 誰が金属アレルギー君やねんっ! 腹立つわっ! 

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