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第147話 再出発です。新しい物には目がないのも困ります。

 昨日はダンジョンに向かう予定が、急遽親睦会へと変更となってしまった。

 町に戻ってから、

「あれっ? どうしたの?」

と会う人会う人が聞いてきて気まずいことこの上無かったのだが、今日のことは若さ故の過ちってことで許して貰おうか。


 何せ碌な娯楽施設が無いのだから、目新しい遊具があれば片っ端から試したくなるのがこの世界の人の本能なんだよ。

 それはベテラン冒険者のベルさんだって例外じゃなかった、と言うより一番ハッスルしてたし。


「ここに住むっ!」

とか言いだしたベルさんのことは、まぁどうでも良いか。

 いずれちゃんとした宿泊施設や屋内競技場、狩り場等も充実させて総合リゾート施設にする計画だから、ベルさんが住み込みの管理人に就任しても構わない訳だし。


 気を取り直して翌日、今度は寄り道することなく目的地へとひた走る。貯水池から先は道路工事をしていないので乗り心地が悪くなるのは最初の試運転で確認済みだ。


 それでもしっかりしたサスペンションを搭載し、ゴムタイヤ擬きを装着しているだけあって、他の馬車のようにお尻が痛くなったり舌を噛みそうになることも無い。

 この世界の乗り物だと、これぐらいなら快適と言える範疇に入るのだ。


 貯水池から一時間程の位置に金貨級パーティーが攻略中のダンジョンがあるが、こちらには俺も行きたいとは思わない。

 なんたってオレより格上の人達がゴロゴロしていて、しかも俺に興味を持っているって言うのだから。

 何をされるか分からないからね。

 『調子にのってんじゃねえ!』とか言って殴られたり、勝負と言う名の虐めに合うのは避けたいよね。


 このダンジョンが魔石の採掘場として有効活用されているのは良いことなんだけど。

 今は金貨級以上の冒険者が独占してるけど、いずれは階層毎にランク制限を設けるのかな?


 例えば一階から五階まではゴブリンが出るから大銅貨級、六階から十階まではオークが出るから銀貨級、みたいな棲み分けがあると良いんだけど。


 そのダンジョンへの分かれ道には小屋が幾つか建っていて、金貨級以上の冒険者達が寝泊まりする宿泊地として利用されている。

 こうやってダンジョンのある地域には集落が出来て潤っていくんだ。


 俺も引退後にはこう言う場所にコテージでも開こうかな。

 いや、やるなら冒険者相手じゃなくて温泉宿の方が良いかもね。そのためにも早くダンジョンアタックを終わらせてカンファー家の問題を解決しなきゃ。

 かなり時間を浪費したけど、木材買い付けに行ってついでに温泉リゾートを作るつもりなんだから。

 

 それから暫く道なりに進み、丘を越えると禿げ山が見えてくる。

 改めて見ると異様としか言えないな…誰がこんなことやったんだょ…俺だよ、悪いか?


 途中で一度、昼休憩だ。

 「『格納庫』っ!からの簡易トイレと寛ぎセット!」


 ベルさんとステラさん以外のメンバーは俺の収納スキル経験者だから既に無反応。慣れって恐いわ。

 何も無い場所からスポーンッと簡易トイレやアレコレ出てくるのは、どう考えても何度見ても俺には納得行かない光景なのに、どうして皆は平然としていられるのだろうか?


 初めてこの様子を見て、口をポカーンと開けているベルさんのように素直に驚いて欲しいものだ。


「ビステルさんから『クレストさんには隠し技が多いからビックリするわよ』と言われてたけど。

 これは無いわ…非常識過ぎる」

とステラさんが呆れた顔で感想を述べる。


 それはグルリと一周回って、最大の褒め言葉と受け取って良いんだよね?

 一周したら元の位置だから半周の間違いだろうって…? そんなの気分の問題だから一周で良いんだよ!


 地面にトイレの汚物を処理する穴を開け、位置を調整して簡易トイレを設置。

 テーブルと椅子を並べ、湯気の出ている料理をササッと配膳したら昼食の用意が完了だ。


「僕もマジックバッグは愛用しているけどさ…クレスト君はマジックバッグじゃなくて、まさに歩く倉庫だね。

 こんなに快適な移動は初めてだよ。もうクレスト君無しだと、何処にも行けなくなってしまいそうだよ」


 コーンポタージュの入ったカップを手に、何とも言えない表情のベルさんがテーブルを見渡すと、

「こう言うのは慣れた者勝ちだからね」

とカーラさんが肉巻きパンケーキを頬ばりながら、ベルさんに気にするなと俺の扱いを指導する。


「そう言えば、『魔熊の森』でカマキリの遺体を回収したのもクレスト君だったよね。

 魔力の濃すぎる魔物はね、マジックバッグを構成する魔力と魔物の魔力が反発しあってマジックバッグには入らないんだけど、そのスキルがあるなら納得か」


 あれ? マジックバッグにはそんな制限まであったんだ。

 じゃあ、わざわざ大きな革袋をマジックバッグに偽装してカマキリを入れたことも無意味だったってことか。


 スオーリー副団長、そこは教えてくれなかったじゃないかよ。

 まさかマジックバッグに入らないような魔物を持っているとは思わなかったのか、それとも俺を試したのか。

 あの人、顔は超コワイけど、馬鹿ではなさそうだからな。付き合い方を注意しないとヤバいかも。


「あんちゃんはダメ人間製造機やな」


 草むらで用をたして帰ってきたラビィが失礼なことを言う。俺の周囲にはダメ人間なんて居ないんだし。


「あんまり便利なスキルに頼りすぎとったら、いざって時に対応出来んなるで。

 ワイのオヤツも頼むわ」


 最後の言葉が無ければ納得なのだが、これはラビィだから仕方ないな。

 カチカチに焼き固めた骨クッキーを出してやると、バリバリ音を立てて食べ始める。クッキーの形は定番の大腿骨だが、魚の骨が使用されている。

 このクッキーを作り始めてから、ブリュナーさんが魚料理の後に出るゴミの量が減りましたと報告してくれたんだよね。


 ちなみに魔物や動物を解体して出る残骸は肥料として有効利用されている。

 石油製品が無いから焼却灰も畑に使っても全然問題ないし。

 この世界は循環型社会が自然と形成されているんだよね。

 不便も多いし明確な身分差があってイヤな面もあるけど、こう言うところはこの世界に転生出来て良かったと思ってるんだ。


 昼食後の休憩を取って移動を再開。途中からは前回来たときに道路の整備を行ったので平坦になっていて快適そのもの。

 オオバコかタンポポのような雑草がしぶとく生えてきているけど、車輪でグシャッと押し潰しながら真っ直ぐ進む。


 ダンジョンは山の中腹にあり、馬の負担を考えると麓で一泊して早朝に出発するのが良いだろうってことで、前回と同じ場所に野営することに。


 『格納庫』スキルに偽装したアイテムボックスからタイニーハウスを取り出すと、簡易トイレ以上のサイズにベルさんとステラさんがまたはビックリ。


「あれ? この家、形が変わってる。改築してくれたんだ」

と経験者のエマさんが目敏く違いに気が付いたようだ。

 改築ではなく新築物件なんだけどね。


 トイレの小屋、元の小屋、女性の宿泊部屋、男性の宿泊部屋の順に連結していくとまさに寝台列車だな。車輪が付いているので、思いっ切り押せば動かせるんだし。


 馬小屋はまだ連結出来るようには作っていないので離れた場所に置き、野営地の周囲に土壁を作ってスライムを警戒要員として配置する。

 何か居るとすれば山に入ってからだろうけど、絶対は無いからね。


「クレストさんがカラバッサを宿泊可能な馬車にしたのは、この小屋のようにしたかったからですね?」

とステラさんが聞いてくる。


 タイニーハウスは骸骨さんの持ち物だったし、キャンピングカーをイメージしたカラバッサとはコンセプトが違うのだけど。

 待てよ。カラバッサの御者台部分をトレーラーヘッドのように切り離し可能にすれば、コンテナ型の客室同士を連結可能に…出来るよな。


 今のカラバッサはクレーンで客室を持ち上げて換装しているけど、トレーラー式ならクレーンも要らない!

 これは急いで設計図を作らなければ!


「…クレストさん、何かしら思い付いたみたいだけど。御飯が終わってからにしてね」

と前の席に座るエマさんが少し笑いながら、半分呆れた様子を見せる。


 作りたい物がまた出て来て困るなぁ。

 なまじ知識とスキルと資金力があるだけに、比較的簡単に地球では出来なかった事が出来てしまうから抑えが効かないんだよ。


 でもコンテナ型宿泊施設なら、テントで寝るには抵抗のある人でも外で寝られそうだ。

 鉄パイプフレームなら作るのも簡単そうだし。良い具合にステラさんが居るから後で相談しよう。


「これはダメそうね。エマさん、今日は諦めましょう」

とオリビアさんがエマさんを宥めると、

「本当こう言うところはまるで子供よね」

と悟ったような顔で俺を見つめる。


 うん、ごめんね、今は俺の頭の中には百周年記念の式典に来た観客が多数のコンテナ型宿泊施設に出入りする光景が妄想されているのだ。

 宿屋不足の問題はこれで解決だ。

 後は式典のメインとなる出し物を用意するだけか。そっちはレイドルさん達の現地組に任せるべきだろうね。


「あーん」


 口もとに差し出されたフォークに無意識に反応して口にする。ウインナーが突き刺さっていたようだ。


「ダメ人間製造機やのうて、あんちゃん自身がダメ人間やん」


 食後のデザートにリンゴを丸齧りする熊がそんな事を言ってくるが、『描画』スキルがさっきバージョンアップして、脳内でも紙と同じように処理出来るようになったのだから夢中になっているのは仕方ないだろ。


「明日からダンジョンアタックなのに。クレストさんは緊張しないのかな?」

「私の鎧のような、きっと良いアイテムがあるんだと思うわ」

「あれ、多分ダンジョンのことは忘れてるわよ。小屋の改築か馬車の改良案が浮かんでるに違いないわ。

 いざって時は私がアメンボウで援護射撃するから大丈夫よ」

「クレたんがあの状態になると、再起動を待つしかないょ。多分、オデコに肉って落書きしても気が付かない」


 さすがにそれは気が付くよ!


 テーブルから食器を片づけ、その後にステラさんとビステルさんを交えて軽トラ型トレーラーヘッドとコンテナハウス車の打合せを行っていると、最後に早く寝ろとベルさんに怒られて会議はお開きとなった。


 ダンジョンアタックは気にならないのかって?

 いや、新製品の方が絶対大事でしょ!

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