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第148話 ダンジョン入り口へ 

 ベルさんに早く寝ろとマジ怒られた。

 確かにオタク同士が顔をつき合わせてあーだこーだやってりゃ、すぐ時間は過ぎてしまうよね。


 長針しかない時計は既に日付が変わったことを示していたのだから、怒られて当然か。

 でも、軽トラもトラックも知っているビステルさんが居てくれるので、コンテナハウス式馬車も割と早くに完成するだろう。

 手間なのは連結器の設計ぐらいだろうし。


 そして翌日。


 朝食前に軽く日課のトレーニングを行い、その流れでベルさんと剣で打ち合うことになった。

 なんとかハスキーって言う狼みたいな名前の剣で斬り掛かって来るんだから、恐いったらありゃしない。


 さすがにそんな名剣相手にホクドウでは戦えないので、人間の体になって最初にアイテムボックスから出した初心者装備の剣で相手にする。


 それでも普段から動きの速いブリュナーさん相手に訓練しているからか、本気ではないベルさんの攻撃なら対応出来る。

 上下左右から無尽に襲い掛かるハスキー剣を左手のカウンタックの不可視のシールドで防ぎ、意表を突くように振りきった剣がベルさんの左上腕に命中して模擬戦は終了だ。


 さすがに初見でカウンタックのシールドを攻略するのは難しいようだ。


「そのただの棒きれみたいなのはマジックアイテムかい。ショボいから大したことはないと油断させるとは」


 それは単にトンファーと言う武器をあなたが知らなかったからですよ。これが攻防一体の装備だと知っていれば、もっと警戒していただろう。


 それにやはりトンファーでは攻撃力と言う面で威力不足だし、防御面でも剣なら受けられてもハンマーのような面での攻撃や重量のある攻撃には不向きである。

 いずれ俺も盾の装備を考えないといけないかもね。


「じゃあ、もう一回やろうか」

と行ってニヤリと笑うベルさん、実は負けず嫌いだったんだね…接待いたしますよ…。


 結局二戦目は不可視の盾にも対応してみせたベルさんの蹴りが俺の脇腹を捉えたところでゲームセット。

 相変わらず対人戦だと足癖の悪い人だよね。


 気分的にコメカミに絆創膏を貼った状態で朝食をとり、食休みしてから馬車に乗り込む。


「前に来たときも思ったけど、僅か数日で山一つ丸ごと刈り取った君達って一体何者なんだい?」


 窓から外を眺めながらベルさんがそう質問してくるけど、

「ちょっと変わったアイテムとスキルを持ってるだけの普通の人間ですよ」

と笑って誤魔化す。


「あんちゃんのどこが普通やねん。ちょっとは自覚しいや」

と熊が突っ込みを入れる。


「クレストさんは色々おかしいところはあるけど、凄い人ですよ」

「普通の人と比べると魔力量は桁違いですし、スキルも普通の人の物とは比べようがありませんけど。それでも良い人には変わりありません」


 エマさんとオリビアさんが擁護してくれる…エマさんのは擁護しているのか少し不安だけど、悪く思っていないのは分かる。


「随分と好かれているんだね。

 それでクレスト君は誰と結婚するつもりだい?

 早く決めないと勝手に花嫁が押し掛けてくるかも知れないよ。

 周囲にはこんなに素適な女性達がいるんだし、不足は無いだろ?

 それとも決めきれない?」


 逃げ場の無い馬車の中でそう言う話はやめて欲しいんだけど。

 エマさんもオリビアさんも俺を見る目が真剣なものに変わり、まるで私を指名しろと言わんばかりのプレッシャーを与えてくる。


「まだもう少し独身で居させてよ。

 今はアレコレ作っている方が楽しいやだよ」

「エマさんもオリビアさんも適齢期だからね。僕なら迷わず二人とも貰うけど。

 それにマーメイドの四人も悪くないよね。クレスト君なら六人ぐらいの奥さんが居てもおかしくないよ」


 ベルさんもハーレム容認派ですか。しかも六人かよ。

 やっぱりこの世界の人とは根本的にそう言う面で考え方が違うんだよな。


「もしもだよ、エマさんとオリビアさん、二人ともが奥さんになったらどう思うの?」


 いっそ二人に聞いちゃえ、と開きなおって質問すると、

「六人は多いけど、二人ぐらいなら問題ないかしら。

 オリビアさんだけなら…私は良いと思いますよ」

「マーメイドの四人全員と言うのは確かに多いですが、本人達がそう望むのなら叶えてあげるのも男性としての務めかと。

 そうなると今の御屋敷では手狭になりますから、引っ越しが必要ですね」


 エマさんはオリビアさんならオッケー、オリビアさんは六人でもオッケーか。独占欲ってないの?


 もし六人と結婚して、一人の女性から三人の子供が産まれたら十八人だよ。俺の子供だけで野球のチームが出来るだろ。

 さすがにそれはないな。


 もし本当にこの中から結婚相手を選ぶとしたら…子供達二人が一番懐いている人に決まるよね。

 でも誰になろうと、今の時点では俺の心の整理が付かないだけで。


「クレちゃん、私が初体験を貰ってあげようか?」

と運転席からそんな声が聞こえてくるけど、それはもう終わっているからね。


「ごめんね、ビステルさんは無しで」

「ちぇっ。やっぱり玉の輿には乗れないか、残念」


 この人のこのセリフはいつものことだし、残念と思っているようには思えないんだけどね。


「ボクが口出しすることじゃ無いけど、君には余り時間が残っていないと考えておいた方が良いからね」

「それはどう言う意味で?」

「もし、この人ならと思っている人が居るなら、早く決めておくことをお勧めするよ。

 君じゃ太刀打ちできないような人から押し付けられる前にね」


 …それって特権階級の人?

 言っておくけど、俺って市民権を持っていないから公的には結婚出来ないんだけど。

 それとも何?

 そんなもの無視出来るぐらい力のある人とか?

 そんなの有り得ないよね…。


 まさかレイドルさんとかライエルさんの娘? どっちも却下だな。もしそうなら速攻でリミエンから逃げるからね。

 でも普通なら会ったことも無い人との結婚なんて貴族の世界の話だよね? そんな人が俺みたいな実績の無い冒険者を捕まえて何のメリットがあるんだろ?

 笑い物になるだけだと思うんだけど。


「クレストさんは自分の価値を低く見積もり過ぎてるのね。

 あなたの価値は冒険者としての実績では評価が難しいけど、発想力や製品開発においてはリミエンで一番だから」


 悩んでいる俺に対してエマさんがそう言ってきたけど、俺は冒険者として成功したいと一応思っているからさ…褒めてくれているのは理解するけど微妙な気持ちだよ。


「エンガニの捕縛は冒険者として評価されていないの?」

とオリビアさんがエマさんに質問すると、

「はい、あの件は戦闘力の証明と言う意味はありますけど、依頼が出ていた訳ではありませんから。

 むしろ賞金稼ぎの人達から反発されただけですよ」

と嬉しくない回答だ。


 俺が自分の意思でエンガニを見つけようとしたんじゃなくて、向こうから手を出してきたから反撃しただけなのに。

 子供の誘拐と言う、奴らと出会う切っ掛けを作ったのも向こうだし。


 おかしいな、あの件のせいでルベスさんがいきなり斬り掛かってきたんだし、俺は損しかしてないような気がするよ。

 エンガニが賞金首だったのなら、賞金は貰えたんだよね? その話は全然聞いていないんだけど。


 振り込みされるまで何ヶ月か掛かるパターンのやつ?

 それともルベスさんが仕事をサボってまだ処理が終わっていないのかな?

 ルベスさんは仕事しなさそうだし、衛兵隊の隊長は嫌われ者だけど、副隊長がしっかりしてるから時間が掛かっているだけなのかも。


 ダンジョンに入る前にダンジョン攻略より難しいかも知れない話になってしまったな。


 気分転換にそっちの話を聞いてみるか。


「ベルさん、ダンジョンってどんな所ですか?」

「ダンジョン? うーん、入ってみないと中がどうなっているか分からない所だね。

 それには作りだけでなく、魔物の分布や温度やトラップの有無や種類も含まれる。

 簡単なダンジョンもあれば、こんなの人間にはクリア出来るかよってダンジョンもあるからね」


 実に参考にならない回答だよ。でも今から向かうダンジョンも、やっぱり入ってみないと分からないのは間違いない。

 まだ誰も足を踏み入れていないダンジョン探索が金貨級以上に依頼されるのは、単に戦闘能力だけではなく危険に対する対応能力を買ってのことだ。


 ライエルさんが俺にこのダンジョンを任せたのはベルさんが始めから同行させる予定だったのだろう。

 そうでなければ、貯水池ダンジョン攻略中のパーティーを一組呼んで派遣したに違いない。


 詳しくは知らないけど、『青嵐』と言うパーティーはこの国で最も名の知れたパーティーであり、ダンジョン攻略の経験も豊富なのだろう。

 ダンジョン攻略に有効なスキルを持たない俺達には、ベルさんが命綱になるかも知れないのだ。


「今更ダンジョンにビビってる?

 楽勝気分で挑むより怖がってる方が安全だけどね。

 でも恐れは体を硬くするから、恐れすぎは良くないよ。そう言う時は、手のひらに人と書いて飲むと良いよ」


 それ、多分勇者が伝えた情報だと思うけど、使い方が違うよね?


「いや、『魔物を見たら人参と思え!』だったかな?」


 それはもっと間違ってるし。


「それは勇者語録ですね」

「何それ? そんなのあるんだ」

「うん!

 他にも『嘘つきは政治家の始まり』とか、『犬も歩けば矢弓に当たる』とか」

「『柿食えば、金が無くなる、ほぅ求人』、『鳴かぬなら、泣いてお願い、ホトトギス』。

 意味不明なようで実は奥が深い明言なんですよ」


 これって…迷言の間違いだろ。勇者が間違って覚えていたのかわざと間違ったのか分からないし、異世界翻訳ミスって可能性も。

 オリビアさんの言った二つの俳句は明らかにアレンジしてるよな。これを言った勇者は上手いこと言ってるつもりでドヤ顔してたのかもね。


「みんな、前方にダンジョン入り口が見えてきたよ!」


 助手席に座るルケイドがそう叫ぶ。少し気合いが入りすぎてるような気がするが、彼の家にとってこのダンジョン攻略はまさに死活問題に直結するかも知れないのだから当然か。


 カラバッサから降りると、そこは魔界蟲と対戦したあの時と全く変わらない風景が広がっていた。

 違うのはダンジョンに入る者が居ないようにと、ギルドから派遣された冒険者が立っていることぐらいか。


「お勤めご苦労様です」

とベルさんがムショから出て来た親分に言うような言葉をその冒険者に掛ける。


「『青嵐』のベル様ですね!

 サイン貰っても良いですかっ?」


 今そんなことやってる場合かよ…

 えっ、良いの?

 なんでベルさんは色紙とフェルトペンを持ってんですか?

 これっていつものことなの?


「ルーシュさんへ!とお願いします!」


 どこのミーハーだよ…ベルさんも慣れたもんだしさ。


「ありがとうございました!

 このサインは家宝に致します!」


 今からダンジョンって時に緊張感ってどこ行ったのょ…?

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